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45歳社長、転生先でハズレスキル「綻びの目」を武器に没落領地を再建する  作者: コバチ
第7章 大発明?

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第68話 試作品の先

 試作品第一号が光った、その翌日だった。


 放課後の工房で、俺は昨日作った卓上灯をもう一度作業台の上に置いていた。

 小さな金属枠。

 その中心に収まる青い魔鉱石。

 導線。

 中継板。

 そして光を外へ逃がす小窓。


 見た目はまだ無骨だ。

 洗練とは程遠い。

 でも、たしかに光った。


 セレナも、ヴィクトルも、ナディアも、昨日の時点ではかなり驚いていた。

 工房担当の教師でさえ、少しの間言葉を失っていたくらいだ。


 だから今日は、まず浮かれずに確認することにした。


 この試作品そのものに、問題はあるのか。

 綻びはあるのか。


 右目に意識を寄せる。

 視界の端に、いつもの文字が浮かぶ。


 《構造:安定》

 《魔力流:良好》

 《発熱:許容範囲》

 《綻び:検出なし》


 ――ない。


「……ないのか」


 思わず小さく呟く。


「何が?」


 セレナが聞いた。


「綻び。

 少なくとも、この一個に関しては今のところ見当たらない」


「じゃあ成功ってこと?」


 ナディアが静かに言う。


「試作品としては、はい」


 俺は頷いた。


「少なくとも“できるかもしれない”じゃなく、“できた”段階には入ってる」


 ヴィクトルが腕を組む。


「いいね。

 じゃあ次は、その“できた”をどうやって金になる形まで持っていくかだ」


 そこだ。


 試作品が一つできた。

 でも、一つできたことと、それが世の中で使えることはまるで別だ。


 俺は卓上灯を見つめながら、頭の中で一気に先まで飛んだ。


 耐久。

 コスト。

 供給量。

 品質の安定。


 それだけじゃない。

 部材の加工精度。

 青い魔鉱石の等級分け。

 導線の規格。

 組み立て工程。

 不良品率。

 修理体制。

 価格帯。

 販売経路。

 輸送。

 工房の増設。

 資金繰り。

 市場の入り口をどこに置くか。


 頭の中に、前世で見た言葉が次々と浮かぶ。


 量産化。

 品質管理。

 部品の標準化。

 物流網。

 マーケティング。

 販路設計。


 一個ならいい。

 だが、百個、千個と作るなら話はまるで違う。


 壊れにくくなければ困る。

 貴族の屋敷の机の上だけではなく、一般家庭でも長く使えるくらいの耐久は要る。

 コストも、いきなり平民向けは難しくても、先々はそこまで落とせないと広がらない。

 供給量も、王都だけで回すのか、ハル領で握るのか、アルスレイン全体で扱うのか、他国に売るのかで話が全部変わる。

 品質のばらつきはもっとまずい。

 点くものと点かないものが混ざる。

 すぐ壊れる。

 熱を持ちすぎる。

 事故が起きる。

 そうなれば価値は一気に毀損する。


 これは、試作品一号を作って満足していい話じゃない。


 むしろ――


「量産するなら、部品規格を合わせないと駄目だな……いや、その前に鉱石そのものを等級分けしないと無理か。

 供給が安定しないなら高級品で終わる。

 でもそれだと社会は変わらない。

 最低でも用途を分ける必要がある。

 卓上灯、携帯灯、室内灯、いずれは街灯――」


「待って」


 セレナの声で我に返った。


 顔を上げると、三人とも微妙な顔をしていた。


「……何?」


「何、じゃないわよ」


 セレナが呆れたように言う。


「あなた、今どこまで飛んでたの?」


「え?」


 ヴィクトルが肩を震わせて笑う。


「お前、試作品一個から工房と商会と物流網まで行っただろ」


 ナディアも少し困ったように微笑んでいる。


「最後の方は、国の事業計画の話になっていました」


「……あ」


 そこで、ようやく自分がだいぶ先まで飛んでいたことに気づいた。


「ごめん。ちょっと考えすぎた」


「ちょっと、じゃないわね」


 セレナが即答する。


「だいたい、今やっと一個できたところよ」


「いや、でも、ここから先を考えないと――」


「考えるのはいい」


 ヴィクトルが指を立てる。


「でも順番がある。

 今は“量産できるか”を考える前に、“量産するだけの石があるか”だろ」


 それは正論だった。


 言われて、頭の熱が少しだけ冷える。


 そうだ。

 今の俺たちは、まだ入口に立っただけだ。


 試作品はうまくいった。

 少なくともこの一個に綻びはない。


 でも、この一個が成功したことと、同じ品質のものを安定して作り続けられることは違う。

