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45歳社長、転生先でハズレスキル「綻びの目」を武器に没落領地を再建する  作者: コバチ
第7章 大発明?

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第69話 動き出す計画

 父上からの返書が届いたのは、試作品第一号が完成してから四日後のことだった。


 昼の授業を終えて寮へ戻る途中、学院職員に呼び止められた時点で、少しだけ胸が早くなった。

 手渡された封筒の表には、見慣れたハル家の印がある。


 やや厚い。


 手紙だけじゃない。

 中に何か入っている重みだった。


 部屋へ戻るなり封を切る。


 最初に出てきたのは父上の手紙。

 次に、小さな布包みが三つ。

 その下には、採取地点や深さらしきものを書きつけた紙が挟まれていた。


「……早いな」


 思わずそう呟いた。


 父上らしいといえば、父上らしい。

 頼めば軽く扱わない。

 必要と見れば、すぐに人を動かす。


 手紙を開く。


リオンへ。

東の石切り場の件、急ぎノルと現場の者に指示を出した。

現在採れる青輝石を複数箇所から採取し、採掘位置と深さの記録も添えて送る。

青輝石そのものは一箇所だけでなく、思ったより広く出ている可能性がある。

ただし、質の差はある。

そのあたりは、そちらで比べた方が早いだろう。

必要があれば追加で送る。

学院でのことを優先しつつ、そちらで見えるものを見極めろ。

ガルド・ハル


 短い。

 だが、必要なことは全部入っていた。


 青輝石は出ている。

 しかも一箇所ではないかもしれない。

 ただし質の差がある。


 十分だ。

 いや、十分すぎる。


 布包みを一つ開く。


 中から出てきたのは、青白い光を含んだ石だった。

 青い魔鉱石ほど深く澄んだ光ではない。

 少し淡く、少し荒い。

 でも、見間違えようがない。


「青輝石……」


 東の石切り場で見た時より、今はもっと別の意味で胸が熱くなる。


 あの時は違法採掘の証拠だった。

 でも今は、可能性だ。


 この石が本当にあの青い魔鉱石と繋がるなら。

 そして、ハル領でそれがある程度まとまって採れるなら。


 もう石材だけの話じゃない。


 ◇


 放課後、俺はそのまま布包みを抱えて工房へ向かった。


 作業台には、すでにセレナとヴィクトルとナディアがいた。

 最近はもう、誰かが先にいるのが当たり前みたいになっている。


 俺を見るなり、ヴィクトルがにやりとする。


「その顔、何か来たな」


「来た」


 布包みを机の上に置く。


「ハル領から。

 東の石切り場で採れた青輝石」


 セレナが目を見開く。


「もう?」


「父上が急いでくれた」


 ナディアはすぐに包みの横の紙へ目を落とした。


「採取地点の記録もあります」


 工房担当の教師も、こちらへ歩いてきた。


「届いたか」


「はい」


「よし。

 なら今日は、比較だな」


 教師の声で空気が締まる。


 作業台の上には、三種類の石が並べられた。


 一つは、課外実習で見つけた青い魔鉱石。

 一つは、既存の補助石。

 そして今届いた、ハル領東の石切り場の青輝石。


 光り方が違う。

 色の深さも違う。

 表面の粒の細かさも違う。


 でも、何か同じ匂いがある。


 ◇


 最初は単純な反応確認からだった。


 青い魔鉱石で使った簡易回路に、今度はハル領の青輝石を組み込む。

 同じ量の魔力を流す。


 灯りは点いた。


 ただし、青い魔鉱石の時より少しだけ立ち上がりが遅い。

 光も、わずかに弱い。


 セレナがすぐに言う。


「反応自体は近い。

 でも、魔鉱石の方が明らかに通りがいいわ」


 眼鏡の教師も測定具を見ながら頷く。


「うむ。

 系統は近いか、あるいは同じ鉱種の別等級と見ていい」


「同じ種類ってことですか?」


 俺が聞くと、教師は慎重に言葉を選んだ。


「完全に断定するにはまだ足りん。

 だが、無関係ではない。

 少なくとも、今回の青い魔鉱石は、青輝石の深部高純度品、あるいは極めて近い近縁種と見てよさそうだ」


 それを聞いて、胸の奥で何かがはっきりした。


 ハル領の東の石切り場。

 学院の課外実習洞。

 バラバラに見えていたものが、少しずつ一本に寄ってくる。


 ナディアが別の青輝石を手に取る。


「こちらは、さっきのものより反応が鈍いです」


「採取地点が違う」


 俺は添えられた紙を見る。


「同じ石切り場でも、場所によって差があるんだ」


 ヴィクトルがすぐ反応する。


「つまり、量はあっても品質は揃わない可能性が高い」


「そうだね」


 ここで全部がうまくいくわけじゃない。

 むしろ、ここからが本番だ。


 工房担当の教師が腕を組む。


「だが、逆に言えば、選別基準さえ作れれば使える」


「等級分け、ですね」


「そうだ。

 高純度のものは照明具向け。

 そこまで届かんものは別用途。

 そういう切り分けが要る」


 セレナが、青い魔鉱石と青輝石を見比べる。


「やっぱり、品質のばらつきが一番の壁になりそうね」


