第70話 数字で見ろ①
試作品第一号が完成してから、さらに数日が過ぎていた。
その間に、王都軍の調査で回収された青い魔鉱石と、ハル領東の石切り場から送られてきた青輝石の追加分が、学院工房へ次々と運び込まれていた。
作業台の上には、小さな布包みがいくつも並んでいる。
青白く澄んだもの。
少し濁ったもの。
見た目は近いのに、光の含み方が妙に違うもの。
俺はそのうちの一つを手に取り、昨日までと同じように簡易回路へ組み込んだ。
灯りは点いた。だが、反応は鈍い。
次を試す。
今度は立ち上がりは悪くない。けれど熱を持ちやすい。
さらに次。
光は強いが、揺れが大きい。
「……駄目だな」
思わずそう漏れる。
「何が?」
セレナが顔を上げた。
「このやり方」
俺は石を作業台に戻した。
「昼間と夕方では明るさは全然違う。晴れの日と曇りの日でも明るさは変わってくる。
その上、見る人が違えば“明るい”“暗い”の感じ方もずれる。これじゃ、石が増えた時に絶対詰まる」
ナディアが静かに頷く。
「人の感覚に頼ると、品質のズレが出ますね」
「うん。今はまだ数が少ないからいい。でも、もし本当に大量に採れるようになったら、いちいち灯りを点けて目で見てたら終わらない」
ヴィクトルが腕を組んだ。
「選別そのものが足を引っ張るってことか」
「そう」
結局、今必要なのは“なんとなく良さそう”じゃない。
誰が見ても、いつ見ても、どこで見ても、同じ石を同じ評価にできること。
「数字にしよう」
俺がそう言うと、三人の視線が揃った。
「数字?」
セレナが聞き返す。
「感覚じゃなくて、数値で管理する。
同じ条件で試して、同じ結果が出るようにするんだ」
◇
最初に整理したのは名前だった。
今までは、洞窟で見つかったものを“青い魔鉱石”、ハル領のものを“青輝石”と呼んでいた。
でも、同系統と見てよさそうな段階まで来た以上、このままだと逆にややこしい。
「総称は“青輝石”で統一しよう」
俺は紙に大きくそう書いた。
「その上で等級をつける」
変に凝った名前はいらない。
一発で意味がわかる方がいい。
俺は続けて書く。
上級青輝石
中級青輝石
下級青輝石
規格外
セレナが少しだけ目を細めた。
「驚くほどそのままね」
「わかりやすいだろ」
「それはそうだけど」
ヴィクトルはにやりと笑う。
「値札を書く側としては助かる」
そこは否定しきれない。
ナディアが言う。
「問題は、どうやって等級を決めるかですね」
「そこ」
俺は頷いた。
「同じような大きさに石を切り揃えて、同じ枠に入れて、同じ条件で測る」
「同じ条件、っていうのが難しいんじゃないの?」
セレナの問いに、俺は紙を引き寄せ、簡単な図を描いた。
石を差し込む枠。
ただし採取した石をそのまま入れるんじゃなく、枠内に収まるように同じ形に加工する。
その上で、決められた範囲の魔力しか通らないようにする小さな板――制流板。
そして、光を受ける細長い受光板。
「人によって魔力の放出量は違う。だから“同じ量を流す”じゃなくて、“決められた範囲の魔力しか通らない”ようにする」
「制限をかけるのね」
「うん。完全には揃わなくても、今よりずっとマシになる」
さらに、受光板に一から十まで目盛りを書き込む。
「で、この受光板のどこまで光が届くかを見る」
少し沈黙が落ちた。
最初に反応したのはナディアだった。
「……わかりやすいです」
セレナもすぐに頷く。
「同じ形の石、同じ枠、同じ制流板、同じ受光板。
これなら時間帯や天気の影響をかなり減らせる」
「そう」
俺は紙にもう一つ書き足した。
光力値
「光力値?」
ヴィクトルが読む。
「同じ条件で流した時、受光板のどこまで反応したか。それを数字で置く」
俺はその下に基準を書いた。
光力値 8〜10:上級青輝石
光力値 5〜7:中級青輝石
光力値 1〜4:下級青輝石
高熱・不安定反応が強いもの:規格外
「規格外は捨てるの?」
ナディアが聞く。
「今の灯具用途では使わない、って意味だ。別用途はあとで考える」
セレナが紙を見たまま言う。
「これなら共有できるわね。
“なんとなく明るい”じゃなくて、“光力値七”って言えば話が通る」
「ようやく、同じ言葉で会話できる」
俺も頷いた。
◇
その日のうちに、簡易選別器の試作に入った。
工房担当の教師も途中から本気で手を貸してくれた。
石を差し込む枠は、毎回同じ位置で固定できるように。
制流板は、決めた範囲以上の魔力を通しすぎないように。
受光板は十段階で区切り、反応が見やすいよう細く長くする。
まずは、王都軍が持ち込んだ洞窟産の青輝石。
一つ目は八。
二つ目は六。
三つ目は三。
四つ目は九まで届いたが熱が強すぎる。規格外。
ヴィクトルが低く言う。
「……ばらつくな」
「うん。かなり大きい」
王都軍が採ってきたものは、上級、中級、下級、規格外と全部混じっていた。
次に、ハル領東の石切り場の青輝石。
一つ目は六。
二つ目は五。
三つ目は七。
四つ目は六。
五つ目は三。
上級こそ少ない。
だが、中級にかなりまとまっている。
「上級が多い方が目立つ。
でも、中級がまとまって出る方が事業には向いてる」
ナディアが静かに頷く。
「品質が揃っている方が、事故も減らせます」
ヴィクトルも腕を組んだまま言う。
「高級品は王都軍の上級。市販品はハル領の中級。
そういう分け方が見えてきたな」
「うん」
試作品第一号は中級で作っている。
つまり、市販品の土台はすでに見えている。
上級は少ない。だが、その分だけ高級品として使える。
規格外も多いが、上級で利益が出るなら、多少混じってもすぐ赤字にはならないだろう。
もちろん、値決めや流通はこれからだ。
そこは今後詰めるしかない。
でも、少なくとも方向は見えた。
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