第645話 蒸気機関クレーン
エドガーとレコア川の港について話し合ってから、三日が経った。
今日は、ルッツさんから知らせを受けて、工房へ向かっている。
なんと、蒸気クレーンの試作機が完成したらしい。
以前、ルッツさんたちに開発をお願いした、蒸気の力で重いものを持ち上げる機械だ。
すでに軽いものを使った試験には成功していて、今日は大きな石材を持ち上げるところを見せてくれるそうだ。
ガイルとナディアも誘ってみた。
もちろん、ミラとピコも一緒だ。
「リオン。そんなにすごいのができたのか?」
隣を歩いていたガイルが尋ねてきた。
「うん。うまくいけば、これまで何十人もの人が必要だった仕事を、少人数でできるようになると思うんだ」
「ほう! それは楽しみだな!」
「私も楽しみです。重い荷物を運ぶ仕事は、どこでも大変ですからね」
ナディアも期待しているようだ。
◇
工房へ到着すると、外の試験場に職人たちが集まっていた。
そして、その中央には見慣れない機械が立っている。
「……何だ、あれは!?」
ガイルが思わず声を上げた。
太い支柱から、斜め上に向かって長い腕が伸びている。
腕の先にはいくつもの滑車が取り付けられ、太い麻綱が通されていた。
下には巻き上げ装置があり、その横には蒸気機関も据え付けられている。
思っていた以上に本格的だ。
「リオン様!」
ルッツさんが駆け寄ってきた。
「ルッツさん! これが蒸気クレーン?」
「はい! ようやく完成しました!」
「すごいね!」
「ありがとうございます。ただ、今回は鉱山で使っている巻き上げ装置や、以前から試験していた蒸気機関を利用できましたので、比較的早く形にできたんです」
「そうだったんだ!」
なるほど。
全部を一から造ったわけじゃないんだな。
「それに、今回加わってくれた職人たちのおかげでもあります」
ルッツさんが振り返った。
そこには、バニングさん、アデルさん、モンシアさん、ベイントさんがいた。
その近くにはキントもいる。
「あっ、みんな! お疲れさま!」
「リオン様!」
五人が嬉しそうに頭を下げた。
「今回、みんながすごく頑張ってくれたんだって?」
「いえ。私どもは、それぞれ昔の仕事で覚えたことを使っただけでございます」
バニングさんが笑った。
すると、ガイルが機械の横を指さした。
「……おい、リオン」
「何?」
「まさか、あれを持ち上げるつもりじゃないだろうな?」
そこには、巨大な石材が置かれていた。
長さは二メートル近くあり、幅も厚みも相当なものだ。
大人が何人かで押したところで、びくともしそうにない。
「ルッツさん。あれを持ち上げるの?」
「はい。重さはおよそ三トンと見積もっています」
「……三トン!?」
ガイルが目を見開いた。
「おいおい! あんなものを持ち上げられるのか!?」
「今日は、その試験をする予定です」
ルッツさんが答えた。
ナディアも、石材とクレーンを交互に見ている。
「リオンさん。あんなに大きな石を、人の力で引っ張らずに持ち上げるんですか?」
「うん! 蒸気機関で綱を巻き取って持ち上げるんだ」
「……すごいですね」
ガイルが石材の周囲を一周した。
「これは楽しみだな! 早く見せてくれ!」
俺も同じ気持ちだ。
◇
「では、準備を始めます」
ルッツさんの声で、職人たちが動き始めた。
巨大な石材には、すでに鉄製の鎖と吊り具が取り付けられている。
アデルさんが、腕の先の滑車を確認していた。
「アデルさん。綱は大丈夫なの?」
「はい。太い麻綱を使っております。滑車を組み合わせることで、巻き上げに必要な力を小さくできるようにしました」
「なるほど!」
「ただ、石材そのものの重さが減るわけではございません。支柱や腕には、相応の力がかかります」
……そうだよね。
それに、綱が切れたら大変だ。
石材を直接支える部分には鉄鎖を使い、麻綱も何本もの区間で荷重を受ける仕組みになっている。
しかも、最初から三トンを持ち上げるわけではない。
工房ではこれまで、軽い荷物から順番に重さを増やして試験を進めてきたそうだ。
「支柱も、最初はかなり苦労しました」
ルッツさんが言った。
「重いものを吊ると、腕だけでなく土台にも大きな力がかかるんです」
「そうなんだ」
「そこで、バニングさんには支柱の補強を、ベイントさんには土台の構造を考えていただきました」
バニングさんが笑った。
「橋を造るときの木組みが役に立ちましてな」
「私は荷馬車の車台を造っておりましたから、重さが片側に寄ると危険なことはよく知っております」
ベイントさんも頷いた。
「なるほど!」
「それから、モンシアさんには金具とブレーキを担当していただきました」
「ブレーキ?」
「はい。荷物を持ち上げても、その重さで巻き上げ装置が逆回転してしまっては危険ですから」
……そうか。
持ち上げる力だけでなく、止める力も必要なんだ。
「おかげで、ここまでの試験では問題なく荷物を保持できています」
ルッツさんが嬉しそうに言った。
そして、キントの方を見る。
「それに、今回もキントがいい仕事をしてくれました」
「えっ? 僕ですか?」
「そうだよ。あの治具がなかったら、ここまで早く組み立てられなかった」
「治具?」
「はい!」
キントが作業台から木製の枠を持ってきた。
「支柱と腕をつなぐ金具の位置を、毎回同じにできるようにしたんです!」
「……おお!」
「最初は、組み立てるたびに少しずつ位置がずれてしまって……。それで、同じ位置に穴を開けられるようにしました」
……なるほど!
