第639話 王国の新たな物流網
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『平民出身の転生執事、最強王女を育成する』という作品です。
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「レコア川の件なんだけど」
「……レコア川ですか?」
アルフレッド殿下が頷いた。
「ああ。少し地図を見ながら話してもいいかな?」
「もちろんです」
俺は、先ほど蒸気機関車の説明に使った王国の地図を机の上に広げた。
アルフレッド殿下が、王都の南側を指さす。
「ここにシーン川が流れているよね」
「はい」
「そして、王都の南西にあるエドガーの王家直轄領。その中央付近で、シーン川から西へ分かれているのがレコア川だ」
殿下の指が地図の上を移動する。
「レコア川は西へ流れ、ハル領の東端に達すると南へ向きを変える。そのまま流れて、最後は海へつながっている」
「そうですね」
レコア川。
以前から、何かに利用できないかと考えていた川だ。
川幅もそれなりにあるし、水量も豊富そうだ。
ただ、今のところ、領内で物流に利用されることはほとんどない。
「この川の周辺には、いくつもの領地があるんだ」
アルフレッド殿下が地図を指さした。
「エドガーの直轄領の南にはフェルデン伯爵領。その南にはサリオス伯爵領がある」
「はい」
「そして、ハル領の南にはハーウェイ侯爵領、そのさらに南にはルグナー子爵領がある」
ミラの実家があるハーウェイ侯爵領も、その一つだ。
「この四つの領地は、どこも王都との交易が盛んなんだよ」
王立学院でも学んだことだ。
「そうですね」
「ああ。農産物や木材、建築資材など、さまざまなものが王都へ運ばれている」
殿下が少し表情を曇らせた。
「だけど、今はそのほとんどを馬車に頼っているんだ」
「……なるほど」
確かに、馬車は便利だけど、一度に運べる荷物には限界がある。
大量の荷物を運ぶには、多くの馬と御者が必要になる。
それに、道路の整備や修繕にもお金がかかる。
「一方、王国の東側は事情が違うんだ」
「東側ですか?」
「ああ。セルヴァン王国との国境を流れるラグナ河では、船を使った交易が盛んに行われている」
そこで、ナディアが口を開いた。
「ラグナ河には、荷物を運ぶ船が数多く行き来しています。セルヴァンでも、重要な交易路の一つになっているんです」
「そうなんだね」
「はい。特に穀物や木材など、大量に運ぶ必要があるものは、船が重宝されています」
……なるほど。
やっぱり、水運には大きな利点がある。
「ところが、レコア川では同じようにいかないんだ」
アルフレッド殿下が続けた。
「理由は、流れの速さにある」
「……流れですか?」
「ああ。レコア川は、ラグナ河よりも少し流れが速いんだよ」
なるほど。
川を下るだけなら、その流れを利用できる。
でも、問題は戻るときだ。
「上流へ進むのに時間がかかるということですか?」
「そうなんだ」
アルフレッド殿下が頷いた。
「下流へ荷物を運ぶことはできても、船を上流へ戻すには相当な手間がかかる。結果として、一隻の船が運べる荷物の量も限られてしまうんだ」
「……なるほど」
「王都からハル領へ船で荷物を運んでも、帰りは川を上らなければならないだろう?」
「そうですね」
「だから、商人たちも積極的には利用してこなかったんだ」
……そういうことか。
川があるからといって、簡単に物流に使えるわけじゃない。
◇
「そこで、リオンに相談したいんだ」
「はい」
「王家では、レコア川をもっと物流に利用できないかと考えている」
アルフレッド殿下は、地図の上に指を置いた。
「何かよい方法はないかな?」
俺は少し考えた。
船なら、一度に大量の荷物を運べる。
でも、上流へ戻るのに時間がかかるという問題がある。
それを解決しないまま船を増やしても、思ったほど輸送量は増えないかもしれない。
「方法はいくつか考えられますが、まずは川の状態を詳しく確認する必要があると思います」
「川の状態?」
「はい。流れの速さだけでなく、川幅や水深も重要になります」
俺は地図を見つめた。
「船が大きくなれば、一度に運べる荷物は増えます。でも、水深が足りなければ通れません」
「なるほど」
「それに、川の途中に浅い場所や岩が多い場所があれば、そこも問題になります」
アルフレッド殿下が頷く。
「その点については、ある程度調べてあるんだ」
「そうなんですか?」
「ああ。王宮の測量担当者に、レコア川の調査を進めさせているよ」
殿下は、持参した資料を取り出した。
「主要な区間については、川幅と水深、それに流れの速さもおおむね把握できている」
「……それは助かります」
俺は資料を受け取り、目を通した。
いくつもの地点について、川の状態が記録されている。
深い場所もあれば、比較的浅い場所もある。
流れの速さも一様ではないようだ。
王宮側でも、かなり準備を進めているようだ。
「測量結果を見る限り、船を通せる場所は多そうですね」
「そうなんだ。ただ、実際にどのくらいの大きさの船を使うべきかは、まだ決められていない」
「そうですね」
俺はもう一度資料を見た。
船が通れることと、安定して荷物を運べることは別問題だ。
「季節による水位の変化も確認したいですね」
「というと?」
「雨が多い時期と少ない時期では、水深が変わると思うんです。水が少ない時期にも船が通れるか、確かめたいです」
「確かに、それは必要だね」
「それと、船を上流へ戻す方法も考えなければなりません」
「うん。そこが一番の問題なんだ」
……簡単な話ではなさそうだ。
でも、調査が進んでいるなら、検討する価値は十分にあると思う。
「それと、もう一つ相談があるんだ」
