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45歳社長、転生先でハズレスキル「綻びの目」を武器に没落領地を再建する  作者: アカメノコバチ
第21章 リオン・ハル男爵

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第649話 ヴィクトルが持ってきた石

 翌朝。


 政務所の前には、何台もの馬車が並んでいた。


 今日は、ガイルとナディアがベイルン領へ帰る日だ。


 ガイルが連れてきたベイルン騎士団の人たちも、すでに出発の準備を終えている。


「リオン! 今回は世話になったな!」


「それはこっちの台詞だよ! ガイルには本当に助けてもらったからね!」


「はっはっは! 俺も楽しかったぞ!」


 ガイルが豪快に笑った。


「騎士団の訓練に、上水道の工事、それから蒸気機関車まで見られたからな!」


「そうだね!」


「特に昨日の蒸気機関車はすごかったぞ!」


「うん! 無事に走ってくれてよかったよ!」


 ガイルたちが帰る前に見てもらえて、本当によかったな。


「それに、お前の所の騎士団もずいぶん成長したぞ!」


「本当!?」


「ああ! 騎士団の訓練だけじゃなく、工事現場でも自分たちで考えて動けるようになってきた!」


「それは嬉しいな!」


「俺たちが帰っても、上水道の工事は問題なく進められると思うぞ!」


「ありがとう、ガイル!」


 ガイルが大きく頷いた。


「次に来るときは、蒸気機関車に乗せてくれよ!」


「うん! 約束するよ!」


「はっはっは! 楽しみにしてるぞ!」


「リオンさん」


 ナディアが声をかけてきた。


「今回は本当にありがとうございました」


「こちらこそ! ナディアにもたくさん助けてもらったよ!」


「ふふっ。私も、とても勉強になりました」


 ナディアが微笑んだ。


「特に、レイ湿原でお米を育てる仕事に関われたことは、嬉しかったです」


「そう言ってもらえると嬉しいな!」


「次にお邪魔するときには、この領で収穫されたお米を食べられるといいですね」


「うん! 俺も楽しみにしてるよ!」


 すると、ミラがナディアの手を取った。


「ナディア、本当にありがとう!」


「ミラさん。こちらこそ、ありがとうございました」


「回復魔法をたくさん教えてくれて、すごく勉強になったよ!」


「ふふっ。ミラさんは上達が早いですから、これからも練習を続けてくださいね」


「うん! 頑張る!」


 その隣では、ピコが小さく鳴いていた。


「ピー!」


「あら、ピコもお別れを言ってくれるんですね」


 ナディアが優しく微笑んだ。


「ピー!」


「ふふっ。また会いましょうね」


 ナディアがピコの頭を撫でた。


 ナッシュとピコが別れを惜しむかのように追いかけっこをしている。


「ピー!」


「キュ!」


 そして、出発の時間になった。


「それじゃあな、リオン!」


「うん! ガイル、ナディア、気をつけてね!」


「おう!」


「ありがとうございました、リオンさん!」


 二人が馬車に乗り込む。


 ガイルが窓から大きく手を振った。


「また来るからな!」


「うん! 待ってるよ!」


 馬車がゆっくりと動き始めた。


 ポロリも空を飛びながら馬車についていく。


 俺とミラは、姿が見えなくなるまで手を振り続けた。


 少し寂しくなるな。


 ◇


 それから数日後。


 俺は政務所で仕事をしていた。


 シュウウウウッ!


 シュッ、シュッ、シュッ!


