第650話 こいつ、動くぞ!
ヴィクトルが群晶石を持ってきてから、数日が経った。
今日は、政務所内の研究所へ来ている。
トーレスさんから、群晶石の研究について相談したいことがあると言われたからだ。
研究室へ入ると、ヴァイスさんとトーレスさんが机を囲んでいた。
「こんにちは!」
「おお、ハル。来たか」
「リオン様! お待ちしておりました!」
机の上には、ヴィクトルから預かった群晶石が置かれている。
その隣には、細い溝が刻まれた金属板もあった。
「研究は進んでいますか?」
「ああ。面白いことがわかってきたぞ」
ヴァイスさんが群晶石を手に取った。
「ハル。この石は、魔力をうまく操作すれば動かせるんだったな?」
「はい! ミラは空中に浮かせて動かしていましたね!」
「そうだ。ところが、ただ魔力を流しただけでは光るだけで動かない」
「はい。俺もヴィクトルもそうでした」
「そこで、魔力の流し方を変える魔導回路を試しているんだ」
「なるほど!」
ヴァイスさんが金属板を指さした。
「ただ、まだ思いどおりには動かせないんだ。どうやら、魔力を流すだけでは足りないらしい」
「難しいんですね」
「ああ。だが、一つ気になることがある」
「何でしょう?」
「群晶石に導魔線をつなぐと、魔力がその先にも伝わるんだ」
「……えっ?」
導魔線といえば、以前、青輝石の街灯を造ったときにも使ったものだ。
魔力を離れた場所へ送ることができる。
「それって、普通の魔石でもできるんじゃないですか?」
「できる石もある。だが、群晶石の場合は少し違うようなんだ」
「違う?」
「魔力の流し方を変えると、群晶石を通ったあとの反応も変わる」
……へえ。
それは面白いな。
「もしかすると、群晶石は魔力を通すだけじゃなく、何か別の働きもしているのかもしれませんね!」
「ああ。私もそう考えている」
ヴァイスさんが頷いた。
「ただ、まだ何が起きているのかはわからん。まずは調べてみよう」
「はい!」
俺は机の上の群晶石を見つめた。
せっかくだから、《綻びの目》でも確認してみよう。
俺は群晶石へ意識を集中させた。
すると、視界に薄青い文字が浮かんだ。
《魔力流:通過》
《外部伝達:有》
《魔力調整:不安定》
魔力が外へ伝わっていることは確からしい。
ただ、流れ方には問題があるみたいだ。
「ヴァイスさん。群晶石から魔力は出ていますけど、流れ方が安定していないかもしれません」
「ほう。やはりそうか」
ヴァイスさんが金属板を持ち上げた。
「ならば、この魔導回路で調整できるかもしれんな」
「そうですね!」
トーレスさんも頷いた。
「まずは簡単な動きから試してみたいと思います!」
これは楽しみだな。
◇
そのとき、研究室の扉が開いた。
「リオン!」
「あっ、ミラ!」
ミラが入ってきた。
その後ろには、シサーンさんもいる。
「ちょうどよかった。ミラにも実験を手伝ってもらいたいんだ!」
「うん! 何をすればいいの?」
「こっちの石も動かしてみてほしいんだ!」
シサーンさんが小さな箱を机に置いた。
中には、灰色の魔石が入っていた。
「あっ! エヴィン山の石ですね!」
「はい。トーレス所長から引き継いで、私が詳しく調べています」
「何かわかりましたか?」
「魔力を通すことは確認できています。ただ、それ以外の性質はまだわかっていません」
「そうなんですね」
「ですから、群晶石と同じように魔力を操作して、反応を比べてみたいんです」
「なるほど!」
ミラは、前に群晶石を浮かせることに成功している。
魔力を細かく操作するのも、俺よりずっと得意だ。
「ミラ、お願いしてもいい?」
「もちろん!」
◇
まず、ミラは群晶石を手のひらに載せた。
ぽうっ。
石が青白く光る。
そして、ふわりと浮かび上がった。
「……おお!」
群晶石がゆっくりと横へ動いていく。
しかし、一メートルほど進んだところで、ふらつき始めた。
「あっ!」
ミラが慌てて受け止める。
「ふう!」
「やっぱり難しい?」
「うん! 動かせるけど、ずっと集中してないと駄目だね」
ミラが苦笑した。
次に、エヴィン山の灰色の石を手に取った。
「じゃあ、こっちもやってみるね!」
ミラが魔力を流す。
すると。
くるっ。
「……あれ?」
灰色の石が、手のひらの上で回った。
「どうしたの?」
「リオン、この石、群晶石と全然違うよ!」
「違う?」
「うん! こっちの方が、ずっと動かしやすいの!」
「……本当!?」
「見てて!」
ミラがもう一度魔力を流した。
くるっ。
くるっ。
灰色の石が同じ場所で回転する。
今度は反対方向へ。
くるっ。
「……おお!」
石が逆向きに回った!