「同じように見えても、性能差があるなら、適当に混ぜたら事故につながる」


 ヴィクトルが笑った。


「リオン、お前、やっぱり商売の方も向いてるな」


「商売っていうか、事故ったら終わるだろ」


「それを先に考えるからだよ」


 その時だった。

 工房の扉が叩かれ、学院職員が顔を出した。


「ハル、ヴァレスト、ローデン、セルヴァン。

 学院長から連絡です」


 少しだけ間を置いて、続ける。


「王都軍の調査結果、第一報が届きました」


 空気が変わった。


 ◇


 学院長室ではなく、小さな応接室だった。


 そこにローヴェンと、工房担当の教師、それから学院長補佐の職員がいた。


 ローヴェンが一枚の紙を机の上に置く。


「正式文書ではない。

 あくまで第一報だ」


 それでも十分だった。


 要点は三つ。


 一つ。

 第二実習洞の未記録空洞の奥には、青い魔鉱石の反応がまとまって確認されていること。


 二つ。

 表面に見えていた露出部分だけではなく、さらに奥へ続く可能性が高いこと。


 三つ。

 量はまだ断定できないが、少なくとも“偶然の小塊”で済む規模ではなさそうだということ。


 ヴィクトルが低く口笛を吹いた。


「……これは量産できるんじゃないか?」


「まだ早い」


 ローヴェンは即座に言う。


「採掘可能量も、継続性も、危険度も何一つ確定していない」


「それでも、量はありそうなんですよね?」


 俺が聞くと、ローヴェンは短く頷いた。


「可能性は高い」


 その一言で十分だった。


 ハル領の青輝石。

 洞窟の青い魔鉱石。

 両方が、別々に動き始めている。


 ◇


 その日のうちに、父上への返信も書いた。


 青輝石は青い魔鉱石と同系統の可能性が高いこと。

 ただし品質差が大きいこと。

 追加で、できればもう少し多めのサンプルが欲しいこと。

 採取位置と深さの記録を引き続き正確につけてほしいこと。


 そしてもう一つ。

 公爵家にも手紙を書くことにした。


 宛先は、公爵だ。


 公爵領の工房。

 あの時、武具の品質のむらを見つけて、そこから鋳造の試作に踏み込んだ場所。

 あそこなら、同じ形の部品を揃えて作るという話が通じる。


 今すぐ量産ではない。

 そこまではまだ早い。


 だが、試作品第一号の外枠や受け具、導線溝付きの部品を、設計図通りに複数試作してもらえれば、石の品質差と部品差を切り分けて確認できる。


 つまり、次の検証が進む。


 セレナがその手紙を横から覗き込み、言った。


「お父様なら動くと思うわ」


「だとありがたい」


「もう動く前提で書いてるでしょう」


「……少しだけ」


 ヴィクトルが笑う。


「いいね。

 公爵が工房を動かして、学院が分析して、軍が洞窟を掘る。

 だいぶ話がでかくなってきた」


「本当にそうですね」


 ナディアも静かに言う。


「もう、一人の学生の興味ではありません」


 その言葉で、少しだけ手が止まった。


 たしかにそうだ。


 試作品第一号を作った時点では、まだ工房の作業台の上の話だった。

 でも今は違う。


 父上が石を集める。

 公爵家が工房を動かす。

 セレナが繋ぐ。

 ヴィクトルが価値を嗅ぎ取る。

 ナディアが理論と実用の線を引く。

 学院の教師たちも、もうただ見ているだけじゃない。

 王都軍まで動き始めている。


 前世でも、こうして色々な人を巻き込んで一つのものを進めたことがあった。


 確認も、調整も、説明も多かった。

 予定通りにいかないことばかりだった。


 でも。


 何かが本当に動き出す時の、あの独特の空気。

 人と人の仕事が、ばらばらだった点から一本の線になっていく感覚。


 それは、やっぱり嫌いじゃなかった。


 というより――


「……転生した人生も、悪いもんじゃないな」


 思わず、そんな言葉が口からこぼれた。


「何?」


 セレナが聞き返す。


「いや、独り言」


「リオンの独り言は大きいのよ」


「悪い」


 ヴィクトルが面白そうに笑う。


「でも、今の顔は悪くないな」


「何だよそれ」


「ちゃんと楽しそうだってことだよ」


 それには、少しだけ笑ってしまった。


 一個の試作品が、もう僕一人の遊びじゃなくなっていた。


 机の上には、父上への手紙。

 公爵への手紙。

 青輝石の記録。

 青い魔鉱石の分析結果。

 そして、試作品第一号の設計図。


 全部が少しずつ繋がっている。


 まだ完成なんて遠い。

 供給も、選別も、品質管理も、耐久も、コストも、何も終わっていない。


 それでも。


 ここから先に進めるだけの手札は、もう集まり始めていた。


 俺は机の上の紙を見渡し、静かに息を吐く。


「よし」


 次は、選別基準だ。

 石の質を見分けて、どれをどこに使うか決める。

 そこまで行ければ、ただの試作品で終わらずに済む。


 父上からの返書、公爵領工房からの返答、そして王都軍の次報。


 待つものは多い。

 でも今は、待ちながら進めるしかない。


 それでも、確かに動き出していた。


 点だったものが、線になり始めている。



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