 ガコン、ガコン……。


 今日も、政務所の裏手から蒸気機関の音が聞こえてくる。


 ルッツさんたちは、車軸や連結棒の状態を調べながら、安定して走れるよう調整を進めているらしい。


 そんなことを考えていると、扉がノックされた。


「リオン様。失礼いたします」


 ローレンさんだった。


「あっ、ローレンさん! どうしたの?」


「ヴィクトル殿がお見えになりました」


「おぉ。ヴィクトル来たか」


 セルヴァン王国で面白い石を手に入れたから、俺に見せたいと言っていた。


 どんな石を持ってきたのかな。


「今どこにいるの?」


「応接室でお待ちです」


「すぐ行くよ!」


 俺は立ち上がった。


 ◇


「ヴィクトル!」


「おう、リオン!」


 応接室へ入ると、ヴィクトルが椅子から立ち上がった。


「久しぶり!」


「ああ! 元気そうだな!」


「ヴィクトルもね!」


 ヴィクトルが笑った。


「それにしても、相変わらず忙しそうだな」


「ははは。いろいろやることがあるからね!」


「そうだろうな。サリオスにいても、お前の領の話はよく聞くぞ」


「そうなんだ!」


「ああ。新しい工房だの、上水道だの、港の計画だの……。いったい、どこまで広げるつもりなんだ?」


「まだまだやりたいことはあるよ!」


「相変わらずリオンはリオンだな」


 ヴィクトルが苦笑した。


「そういえば、ガイルとナディアはどうしてる?」


「二人なら、数日前にベイルン領へ帰ったよ!」


「おいおい! 俺と入れ違いかよ!」


「あはは! そうなんだよ!」


「まったく。久しぶりに顔を見られると思ってたのにな」


「あと何日か早ければ、会えたんだけどね!」


「そうだな。残念だ」


 ヴィクトルが肩をすくめた。


「まあ、二人とも元気ならいいさ」


「うん! ナディアもガイルも元気だったよ!」


「それならよかった」


「それで、ヴィクトル」


「何だ?」


「例の石、持ってきてくれたの?」


「もちろん!」


 ヴィクトルが嬉しそうに笑った。


「そのために来たんだからな!」


 そう言って、足元に置いてあった小さな箱を持ち上げた。


「これだ」


 箱の中には、青灰色の石がいくつも並んでいた。


「……おお!」


 俺は思わず身を乗り出した。


「これが群晶石?」


「ああ。セルヴァン王国のミナリア西ダンジョンで採れた石だ」


「へえ!」


 見た目は、普通の魔石とそれほど変わらない。


 でも、少しだけ青みがかっている。


「それで、どうやって手に入れたの?」


「冒険者から買い取ったんだ」


「現地の?」


「ああ。最初は少しだけ買うつもりだったんだが、頼んだらとんでもない数を集めてきてな」


「とんでもない数?」


「七十個だぞ!」


「……七十個!?」


 ……すごいな!


 そんなにたくさん採れるものなのか!


「もちろん、全部持ってきたわけじゃないぞ。今日は研究用に六個ほど持ってきた」


「そうなんだ」


「残りは商会で保管してある。使い道が見つかれば、追加で持ってこられるようにしてあるぞ」


「ありがとう、ヴィクトル!」


 俺は石を一つ手に取った。


 これが、魔力を流すと浮かぶのか。


「試してみてもいい?」


「もちろん!」


 俺は、群晶石へ魔力を流してみた。


 ぽうっ。


「……おお!」


 石が青白く光った。


 でも。


 ……。


 ……。


「……あれ?」


 石は、手のひらに載ったままだった。


「浮かばないね」


「ははは! 俺と同じだな!」


 ヴィクトルが笑った。


「俺も何度も試したんだが、光るだけだったぞ!」


「光るだけか」


「魔力を流すだけじゃ駄目らしいんだよ。魔力操作ができないと駄目らしい」


 ……なるほど。


 確かに、俺も魔力を細かく操作するのが得意なわけじゃない。


「でも、ヴィクトル」


「何だ?」


「本当に浮かぶところを見たんだよね?」


「もちろんだ!」


 ヴィクトルが大きく頷いた。


「しかも、一個じゃないぞ!」


「……えっ?」


「八個だ!」


「……八個!?」


「ああ! 八個を同時に浮かせて、それぞれ別の方向へ動かしてたんだ!」


「……すごい!」


 そんなことができるのか!?