 そのためには、まず石の供給が読めないと話にならない。


「……まずはそこか」


 俺が呟くと、ナディアが静かに頷いた。


「はい。

 王都軍の調査で、洞窟内の青い魔鉱石がどれほど採れるのか。

 それが見えなければ、供給量の話は立ちません」


「そしてもう一つ」


 セレナが続ける。


「ハル領の東の石切り場ね」


「うん」


 そこはもう、はっきりしていた。


 もしハル領の青輝石と今回の青い魔鉱石が同系統なら。

 もし東の石切り場のさらに深い場所に高純度層があるなら。


 話は洞窟だけで終わらない。


 王都軍の調査結果を待つ。

 それとは別に、ハル領の石切り場を調べる。


 今できる現実的な次の一手は、そこだった。


 ◇


 工房担当の教師も、俺たちの話を聞いて腕を組んだ。


「考える方向は間違っていない」


「本当ですか」


「本当だ。

 試作品一号がうまくいったからこそ、その先の壁が見える。

 そこまではいい」


 だが、と教師は続ける。


「今の段階で一番大きいのは、やはり供給だ。

 青い魔鉱石の品質が揃うのか。

 どれだけ採れるのか。

 継続して確保できるのか。

 そこが見えなければ、量産の話は絵空事で終わる」


「ですよね」


「それと、品質のばらつきだ」


 教師は試作品を指で軽く叩いた。


「この一号機はよくできている。

 だが、二号、三号、百号でも同じ水準になるとは限らん。

 石が違えば反応も変わる。

 加工した者の癖でも変わる。

 組み方のわずかな差でも変わる。

 量産とは、そこを揃える戦いだ」


 痛いほどわかる。


 前世でも、試作一個と量産品は別物だった。

 むしろ、量産できるかどうかの方が本質に近い。


「だったら、今は――」


「王都軍の調査結果を待て」


 教師が言う。


「それと、ハル領だ。

 お前のところの石切り場で青輝石が出ているなら、そっちも再確認する価値がある」


 ヴィクトルが横から口を挟む。


「石切り場の深いところまで掘るのか?」


「今すぐ無理に掘る必要はない」


 俺が答える。


「まずは現地で今採れる青輝石をもう一度採取してもらう。

 できれば複数箇所。

 深さや場所が違うものも欲しい。

 それを学院工房で、今回の青い魔鉱石と比べる」


 セレナが少しだけ目を細めた。


「比較分析、ってことね」


「うん。

 いきなり掘り進めるより先に、まずはそこをやるべきだと思う」


「妥当だわ」


 ナディアも頷く。


「現地の安全もありますし、順番として正しいです」


 ヴィクトルが笑う。


「やっと国の事業計画から戻ってきたな」


「うるさい」


「でも今の方がいい。

 夢を見るのは必要だが、次の一歩は現実的じゃないと続かない」


 それはその通りだった。


 ◇


 その日の夕方、寮の自室に戻ると、机の上に紙を広げた。


 父上に手紙を書くためだ。


 学校がある以上、俺はすぐにハル領へ戻れない。

 だったら、父上に頼むしかない。


 東の石切り場。

 青輝石。

 複数地点からの採取。

 深さや採掘位置の記録。

 安全を最優先にすること。

 必要なら、以前の違法採掘で使われていた坑道跡も確認してほしいこと。


 書くべきことは多かった。


 それでも、手は止まらない。


 父上なら、軽くは扱わない。

 必要ならノルたちも使って、きちんと現場を押さえてくれるはずだ。


 紙に向かいながら、もう一度今日のことを整理する。


 試作品には綻びがなかった。

 少なくとも、一号機そのものは成功だ。


 だが、その先には壁が山ほどある。


 耐久。

 コスト。

 供給量。

 安定性。


 どれか一つ欠けても、この灯りはただの面白い試作品で終わる。

 社会を変えるには届かない。


 でも逆に言えば、それらを越えられれば――


 卓上の灯りだけじゃない。

 持ち運べる灯りにもできる。

 部屋全体を灯す灯にもできる。

 坑道用の照明にも、工房用の常夜灯にも、いずれは街灯にも届くかもしれない。


 机の上の未完成な照明具を見つめる。


 まだ小さい。

 まだ一個だけだ。

 でも、その先はもう見えている。


「……まずは石だな」


 小さく呟く。


 王都軍の調査結果を待つ。

 そして、ハル領の青輝石を確かめる。


 今はそこからだ。


 手紙の最後を書き終え、そっと息を吐く。


 これは、ただの石の話じゃない。

 ハル領の未来の話だ。


 もし東の石切り場の下に、本当に同じ系統の層が眠っているなら。


 その時はもう、石材の産地というだけでは終わらない。



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