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45歳社長、転生先でハズレスキル「綻びの目」を武器に没落領地を再建する  作者: アカメノコバチ
第21章 リオン・ハル男爵

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第652話 衝撃を和らげる仕組み

 ノルとテオが帰ってから、数日が経った。


 今日も政務所で仕事をしていると、扉がノックされた。


「リオン様。ルッツ殿がお見えです」


 ローレンさんだった。


「あっ! 通してあげて!」


「承知しました」


 ほどなくして、ルッツさんが入ってきた。


「リオン様。蒸気機関車のことで、ご相談があります」


「どうしたの? 何か問題があった?」


「はい。走行速度を上げる試験をしているのですが、気になることが二つ見つかりまして」


「二つ?」


「まず、速度を上げるほど、車体の揺れが大きくなるのです」


 なるほど。


 大型蒸気機関車は、これまで時速十五キロほどで走っていた。


 もっと速く走れないか、ルッツさんたちが試しているのか。


「もう一つは?」


「貨車を仮につないでみたところ、動き始めるときに大きな衝撃が加わりました」


「……貨車も造ってたんだ!」


「はい。まだ試験用の一両だけですが。簡単な金具でつなぎ、ほんの少し動かしてみたんです」


「そっか。じゃあ、実際に見に行こう!」


「お願いします!」


 ◇


 政務所の裏手にある試験場へ向かった。


 一周およそ千六百五十メートルの線路には、黒い大型蒸気機関車が停まっている。


 その横には、木製の荷台を載せた貨車が一両置かれていた。


「……おお! 貨車もできたんだね!」


「はい。まずは空荷で試すつもりです」


 ルッツさんは機関車の車輪の近くを指さした。


「こちらをご覧ください。レールの継ぎ目を通るたびに、車輪から車体へ衝撃が伝わっています」


「そうなんだ」


「低速では大きな問題にならないのですが、速度を上げると揺れが激しくなるんです」


 俺たちは見学用の高台へ移動した。


 今日は貨車をつながず、機関車だけを走らせるらしい。


 係員の合図で、機関車が動き始めた。


 シュウウウウッ!


 シュッ、シュッ、シュッ!


 ガタン、ゴトン!


 最初は順調だった。


 ところが、速度が上がってくると……。


 ガタンッ!


 ガタンッ!


「……あっ!」


 レールの継ぎ目を越えるたびに、車体が上下へ揺れている。


 やがて、係員が赤い旗を振った。


 機関車が速度を落とし、停車した。


「これ以上速くするのは、今のままでは不安があります」


 ルッツさんが言った。


「うん。ちょっと調べてみよう」


 車輪が止まり、安全を確認してから、俺は車軸を支える金具を見た。


《綻びの目》。


《車軸支持部:衝撃集中》

《固定金具:繰り返し負荷》

《綻び:支持部の接合箇所》


 やっぱり。


「ルッツさん。車輪からの衝撃が、この金具に集中しているみたい」


「そうですか……。車体をしっかり支えるため、頑丈に固定したのですが」


「頑丈にした分、衝撃がそのまま伝わっているのかもしれないね」


「なるほど……」


「それから、こちらです」


 ルッツさんが貨車のところへ案内してくれた。


 機関車と貨車をつなぐための、太い金具が用意されている。


「今は、鉄の金具にピンを通してつなぐ方式です」


「へえ。これで貨車を引っ張るんだね」


「はい。ただ、連結部分にわずかな遊びがあります」


「遊び?」


「機関車が動き始めてから、貨車が引っ張られるまでに、少しだけずれが生じるのです」


 ルッツさんが小さな模型を使って見せてくれた。


 機関車役の木片を引くと、少し遅れて貨車役の木片が動く。


 その瞬間、金具がカツンと当たった。


「……ああ!」


「実物では、もっと強い衝撃になります。停止するときも、貨車が前へ押す力が加わります」


「実際に動かしたときも、そうなったの?」


「はい。確認のため、もう一度だけ低速で動かしてみましょう」


 係員たちが金具を点検し、安全な距離まで離れた。


 機関車が、空の貨車をゆっくり引っ張る。


 すると。


 ガクンッ!


