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45歳社長、転生先でハズレスキル「綻びの目」を武器に没落領地を再建する  作者: アカメノコバチ
第21章 リオン・ハル男爵

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第646話 新しい水道と研究者たち

 蒸気クレーンの試験に成功してから、数日が経った。


 今日は、ガイルとナディアと一緒に、上水道の工事現場へ来ている。


 なんでも、工事が予想以上の速さで進んでいるらしい。


「リオン! 驚くなよ!」


 ガイルが嬉しそうに笑った。


「もう、かなりの距離まで工事が進んでるんだ!」


「本当!?」


「ああ! お前にも早く見せたかったんだ!」


 それは楽しみだな。


 上水道は、ビダン山の北、アナハイムの南を流れる川から、領都まで水を運ぶ大事業だ。


 その距離は、およそ四十三キロメートル。


 自然の高低差を利用して水を流し、領都の近くに造る配水池まで届ける予定になっている。


 工事が始まってから、まだそれほど長い時間は経っていない。


 いったい、どこまで進んだんだろう?


 ◇


 現場へ到着すると、大勢の人たちが作業をしていた。


 地面を掘る人。


 土砂を荷馬車に積み込む人。


 水路の底をならし、石材を並べる職人たち。


 その少し離れた場所では、騎士たちが大きな石を運んでいた。


「リオン様!」


 アストンが俺に気づき、駆け寄ってきた。


「アストン! お疲れさま!」


「ありがとうございます! 工事も訓練も順調に進んでおります!」


「ガイルから聞いたよ。かなり進んだんだって?」


「はい! 現在、水路の掘削や整備が進んでいる区間を合計すると、およそ十二キロメートルになります!」


「……十二キロメートル!?」


 俺は思わず声を上げた。


 全長四十三キロメートルのうち、もう十二キロメートル!?


「もちろん、すべて完成しているわけではありません。場所によっては、まだ掘削だけの区間もございます」


「それでも凄い進んでるね」


「そのうち約五キロメートルは水路として仕上がっております!」


「……五キロも!?」


 ……すごいな。


 まだ工事が始まってから一か月ほどなのに、ここまで進んでいるのか。


「ガイル、これは予想以上だよ!」


「はっはっは! そうだろう!」


 ガイルが胸を張った。


「職人たちが指示を出して、俺たちが人手の必要な仕事を引き受けているんだ!」


「そうだったんだ!」


「しかも、工事現場をいくつかに分けている。一か所ずつ造っていたら、こうはいかないからな!」


 ……なるほど。


 複数の場所で同時に工事を進めているのか。


 アストンも頷いた。


「騎士団は主に掘削や土砂運搬を手伝っています。測量や水路の勾配を決める作業は、専門の職人たちに任せております」


「うん。それがいいと思う!」


 水路は、ただ地面を掘ればいいわけじゃない。


 水が自然に流れるように、高さを正確に調整する必要がある。


 そこを間違えたら、せっかく造った水路も使えなくなってしまうからね。


 ◇


「おや、坊やじゃないか」


 少し離れたところから声がした。


 振り返ると、イレーナが歩いてきた。


「あっ、イレーナさん! 久しぶり!」


「ガイルから、今日は見に来るって聞いてたよ」


「うん! ガルセゾン団からも毎日人を出してくれてて有難いよ」


「ああ。手の空いているやつや、体力が必要な奴にはちょうどいい仕事さ」


 イレーナが工事現場を見渡した。


「鉱山の警備もあるから、全員をこっちに回すわけにはいかないけどね」


「十分助かってるよ! 本当にありがとう!」


「これも仕事だからね。それに、こういう大きな工事に関われるのは悪くない」


 イレーナが笑った。


 そのときだった。


 バサッ!


 頭上から、大きな羽音が響いてきた。


「あっ!」


 見上げると、ポロリが大きな翼を広げて飛んでいた。


 その足には、網に包まれた石材が吊り下げられている。


「……おお!」


 ポロリはゆっくりと高度を下げると、職人たちが用意した場所へ石材を降ろした。


「すごいなぁ!」


 俺が感心していると、ナディアが微笑んだ。


「ポロリも頑張ってくれているんですよ」


「うん! 本当に助かるよ!」


「ただ、重すぎるものは無理をさせず、運べる範囲の石材だけお願いしています」


「もちろん! ポロリにもお礼をしないとね!」


 ナディアが嬉しそうに頷いた。


 ……それにしても。


 騎士団に、ガルセゾン団。


 職人たち。


 そして、ポロリ。


 これだけの人たちが協力してくれているんだ。


 工事が速く進むのも納得だな。


「ところで、リオン」


 ガイルが前方を指さした。


「あっちを見てみろ!」


「何?」


 俺たちは、水路に沿って少し歩いた。


 すると。


 サラサラサラ……。


「……おお!」


 水が流れている!