「それだけじゃないぞ」


「まだあるの!?」


「ああ。群晶石から魔法まで撃ってた!」


「……魔法!?」


「そうだ! 八個の石から、それぞれ違う標的に魔法を放ったんだ!」


 ……おお!


 それって、相当な魔力操作の技術が必要なんじゃないか?


「いったい、どんな人なの?」


 俺が尋ねると、ヴィクトルが少し笑った。


「フェリシアっていう、若い女性の冒険者だ」


「へえ!」


「アレンっていう冒険者の仲間でな。魔法を使うのがものすごく上手なんだ」


「アレン? どこかで聞いたな」


「ほかにも、ルナっていう元気な子がいたぞ。なかなか面白い連中だった」


 ……へえ。


 セルヴァンには、そんなすごい冒険者たちがいるんだな。


 ◇


 少ししたらミラが応接室に入ってきた。


「あら? ヴィクトル、いらっしゃい」 


「よう、ミラ。久しぶりだな」


 俺はミラに群晶石について話をした。


 すると……。


「ねえ、リオン」


「ん?」


「私もその石を触ってみていい?」


「もちろん!」


 俺はミラに群晶石を渡した。


「ちょっとやってみるね」


 ミラは手のひらに石を載せると、静かに魔力を流し始めた。


 ぽうっ。


 群晶石が青白く光る。


 そして。


 ふわっ。


「……おおっ!?」


 石が、ミラの手のひらから浮き上がった!


「ミラ! すごい!」


「……あっ! 本当に浮いた!」


 ミラ自身も驚いている。


 石は手のひらの上、二十センチメートルほどのところで止まった。


 そのまま、ゆっくりと横へ動いていく。


「……おお!」


 ヴィクトルが目を丸くした。


「ミラ! お前、動かせるのか!?」


「うん! でも、思ったより難しいよ!」


 ミラは慎重に手を動かした。


 群晶石が、少しずつ空中を進んでいく。


 一メートルほど移動したところで、石がふらつき始めた。


「あっ!」


 ふわっ。


 石が下がってきた。


 ミラは慌てて両手で受け止めた。


「……ふう!」


「大丈夫、ミラ?」


「うん! でも、これ以上は難しいかも」


「それでもすごいよ!」


 ヴィクトルも嬉しそうに頷いた。


「いやあ、さすがミラだな!」


「えへへ。ありがとう!」


「俺なんか、光らせるだけで精いっぱいだったからな!」


 ……確かに。


 魔力を流すだけなら俺にもできるけど、細かく動かすのは難しそうだ。


「それにしても、フェリシアって人はこれを八個も動かしていたんだね!」


「ああ。しかも、かなり速かったぞ!」


 ヴィクトルが笑った。


「俺も、あれには本当に驚いたよ」


 ……すごい人なんだなぁ。


 いつか会ってみたいな。


「そのフェリシアって冒険者、どんな人だったの?」


 俺が何気なく尋ねると、ヴィクトルは少し考え込んだ。


「そうだな……」


 それから、なぜか少し照れくさそうに笑った。


「明るくて、気さくでな。仲間のことをよく見ている女性だったよ」


「へえ!」


「それに、あれだけ魔法が使えるのに、少しも偉そうにしないんだ」


「そうなんだね!」


「ああ。すごい力を持ってるのに、普通に笑って話してくれるんだよ」


 ……へえ。


 ヴィクトル、ずいぶん嬉しそうに話すなぁ。


「……ねえ、ヴィクトル」


「何だ?」


「もしかして、その人のこと、気に入ってるの?」


「……は?」


 ヴィクトルが固まった。


 ……あれ?


