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45歳社長、転生先でハズレスキル「綻びの目」を武器に没落領地を再建する  作者: コバチ
第7章 大発明?

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第70話 数字で見ろ①

 試作品第一号が完成してから、さらに数日が過ぎていた。


 その間に、王都軍の調査で回収された青い魔鉱石と、ハル領東の石切り場から送られてきた青輝石の追加分が、学院工房へ次々と運び込まれていた。


 作業台の上には、小さな布包みがいくつも並んでいる。


 青白く澄んだもの。

 少し濁ったもの。

 見た目は近いのに、光の含み方が妙に違うもの。


 俺はそのうちの一つを手に取り、昨日までと同じように簡易回路へ組み込んだ。

 灯りは点いた。だが、反応は鈍い。


 次を試す。

 今度は立ち上がりは悪くない。けれど熱を持ちやすい。


 さらに次。

 光は強いが、揺れが大きい。


「……駄目だな」


 思わずそう漏れる。


「何が?」


 セレナが顔を上げた。


「このやり方」


 俺は石を作業台に戻した。


「昼間と夕方では明るさは全然違う。晴れの日と曇りの日でも明るさは変わってくる。

 その上、見る人が違えば“明るい”“暗い”の感じ方もずれる。これじゃ、石が増えた時に絶対詰まる」


 ナディアが静かに頷く。


「人の感覚に頼ると、品質のズレが出ますね」


「うん。今はまだ数が少ないからいい。でも、もし本当に大量に採れるようになったら、いちいち灯りを点けて目で見てたら終わらない」


 ヴィクトルが腕を組んだ。


「選別そのものが足を引っ張るってことか」


「そう」


 結局、今必要なのは“なんとなく良さそう”じゃない。


 誰が見ても、いつ見ても、どこで見ても、同じ石を同じ評価にできること。


「数字にしよう」


 俺がそう言うと、三人の視線が揃った。


「数字?」


 セレナが聞き返す。


「感覚じゃなくて、数値で管理する。

 同じ条件で試して、同じ結果が出るようにするんだ」


 ◇


 最初に整理したのは名前だった。


 今までは、洞窟で見つかったものを“青い魔鉱石”、ハル領のものを“青輝石”と呼んでいた。

 でも、同系統と見てよさそうな段階まで来た以上、このままだと逆にややこしい。


「総称は“青輝石”で統一しよう」


 俺は紙に大きくそう書いた。


「その上で等級をつける」


 変に凝った名前はいらない。

 一発で意味がわかる方がいい。


 俺は続けて書く。


 上級青輝石

 中級青輝石

 下級青輝石

 規格外


 セレナが少しだけ目を細めた。


「驚くほどそのままね」


「わかりやすいだろ」


「それはそうだけど」


 ヴィクトルはにやりと笑う。


「値札を書く側としては助かる」


 そこは否定しきれない。


 ナディアが言う。


「問題は、どうやって等級を決めるかですね」


「そこ」


 俺は頷いた。


「同じような大きさに石を切り揃えて、同じ枠に入れて、同じ条件で測る」


「同じ条件、っていうのが難しいんじゃないの?」


 セレナの問いに、俺は紙を引き寄せ、簡単な図を描いた。


 石を差し込む枠。

 ただし採取した石をそのまま入れるんじゃなく、枠内に収まるように同じ形に加工する。

 その上で、決められた範囲の魔力しか通らないようにする小さな板――制流板。

 そして、光を受ける細長い受光板。


「人によって魔力の放出量は違う。だから“同じ量を流す”じゃなくて、“決められた範囲の魔力しか通らない”ようにする」


「制限をかけるのね」


「うん。完全には揃わなくても、今よりずっとマシになる」


 さらに、受光板に一から十まで目盛りを書き込む。


「で、この受光板のどこまで光が届くかを見る」


 少し沈黙が落ちた。


 最初に反応したのはナディアだった。


「……わかりやすいです」


 セレナもすぐに頷く。


「同じ形の石、同じ枠、同じ制流板、同じ受光板。

 これなら時間帯や天気の影響をかなり減らせる」


「そう」


 俺は紙にもう一つ書き足した。


 光力値


「光力値?」


 ヴィクトルが読む。


「同じ条件で流した時、受光板のどこまで反応したか。それを数字で置く」


 俺はその下に基準を書いた。


光力値 8〜10:上級青輝石

光力値 5〜7:中級青輝石

光力値 1〜4:下級青輝石

高熱・不安定反応が強いもの:規格外


「規格外は捨てるの?」


 ナディアが聞く。


「今の灯具用途では使わない、って意味だ。別用途はあとで考える」


 セレナが紙を見たまま言う。


「これなら共有できるわね。

 “なんとなく明るい”じゃなくて、“光力値七”って言えば話が通る」


「ようやく、同じ言葉で会話できる」


 俺も頷いた。


 ◇


 その日のうちに、簡易選別器の試作に入った。


 工房担当の教師も途中から本気で手を貸してくれた。


 石を差し込む枠は、毎回同じ位置で固定できるように。

 制流板は、決めた範囲以上の魔力を通しすぎないように。

 受光板は十段階で区切り、反応が見やすいよう細く長くする。


 まずは、王都軍が持ち込んだ洞窟産の青輝石。


 一つ目は八。

 二つ目は六。

 三つ目は三。

 四つ目は九まで届いたが熱が強すぎる。規格外。


 ヴィクトルが低く言う。


「……ばらつくな」


「うん。かなり大きい」


 王都軍が採ってきたものは、上級、中級、下級、規格外と全部混じっていた。


 次に、ハル領東の石切り場の青輝石。


 一つ目は六。

 二つ目は五。

 三つ目は七。

 四つ目は六。

 五つ目は三。


 上級こそ少ない。

 だが、中級にかなりまとまっている。


「上級が多い方が目立つ。

 でも、中級がまとまって出る方が事業には向いてる」


 ナディアが静かに頷く。


「品質が揃っている方が、事故も減らせます」


 ヴィクトルも腕を組んだまま言う。


「高級品は王都軍の上級。市販品はハル領の中級。

 そういう分け方が見えてきたな」


「うん」


 試作品第一号は中級で作っている。

 つまり、市販品の土台はすでに見えている。


 上級は少ない。だが、その分だけ高級品として使える。

 規格外も多いが、上級で利益が出るなら、多少混じってもすぐ赤字にはならないだろう。


 もちろん、値決めや流通はこれからだ。

 そこは今後詰めるしかない。


 でも、少なくとも方向は見えた。



最後まで読んでいただきありがとうございます!

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