 石材で補強された水路の中を、透明な水が勢いよく流れていた。


 しかも、かなり先まで続いている。


「ガイル! もう水を流してるんだね!」


「ああ! 取水地点から続く区間では、実際に水を流しているんだ!」


「すごい!」


 以前、短い試験水路に水を流したことはあった。


 でも、今目の前にあるのは、ずっと長い水路だ。


 水が、遠くまで続く水路の中を流れている。


「今のところ、大きな問題は見つかっておりません」


 アストンが説明してくれた。


「ただ、一部で水がしみ出す場所がありましたので、硬化石を使って補強しております」


「そうなんだね」


 俺は、水路の底や側面を見た。


 確かに、ところどころ石材で補強されている。


「それと、これから先には水道橋が必要な場所もあります」


「そうだったね」


 ガイルが頷いた。


「橋を造るとなると、今まで以上に大きな石材が必要になりそうだな」


「うん。でも、ちょうどいいものができたでしょ?」


「……蒸気クレーンか!」


「そう!」


 俺が頷くと、ガイルが笑った。


「はっはっは! あれが移動できるようになったら、こっちでも大活躍だな!」


「うん! ルッツさんたちも移動式の開発を始めてるんだ!」


「楽しみだな!」


 ……本当に。


 新しい機械が、別の仕事を進める力になる。


 この調子なら、上水道の建設もさらに速くなるかもしれないな。


 ◇


 工事現場を一通り見て回ったあと、ガイルが俺に声をかけてきた。


「ところで、リオン。ちょっと話があるんだ」


「何?」


「俺たち、あと五日ほどでベイルン領へ戻ろうと思ってる」


「ああ。そろそろだね」


 俺は頷いた。


 そろそろだろうと思っていた。


 ガイルはベイルン辺境公家の嫡男だ。


 領地の仕事もある。


 それに、ナディアと婚約してからそんなに時間も経っていない。


 いつまでも俺の領にいてもらうわけにはいかない。


「ここまで手伝ってくれて、本当にありがとう!」


「何言ってるんだ! 俺もいい経験になったぞ!」


 ガイルが笑った。


「うちの騎士たちも、今までとは違う訓練ができたからな!」


「そう言ってもらえると嬉しいよ!」


「それに、そろそろ向こうの仕事も確認しておかないといけないしな!」


「うん。そうだよね」


 すると、ナディアが微笑んだ。


「稲作の方も、アーロンさんたちに任せられるようになりましたから」


「そうなんだね!」


「はい。水の管理についても、必要なことはお伝えしてあります」


「ありがとう、ナディア!」


「いえ。私もこちらで勉強させていただきました」


 ナディアが微笑んだ。


 ……本当にありがたいな。


 二人には、騎士団の訓練から上水道、稲作まで、ずいぶん助けてもらった。


「帰る前に、みんなで食事でもしようよ!」


「おっ! いいな!」


 ガイルが嬉しそうに笑った。


「ミラにも話しておくね!」


「楽しみにしてるぞ!」


 帰ってしまうのは少し寂しいけど、また会える。


 ◇


 翌日。


 政務所で仕事をしていると、ヴァイスさんが訪ねてきた。


「ハル。少しいいか?」


「あっ、ヴァイスさん! もちろんです。どうしたんですか?」


「実は、領都内の水道管について、見せたいものがあるんだ」


「水道管ですか?」


「ああ。以前、木製の管を使う予定だと聞いていたが、別の材料で試作品を造ってみたんだよ」


「……別の材料?」


「実物を見てもらった方が早いな」


「ぜひお願いします!」


 俺はヴァイスさんと一緒に研究室へ向かった。


 ◇


 研究室の机には、いくつもの筒が並べられていた。


 木製のもの。


 石のような灰色のもの。


 そして、内側が薄い緑色になっているものもある。


「……これは?」


「硬化石を使って造った水道管だ」


「硬化石ですか!?」


「ああ。ただ、硬化石をそのまま削って管にしたわけではないぞ」


 ヴァイスさんが灰色の筒を持ち上げた。


「硬化石を細かく砕き、砂や石灰、焼いた粘土の粉などと混ぜて固めたんだ」


「……おお!」


 それって、前世のコンクリートに近いものじゃないか?