部品を一つずつ測りながら取り付けるより、ずっと早そうだ。
「それだけではありません」
ルッツさんが続けた。
「同じ形の金具を造れるので、予備の部品も用意しやすくなったんです」
「それはすごいね!」
「ありがとうございます!」
キントが嬉しそうに笑った。
……いいなぁ。
年配の職人たちの経験と、キントの新しい発想。
それぞれの力が合わさって、この機械ができたんだ。
◇
「それでは、始めます!」
ルッツさんの声が試験場に響いた。
俺たちは、吊り荷から十分に離れた見学場所へ移動した。
周囲では、職人たちが機械の状態を確認している。
しばらくすると、蒸気機関から白い蒸気が上がり始めた。
シュウウウウッ!
ゴウン。
ゴウン。
蒸気機関が動き、巻き上げ装置がゆっくりと回転し始める。
太い麻綱が張っていく。
ギリ……。
ギリギリ……。
しかし、巨大な石材は動かない。
「……おい、リオン」
ガイルが呟いた。
「さすがに無理なんじゃないか?」
「うーん……」
俺も石材を見つめた。
巻き上げ装置は動いている。
綱も張っている。
そのときだった。
ゴトッ。
「……あっ!」
石材の下に、わずかな隙間ができた。
……まさか!
ゴウン。
ゴウン。
巨大な石材が、少しずつ地面から離れていく。
「……おい!」
ガイルが目を見開いた。
「本当に浮いてるぞ!?」
「……すごい!」
ナディアも驚いている。
「リオンさん! あんなに重そうな石が……!」
「うん!」
俺も思わず身を乗り出した。
……おお!
本当に持ち上がってる!
石材はゆっくりと上昇し、地面から二十センチほど離れたところで止まった。
「巻き上げ停止!」
ルッツさんが指示を出した。
巻き上げ装置が止まり、ブレーキが作動する。
巨大な石材は、その場で静止した。
「……すごいぞ、リオン!」
ガイルが大きな声を上げた。
「持ち上げるだけじゃなくて、あの位置で止まってるじゃないか!」
「うん!」
……でも。
ここからが重要だ。
荷物を持ち上げただけでは、鉱山の巻き上げ装置と大きく変わらない。
クレーンなら、吊り上げたものを横へ移動させられないとね。
俺は、機械の支柱に目を向けた。
……念のため、確認しておこう。
《綻びの目》。
視界に文字が浮かんだ。
《支柱:負荷増大》
《旋回軸:荷重の偏り》
《右側受け金具:変形予兆》
……あれ?
旋回軸?