「……おおっ!?」


 貨車が動き始めた瞬間、連結部分が大きく揺れた。


 すぐに機関車を停めてもらい、金具を確認する。


《連結部:衝撃集中》

《固定ピン:繰り返し負荷》


「このまま何度も動かすのは、よくなさそうだね」


「はい。もっと衝撃を和らげる仕組みが必要です」


 ……なるほど。


 上下の揺れと、前後の衝撃。


 場所は違うけど、どちらも強い力が急に加わるのが問題なんだな。


 何か、力を和らげる方法はないかな?


 うーん……。


 なんかないかな。


 ……。


 …………。


 そうだ!


 俺は、前世で乗っていた自動車を思い出した。


 車輪の近くに、金属をぐるぐると巻いたのが付いていたはずだ。


 確か、ばねだ。


 あれは、縮んで元に戻ることで衝撃を和らげていたんじゃなかったか?


「ルッツさん! ちょっと思いついたことがあるんだけど!」


「何でしょう?」


「紙と細い棒を貸してもらえる?」


「はい!」


 ◇


 作業台で、俺は紙を細長く切った。


 そして、棒にぐるぐると巻き付ける。


「こんな形の金属、造れないかな?」


「……これは、らせん状になっていますね」


「うん。紙だと弱いけど、これを金属で造るんだ。上から押すと縮んで、力を抜くと元に戻るようにしたいんだよ」


 俺は紙を外し、今度は図にも描いてみせた。


「車輪と車体の間に入れれば、衝撃を受け止めてくれるんじゃないかな?」


 ルッツさんが図をじっと見つめた。


「……なるほど。金属が元に戻ろうとする力を利用するわけですね」


「そう!」


「形だけなら、鉄の棒を熱して巻けば造れると思います」


「本当!?」


「ですが、押したあとにきちんと戻るかは、やってみないとわかりません」


「じゃあ、小さいものから試してみよう!」


 ルッツさんが職人さんたちを呼んだ。


 俺の描いた図を見て、みんなが意見を出し始める。


「普通の鉄では、曲がったままになるかもしれませんな」


「それなら、鋼を使ってみましょう」


「熱の加え方も変えて、比べたいですね」


 頼もしいな。


 ◇


 三日後。


 工房には、小さならせん状の金属が並んでいた。


「リオン様! いくつか試作品ができました!」


「おお! 本当に造れたんだね!」


 見た目は、前世で見た、確かコイルばねだったか。


 それによく似ている。


 職人さんが一つを台に置き、上から押した。


 ぎゅっ。


 ばねが縮む。


 でも、手を離すと……。


「……あれ?」


 少し縮んだままになってしまった。


「元に戻りませんね」


 ルッツさんが首を傾げた。


 俺は《綻びの目》を使った。


《弾性回復:不足》

《変形:残留》


 ……なるほど。


「押したあと、元の長さまで戻れていないみたいだね」


「やはり材質が柔らかすぎるのでしょうか」


「ほかのも試してみよう!」


 今度の試作品は、しっかり元に戻った。


「……おお!」


 でも、何度も押していると……。


 ピシッ。


「……あっ!」


 ばねの曲がったところに、小さな亀裂が入った。


《綻び:曲げ部》

《繰り返し負荷:不適》


「今度は、同じところに負担が集中しているみたいだよ」


「硬くしすぎたのかもしれませんね」


 ルッツさんが腕を組んだ。


「鋼を加熱して冷やす方法を変えてみましょう。焼き戻しも試したいです」


「うん! お願いできる?」


「もちろんです!」


 ◇


 それから数日間。


 職人さんたちは、鋼の種類や太さ、熱処理の方法を変えて試作を続けた。


 俺も工房へ顔を出し、《綻びの目》で亀裂や力の偏りを確認した。


 ただ、俺のスキルだけで正しい加工方法がわかるわけじゃない。


 どの鋼を使うか。


 どのくらい熱して、どう冷やすか。


 そこを考えて実際に造るのは、ルッツさんたちだ。


 そして、ようやく。


 ぎゅっ。


 ぽんっ。


「……おお!」


 押すと縮み、手を離すと元の長さへ戻る。


 それを何度も繰り返しても、亀裂が入らなくなった。


《弾性回復:良好》

《荷重分布:安定》


「やったね、ルッツさん!」


「はい! ようやく形になりました!」


 職人さんたちも嬉しそうだ。


 ……よし!