「最初は、材料を混ぜても十分な強さが出るのか疑問だったんだが、配合を変えながら試してみたところ、なかなか丈夫なものができた」


「すごいですね!」


「それに、型を使えば同じ形の管を何本も造れる。木をくり抜いて管を造るより、量産しやすい」


「……なるほど!」


 確かに、それは大きな利点だ。


 領都中に水道管を通すなら、大量の管が必要になる。


 一つずつ木をくり抜いて造っていたら、かなりの手間がかかるだろう。


 でも、型を使って同じ形の管を造れるなら、製造工程を統一できる。


「ただ、型から出してすぐに使えるわけではない。固まって十分な強さが出るまで、時間を置く必要はあるがな」


「でも、何本も並行して造れるなら、かなり効率がよさそうですね!」


「私もそう考えている」


 ヴァイスさんが嬉しそうに頷いた。


「それで、ハル。面白いのはここからなんだ」


 そう言って、内側が緑色になっている筒を指さした。


「……あれ?」


 俺は顔を近づけた。


「この緑色って、もしかして……」


「ああ。アノー山の苔だよ」


「やっぱり!」


 ここでもアノー山の苔が使えるのか。


 ◇


「以前、乾燥させた苔にも、鉱物成分を吸着する性質が残っていると話しただろう?」


「はい。覚えています!」


「それを、今回の水道管に利用できないか考えたんだ」


 ヴァイスさんが、管の内側を見せてくれた。


「管本体は硬化石を使った材料で造り、内側には加工した苔を混ぜた薄い層を設けている」


「……苔を混ぜた層?」


「ああ。苔を石灰の材料へそのまま混ぜ込むと、吸着する性質が弱くなってしまった」


「そうだったんですね」


「そこで、別に造った内張りに、乾燥させた苔を混ぜた材料を固定してみたんだ」


 ……なるほど。


 外側は水道管としての強さを持たせる。


 内側では、苔の性質を利用するわけか。


「しかも、内側の部分は取り外せるようにしてある」


「……取り外せるんですか?」


「ああ。苔が吸着できる量には限界があるからな。交換できない構造では困るだろう?」


「……すごいですね!」


 これは、前世でいう交換式のフィルターみたいなものだ。


 もちろん、領都中の水道管すべてに内張りを取り付ける必要はないだろう。


 点検できる場所に苔を使った浄化部分を設け、そこから先は普通の水道管で水を運ぶ方法もある。


「それで、ヴァイスさん。実験結果はどうだったんですか?」


 俺が尋ねると、ヴァイスさんが笑った。


「なかなか良好だったぞ」


「……本当ですか!?」


「ああ。まず、水漏れの試験だ」


 ヴァイスさんが別の台を指さした。


 そこには、数本の水道管をつないだ装置が置かれていた。


 片方には水をためた容器があり、管の中へ水が流れるようになっている。


「木製の管と、新しく造った管を同じ条件で比較したんだ」


「それで?」


「新しい管では、一定の水圧をかけても、管本体から目立った漏水は起きなかった。継ぎ目も、形を工夫したことで水漏れをかなり抑えられたよ」


「……おお!」


「木製の管でも丁寧に造れば使えるが、接合部の精度や、長く使ったときの傷みが気になるからな」


「そうですね!」


 木材は、水や地中の環境によって腐朽することがある。


 一方、硬化石を使った管なら、少なくとも木材のような腐り方はしないはずだ。


「それから、もう一つ」


 ヴァイスさんが、机に並べられた三つの容器を指さした。


「同じ量の鉱物成分を含む水を、それぞれ違う管に通してみたんだ」


「……もしかして?」


「ああ。苔を使った管では、特定の鉱物成分が減ることを確認できた」


「本当ですか!?」


 ヴァイスさんが試薬を加えると、容器の水の色が変わった。


 苔を使わなかった水は、比較的濃い色になっている。


 でも、苔を使った方は、明らかに色が薄かった。


「……おお!」


「以前の実験と同じ傾向だ。加工しても、ある程度の吸着能力が残っているらしい」


「すごいです、ヴァイスさん!」


 俺は思わず声を上げた。


 水道管としての強さ。


 水漏れの防止。


 木材のような腐朽を避けられること。


 そして、一部の鉱物成分を取り除く仕組みまで備えられる。


 こんなものができるなんて!