「すごいね!」
「でしょ! 群晶石より簡単なんだよ!」
「浮かせることもできるの?」
「それが、うまくできないの」
ミラは首を傾げた。
「群晶石は浮かせるのが得意だけど、この石は回す方が得意みたい!」
……へえ。
俺は二つの石を並べて、《綻びの目》を使った。
まず、群晶石。
《動作方向:多様》
《魔力操作:高難度》
次に、エヴィン山の灰色の石。
《回転反応:良》
《浮遊反応:低》
「群晶石はいろいろな方向に動かせるけど、操作が難しい。灰色の石は、回転させるのが得意なのか」
シサーンさんが目を輝かせた。
「なるほど! では、石の回転を使って、別のものを動かせるか試してみましょう!」
「いいですね!」
◇
シサーンさんが木製の小さな台を用意した。
台には細い棒が取り付けられている。
その棒の根元に、灰色の石を固定した。
「石が回れば、この棒も一緒に回るはずです」
「なるほど!」
「ミラさん、お願いします!」
「うん!」
ミラが灰色の石へ魔力を流した。
くるっ。
すると、石につながった棒も回った。
「……おお!」
「動きました!」
シサーンさんが嬉しそうに笑った。
でも。
……あれ?
棒が回るたびに、根元が少しぐらついている。
俺は《綻びの目》を使った。
《回転反応:良》
《固定位置:偏り》
《回転軸:負荷集中》
……なるほど。
「シサーンさん! ちょっと待って!」
「どうしました?」
「石を固定している位置が、少しずれているんじゃないかな?」
シサーンさんが装置を覗き込んだ。
「……ああ、本当ですね」
「このままだと、何度も回すうちに棒が壊れてしまうかも」
「なるほど。では、固定位置を直してみます」
一度石を外し、棒の中心に合わせて取り付け直す。
そして、もう一度。
くるっ。
くるっ。
今度は、棒が滑らかに回った。
《固定位置:良好》
《回転軸:負荷軽微》
「……おお!」
「ずいぶんよくなりましたね!」
シサーンさんが嬉しそうに頷いた。
「これなら、石が回る力を利用できそうです!」
……うん。
エヴィン山の石にも、面白い使い道が見つかったな。
まだ何に使うか思いつかないけど。
◇
「ハル」
ヴァイスさんが声をかけてきた。
「はい?」
「今度は、その灰色の石と群晶石をつないでみないか?」
「二つの石をですか?」
「ああ。群晶石を通った魔力で、灰色の石がどう動くか確かめたいんだ」
「面白そうですね!」
トーレスさんが導魔線を用意した。
まず、ミラが灰色の石へ直接魔力を流す。
くるっ。
石が回った。
次に、群晶石と灰色の石を導魔線でつなぐ。
今度はミラが群晶石へ魔力を流した。
ぽうっ。
群晶石が光る。
そして。
くるっ。
「……おお!」
灰色の石が回った!
「動きましたね!」
「はい!」
トーレスさんが嬉しそうに頷いた。
でも、ヴァイスさんは首を横に振った。
「まだ、これだけではわからんな」
「どういうことですか?」
「灰色の石は、直接魔力を流しても動いただろう?」
「そうですね」
「だから、群晶石を通すことに特別な意味があるのか、確かめる必要がある」
確かにそうだ。
魔力が届いて動いただけなら、わざわざ群晶石を使う必要はない。
「それなら、動き方を比べてみましょう」
「ああ。それがいい」
◇
それから、何度も実験を繰り返した。
灰色の石へ直接魔力を流した場合。
群晶石を通して魔力を流した場合。
さらに、群晶石に流す魔力の操作を変えた場合。
どんな違いが出るのか、トーレスさんたちが記録していく。
その結果、少しずつわかってきた。
群晶石を通して魔力を送ると、灰色の石の動きが安定しやすい。
俺は《綻びの目》を使った。
《魔力流:到達》
《動作方向:安定》
「ヴァイスさん! 群晶石を通した方が、灰色の石の動きが安定していますね」
「そうか。やはり違いがあるようだな」
「はい」
トーレスさんが群晶石を見つめた。
「もしかすると、この石は、魔力を別の石へ伝えるときに、動き方まで伝えられるのかもしれません!」
「……動き方を?」
「はい! 例えば、右へ回れとか、左へ回れとか!」
……おお!