 これなら使えるかもしれない!


 でも、まだ小さな試作品だ。


 実際に乗り物へ使うなら、もう少し確かめないとな。


「ルッツさん。まずは馬車で試してみない?」


「……馬車ですか?」


「うん。いきなり重い機関車に取り付けるより、試しやすいと思うんだ」


「なるほど。それがよさそうですね!」


 ◇


 さらに数日後。


 工房の前には、改造した馬車が置かれていた。


 車輪を支える台枠と、客室の間に、四か所のコイルばねを取り付けてある。


 客室が横へずれないよう、案内用の金具も付けてもらった。


「まずは、人を乗せずに試しましょう」


「そうだね!」


 荷物を載せ、御者さんにゆっくり走ってもらう。


 ガタン。


 ……あれ?


 大きな衝撃は和らいだけど、客室が何度も上下に揺れている。


「……揺れが続いちゃうね」


「はい。縮んだばねが戻る勢いで、また跳ねているようです」


 俺は《綻びの目》で確認した。


《上下振動:継続》

《揺れの減衰:不足》


「ばねだけじゃ、揺れが止まらないんだね」


「それなら、動きに少し抵抗を加えてみましょう」


 ルッツさんが提案した。


 職人さんたちは、客室を支える金具に革を挟んだ摩擦板を取り付けた。


 上下に動くとき、革と板がこすれ合い、揺れを抑える仕組みだ。


 もう一度試す。


 ガタン。


 ふわっ。


 今度は、客室が一度揺れただけで落ち着いた。


「……おお! よくなったね!」


「はい。まずはこれで、短い距離を試してみましょう」


 しばらく走らせても、金具に異常は見つからなかった。


 そこで、俺とミラも乗ってみることにした。


 ◇


「リオン、本当に乗っても大丈夫?」


「うん! 先に荷物を載せて試したし、ゆっくり走ってもらうからね!」


 同じ馬車で、ばねを動かないように固定した場合と、使えるようにした場合を比べる。


 どちらも同じ道を、同じくらいの速さで走る。


 最初は、ばねを固定した状態だ。


 ガタンッ!


 道の小さな凹凸でも、体が上下に揺れる。


「やっぱり揺れるね」


「うん。じゃあ、次はばねを使ってみよう!」


 馬車を停め、職人さんに固定を外してもらった。


 そして、同じ道をもう一度進む。


 ガタン。


 ふわっ。


「……あれ?」


 ミラが目を丸くした。


「リオン! さっきより衝撃が小さいよ!」


「本当!?」


「うん! 揺れるけど、ガツンってこないの!」


 ……おお!


 俺にも違いがわかった。


 車輪は同じ凹凸を通っているのに、客室に伝わる衝撃はずっと柔らかい。


「これなら、長い距離を移動するときも楽になりそうだね!」


「うん! 硬化石の道路と組み合わせたら、もっと快適になると思う!」


 蒸気機関車の問題を解決しようとしていたのに、先に馬車が便利になっちゃった。


 ◇


 馬車での試験が成功すると、ルッツさんたちは蒸気機関車用のばねの製作を始めた。


 もちろん、馬車と同じ大きさでは重い車体を支えられない。


 太い鋼材を使い、何本かのばねで荷重を受ける構造にする。


 車軸を支える箱が上下に少し動けるようにし、その上にばねを取り付ける。


「リオン様。ここは慎重に進めたいと思います」


「どうして?」


「車軸の位置が大きく変わると、連結棒にも無理な力が加わるかもしれません」


「……あっ、そうか!」


 蒸気機関車の車輪は、連結棒でつながっている。


 ただ柔らかくすればいいわけじゃない。


「動く範囲を小さく制限して、負荷を確かめながら進めましょう」


「うん! それがいいと思う!」


 職人さんたちは車軸の案内金具を改良し、ばねの上下にも丈夫な受け皿を付けた。


 それから、少しずつ荷重をかけて試す。


 ……大丈夫そうだ。


 数日かけて調整を終え、いよいよ走行試験の日を迎えた。


 ◇


 シュウウウウッ!