俺は目を凝らした。
石材は安定して浮いている。
でも、重い荷物を吊ったことで、回転部分の一方に大きな力がかかっているらしい。
……これは、気になるな。
「ルッツさん!」
「はい!」
「旋回させる前に、一度、石を下ろしてもらえる?」
「……何かございましたか?」
「支柱の回転部分が少し気になって。重い荷物を吊った状態で、左右の金具に同じように力がかかっているか確認したいんだ」
ルッツさんは、すぐに頷いた。
「わかりました! 一度下ろしましょう!」
ブレーキを操作し、石材がゆっくりと地面へ戻される。
ゴトンッ。
石材が完全に下りたところで、職人たちが機械を調べ始めた。
◇
「……なるほど」
モンシアさんが、旋回軸の受け金具を見つめていた。
「確かに、少し当たり方が違いますな」
「当たり方?」
「はい。こちら側の金具に、強く押された跡が出ています」
……やっぱり。
《綻びの目》の表示と一致している。
モンシアさんが続けた。
「軽い荷物では、ほとんど問題にならなかったのでしょう。ですが、これくらいの重さともなると、わずかな位置の違いでも負担が大きくなるようです」
「そうだったんだね」
すると、バニングさんが支柱の根元を確認した。
「支柱そのものは動いておりません。土台も問題なさそうですな」
「となると、旋回軸の受け金具か……」
ルッツさんが考え込んだ。
「金具の高さを調整する必要がありそうですね」
「ただ、どのくらい調整すればいいのか……」
モンシアさんが腕を組んだ。
そのときだった。
「あの!」
キントが手を上げた。
「僕、一つ考えがあるんですけど……」
「何?」
「金具を取り付けるときに使った治具を、もう一度使えないでしょうか?」
「……治具を?」
「はい。左右の取り付け位置を、同じ高さで確認できるようにしたんです。そこへ薄い金属板を挟めば、少しずつ調整できると思うんです」
……おお!
モンシアさんが顔を上げた。
「……なるほど。受け金具の位置をそろえるわけか」
「はい!」
「それなら、無理に金具を削り直す必要もありませんな」
ベイントさんも頷いた。
「車軸の受けを調整するときにも、似たようなことをします。やってみる価値はあると思いますぞ」
「では、試してみましょう!」
ルッツさんの声で、職人たちが再び動き始めた。
キントが治具を取り付け、左右の位置を確認する。
モンシアさんが、薄い金属板を選んでいく。
バニングさんは、支柱の固定状態を確認していた。
そして、ベイントさんが金具の取り付けを手伝う。
……すごいな。
俺が気になるところを伝えただけで、みんなが次々と解決方法を考えてくれる。
しかも、年配の職人たちの経験とキントの発想が、うまく組み合わさっている。
これなら、きっと直せるはずだ。
◇
調整が終わると、もう一度試験を行うことになった。
すでに吊り上げ装置とブレーキは正常に動いている。
問題は、重い荷物を吊った状態で旋回できるかどうかだ。
俺たちは、再び見学場所へ戻った。
「それでは、始めます!」
シュウウウウッ!
蒸気機関が動き始める。
ゴウン。
ゴウン。
巨大な石材が、再び地面から離れていった。
そして、先ほどと同じ高さで停止する。
……よし。
俺は、もう一度《綻びの目》を使った。
《旋回軸:荷重分散》
《受け金具:異常なし》
《支柱:安定》
……おお!
今度はよさそうだ!
俺はルッツさんへ頷いた。
「金具の位置もそろったみたいだね!」
「はい! こちらでも確認できました!」
ルッツさんが嬉しそうに答えた。
「それでは、旋回を始めます!」
職人が操作すると、クレーンの腕がゆっくりと回り始めた。
ゴウン……。
ギリ……。
巨大な石材が、空中に浮いたまま横へ移動していく。
「……おいおい!」
ガイルが思わず声を上げた。
「今度は横に動いてるぞ!?」
「……すごいですね」
ナディアも、信じられないという顔をしている。
「こんな大きなものを、自由に動かせるなんて……」
俺も驚いていた。
持ち上げるだけでもすごい。
でも、今は三トン近い石材が、空中をゆっくり移動している。
やがて、石材はあらかじめ用意された台の真上に到着した。
「降下開始!」
綱がゆっくりと繰り出される。
巨大な石材が少しずつ下がっていき……。
ゴトンッ!
台の上に収まった。
「……成功です!」
ルッツさんが叫んだ。
一瞬の静けさ。
そして。
「おおおおおっ!」
職人たちから、大きな歓声が上がった。
「やったぞ!」
「本当に三トンの石を動かした!」
「横にも移せたぞ!」
キントが、嬉しそうに飛び跳ねている。
四人の年配職人たちも、互いに顔を見合わせて笑っていた。
「……すごいな、リオン!」
ガイルが呟いた。
「こんなものがあれば、大きな石を使った橋や建物だって、今までとは違う造り方ができるんじゃないか?」
「うん! そう思う!」
「上水道の水道橋にも使えそうだな!」
「そうだね!」
ナディアも目を輝かせていた。
「リオンさん。これなら港で船から荷物を降ろすときにも、大いに役立ちそうですね」
「うん! 今までより大きな荷物を扱えるようになると思う!」
……本当にすごいな。
でも、俺はそれ以上に嬉しいことがあった。
キントと四人の職人たちが、まだ興奮した様子で機械を囲んでいる。
かつて仕事を失った年配の職人たちが、新しい仕事で力を発揮している。
そして、若いキントの発想が、その経験をさらに生かしている。
そんな仲間たちが協力して、これまでにない機械を造り上げたんだ。
……うん。
これは、本当に大きな成果だと思う!