「だって、さっきからすごく嬉しそうだから!」


「……いや、まあ」


 ヴィクトルが頭を掻いた。


 ……珍しいな。


 いつもは何を聞いてもすぐ答えるのに。


「……笑うなよ?」


「笑わないよ!」


「……実はな」


 ヴィクトルが少し声を落とした。


「一目ぼれってやつを、初めて経験したかもしれない」


「……ええっ!?」


 俺は思わず声を上げた。


「ヴィクトルが!?」


「おい! そんなに驚くことか!?」


「だって、今までそんな話、聞いたことなかったから!」


「……まあ、そうだな」


 ヴィクトルが苦笑した。


「初めて会ったときから、何となく目が離せなかったんだ」


「そうだったんだ!」


「それで、群晶石を操るところを見たら、ますます驚かされてな」


 ヴィクトルが少し笑った。


「気がついたら、魔石だけじゃなくて、あの子のことも考えてたよ」


「……へえ!」


 ……これは、すごい話を聞いちゃったな!


「それで、その人には気持ちを伝えたの?」


「……いや」


 ヴィクトルが首を振った。


「まだ、そんな関係じゃないからな」


「まだ、か」


「それに、向こうは冒険者だ。次にいつ会えるかもわからない」


「……そっか」


 ヴィクトルが、少しだけ遠くを見るような表情になった。


 ……なるほど。


 商売のことなら何でも自信満々なのに、こういう話は別なんだな。


「また会えるといいね!」


 俺が言うと、ヴィクトルが笑った。


「ああ。そうだな!」


 隣で聞いていたミラも、嬉しそうに微笑んでいた。


「ヴィクトル、応援してるね!」


「……おう。ありがとな!」


 ……あはは。


 まさかヴィクトルから、こんな話を聞けるなんて思わなかったな!


 ◇


「ところで、リオン」


「何?」


「この石、お前の研究所でも調べられないか?」


「うん! ちょうど魔石が大好きな研究者が来たんだ!」


「……魔石が大好きな研究者?」


「そう! トーレスさんっていうんだよ!」


「へえ!」


「王立研究所から来てくれた人なんだ!」


「それは頼もしいな!」


「じゃあ、呼んでみよう!」


 俺はローレンさんにお願いして、トーレスさんを呼んでもらった。


 しばらくすると、扉が開いた。


「リオン様! お呼びでしょうか!」


 トーレスさんだった。


「あっ、トーレスさん! 来てくれてありがとう!」


「いえ! それで、何かございましたか?」


「実は、面白い魔石を手に入れたんだ!」


「……魔石!?」


 トーレスさんの目が輝いた。


 本当に魔石が好きなんだなぁ。


「これなんだけどね!」


 俺は群晶石を見せた。


「……おお!」


 トーレスさんが身を乗り出した。


「初めて見る石です!」


「群晶石っていうんだって!」


「……群晶石ですか!?」


「うん。魔力を流すと、空中に浮かせて動かせるらしいんだ!」


「……本当ですか!?」


 トーレスさんの目が、さらに輝いた。


「ぜひ、調べてみたいです!」


「もちろん!」


 俺は石を一つ渡した。


「魔力を流してみて!」


「はい!」


 ◇


 トーレスさんは群晶石を手のひらに載せた。


 そして、慎重に魔力を流し始めた。


 ぽうっ。


 石が青白く光った。


「……ふむ」


 トーレスさんは、少しだけ目を細めた。


「なるほど……」


 ……。


 ……。


 石は動かない。


「……どうかな?」


 俺が尋ねると、トーレスさんが答えた。


「魔力は通っています。ですが、ただ流すだけでは駄目なようですね」


「そうなんだよ!」


「少し、流し方を変えてみます」


 トーレスさんが集中した。


 すると。


 ふわっ。


「……おおっ!」


 群晶石が、ほんの少し浮き上がった!


