第647話 強い体をつくるために
シュウウウウッ!
シュッ、シュッ、シュッ!
ガコン、ガコン……。
最近、政務所で仕事をしていると、朝から蒸気機関の動く音が聞こえてくる。
政務所の裏手にある蒸気機関車の試験場では、大型蒸気機関車の開発が急速に進んでいるんだ。
先日完成した蒸気クレーンのおかげで、これまで運ぶのに苦労していた大型部品も、簡単に移動できるようになった。
さらに、新しく王都からやってきた三人の研究者たちも、それぞれの仕事を始めている。
サーマンさんは、ルッツさんたちと一緒に蒸気機関の改良に取り組んでいる。
特に車輪へ力を伝える仕組みに興味があるらしく、毎日のように試験場へ通っているそうだ。
シサーンさんは、共鳴石の研究を始めた。
魔力の伝わり方を調べるため、条件を変えながら実験を繰り返しているらしい。
そして、研究所長になったトーレスさん。
アノー山の苔を調べるかたわら、エヴィン山で見つかった灰色の石にも夢中になっている。
ただ、あの石については、まだ魔力が通ることしかわかっていないそうだ。
みんな、本当に研究が好きなんだなぁ。
そんな中、今日は少し変わった授業が開かれることになっている。
ガイルとナディアが、昼間学校の子どもたちに特別授業をしてくれることになった。
二人がベイルン領へ帰るまで、あと数日。
せっかくの機会だからと、クルストさんたちがお願いしたらしい。
もちろん、俺とミラも見学する予定だ。
◇
「みんな! 集まったか!」
政務所の裏手にある蒸気機関車の試験場。
その隣に設けられた広場で、ガイルが大きな声を上げた。
「「「はい!」」」
子どもたちが元気よく返事をした。
今日は、昼間学校に通っている少年少女たちが集まっている。
俺とミラは、少し離れた場所から授業を見守ることにした。
「リオン、ガイルが先生になるなんて面白いね!」
「うん! どんな授業になるんだろう?」
俺たちが話していると、ガイルが子どもたちの前に立った。
「今日は、体を鍛える方法を教えるぞ!」
「はい、ガイル様!」
子どもたちが姿勢を正した。
……おお。
ちゃんと挨拶もできているじゃないか。
昼間学校が始まってから、読み書きや計算だけでなく、礼儀作法も教えている。
「その前に、ちょっと聞きたいことがある!」
ガイルが子どもたちを見渡した。
「将来、騎士になりたい奴はいるか!」
「はい!」
「僕もです!」
「私も騎士になりたいです!」
何人もの子どもたちが手を上げた。
「おお! いいじゃないか!」
ガイルが豪快に笑った。
「じゃあ、騎士になりたくない奴は?」
すると、今度は別の子どもたちが手を上げた。
「僕は商人になりたいです!」
「私はお店で働きたいです!」
「僕は研究者になりたいです!」
「そうか! みんな、いろいろな夢があるんだな!」
ガイルが満足そうに頷いた。
「今日は騎士になりたい奴だけの授業じゃないぞ!」
すると、一人の少年が不思議そうに首を傾げた。
「ガイル様。騎士にならなくても、体を鍛えた方がよいのですか?」
「もちろんだ!」
ガイルが即答した。
「いいか! 体を鍛えるのは、騎士だけじゃない!」
子どもたちがガイルを見つめた。
「畑仕事をするにも、荷物を運ぶにも、長い時間研究するにも、丈夫な体が役に立つ!」
「そうなのですね!」
「ああ! それに、毎日元気に過ごすためにも大切なんだ!」
ガイルらしい授業だな。
「ただし!」
ガイルが人差し指を立てた。
「無理をすればいいってものじゃないぞ! 疲れたら休む! よく食べて、よく寝る! これも体を鍛えるために必要なことだ!」
「はい!」
「よし! じゃあ、まずは軽く走ってみよう!」
◇
ガイルが先頭に立ち、子どもたちがその後ろについて走り始めた。
広場の外周を、ゆっくりと一周する。
速く走るのではなく、自分のペースで体を動かすことが目的らしい。
「おいおい! そんなに急ぐな!」
最初から全力で走ろうとした少年に、ガイルが声をかけた。
「最後まで走れる速さでいいんだ!」
「はい、ガイル様!」
その横では、小さな少女が一生懸命に走っていた。
ガイルが歩幅を合わせる。
「無理するなよ! 疲れたら歩いてもいいんだぞ!」
「はい! ありがとうございます!」
……へえ。