◇
「ルッツさん!」
「はい!」
「このクレーン、さっそく蒸気機関車の製造に使えないかな?」
すると、ルッツさんが笑った。
「実は、私もそのつもりだったんです」
「……本当!?」
「はい。今回の試作機は、工房で大型の部品を組み立てるときにも使えるように、場所を考えて設置したんです」
「そうだったんだ!」
「ちょうど、大型蒸気機関の台枠を移動させたいと思っていたところです。よろしければ、ご覧になりますか?」
「もちろん!」
俺たちは、工房の奥へ向かった。
そこには、大きな金属製の台枠が置かれていた。
大型蒸気機関を支えるためのものらしい。
「これまで、この台枠を動かすだけでも、かなり苦労していたんです」
ルッツさんが説明してくれた。
「大勢の職人が綱を引き、下に丸太を入れて、少しずつ移動させていました」
「そうだったんだ」
「ですが、クレーンが使えれば……」
ルッツさんが、先ほどの機械を指さした。
「もう、あの方法で運ぶ必要はありません」
……おお!
それはすごい!
◇
さっそく、台枠をクレーンで移動させることになった。
先ほどの三トンの石材より軽いとはいえ、何人もの職人が必要だった大きな部品だ。
でも、クレーンを使うと……。
シュウウウウッ!
ゴウン。
ゴウン。
台枠が、ゆっくりと持ち上がった。
そして、工房の組み立て台へ向かって移動していく。
「……おお!」
俺は思わず声を上げた。
何人もの職人が苦労して動かしていた部品が、あっという間に移動していく。
もちろん、機械を操作する人や、部品の位置を確認する人は必要だ。
でも、これまでとは比べものにならない。
やがて、台枠が組み立て台の上へ静かに下ろされた。
「……よし!」
ルッツさんが頷いた。
「これで、大型蒸気機関の組み立てを進められます!」
「すごいね!」
「はい。これまでは、部品を動かすために作業を止めることもありましたから」
ルッツさんが嬉しそうに笑った。
「これからは、重い部品ができても、その場で組み立て作業を進めやすくなります」
……なるほど!
クレーンができたことで、蒸気機関車の開発も速くなる。
しかも、それだけじゃない。
「リオン様。今回の開発では、ほかにも役立つ技術が見つかりました」
「……ほかにも?」
「はい。特に、軸受けとブレーキ、それから部品の組み立て精度です」
ルッツさんが説明してくれた。
今回、重いものを持ち上げるために、巻き上げ軸や歯車の負担を調べ、何度も部品を改良したらしい。
その過程で、回転する軸を支える方法や、摩擦を減らす工夫についても、新しい知識が得られたそうだ。
「なるほど。それなら蒸気機関車の車軸にも応用できそうだね!」
「はい! もちろん、機関車ではかかる力や動き方も違いますが、今回の経験はきっと役立つと思います」
「そうだね!」
「それに、キントが考えてくれた治具もあります」
ルッツさんが続けた。
「同じ形の部品を、正確な位置に組み立てられるようになれば、大型蒸気機関車の製造も進めやすくなるはずです」
「……おお!」
確かに!
クレーンを造るための工夫が、蒸気機関車の開発にもつながっていく。
……面白いな。
一つの機械を造ることで、別の機械まで進歩するんだ!