 手のひらから、指一本分ほどだろうか。


「浮いた!」


「はい! ですが……!」


 トーレスさんの額に汗が浮かぶ。


 石は、ほんのわずかに横へ動いた。


 しかし。


 ぽとっ。


 すぐに手のひらへ落ちてしまった。


「……ふう」


 トーレスさんが息を吐いた。


「少し動かせましたね!」


「すごいよ、トーレスさん!」


「ありがとうございます!」


 トーレスさんが嬉しそうに笑った。


「でも、魔力を細かく調整し続ける必要があるようです」


「そうなんだね!」


「それに、動かす方向によっても、魔力の流し方を変えなければならないようですね」


「……なるほど!」


 トーレスさんは、もう一度群晶石を見つめた。


「……面白いです!」


 もう研究のことしか考えていないみたいだな。


「トーレスさん」


「はい!」


「魔導回路を使って、この石を動かすことはできないかな?」


 俺が尋ねると、トーレスさんが顔を上げた。


「……魔導回路ですか?」


「うん! 今は人が魔力を細かく操作しているけど、それを魔導回路でできるようになったら便利そうだよね!」


 トーレスさんが、しばらく考え込んだ。


「……なるほど」


 そして。


「……ぜひ研究してみたいです!」


「本当!?」


「簡単ではないと思いますが、試してみる価値は十分にあります!」


「それなら、お願いします!」


「ありがとうございます!」


 トーレスさんは、群晶石を大切そうに箱へ戻した。


「まずは、どのように魔力を流すと動くのか、詳しく調べてみます!」


「よろしくね!」


 これで、また新しい研究が始まるんだな。


 ◇


 そのときだった。


 シュウウウウッ!


 シュッ、シュッ、シュッ!


 ガコン、ガコン!


 窓の外から、大きな音が響いてきた。


「……おい、リオン」


 ヴィクトルが顔を上げた。


「何?」


「今の音、もしかして蒸気機関か?」


「うん! そうだよ!」


「……ずいぶん大きな音だな」


 ヴィクトルが窓の方を見た。


「前に見た小型のものとは、音が違う気がするぞ」


「そうなんだ! 今は大型蒸気機関車の試験をしてるんだよ!」


「……大型蒸気機関車?」


「うん! 先日、初走行に成功したんだ!」


「……は?」


 ヴィクトルが固まった。


「……お前、もう走らせたのか!?」


「うん!」


「……本当かよ!」


 ヴィクトルが立ち上がった。


「ちょっと待て! 俺が見に来てた頃は、まだ小型の蒸気機関車だっただろ!?」


「うん! それから、みんながすごく頑張ってくれたんだ!」


「……おいおい」


 ヴィクトルが頭を抱えた。


「俺が留守にしてる間に、とんでもないことになってるじゃないか!」


「ははは!」


「……リオン!」


「何?」


「今から見に行けるか!?」


「もちろん!」


 俺は笑った。


「ちょうど今日も走行試験をする予定だから、見られると思うよ!」


「本当か!? だったら早く行こう!」


 ヴィクトルも、すっかり興奮してるな!