ガイル、ちゃんと一人ひとりを見てるんだね。
普段、騎士団を指揮しているだけのことはある。
「ふふっ。ガイルらしいね」
ミラが笑った。
「うん。教えるのも上手だね!」
走り終えると、次は屈伸や軽い跳躍を教え始めた。
「よし! 次は膝を曲げて、その場で跳んでみろ!」
子どもたちが一斉に跳び上がった。
「もっと高く跳べるぞ!」
「はい!」
「だが、着地するときは膝を曲げろ! 足を傷めないようにな!」
ただ体を動かすだけじゃなく、怪我をしない方法も教えているんだな。
しばらくすると、ガイルが小さな布袋をいくつも持ってきた。
「じゃあ、最後はこれだ!」
「ガイル様。それは何ですか?」
「中に少しだけ砂を入れた袋だ!」
ガイルが一つ持ち上げた。
「これを持って、向こうの印まで歩いて戻ってくる!」
「走らなくてもよいのですか?」
「ああ! 今日は速さを競うわけじゃないからな!」
ガイルが笑った。
「大切なのは、姿勢を崩さずに運ぶことだ! 重いと思ったら、無理せず誰かに手伝ってもらえ!」
子どもたちは二人ずつ組になって、袋を運び始めた。
簡単な運動だけど、袋を持つと少し勝手が違うらしい。
「思ったより重いです!」
「はっはっは! そうだろう! でも、いつもより少し体を使ってるって感じるだろ?」
「はい!」
「そうやって少しずつ鍛えていけばいいんだ!」
……いいなぁ。
子どもたちが楽しそうに体を動かしている。
こういう授業も、昼間学校には必要だと思った。
◇
ひと通り運動を終えたころだった。
シュウウウウッ!
シュッ、シュッ、シュッ!
ガコン、ガコン!
試験場の方から、蒸気の噴き出す音と、金属同士が動く音が響いてきた。
「……わあ!」
子どもたちが一斉に振り向いた。
広場の向こうには、真新しい鉄の線路が敷かれている。
大型蒸気機関車の試験走行に備えて整備された、周回用の線路だ。
大きな楕円を描くように、試験場の外周をぐるりと回っている。
屋敷の庭に造った小型蒸気機関車用の線路とは、ずいぶん規模が違う。
線路の設置は、つい先日終わったばかりだ。
子どもたちがいる広場との間には柵があり、試験場の中へは入れないようになっている。
試験場の奥では、ルッツさんやサーマンさんたちが、大型蒸気機関の動作確認をしている。
どうやら、蒸気機関の力を車輪へ伝える試験を繰り返しているらしい。
シュッ、シュッ、シュッ、シュッ!
先ほどよりも、蒸気の排気音が速くなった。
それに合わせて、機械の動く音も大きくなっている。
順調に進んでいるみたいだな。
「ガイル様! あの線路を、蒸気機関車が走るのですか?」
一人の少年が尋ねた。
「ああ! その予定だぞ!」
「もう走れるのですか?」
「いや! わからん!」
ガイルが笑った。
「でも、おまえらの領主さまの話では、車輪を動かす仕組みを試しているところだぞ!」
「へぇ~!」
「いずれ走るところが見られるかもしれないぞ!」
「本当ですか!?」
「ああ! 楽しみにしてろ!」
子どもたちの目が輝いた。
俺も早く見たいな!
ガイルが子どもたちを見渡した。
「それじゃあ、今日の授業はここまでだ!」
「ありがとうございました、ガイル様!」
「おう! みんな、よく頑張ったな!」
ガイルが満足そうに笑った。
「でも、教室に戻ったらちゃんと休めよ! それから、昼飯もしっかり食え!」
「はい!」
すると、一人の少女が手を上げた。
「ガイル様!」
「何だ?」
「どうして、たくさん食べた方がよいのですか?」
「おっ! いい質問だ!」
ガイルが笑った。
「その答えは、次の先生が教えてくれるぞ!」
……おお。
ちゃんとナディアの授業につなげるんだ。
◇
運動を終えた子どもたちは、政務所内の教室へ戻った。
少し休憩を取ってから、今度はナディアの授業が始まる。
教室の前には、大きな机が用意されていた。
そこには、パン、肉、野菜、豆、そして米が並べられている。
「皆さん、こんにちは」
ナディアが優しく微笑んだ。
「「「こんにちは、ナディア様!」」」
「今日は、食事についてお話ししたいと思います」
「はい!」
俺とミラは、教室の後ろに置かれた椅子に座っていた。
ガイルも、俺たちの隣に座っている。
……さて。
ナディアは、どんな授業をするんだろう?