◇
「それにしても、リオン」
ガイルが、クレーンを見上げながら言った。
「これだけ便利な機械なら、工房だけで使うのはもったいないな」
俺は顔を上げた。
「それ、俺も思った!」
「そうなのか?」
「うん。だって、これがほかの場所でも使えたら、もっと便利になるでしょ?」
例えば、上水道の水道橋。
重い石材や木材を持ち上げられるようになれば、橋を造る作業も進めやすくなるはずだ。
それに、鉄道の建設にも使える。
将来、レコア川の港を造ることになったら、船着き場や倉庫の建設にも大いに役立つだろう。
「ルッツさん!」
「はい?」
「このクレーン、移動できるようにすることはできないかな?」
「……移動式ですか?」
「うん。そうすれば、いろいろな建設現場で使えると思うんだ」
ルッツさんが考え込んだ。
「確かに便利ですが、今の機械をそのまま車輪に載せるのは危険ですね」
「そうだよね」
「重い荷物を持ち上げたとき、車台ごと傾いてしまう可能性があります」
すると、ベイントさんが近づいてきた。
「それでしたら、少し考えがございます」
「本当!?」
「はい。移動するときは車輪を使い、荷物を持ち上げるときには、丈夫な支えを地面へ下ろすのはいかがでしょうか?」
「……支えを?」
「はい。作業中は車輪だけで重さを受けないようにするんです。地面が柔らかい場所では、支えの下に大きな板を敷く必要もあるでしょうな」
「……おお!」
それはいい案だ!
現代の移動式クレーンにも、似たような仕組みがあったはずだ。
「ベイントさん。それなら、車輪があっても安定させられるかもしれないね!」
「はい。ただ、台車そのものも丈夫に造る必要がありますな」
「そうだね!」
すると、キントが手を上げた。
「あの、リオン様!」
「何?」
「今のクレーンの上の部分を、別の土台にも取り付けられるようにするのはどうでしょうか?」
「……別の土台?」
「はい! 取り付け金具の位置をそろえておけば、今の固定式クレーンと、移動式クレーンで、共通の部品を使えるかもしれません!」
……なるほど!
それは面白い!
「そうか! 部品を共通にしておけば、全部を一から造る必要がなくなるんだね!」
「はい!」
ルッツさんも頷いた。
「それなら、今回の試作機で使った図面や治具を生かせますね。もちろん、車台との接合部分は新しく設計する必要がありますが……」
「うん。でも、開発はかなり進めやすくなると思う!」
バニングさんも話に加わった。
「移動式にするのでしたら、支えを広げるための木組みについても考えてみましょう」
「私は車軸と車輪の方を調べてみます」
ベイントさんも頷いた。
「それなら、私は支えと車台をつなぐ金具を考えましょうか」
モンシアさんが笑った。
「巻き上げ装置も、移動させることを考えて配置した方がよさそうですな」
アデルさんまで加わった。
……おお!
みんな、もう次の機械のことを考えてる!
「ルッツさん。移動式のクレーンも、ぜひ造ってみよう!」
「はい! まずは、今のクレーンを蒸気機関車の製造に使いながら、移動式の設計も進めたいと思います!」
「うん! よろしく!」
これなら、今ある機械を使いながら、次の開発も進められる。
◇
そのあと、俺たちはもう一度、クレーンを見に行った。
試験場では、さっそく次の部品を移動させる準備が進んでいる。
もう、単なる試作品ではない。
工房で実際に使われる機械になったんだ。
「……すごいな」
ガイルが呟いた。
「リオン。俺たちが上水道の工事で苦労して運んでいる石材も、こういう機械があればずっと楽になるんだろうな」
「うん。将来は、そうしたいね!」
「楽しみにしてるぞ!」
ガイルが豪快に笑った。
ナディアも微笑んだ。
「リオンさん。こうして新しい機械ができていくのを見ると、本当に驚かされます」
「ありがとう、ナディア!」
「これなら、港が完成したときにも、大いに役立ちそうですね」
「うん! そのためにも、移動式クレーンを造りたいんだ!」
「楽しみです!」
俺は、再び蒸気クレーンを見上げた。
最初は、蒸気機関の力で重いものを持ち上げられたら便利だと思っただけだった。
でも、今日できたことは、それだけじゃない。
三トンもの石材を持ち上げ、横へ動かすことに成功した。
そして、さっそく蒸気機関車の製造にも使い始めた。
さらに、今回の開発で得られた技術が、蒸気機関車そのものの改良にもつながっている。
しかも、移動式クレーンという新しい目標まで見えてきた。
上水道。
橋や建物の建設。
鉄道。
そして、レコア川の港。
いろいろな場所で、この機械が活躍する日が来るかもしれない。
……うん!
今日の成功は、想像していた以上に大きいな!
俺は、楽しそうに作業を続ける職人たちを見つめた。
これからも、こうして新しい技術が生まれていくんだろう。
そして、その技術が、また別の仕事を進める力になっていく。
最後まで読んでいただきありがとうございます。
クレーンを量産できたら産業に与えるインパクトは凄いと思います。