 ◇


 俺たちは、政務所の裏手にある蒸気機関車の試験場へ向かった。


「……おお!」


 ヴィクトルが足を止めた。


 目の前には、大きな楕円形の周回線路が広がっている。


 一周およそ千六百五十メートル。


 その上に、黒い大型蒸気機関車が載っていた。


「……何だ、あれは!」


 ヴィクトルが目を見開いた。


「大きいでしょ?」


「大きいなんてもんじゃないぞ!」


 ヴィクトルは、驚いた様子で機関車を見上げた。


「……本当に、これが走るのか?」


「うん! 普通の馬車より少し速いくらいだよ!」


「……本当かよ!」


 ヴィクトルが、もう一度機関車を見つめた。


 そこへ、ルッツさんがやってきた。


「リオン様! お疲れさまです!」


「あっ、ルッツさん!」


「……おや、ヴィクトル殿」


「ルッツさん! 久しぶり!」


「お久しぶりです」


「まさか、ここまで造ってるとは思わなかったぞ!」


「ありがとうございます!」


 ルッツさんが嬉しそうに笑った。


「先日の走行試験も、おかげさまで成功しました!」


「そうらしいな! 今から走るところを見られるのか?」


「はい。ちょうど次の走行試験の準備が整ったところです」


「……おお!」


 ヴィクトルが嬉しそうに笑った。


「ぜひ見せてくれ!」


 ◇


 俺たちは、見学用の高台へ移動した。


 試験場の周回線路では、すでに係員たちが持ち場についている。


「それにしても、広いな」


 ヴィクトルが周囲を見渡した。


「前の小型蒸気機関車とは、何もかも違うじゃないか」


「そうだね!」


「これだけの線路を造るのも、大変だっただろう?」


「うん。でも、みんな頑張ってくれたんだ!」


 そのとき。


 出発地点の係員が、緑の旗を掲げた。


 シュウウウウッ!


 シュッ、シュッ、シュッ!


 ガコン、ガコン!


 大型蒸気機関車が、ゆっくりと動き始めた。


「……おおおっ!」


 ヴィクトルが身を乗り出した。


「本当に動いたぞ!」


「うん!」


 黒い煙が煙突から立ち上っていく。


 大きな車輪が回り、連結棒が規則正しく前後に動いている。


 ガタン、ゴトン!


 ガタン、ゴトン!


「……すごいな」


 ヴィクトルが呟いた。


「馬も使わずに、あんな大きなものが動いてるのか……」


「うん! 石炭と水で動いてるんだ!」


「前の小型蒸気機関車もそうだったが、こっちは迫力が違うな!」


「そうだね!」


 機関車は最初の曲線を通過し、長い直線部分へ入った。


 シュッ、シュッ、シュッ、シュッ!


 排気音が速くなる。


 ガタン、ゴトン!


 ガタン、ゴトン!


「……おお!」


 ヴィクトルが声を上げた。


「速いな!」


 大きな車体が、線路の上を走っていく。


 ヴィクトルは、その姿から目を離さなかった。


 やがて機関車は、もう一つの曲線を通過し、こちらへ戻ってきた。


 ゆっくりと速度を落とし、出発地点の近くで停止する。


 シュウウウウッ……。


「……いやあ」


 ヴィクトルが、大きく息を吐いた。


「本当に走るんだな」


 そして、嬉しそうに笑った。


「すごいぞ、リオン!」


「ありがとう!」


 ……うん。


 俺も、何度見ても嬉しくなるな!


 ◇


 走行試験が終わったあと、俺たちは機関車の近くへ移動した。


 ヴィクトルは車輪やボイラーをじっくりと眺めていた。


「リオン」


「何?」


「この機関車、どのくらい石炭を使うんだ?」


「まだ詳しい数字を調べているところだよ」


「そうか。じゃあ、何人で動かしてる?」


「今は二人だね!」


「貨車は?」


「これから連結して、荷物を運ぶ試験をする予定なんだ!」


「……なるほど」


 ヴィクトルが腕を組んだ。


「馬車より少し速いだけなら、そこまで大きな違いはないかもしれない」


「そうだね!」


「だが、一度に馬車何台分もの荷物を運べるようになったら、話は別だぞ」


「うん! 俺もそう思う!」


「それに、馬の餌代もいらない。代わりに石炭と水、それから機械を整備する費用が必要になるわけだな」


「そうなるね!」


 ……さすがヴィクトル。


 もう商売のことを考えているんだな。


「リオン。貨車をつないだ試験が始まったら、ぜひ結果を教えてくれ」


「もちろん!」


「荷物をどのくらい運べるのかがわかれば、商会としてもいろいろ考えられるからな」


「そうだね!」


 ヴィクトルと一緒なら、鉄道を使った新しい商売も考えられそうだ!