「皆さん。今日の朝ご飯には、何を食べましたか?」
ナディアが尋ねた。
「パンです!」
「私もパンを食べました!」
「僕はパンとスープです!」
「そうなんですね」
ナディアが頷いた。
「パンは、とても大切な食べ物です。毎日働いたり、体を動かしたりする力になります」
子どもたちが熱心に聞いている。
「でも、パンだけを食べ続けていれば、それで十分というわけではないんですよ」
「……そうなのですか?」
一人の少年が驚いた。
「はい。体を丈夫に育てるには、いろいろなものを食べることが大切なんです」
ナディアが机の上の肉を指さした。
「例えば、お肉です。お肉は、丈夫な体をつくるために役立ちます」
「では、お肉をたくさん食べれば強くなれるのですか?」
「お肉も大切ですが、それだけではいけません」
ナディアは微笑んだ。
「野菜や豆も食べてくださいね。魚や卵が手に入るなら、それらもよい食べ物です」
「……どうしてですか?」
「食べ物には、それぞれ違ったよいところがあるからです。一つのものばかり食べるより、いろいろなものを組み合わせた方が、元気に暮らすために役立つんですよ」
「なるほど!」
……うん。
わかりやすい説明だな。
前世では、食べ物に含まれる栄養について詳しく調べられていた。
でも、この世界では、そこまで細かくわかっているわけじゃない。
それでも、昔からの経験や研究によって、何を食べれば体が丈夫になるのか、少しずつわかってきているらしい。
「それから、皆さんに面白いお話があります」
ナディアが言った。
「アルスレイン王国のベイルン領には、体の大きな人が比較的多いんです」
「そうなのですか?」
「はい。実は、その理由について、王立研究所が調べたことがあるんです」
へぇ~、そんな研究もしてるんだ。
「研究所の方々は、いろいろな領地の食事や暮らし方を比べたそうです」
「それで、何がわかったのですか?」
「ベイルンでは、お肉をよく食べる家庭が多いのですが、それだけではありません。パンや豆、野菜も食べているんです」
ナディアが説明を続けた。
「食べる量が十分で、いろいろな食べ物を組み合わせていることが、丈夫な体づくりに関係しているのではないかと考えられているんですよ」
「……なるほど!」
「もちろん、体の大きさには生まれつきの違いもありますし、毎日の運動や休養も関係します。食事だけですべてが決まるわけではありません」
……うん。
そういうところまで説明するんだね。
すると、一人の少年が手を上げた。
「ナディア様!」
「はい。何でしょう?」
「ガイル様があんなに大きいのも、お肉をたくさん食べているからですか?」
「ふふっ」
ナディアが笑った。
「それも理由の一つかもしれませんね」
教室の後ろにいたガイルが、大きく頷いた。
「おう! 俺は昔からよく食べて、よく体を動かしてるぞ!」
「ガイルさん。野菜もちゃんと食べてくださいね」
「食べてるぞ!」
ガイルが即答した。
ナディアが微笑む。
子どもたちから笑い声が上がった。
俺とミラも顔を見合わせて笑った。
本当に仲がいいなぁ。
◇
「では、次はこちらを見てください」
ナディアが、机の上に置かれた小さな器を持ち上げた。
中には、白い粒がたくさん入っている。
「皆さん。これは何かわかりますか?」
「米です!」
「はい。よくわかりましたね」
ナディアとミラが何回も試食会をしてくれたおかげで米の認知が少しずつ進んでいる。
「はい。私の故郷であるセルヴァン王国では、地域によってお米を食べる習慣があるんですよ」
ナディアが微笑んだ。
「パンに使う麦とは違いますが、お米も毎日の食事を支える大切な穀物です」
「……へえ!」
子どもたちが興味深そうに米を見つめた。
「ナディア様! お米は、どうやって食べるのですか?」
「お水で炊いて食べることができますし、お料理にも使いますよ」
「パンにはしないのですか?」
「粉にして使うこともあります。でも、今日は炊いたお米を食べてもらおうと思っています」
「……本当ですか!?」
「はい!」
ナディアが嬉しそうに頷いた。
「実は、皆さんのために、セルヴァン王国のお料理を用意してもらったんです」
「……おお!」
子どもたちの目が輝いた。
「それに、今はこの領でも、お米を育てているんですよ」
「そうなのですか!?」
「はい。レイ湿原という場所で、アーロンさんたちと一緒に育てています」
ナディアが説明した。
「まだ皆さんにお届けできるほどではありませんが、将来、この領地でもたくさん収穫できるようになればいいですね」
「楽しみです!」
「私もです!」
子どもたちも楽しみにしてくれてるのか。
稲作を始めた意味が、こういうところでも感じられるな。
◇
やがて、昼食の時間になった。
教室の隣の部屋には、今日のために用意された料理が並べられていた。
「……わあ!」
子どもたちが歓声を上げた。
テーブルの上には、肉と野菜を平たいパンで包んだ料理が並んでいる。
