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45歳社長、転生先でハズレスキル「綻びの目」を武器に没落領地を再建する  作者: コバチ
第9章 リオンの夏休み

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第91話 灰狼の牙の巣

 倒れた灰牙狼の群れを背に、俺とノルはさらに西の森の奥へ進んだ。


さっきまでの戦いで周囲は静かになったはずなのに、その静けさがむしろ落ち着かない。

 鳥の声も薄い。

 風に揺れる葉音さえ、妙に遠く感じる。


 森の奥へ行けば行くほど、人の手が入った痕跡は消えていく。

 踏み固められた道もなくなり、足元は湿った土と根に変わる。

 枝葉も密になり、頭上から差し込む光も細くなる。


「さっきの冒険者が言っていたのは、この先のはずです」


 ノルが低く言う。


「うん」


 短く返しながら、周囲へ視線を巡らせる。


 魔物の気配だけじゃない。

 人が動いた跡がある。


 折れた枝。

 土に残る靴底の跡。

 それも一人二人じゃない。


「人の出入りはかなり多いな」


「ええ。しかも冒険者の歩き方ではありませんな」


 ノルがしゃがみ込み、地面の跡を指でなぞる。


「荷を持って何度も往復した形跡があります。足並みも雑だ」


 その言葉に、胸の奥で何かが固まる。


 ただの偶然じゃない。

 この先には、拠点になるだけの何かがある。


 少し進んだところで、ようやくそれが見えた。


 木々の隙間、その先。

 岩肌が露出した斜面に、口を開けた洞窟がある。


 自然の穴と言われればそう見えなくもない。

 だが近づくほどに違和感は濃くなった。


 入口の周囲だけ木が不自然に伐られている。

 踏み固められた地面。

 岩陰に積まれた粗い木箱。

 そして、かすかに漂ってくる煙と、油の匂い。


 人がいる。


 ノルも同じ結論に至ったのだろう。

 片手を軽く上げ、止まる合図を出した。


 俺たちは茂みの陰へ身を落とす。


 耳を澄ませると、洞窟の奥から何かを叩くような音が聞こえた。

 金属ではない。

 石か木か、何か硬いものを相手に作業している音だ。


 それに混じって、人の話し声もある。


 はっきりとは聞き取れない。

 だが、確かに複数人だ。


「どう見ます」


 ノルが囁く。


「ほぼ黒だと思う」


 俺も声を抑えて返す。


「魔物が押し出される理由としても、盗賊団の潜伏先としても筋が通る」


「ええ」


「ただ、確認は欲しい」


 洞窟そのものが怪しいだけでは、まだ足りない。

 《灰狼の牙》の拠点だと確信するには、もう一段ほしい。


 俺は視線を少しずつ横へ滑らせた。


 入口の脇。

 岩陰に置かれた木箱の一つ、その蓋が少しだけずれている。

 隙間から見えるのは、見覚えのある包装布だった。


 白地に濃紺の細い線。


 ヴァレスト領へ送る青輝石の荷に使っていた布だ。


 やっぱりか。


 さらにその近くには、粗末な縄束と、女物らしい布切れまで落ちていた。

 人さらいの線まで、かなり濃くなる。


「ノル」


「見えましたか」


「うん。荷もある」


 ノルの目が鋭くなる。


「なら確定ですな」


 そこで、視界の端に淡い文字が浮かんだ。


 《対象:洞窟入口周辺》


 《綻び:右側岩陰の死角》


 《警告:見張り潜伏》


 息を止める。


 右側。


 何気なく視線を向けると、岩陰のさらに奥に、ほんのわずかに靴先が見えた。

 見張りだ。

 茂みに紛れてこちらを向いているわけではないが、入口へ近づく者を見る位置にいる。


 危ないところだった。


「見張りが一人。右の岩陰」


 ノルにだけ聞こえる声で言うと、ノルは目だけで頷いた。


「落としますか」


「いや、まだだ」


 今ここで一人消せば、中にいる連中が騒ぐ。

 洞窟の中の人数がわからない以上、二人で正面から踏み込むのは危険だ。


 見張り一人、奥に複数。

 荷あり。

 人さらいの痕跡あり。

 そして《灰狼の牙》と繋がる可能性が高い。


 ここまで揃えば十分だ。


「いったん戻ろう」


 ノルは一瞬だけ洞窟の奥へ目を向け、それから短く答えた。


「賛成です。数が読めない」


「父上と騎士団、それにギルド側とも話を通す必要がある。包囲するなら人手が要る」


「逃がしたくはありませんが」


「それでも、ここで二人だけで突っ込むよりはましだ」


 ノルは小さく息を吐いた。


「……ええ。リオン様がそう判断されるなら」


 その時だった。


 洞窟の奥から、少し大きな声が漏れてきた。


「おい、ガザルに伝えろ! 西の荷は次が最後だ、ってな!」


 俺とノルの視線がぴたりと止まる。


 今、はっきり聞こえた。


 ガザル。


 親分の名。


 ここの連中で間違いない。


 ノルの表情が変わった。

 普段の静かな顔ではなく、獲物を見つけた時のそれになる。


「確定ですな」


「うん」


 俺は小さく頷いた。


 洞窟。

 奪われた荷。

 人さらいの痕跡。

 見張り。

 そしてガザルの名。


 これ以上は要らない。


 《灰狼の牙》のアジトだ。


 問題は、どこまでの規模か。

 本隊がいるのか。

 それとも西側の拠点の一つなのか。


 そこまではまだわからない。


 だからこそ、生きたまま包囲して吐かせる必要がある。


「戻ろう」


 今度はノルも迷わなかった。


「ええ。今夜にも動けるよう、旦那様へ報告を」


 俺たちは音を立てないよう、来た道を下がり始めた。


 森の奥は相変わらず暗い。

 だが、さっきまでの“何かがいる”という曖昧さはもうなかった。


 敵の輪郭が見えたのだ。


 《灰狼の牙》。

 ガザル。

 西の森の洞窟。


 ハル領の成長を食い物にしていた綻びが、ようやく一つ姿を現した。


最後まで読んでいただきありがとうございます!

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