それって、すごく便利なんじゃないか?
「トーレスさん! その動き方を、魔導回路で決めることはできないかな?」
「……魔導回路で、ですか?」
「うん! あらかじめ右へ回るように決めておけば、毎回ミラが細かく魔力を操作しなくても動かせるかもしれないよね!」
トーレスさんが考え込んだ。
「……なるほど!」
そして、目を輝かせた。
「試してみる価値は十分にあります!」
ヴァイスさんも頷いた。
「よし。それなら、まずは簡単な指示から試してみよう」
「はい!」
◇
最初の実験は、うまくいかなかった。
群晶石に魔導回路を組み合わせても、灰色の石が動かない。
魔力は届いているのに、石が反応しなかった。
「……うーん」
トーレスさんが首を傾げた。
「先ほどと同じように魔力を送っているはずなのですが……」
「どこかに問題があるのかもしれんな」
ヴァイスさんが言った。
俺も魔導回路へ目を向けた。
……《綻びの目》。
すると、金属板の一部に薄青い文字が浮かんだ。
《魔力流:断続》
《回路接続:不完全》
《綻び:刻線の接続部》
「ヴァイスさん。ここですが……」
「どうした、ハル?」
「魔導回路の線が、途中で途切れているんじゃないですか?」
トーレスさんが金属板を覗き込んだ。
「……本当だ!」
細い溝の一部が、ほんのわずかにつながっていなかった。
「これでは、魔力が正しく伝わりませんね!」
「直せそうかな?」
「もちろんです!」
トーレスさんが細い道具を使い、溝をつなぎ直した。
そして、再び実験。
ぽうっ。
群晶石が光った。
くるっ。
「……おお!」
灰色の石が回った!
「動きました!」
「やった!」
……うん!
でも、まだ本当に魔導回路が指示を出しているのかはわからない。
そこで、もう一つ実験することにした。
今度は、反対方向へ回す魔導回路を用意する。
同じように魔力を送って、石が逆向きに回れば、魔導回路で動きを決められたことになる。
「トーレスさん、もう一つの回路はどうかな?」
「少し調整してみます!」
トーレスさんが魔導回路を変えた。
そして、もう一度魔力を流す。
くるっ。
……おお!
今度は反対方向へ回った!
「ヴァイスさん! 成功ですね!」
「ああ。これは面白いな!」
ヴァイスさんが笑った。
「同じように魔力を送っても、魔導回路を変えると石の動きが変わるわけだ」
「はい!」
トーレスさんも嬉しそうに頷いた。
「群晶石には、魔導回路で決めた動きを、ほかの石へ伝える働きがあるようです!」
……すごい!
群晶石は、自分自身を動かすことしかできないと思っていた。
でも、違ったんだ。
ほかの石へ、どう動けばいいのかを伝えることもできる。
これは、何かに使えそうだな。
◇
俺は、机の上に並んだ二つの石を見つめた。
群晶石は、動き方を伝えられる。
灰色の石は、回転するのが得意。
そして、魔力を送る導魔線なら、すでにある。
……あれ?
これって、前世で見た機械に似てないか?
そうだ。
工場で使われていた、ロボットアームとかできないか?
人間の腕のような形をした機械が、決められた動きを繰り返していた。
あれを、この世界の魔石で造れるんじゃないだろうか。
「ヴァイスさん!」
「何だ、ハル?」
「この二つの石を使って、木で造った腕を動かせないでしょうか?」
「……木で造った腕?」
「はい! 例えば、木の棒を二本つないで、肘みたいな関節を造るんです!」
俺は紙を取り出し、簡単な絵を描いた。
「その関節に、エヴィン山の灰色の石を取り付けます!」
「ほう」
「そして、群晶石から導魔線をつなぐんです!」
トーレスさんが紙を覗き込んだ。
「なるほど! 群晶石から指示を送れば、灰色の石が回るわけですね!」
「そう!」
俺は頷いた。
「灰色の石が回れば、肘も曲がりますよね!」
ヴァイスさんが考え込んだ。
「……確かに、さっきの木の棒を回した装置と同じ仕組みだな」
「はい!」
でも、これだけでは動かない。
魔力が必要だ。
「それに、魔力を供給する方法もありますよ!」
「ほう?」
「青輝石の街灯に使っている純石です」
ヴァイスさんが頷いた。
「ああ。水車の力で純石を反応させ、魔力を送る仕組みだな」
「はい。あれを使えば、外から魔力を供給できます」
「なるほど!」
「まずは、小さな木製の腕で試してみませんか?」
俺が尋ねると、ヴァイスさんが笑った。
「ああ。面白そうだな!」
「トーレスさん、シサーンさんもどうかな?」
「ぜひやってみたいです!」
「私も協力します!」
……よし!