「ただし、病気の原因になるようなものまで取り除けるとわかったわけではないぞ」


「もちろんです。飲み水としての衛生管理は別に必要ですよね」


「ああ。だから浄水施設の計画は、そのまま進めるつもりだ」


「はい!」


 ヴァイスさんが、試作品を机に戻した。


「それで、ハル。どう思う?」


「ぜひ使いたいです!」


 俺はすぐに答えた。


「領都内の配水管は、木製のものからこちらに変更していきましょう!」


「……いいのかね?」


「もちろんです! 最初は配水池から延びる太い管を中心に採用して、枝分かれする細い管は用途に合わせて考えたいです」


「なるほど。それなら管の太さも統一しやすいな」


「はい。それに、苔を使った部分は点検できる場所へまとめておけば、交換もしやすいと思うんです」


「それはいい考えだ」


 ヴァイスさんが頷いた。


「では、職人たちに頼んで、量産用の型を造ってもらおう」


「お願いします!」


 ……やった!


 これで、領都の水道計画も大きく前進したぞ!


 ◇


「ところで、ハル」


「はい?」


「今日は、もう一つ報告があるんだ」


「何ですか?」


「王立研究所の三人の件だが、話がまとまったぞ」


「……えっ!?」


 俺は顔を上げた。


「本当ですか!?」


「ああ。三人とも、こちらへ来ることになった」


「やった!」


 俺は思わず笑顔になった。


 以前から、ヴァイスさんに相談していた研究者たちだ。


 研究者を増やせれば、これまで手が回らなかった仕事も進められるようになる。


「それで、いつ頃来るんですか?」


「実は、明日だ」


「……明日!?」


「ああ。王立研究所での引き継ぎも終わっている。家族と一緒に移ってくる予定だ」


「家族もですか!?」


「そうだ。皆、この領で腰を据えて研究するつもりらしい」


 それは嬉しいな。


「住む場所は大丈夫なんでしょうか?」


「ローレンと相談して、すでに準備してある。研究室も、当面はここを使う予定だ」


「そうだったんですね! ありがとうございます!」


「ただし、一人だけ変更がある」


「……変更ですか?」


「ああ。以前話した植物研究の専門家は、王都での研究を離れられなくなってしまったんだ」


「そうだったんですね」


「代わりに、共鳴石の研究者が来ることになった」


「……共鳴石ですか?」


「ああ。名前はシサーンという。なかなか面白い男だぞ」


 共鳴石を専門に研究している人か。


 通信機に使っている石だし、まだまだ研究できることはたくさんありそうだ。


「それから、魔石を研究しているトーレスという男は、アノー山の苔にも興味を持っている」


「苔にもですか?」


「ああ。どうやら、苔の中を魔力がどう流れるのか調べてみたいらしい」


「……なるほど!」


 苔の吸着能力だけでなく、魔力との関係にも興味があるのか。


 それは面白そうだ。


「もう一人のサーマンは、蒸気機関の研究に夢中になっている男だ」


「それなら、ルッツさんたちとも話が合いそうですね!」


「はははっ! 間違いないだろうな!」


 ……楽しみだなぁ。


 どんな人たちなんだろう?


 ◇


 翌日。


 王都から、三人の研究者が到着した。


 今回は家族も一緒に移住してくるため、馬車が何台も並んでいる。


 俺とミラ、ヴァイスさん、ローレンさんで迎えることになった。


「ハル。来たようだぞ」


「あっ、本当ですね!」


 先頭の馬車が止まり、一人の男性が降りてきた。


 三十歳くらいだろうか。


 少し痩せた体格で、目が生き生きとしている。


「トーレスです! お会いできて光栄です、リオン様!」


「あっ、よろしくお願いします!」


 俺が挨拶すると、トーレスさんは早速身を乗り出してきた。


「ヴァイス先生からお聞きしました! こちらには、魔力に特殊な反応を示す苔があるそうですね!?」


「えっ? あ、はい!」


「ぜひ調べてみたいんです! 植物の中を魔力がどう通っているのか、以前から興味がありまして!」


 ……おお。


 いきなり研究の話だ!


「それに、この領では新しい魔石も見つかっているとか!」


「そうですね。いろいろな石が採れますよ」


「……素晴らしい!」


 トーレスさんの目が輝いた。


 その後ろでは、家族の人たちが少し困ったように笑っている。


 研究の話になると、止まらなくなる人なのかな?