 シュッ、シュッ、シュッ!


 機関車が動き始めた。


 まずは、これまでと同じくらいの速度。


 ガタン、ゴトン。


 線路の継ぎ目を通る。


 うん。


 前より車体の上下の揺れが小さい気がする。


「ルッツさん! いい感じじゃない?」


「はい! ただ、もう少し速度を上げて確かめましょう!」


 係員の合図で、機関車がゆっくり加速する。


 シュッ、シュッ、シュッ、シュッ!


 ガタン、ゴトン!


 ……おお!


 先日の試験では、もっと大きく車体が跳ねていた。


 でも、今日は揺れが抑えられている。


 やがて、機関車が周回線路を一周して停車した。


 計測を終えた係員が、こちらへ駆けてくる。


「リオン様! 一周に五分ほどです!」


「……五分!?」


 線路は一周およそ千六百五十メートル。


 五分で一周なら、平均時速は二十キロ近い!


「……おお! 前より速く走れたね!」


「はい! 振動も、先日よりかなり小さくなっています!」


 ただし、速く走れたからといって、すぐに安全だと決めつけるわけにはいかない。


 機関車が冷えてから、ルッツさんたちと車軸の周りを調べた。


 俺も《綻びの目》を使う。


《車軸支持部:負荷軽減》

《ばねの変形:正常範囲》


 よかった。


 少なくとも、さっきの走行では大きな問題は見つからなかったみたいだ。


「ルッツさん。よくなったね!」


「はい! ただ、長時間の走行試験はこれからです」


「うん! 引き続きお願いね!」


「承知しました!」


 ◇


 試験が終わったあと、ルッツさんが貨車を見つめていた。


「……リオン様」


「何?」


「今回のばねですが、もう一つ使い道があるかもしれません」


「もう一つ?」


「先日お話しした、貨車をつないだときの衝撃です」


 ……あっ!


「連結部分にもばねを入れるんだね?」


「はい。機関車が貨車を引っ張るとき、ばねが少し縮めば、急な衝撃を和らげられるのではないでしょうか」


「……それはいい考えだね」


 でも、今の連結金具は、まだ仮のものだ。


 貨車を何両もつなげるには、もっと使いやすくて、外れにくい仕組みが必要になる。


 ……そうだ。


 前世の列車には、近づけるだけで車両同士がつながる仕組みがあったはずだ。


 あれなら、いちいち人が間に入って金具をつながなくても済む。


「ルッツさん。連結器そのものも、改良してみない?」


「……連結器ですか?」


「うん! 近づけるだけでくっついて、走っている間は外れない。そんな仕組みにしたいんだ!」


 ルッツさんの目が輝いた。


「……なるほど! それができれば、貨車を増やすときにも便利ですね!」


「そうだね!」


 俺は、機関車と貨車を交互に見た。


 金属をぐるぐる巻いただけの、小さなばね。


 それが馬車を乗りやすくして、蒸気機関車を前より速く走らせた。


 そして次は、貨車を安全につなぐためにも役立つかもしれない。


 一つの発明から、また新しい仕事が始まりそうだな。



最後まで読んでいただきありがとうございます。

一見すると地味に感じるコイルスプリングですが、様々な用途で使えます。

結構いい発明なのではないでしょうか?

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― 新着の感想 ―
バネはいろんな衝撃を和らげてくれるから、この世界にまだないのなら、これも権利取得必須かも
何処でコイルバネ馬車が売れるかもと話題になるのが楽しみだなぁ
枕木とか線路の下で衝撃分散も必要では? 後は重量に応じて軌道拡げないとカーブで横転する もちろん車軸への負担も増加するけど(´・ω・`) やっぱりベアリングいるだろうなぁ 鉄道用ベアリングというか車軸…
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