第70話 数字で見ろ②
その日のうちに、簡易選別器の試作に入った。
工房担当の教師も途中から本気で手を貸してくれた。
石を差し込む枠は、毎回同じ位置で固定できるように。
制流板は、決めた範囲以上の魔力を通しすぎないように。
受光板は十段階で区切り、反応が見やすいよう細く長くする。
まずは、王都軍が持ち込んだ洞窟産の青輝石。
一つ目は八。
二つ目は六。
三つ目は三。
四つ目は九まで届いたが熱が強すぎる。規格外。
ヴィクトルが低く言う。
「……ばらつくな」
「うん。かなり大きい」
王都軍が採ってきたものは、上級、中級、下級、規格外と全部混じっていた。
次に、ハル領東の石切り場の青輝石。
一つ目は六。
二つ目は五。
三つ目は七。
四つ目は六。
五つ目は三。
上級こそ少ない。
だが、中級にかなりまとまっている。
セレナが受光板を見比べながら言う。
「洞窟産は夢がある。でも、ハル領産は揃ってる」
「そう」
そこが大きかった。
「上級が多い方が目立つ。
でも、中級がまとまって出る方が事業には向いてる」
ナディアが静かに頷く。
「品質が揃っている方が、事故も減らせます」
ヴィクトルも腕を組んだまま言う。
「高級品は王都軍の上級。市販品はハル領の中級。
そういう分け方が見えてきたな」
「うん」
試作品第一号は中級で作っている。
つまり、市販品の土台はすでに見えている。
上級は少ない。だが、その分だけ高級品として使える。
規格外も多いが、上級で利益が出るなら、多少混じってもすぐ赤字にはならないだろう。
もちろん、値決めや流通はこれからだ。
そこは今後詰めるしかない。
でも、少なくとも方向は見えた。
◇
選別を続けながら、俺はもう一つの問題に気づいていた。
今はまだ、この簡易選別器で回せる。
でも、もし本当に大量に採れるようになったらどうだ。
石を同じ形に切り、枠にはめ、制流板を通し、受光板を見て、数字を書き取る。
それを人が一つずつやっていたら、いずれ必ずそこが詰まる。
「……これも、いずれ足りなくなるな」
また声が出た。
「今度は何?」
セレナが半ば呆れた顔で聞く。
「選別そのもの」
俺は受光板を見つめた。
「今はこれでいい。でも石が増えたら、人が手で差し込んで、目で見て、紙に書くんじゃ遅い」
ヴィクトルが笑う。
「また詰んじゃうのか」
「そう。
だから、等級を決める数値を出すための機械が必要になる」
ナディアが少し考える顔になる。
「もっと速く、もっと同じ条件で、もっと多く測れるもの、ですね」
「うん。
誰がやっても、いつやっても、どこでやっても、同じ数字が出るようなやつ」
工房担当の教師が低く唸る。
「基準ができたと思ったら、今度は測定器か。
お前、本当に休まんな」
「でも必要ですよね?」
「必要なのはわかる」
セレナが紙の上の基準を見ながら言う。
「でも、ここまで来たのは大きいわ。
名前がついた。等級がついた。数字がついた。
これでようやく、“青く光る石”を感覚で話さずに済む」
「そうだね」
俺は頷いた。
上級青輝石。
中級青輝石。
下級青輝石。
規格外。
そして、光力値。
石に名前をつけ、数字を与え、用途で切り分ける。
こうして初めて、素材は“使えるもの”になっていく。
俺は受光板に残る淡い光を見ながら、小さく息を吐いた。