「トーレス。挨拶はそのくらいにしておけ」


 ヴァイスさんが苦笑した。


「あっ! すみません、先生!」


 続いて、別の男性が降りてきた。


「サーマンと申します!」


「よろしくお願いします、サーマンさん!」


「こちらの蒸気機関の開発に興味があります!」


「そうなんですね!ちょうど先日、蒸気クレーンが完成したところなんです」


「……蒸気クレーン!?」


 サーマンさんが目を見開いた。


「ええ。蒸気の力で重いものを持ち上げる機械です」


「……ぜひ見せてください!」


 ……早い!


 もう工房へ行きたそうだ!


「はははっ! サーマン、少し落ち着け!」


 ヴァイスさんが笑った。


「申し訳ありません! ですが、蒸気機関の実物を見られると思うと、どうしても……!」


 ……あはは。


 この人も研究が大好きなんだな。


 そして、最後の一人が降りてきた。


「シサーンと申します。よろしくお願いいたします」


「よろしくお願いします!」


 シサーンさんは、落ち着いた雰囲気の男性だった。


 ……この人は、ほかの二人より穏やかな感じだな。


「シサーンさんは、共鳴石の研究をされているんですよね?」


「はい!」


 その瞬間、シサーンさんの表情が変わった。


「共鳴石は実に興味深い石なんです! なぜ離れた場所にある石同士が反応するのか! 魔力がどのように伝わっているのか! 考え始めると夜も眠れません!」


「……お、おお!」


「ぜひ共鳴石を研究してみたいんです!」


 ……なるほど。


 この人も同じか!


 三人とも、研究の話になると止まらなくなるタイプなんだな。


 俺は思わず笑ってしまった。


 ◇


 そのあと、三人の家族にも挨拶した。


 小さな子供のいる家族もいて、皆、少し緊張している様子だった。


「遠いところから来てくれて、ありがとうございます!」


 俺が声をかけると、トーレスさんの家族が頭を下げた。


「こちらこそ、ありがとうございます。主人が研究に夢中になるあまり、ご迷惑をおかけしないか心配で……」


「あはは! 大丈夫ですよ!」


 俺は笑った。


「研究も大切ですが、家族との時間もちゃんと取ってくださいね」


「……はい!」


 トーレスさんが元気よく答えた。


 ……本当に大丈夫かな?