「ところで、ヴィクトル」


「何だ?」


「実は、蒸気機関を使った機械は、これだけじゃないんだ!」


「……は?」


 ヴィクトルが俺を見た。


「まだあるのか?」


「うん! 蒸気クレーンも造ったんだ!」


「……クレーン?」


「大きな石や、重い鉄の部品を持ち上げる機械だよ!」


「……蒸気の力でか?」


「そう!」


 俺は頷いた。


「三トンくらいの石も持ち上げられるんだ!」


「……三トン!?」


 ヴィクトルが目を丸くした。


「そんなものを持ち上げられるのか!?」


「うん! もう実際に動かしてるよ!」


「……おいおい」


 ヴィクトルが額に手を当てた。


「お前、本当に何でも造るな!」


「俺が造ったわけじゃないよ! ルッツさんたちが頑張ってくれたんだ!」


「それはわかってるよ!」


 ヴィクトルが笑った。


「それで、ほかにもあるんじゃないだろうな?」


「……あっ!」


「……何だ、その顔は」


「実は、蒸気船も造りたいと思ってるんだ!」


「……蒸気船?」


「うん! 船を蒸気の力で動かすんだよ!」


 ヴィクトルが、しばらく黙って俺を見つめた。


「……お前さあ」


「何?」


「俺がいない間に、とんでもないことになってるな!」


「ははは!」


 ヴィクトルが大きく息を吐いた。


「船まで動かそうとしてるのか」


「うん! まだ構想段階だけどね!」


「……なるほどな」


 ヴィクトルの表情が、少し変わった。


「それが実現したら、川や海の商売まで変わるかもしれないぞ」


「そうだね!」


「……リオン」


「何?」


「今度、蒸気船の話も詳しく聞かせてくれよ」


「もちろん!」


 ヴィクトルが笑った。


「まったく。お前の領に来ると、退屈する暇がないな!」


「ははは! そう言ってもらえると嬉しいよ!」


 ◇


 夕方。


 俺たちは政務所へ戻ってきた。


 ヴィクトルは、持参した群晶石の一部を研究用として預けてくれることになった。


 今後、トーレスさんが魔導回路との組み合わせを調べていく予定だ。


 ……楽しみだな。


 群晶石を自由に動かせるようになったら、いったい何ができるんだろう?


「リオン」


 帰り際、ヴィクトルが声をかけてきた。


「何?」


「群晶石の研究、うまくいくといいな!」


「うん! 頑張ってもらうよ!」


「何かわかったら、教えてくれよ」


「もちろん!」


 ヴィクトルが頷いた。


 それから、少しだけ笑った。


「……それと」


「何?」


「さっきのフェリシアの話は、あまり広めるなよ?」


「えっ? どうして?」


「どうしてって……!」


 ヴィクトルが困ったような顔をした。


 ……あはは。


 いつもは商売の話ばかりしているヴィクトルが、こんな顔をするなんて。


「わかったよ!」


「……本当だな?」


「うん! 約束!」


 俺が笑うと、ヴィクトルも笑った。


「……まったく、お前にはかなわないな」


 ◇


 ガイルとナディアがベイルン領へ帰った。


 その入れ違いで、ヴィクトルがやってきた。


 新しい魔石、群晶石。


 そして、蒸気機関車や蒸気クレーン。


 この領では、今日もいろいろな仕事が進んでいる。


 これからも、まだまだ面白いことが起こりそうだな!



最後まで読んでいただきありがとうございます。

基本的に恋愛関係には鈍いリオン。

親友ヴィクトルの異変には気が付きました。

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― 新着の感想 ―
群晶石から魔法まで撃てるってことはファンネルつくるのかな?
とうとうビクトルに春が…(^_^)冒険者ならリオンの領地にも来るかもですね!これは楽しみが増えたな~♪でもビクトルはリオンのせいで仕事ばかりが増えてとてもじゃないけど、フェリシアちゃんを口説く暇ないん…
ヴィクトル...多分だけどフェリシアはアレンとくっつくだろうし、身分という現実的なとこ見ても他国の上級貴族の娘と有望とはいえ一商会長の跡取り息子(実績考えたら叙爵されてもおかしくはないけれど)では難し…
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