1-19 勝者から敗者へ命令することは?
「どう? 見下していた相手に見下ろされる気分は?」
上から覗き込んで挑発する。
もちろん、しっかりと距離はとっている。
身体を拘束しても、噛み付きなどの攻撃もあるからね。
「殺せ」
「はい?」
予想外の返事に呆けた声を漏らす。
そんな僕の反応が気に食わなかったのか、スティフは大声で叫び始める。
「とっとと殺せと言っている。お前の勝利だと認めてやるよ」
「何を言ってるの?」
今度はしっかりと聞き取れた。
その上で呆れたような返事をする。
なぜ、そんな話になるのだろうか?
「魔族は実力主義だ。お前が実力があるのを示したのだから、反逆した俺を殺すのは当然だ」
「・・・・・・そんなことするわけないだろ?」
「は?」
思わぬ返答だったのだろう、今度はスティフが呆けた声を漏らす。
僕は自分の考えを告げる。
「反逆をしたからって、いちいち処刑とかしてたら戦力が足りなくなるだろう? ただでさえ、先代魔王が討たれて大変な状況でなのに、わざわざ自分から弱くなる馬鹿がどこにいる?」
「だが、俺はお前を殺そうとして・・・・・・」
「それは僕も悪い。これから助けていくべきみんなを不安にさせたんだから、反逆されて当然だよ」
「・・・・・・」
スティフは黙り込んでしまった。
先程の言葉はあくまで僕の考えである。
もちろん、その人により考え方は異なってくるだろう。
だが、現在の状況から考えるとスティフを切り捨てるのは得策ではない。
(ガラッ)
「っ⁉」
拘束から解放され、彼は驚いていた。
そして、こちらをじっと見つめる。
「良いのか?」
「こちらの気持ちを受け取ってもらいたくね」
「俺が攻撃する可能性を考えないのか? この距離だったら、俺の方が速いはずだ」
「君はそういうことをするタイプじゃないでしょ? 卑怯なことを好まない」
「・・・・・・はぁ、負けたよ」
スティフは大きくため息をつき、両手をあげた。
降参の意思を示していた。
「はぁ、良かった」
僕はその場にへたり込む。
緊張の糸がとけ、全身に力が入らなかった。
「勝者がなんて姿を見せるんだ」
「結構ギリギリだったんだよ。一撃でも貰えば、確実に命を落としてたしね」
「それにしては良い立ち回りだったぞ?」
「褒めて貰えて良かったよ」
褒め言葉は素直に受け取っておく。
正直、先程の戦いで僕が勝利したのは運が良かったのもある。
一手でもミスをすれば、負けていたのは僕だろう。
そして、命を落としていたはずだ。
「だが、勝てる可能性が高いから勝負を挑んだんだろう? なんらかのミスがあっても、それをカバーできる方法もあったはずだ」
「やっぱりわかる?」
「初心者にしちゃ、肝が据わりすぎてるからな」
戦闘経験の多いスティフにはバレていたようだ。
一応、失敗した時用の策は考えていた。
「床を消失させて地面に叩き落とし、そこに閉じ込める方法があったよ」
「なっ⁉」
「まあ、それはスティフを失うことを意味するから、絶対に使いたくなかったんだけどね」
「使われなくて良かったよ」
彼は恐怖のあまり身を震わせる。
結構えぐい策だったので当然だろう。
僕だって、自分で考えて怖いと思ってしまう。
「さて、君が四天王として残るために一つやってもらうことがある」
僕は真剣な表情になる。
本気の話だと気づいたのか、彼の目も変わる。
「何をすれば良い?」
覚悟を決めた男の顔である。
どんな命令だってこなしてくれるだろう。
そんな彼にしてもらうことは一つだけだ。
「アズサさんに謝ってきなさい」
「は?」
僕の命令にスティフは呆けた声を漏らした。
まさかそんな命令をされるとは思わなかったのだろう。
だが、僕はいたって真剣である。
これから魔王軍を再建するに当たって、遺恨を残したままだと駄目だと考えたからだ。
そもそもスティフはそんなこと程度に思っているかもしれないが、被害者であるアズサさんがそう簡単に許すかな?
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