 その隣で、ミラが子供たちに声をかけていた。


「この町には学校もあるんだよ。よかったら、今度案内するね!」


「……学校?」


「うん! お友達もたくさんできると思うよ!」


 子供たちが少し嬉しそうな顔になった。


 ……よかった。


 研究者だけじゃなく、家族の人たちにも、この領で楽しく暮らしてもらいたいな。


 ◇


 家族の案内をローレンさんたちにお願いしたあと、三人の研究者と研究室へ向かった。


「……素晴らしい!」


 トーレスさんが声を上げた。


「こんなに実験用の器具があるんですか!?」


「まだ十分ではありませんけどね」


 俺が答えると、サーマンさんも頷いた。


「いえ! それに、工房がすぐ近くにあるのはありがたいです!」


「そうですね。何か造って試したいときには、職人たちとも相談できますから」


「……それは最高です!」


 本当に嬉しそうだな。


 すると、ヴァイスさんが口を開いた。


「さて、ハル。研究所の運営について、一つ提案があるんだ」


「何ですか?」


「三人のまとめ役は、トーレスに任せたいと思っている」


「……トーレスさんに?」


「ああ。王立研究所でも、ほかの研究者たちの仕事をまとめた経験があるんだ」


「そうなんですね!」


 ヴァイスさんが頷いた。


「私はこれまでどおり研究を続けたい。研究所全体の日々の管理は、トーレスに任せた方がよいと思う」


「なるほど。それなら、トーレスさんに所長をお願いしましょう!」


「……えっ!?」


 トーレスさんが驚いた。


「私が、所長ですか!?」


「はい! ヴァイスさんから推薦もありますし、ぜひお願いしたいです!」


「……ありがとうございます!」


 トーレスさんが深く頭を下げた。


「研究者としても、所長としても、精いっぱい頑張ります!」


「よろしくお願いします!」


 俺は笑顔で頷いた。


 ヴァイスさんには、好きな研究をしてもらいつつ、研究全体の助言をお願いする。


 そして、トーレスさんには研究所の運営を任せる。


 サーマンさんとシサーンさんも、それぞれの専門分野で研究を進めてもらう。


「研究資料の管理については、以前相談したとおりにお願いします」


 俺が言うと、ヴァイスさんが頷いた。


「ああ。機密性の高い研究については、担当者を限定する方針だ」


「はい。よろしくお願いします!」


 共鳴石通信機のような重要な技術もあるからね。


 研究が進むことは嬉しいけど、情報の管理も大切だ。


「それでは、まず研究室を案内しましょう」


 ヴァイスさんが三人を連れて歩き始めた。


 これで、この領の研究もますます進みそうだ。


 ◇


 その日の夕方。


 政務所へ戻ろうとすると、ローレンさんがやってきた。


「リオン様。エヴィン山の調査員が戻ってまいりました」


「エヴィン山から?」


「はい。少し変わった石を発見したそうです」


「……変わった石?」


「詳しいことはわかりませんが、魔力を通す性質があるとのことです」


「……へえ!」


 それは気になるな!


「現物はあるの?」


「はい。持ち帰っております」


「じゃあ、見せてもらおう!」


 俺は研究室へ戻ることにした。


 ちょうど、トーレスさんたちもいる。


 魔石の研究が好きだと言っていたから、興味を持ってくれるかもしれない。


 研究室では、エヴィン山から戻ってきた調査員が、小さな木箱を開けていた。


 その中には、灰色の石がいくつか入っていた。


「……これ?」


「はい、リオン様」


 調査員が頷いた。


「山の岩場で見つけたものです。普通の石とは少し違うようでしたので、持ち帰りました」


「そうなんだね」


 俺は石を一つ手に取った。


 見た目は、少し変わった灰色の石だ。


 特別に光っているわけでもない。


 熱を持っている様子もない。


 ……うーん。


 何だろう?


「リオン様!」


 そのとき、トーレスさんが近づいてきた。


「少し調べてみてもよろしいでしょうか!?」


「あっ、もちろん!」


 トーレスさんは嬉しそうに石を受け取った。


「……ふむ」


 しばらく眺めてから、手のひらに魔力を集める。


 そして、石へ少しずつ魔力を流した。


 ……。


 ……。


「……あれ?」


 俺は首を傾げた。


 何も起きない。


 石が光るわけでもない。


 動くわけでもない。


「トーレスさん。どうですか?」


「……魔力は通っていますね」


「通ってるんですか?」


「はい。ただ、それだけです」


「……それだけ?」


「今のところは、ですが」


 トーレスさんが石を見つめる。


「魔力を流しても、特別な反応は起きません。魔力をため込んでいる様子もありませんし……」


「……そうなんですね」


 ヴァイスさんも石を手に取った。


「ふむ。魔力が通る石なら、ほかにもあるが……」


「はい。ただ、これまで研究してきたものとは少し違う気がします」


 トーレスさんが答えた。


「違うんですか?」


「それが、まだうまく説明できないんです」


 ……なるほど。


 よくわからない石、か。


「でも、せっかく見つかったんだから、調べてみようよ!」


 俺が言うと、トーレスさんの目が輝いた。


「もちろんです!」


「この石、トーレスさんに研究してもらってもいい?」


「……よろしいんですか!?」


「うん。魔石の研究が好きなんでしょ?」


「大好きです!」


 本当に嬉しそうだな。


「それなら、お願いします!」


「はい! 必ず詳しく調べてみます!」


 トーレスさんが、もう一度石を手に取った。


 灰色で、何の変哲もないように見える石。


 魔力を通すこと以外、今のところは何もわからない。


 いったい、何に使えるんだろう?


 でも、こういう未知のものを調べるのも、研究の面白さなんだろうな。


 俺は、石を夢中になって眺めるトーレスさんを見つめた。


 今日、この領には新しい研究者たちがやってきた。


 そして、エヴィン山からも、新しい石が見つかった。


 これから、どんな研究が始まるんだろう?



最後まで読んでいただきありがとうございます。

ついにエヴィン山で採れる石が登場しました。

この石は当初王立学院に入る前に登場する予定でしたが、ようやく出せました。

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トレース閣下と呼ぼう 男爵…バロンだな ライトニングバロン…
アー○マのブリッジクルーね。 ナビゲーターの二人はちょっともじってる? 植物研究の専門家はたぶん、サエ○サさんだわ。 それにしても、、、 リオン領だけ、技術レベルが段違いなんだわ。 あと、ヴァイス…
トーレス・・・某強襲巡洋艦のメインナビ サーマン・・・Zのボリノーク? シサーン・・・???
2026/11/02 19:19 アラ還のガンオタ
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