香辛料で味付けした薄切りの肉に、細かく刻んだ野菜。
それを、やわらかい平たいパンで包んだものだ。
セルヴァン王国の町では、よく食べられている料理らしい。
ほかにも、豆と野菜の入った温かいスープ。
そして、小さく握ったおにぎりが用意されていた。
今回のお米は、ナディアがセルヴァン王国から持ってきてくれたものだ。
「皆さん。今日は特別な給食です」
ナディアが微笑んだ。
「お肉も、お野菜も、穀物も食べられるように用意してもらいました。お米は少しずつですが、ぜひ味わってみてくださいね」
「ありがとうございます、ナディア様!」
子どもたちが嬉しそうに頭を下げた。
料理が一人ずつ配られていく。
もちろん、俺たちも一緒にいただくことにした。
「……おお!」
俺はパンに包まれた肉を一口食べた。
香辛料の香りが広がる。
肉のうま味と、野菜のさっぱりした味がよく合っている。
おいしい!
「ミラ、これおいしいね!」
「うん! お肉も野菜も一緒に食べられるんだね!」
ミラが嬉しそうに頷いた。
子どもたちも夢中になって食べている。
「ナディア様! このお料理、とてもおいしいです!」
「ありがとうございます。そう言っていただけて嬉しいです」
「このパン、いつものパンと違いますね!」
「そうですね。薄く焼いて、お料理を包めるようになっているんですよ」
……なるほど。
こういう食べ方も面白いな。
それから、俺は小さなおにぎりを手に取った。
一口食べる。
……うん。
米を食べると、やっぱり嬉しくなるな。
「リオン、お米、好きだよね」
ミラが微笑んだ。
「うん! 早くこの領でもたくさん収穫できるようになるといいな!」
「私も楽しみ!」
そのとき、子どもの一人がナディアに尋ねた。
「ナディア様。お米は、パンの代わりに食べてもよいのですか?」
「もちろんですよ。どちらも毎日の食事に役立つ穀物ですから」
「では、お米だけでもよいのですか?」
「ふふっ。それでは、さっきのお話を思い出してください」
ナディアが優しく微笑んだ。
「お米を食べる日も、お肉やお野菜などを組み合わせるとよいですね」
「はい!」
ちゃんと授業の内容が伝わってるみたいだ!
◇
昼食を終えるころには、子どもたちはすっかり満足した様子だった。
「ガイル様! 今日はありがとうございました!」
「ナディア様も、ありがとうございました!」
「おう! みんな、これからも体を動かせよ!」
「はい!」
「食事も、いろいろなものを食べてくださいね」
「はい、ナディア様!」
子どもたちが元気よく返事をした。
その中の一人が、少し遠慮がちに手を上げた。
「ガイル様、ナディア様。また授業をしていただけますか?」
ガイルとナディアが顔を見合わせた。
「そうだな!」
ガイルが笑った。
「また、この領に来たときには教えてやるぞ!」
「本当ですか!?」
「ああ! 約束だ!」
ナディアも微笑んだ。
「私も、また皆さんにお会いできるのを楽しみにしています」
「ありがとうございます!」
子どもたちが嬉しそうに頭を下げた。
ガイルとナディアが、この領の子どもたちにいろいろなことを教えてくれた。
それは、きっとこれからも役に立つはずだ。
◇
子どもたちが教室を出ていったあと、俺たちはガイルとナディアにお礼を伝えた。
「二人とも、今日は本当にありがとう!」
「おう! 俺も楽しかったぞ!」
ガイルが笑った。
「子どもたち、みんな元気だったな!」
「そうだね!」
「将来、いい騎士になる奴もいそうじゃないか!」
「ははは。そうかもしれないね!」
ナディアも嬉しそうに微笑んだ。
「私も、皆さんが一生懸命に話を聞いてくださって嬉しかったです」
「ナディアの授業、わかりやすかったよ!」
「ありがとうございます、リオンさん」
「それにしても、リオン」
ガイルが俺を見た。
「お前の領の学校、小さいけど良い感じだな!」
「うん。まだ始まったばかりだけどね」
「子どもの頃から、いろいろなことを学べるのはいいことだ!」
「そうだね!」
ガイルが大きく頷いた。
「今日の子どもたちが大きくなったら、この領でもいろいろな仕事ができるようになるんだろうな!」
「うん! 俺もそう思う!」
騎士。
職人。
商人。
研究者。
そして、これから生まれる新しい仕事。
子どもたちには、いろいろな道を選べるようになってほしい。
そのためにも、学校を続けていきたい。
「それじゃあ、リオン」
ガイルが笑った。
「俺たちは、予定どおりあと二日ほどで帰るぞ!」
「うん」
「それまで、もう少し騎士団の訓練を手伝わせてもらうからな!」
「ありがとう、ガイル!」
ナディアも頷いた。
「私はミラさんと回復魔法の練習をしたいと思います」
「うん! よろしくね!」
二人とも、本当に最後まで働いてくれるんだな。
ありがたい話だ。
◇
その日の夕方。
俺は政務所の執務室へ戻っていた。
シュウウウウッ!