新しい実験の始まりだ!
◇
それから二日後。
工房の職人さんたちに協力してもらい、木製の腕が完成した。
といっても、人間の腕と同じものではない。
木の棒を二本つなぎ、途中に肘のような関節を造っただけだ。
肩にあたる部分は、丈夫な作業台へ固定している。
肘には、エヴィン山の灰色の石。
そして、その近くには、群晶石と魔導回路を取り付けた。
二つの石は、導魔線でつながっている。
さらに、魔力を供給するための小さな装置も用意した。
人が車輪を回すと、その動きが純石へ伝わり、細かい圧力が加わる。
純石が反応すると、魔力が生まれる。
その魔力を導魔線で群晶石へ送る仕組みだ。
つまり、今回の木製の腕は、外から魔力をもらって動かすことになる。
「……おお!」
俺は完成した装置を見つめた。
「本当に腕みたいだね!」
「そうだね!」
ミラも嬉しそうに笑った。
「ちゃんと動くといいね!」
「うん!」
……でも、ちょっと待てよ。
動かす前に、一度確認しておいた方がよさそうだ。
俺は木製の腕へ《綻びの目》を向けた。
すると。
《木製骨格:良好》
《関節固定:不足》
《回転軸:負荷集中》
《綻び:肘の支持部》
「少し待ってください!」
「どうしました、リオン様?」
トーレスさんが尋ねた。
「肘の部分に問題があるんじゃないかな?」
「……肘ですか?」
「うん! 腕が動くと、ここに力が集中しそうな気がするんだ!」
俺が指さすと、職人さんが近づいてきた。
「……なるほど」
職人さんは関節を支えている木の板を確認した。
「確かに、ここだけで腕の重さを受けていますな」
「補強できそう?」
「もちろんです!」
職人さんたちが、関節の両側へ木の板を追加した。
さらに、回転軸を支える金具も取り付ける。
もう一度、《綻びの目》で確認する。
《関節固定:良好》
《回転軸:負荷軽微》
これなら、さっきよりずっと安全そうだ。
「ありがとう!」
「いえいえ!」
動いた瞬間に壊れてしまったら、大変だ。
「それでは、始めましょう!」
トーレスさんの声で、最初の動作試験が始まった。
職人さんが、魔力供給装置の車輪を回す。
カラカラカラ……。
純石へ細かい圧力が加わる。
そこから生まれた魔力が、導魔線を通って群晶石へ届く。
ぽうっ。
群晶石が青白く光った。
でも。
……。
……。
「……あれ?」
木製の腕は動かなかった。
「魔力は届いているよね?」
俺が尋ねると、トーレスさんが頷いた。
「はい。群晶石は反応しています!」
「灰色の石には?」
「そちらにも魔力は届いているはずですが……」
……なるほど。
さっきの小さな実験では、うまく動いた。
でも、木製の腕に取り付けたら動かなくなった。
何かが違うのか?
俺は《綻びの目》を使った。
《魔力流:低下》
《末端伝達:不足》
《綻び:導魔線の接続部》
「ヴァイスさん! ここです!」
「どうした、ハル?」
「群晶石から灰色の石へつながる導魔線に、問題があるみたいです!」
「……導魔線か?」
「はい! 途中で魔力が弱くなっています!」
シサーンさんが接続部分を調べた。
「……ああ。線が少し引っ張られていますね」
「引っ張られている?」
「はい。腕に取り付けるときに、導魔線を短くしすぎたようです」
確かに、導魔線がぴんと張っている。
しかも、接続部分の金具が少し斜めになっていた。
「線を少し長くして、余裕を持たせましょう!」
「そうですね!」
魔力供給装置を止めてから、導魔線をつなぎ直す。
接続部分の金具も、しっかり固定した。
そして、もう一度確認する。
《魔力流:良好》
《末端伝達:安定》
今度は問題なさそうだ!
「準備できました!」
「よし。もう一度やってみよう!」
カラカラカラ……。
車輪が回り始めた。
純石が反応する。
魔力が導魔線を通って、群晶石へ届く。
ぽうっ。
群晶石が青白く光った。
さらに、灰色の石へ向かう導魔線にも、淡い光が走る。
俺は《綻びの目》を使った。
《魔力供給:良好》
《魔導回路:正常》
《末端伝達:安定》
今度は、ちゃんと動くはずだ!
俺の胸が高鳴った。
「こいつ、動くぞ!」
「……リオン?」
ミラが不思議そうな顔をする。
そのときだった。
くるっ。
「……あっ!」
灰色の石が回った!