シュッ、シュッ、シュッ!
ガコン、ガコン……。
窓の外から、また蒸気機関の音が聞こえてきた。
朝から何度も繰り返されている動作確認が、まだ続いているらしい。
最近は、こうした音を聞かない日の方が珍しくなってきた。
いよいよ、本当に蒸気機関車が走る日が近づいているんだな!
そんなことを考えていると、扉がノックされた。
「リオン様。失礼いたします」
ローレンさんだった。
「あっ、ローレンさん! どうしたの?」
「ヴィクトル殿から、共鳴石通信が入っております」
「……ヴィクトルから?」
「はい。リオン様と直接お話ししたいそうです」
……何だろう?
最近はセルヴァン王国で仕事をしていたはずだけど。
「わかった! すぐに出るよ!」
俺は通信機のある部屋へ向かった。
◇
「ヴィクトル! 久しぶり!」
『おう、リオン! 元気そうだな!』
「うん! ヴィクトルも元気そうだね!」
『ああ! セルヴァンでの仕事も、なかなか面白かったぞ!』
「そうなんだ!」
『今はサリオスの商館に戻ってるんだが、ちょっとお前に話しておきたいことがあってな』
「……何?」
ヴィクトルが、楽しそうに笑ったような声を出した。
『実はな、面白い石を手に入れたんだ』
「……石?」
『ああ。セルヴァン王国で、ある冒険者から買い取ったものなんだ』
「へえ! どんな石なの?」
『それが、魔力を流すと浮かせて動かせるらしいんだよ』
「……えっ!?」
浮かせて動かせる!?
「石が空中に浮くの!?」
『ああ! 俺も実際に見せてもらった。しかも、一個だけじゃないぞ! 何個もの石が、別々に動いていたんだ!』
「……何個も!?」
……すごい!
そんな石があるんだ!
「それって、誰でもできるの?」
『いや。俺も試したんだが、光るだけだった。どうやら、扱うには魔力の使い方に工夫が必要らしい』
「そうなんだ!」
『それでな、リオン』
「何?」
『俺は、お前にもこの石を見てもらいたいんだ』
「俺に?」
『ああ。お前なら、また面白い使い道を思いつくんじゃないかと思ってな!』
「期待しすぎだよ!」
『そうか? 俺はそうは思わないけどな!』
ヴィクトルが笑った。
「ところで、その石には名前があるの?」
『ああ。群晶石というらしい』
「……群晶石?」
『そうだ。セルヴァン南部のミナリア西ダンジョンで採れた石だそうだ』
「……へえ!」
ダンジョンから、そんなものが採れるんだな。
『お前に見せるつもりだから、楽しみにしてろよ!』
「本当!? ありがとう、ヴィクトル!」
『おう! じゃあ、また連絡する!』
「うん! またね!」
通信が終わった。
……群晶石か。
魔力を使って、空中に浮かせて動かせる石。
しかも、何個も同時に操作できるらしい。
いったい、どういう仕組みなんだろう?
……うーん。
実物を見るのが楽しみだな!
最後まで読んでいただきありがとうございます。
ガイルは騎士団副団長なので人に教えるのは得意です。ナディアは長くガイルに勉強を教えているので相手に合わせて教える内容を変えられる器用さがあります。