そして。
カタンッ!
「……おおっ!?」
木製の腕が、ゆっくりと持ち上がった!
「動いた!」
「はい! 動きました!」
トーレスさんが声を上げた。
腕の先端が十センチメートルほど上がったところで、動きが止まった。
でも、確かに動いた!
「やった!」
ミラが嬉しそうに笑った。
「リオン! 本当に動いたね!」
「うん! 動いた!」
……おお!
まさか、この世界であの台詞を言える日が来るなんて!
ヴァイスさんも嬉しそうに笑っている。
「ははっ! これは面白いな!」
「はい!」
シサーンさんも、灰色の石を見つめていた。
「私が研究していた石で、こんなことができるとは……!」
「シサーンさんのおかげですよ!」
「ありがとうございます!」
……すごい!
群晶石から指示を出して、灰色の石が動く。
その力で、木製の腕が持ち上がった。
しかも、今回は誰も直接魔力を操作していない。
あらかじめ決めた動きと、外から供給した魔力だけで動いたんだ!
俺は、もう一度《綻びの目》を使った。
《動作:成立》
《関節負荷:中》
《魔力供給:外部依存》
《連続稼働:未検証》
ちゃんと動いたけど、まだ課題はたくさんある。
「ヴァイスさん。動かすことには成功しましたけど、まだ長く使えるかはわかりませんね」
「ああ。今日は一度動いただけだからな」
「それに、魔力を外から送り続けないといけません」
「そうだな」
ヴァイスさんが木製の腕を見つめた。
「だが、最初の一歩としては十分だろう」
「はい!」
今できるのは、腕を少し持ち上げることだけ。
自由に曲げ伸ばしできるわけじゃない。
何かをつかんだり、持ち上げたりすることもできない。
それでも。
これは、すごいことじゃないか?
群晶石が、魔導回路で決めた指示を伝える。
灰色の石が、その指示に従って関節を動かす。
そして、純石と導魔線が魔力を供給する。
それぞれの役割が、はっきりしてきた。
俺は、ゆっくりと持ち上がった木製の腕を見つめながら考えた。
群晶石が、脳の役割をする。
そして、エヴィン山の灰色の石が関節を動かす。
その間を、導魔線がつないでいる。
……あれ?
これなら、腕だけじゃなくて、脚も動かせるんじゃないか?
それに、頭や胴体も造れば……。
……もしかして。
あれまで造れるんじゃないか!?
……おお!
巨大な人型の機械が動き回る姿が、頭に浮かんだ。
……いやいや!
さすがに、いきなりあんな巨大なものを造るのは無理だ。
今は、木製の腕を十センチ動かせただけなんだから。
まずは、もっと小さなものから始めた方がいい。
そう。
まずはゴーレムだ。
人間の代わりに簡単な仕事をしてくれる、小さなゴーレム。
それなら、少しずつ研究を進めていけば、造れるかもしれない。
「ヴァイスさん!」
「何だ、ハル?」
「この腕をもっと改良したら、人間みたいに動く人形も造れるんじゃないでしょうか!?」
「……人間みたいに動く人形?」
「はい! 腕だけじゃなくて、脚も動かせるようにするんです!」
トーレスさんが目を見開いた。
「……なるほど!」
シサーンさんも考え込んでいる。
「確かに、関節を増やせば、もっと複雑な動きもできるかもしれませんね」
「そう!」
俺は笑った。
「ゴーレムですよ! 人間の代わりに仕事をしてくれるゴーレムを造りたいんです!」
「……ゴーレムか」
ヴァイスさんが、ゆっくりと頷いた。
「面白い考えだな。ただ、今の技術ではまだ難しいだろう」
「はい!」
「腕一本を動かすだけでも、これだけ苦労したんだからな」
「そうですよね!」
俺は、もう一度木製の腕を見つめた。
小さな蒸気機関車だって、何度も失敗していた。
それが今では、大きな蒸気機関車になって、周回線路を走っている。
だったら、これもきっとできるはずだ。
「まずは、この腕に手首を加えて自由に動かせるようにしましょう!」
俺が言うと、ヴァイスさんが笑った。
「ああ。そうだな!」
トーレスさんとシサーンさんも、力強く頷いた。
木製の腕。
まだ、ほんの少ししか動かない。
でも、ここからいろいろなことが始まるかもしれない。
これは、すごく楽しみだな!
最後まで読んでいただきありがとうございます。
綻びの目を使うと、研究速度が一気に上がります。
普通はもっと試行錯誤するんですけどね……。