「何でしょう?」
「ハル領に、新しい港を造ってもらえないだろうか?」
「……港ですか?」
「ああ。エドガーが治める王家直轄領と共同で、港を整備したいと考えているんだ」
「ハル領の東端、レコア川沿いに港を造るということですか?」
「そのつもりだよ。もちろん、具体的な場所はこれから検討することになるけれどね」
俺は地図を見つめた。
レコア川が領地の東端を流れている。
そこに港ができれば、王都方面との交易が便利になるかもしれない。
ただ、港を造るのは簡単じゃない。
「港の建設となると、かなり大きな事業になりますね」
「そうだね」
「船着き場だけでなく、倉庫や道路も必要になります。それに、港を造る場所の地盤も調べなければなりません」
川沿いの土地は、場所によっては地盤が弱いかもしれない。
大雨で増水することも考えられる。
せっかく造った港が、洪水のたびに使えなくなってしまったら困る。
「それに、完成したあとも維持費がかかります」
「うん」
「利用する船が少なければ、採算が合わない可能性もありますね」
アルフレッド殿下は、黙って俺の話を聞いていた。
「リオン。君は随分と慎重なんだね」
「そうですか?」
「ああ。もう少し喜ぶかと思っていたよ」
「……あはは」
俺は小さく笑った。
「港ができるのは嬉しいです。でも、実際に造るとなると、確認しなければならないことが多いですから」
「なるほど」
殿下が微笑んだ。
「そういうところも、君に相談したかった理由の一つなんだ」
……そう言っていただけるのは、ありがたいな。
◇
「実は、費用についても考えているんだ」
「費用ですか?」
「ああ。今回の事業は、王家が主導して進めるつもりだよ」
「……王家が?」
「うん。レコア川の水運が発展すれば、ハル領だけでなく、王都や周辺の領地にも大きな利益があるからね」
「確かにそうですね」
「だから、調査費用や港の主要な建設費用については、王宮で負担する方向で考えているんだ」
「王宮が、建設費用を負担してくださるんですか?」
「ああ。具体的な予算や負担の範囲は、これから決める必要があるけれどね」
「……そうなんですか」
俺は、もう一度地図を見つめた。
……待てよ。
それは、かなりありがたい話じゃないか?
港を造るには、相当なお金がかかるはずだ。
桟橋や倉庫。
荷物を運ぶための道路。
必要なら、川底を掘る工事も行わなければならない。
それらをすべてハル領の予算で負担するとなれば、ほかの事業にも影響が出かねない。
でも、王宮が主な建設費を負担してくれるなら……。
港は俺の領地にできる可能性もある。
そこで働く人が増えるだろうし、商人たちも集まってくるかもしれない。
荷物を保管する倉庫。
船員や商人が利用する宿屋。
食堂や商店。
港の周辺に、新しい町ができる可能性だってある。
……おお!
これは、領地にとって大きなチャンスじゃないか!
「アルフレッド殿下」
「何だい?」
「それなら、ぜひ前向きに検討させてください!」
アルフレッド殿下が、少し驚いた顔をした。
「……おや?」
「はい?」
「リオン。急に表情が明るくなったね」
「……えっ?」
「さっきまでは難しい顔をしていたのに」
殿下が笑った。
「君は本当に表情が豊かだね」
「……あはは」
俺は少し照れくさくなった。
「すみません。つい、領地のことを考えてしまって」
「ははっ。それだけ自分の領地が大切なんだろう?」
「はい!」
それは間違いない。
港ができれば、領民の仕事が増えるかもしれない。
交易が盛んになれば、商人たちも潤う。
それに、俺の領地で造ったものを、もっと遠くへ運べるようになるかもしれないんだ。
……これは、ぜひ実現させたいな。
◇
「それなら、リオン。具体的な話を進めてもいいかな?」
「はい。ぜひお願いします」
俺は頷いた。
「ただ、最初から大きな港を造るより、小規模な施設から始めた方がよさそうですね」
「小規模な施設?」
「はい。まずは船が安全に着けられる場所と、荷物の積み下ろし場を整備するんです」
俺は地図を指さした。
「実際に船を運航して、どのくらいの荷物が集まるのか確認します。必要になったら、倉庫や桟橋を増やしていけばよいと思います」
「なるほど。最初から大きな港を造る必要はないということだね」
「はい。王宮のお金を使わせていただくわけですから、無駄な工事はできるだけ避けたいです」
アルフレッド殿下が頷いた。
「うん。その考え方はいいね」
それから、俺はもう一つ気になっていたことを尋ねた。
「港の管理については、どのようにお考えですか?」
「管理?」
「はい。港は造ったあとも、修理や清掃が必要になります。それに、船の出入りを管理する人も必要です」
「そうだね」
「利用料をどうするかも、あらかじめ決めておいた方がよいと思います」
港の利用料が高すぎれば、商人たちは使ってくれない。
かといって、無料にしてしまうと維持費を賄えなくなるかもしれない。
その辺りは、慎重に考える必要がある。
「その点も含めて、エドガーと相談してほしいんだ」
「エドガーとですか?」
「ああ。彼も王家直轄領の再建を進めているからね。今回の話は、すでに大筋を伝えてあるよ」
「そうなんですね」
……エドガーと共同事業かぁ。
「ぜひ、エドガーとも話をしてみたいです」
「うん。彼も喜ぶと思うよ」
◇
「それにしても、船を使った物流か……」
ガイルが地図を覗き込んだ。
「どうしたの?」
「いや、船で大量の荷物を運べるようになれば、街道を走る荷馬車も減るのかと思ってな」
「そうだね。ある程度は減るかもしれない」
「だが、港から先は、結局荷馬車が必要になるんじゃないか?」
「それはそうだね」
俺は頷いた。
「港に着いた荷物を、領都や鉱山まで運ばないといけないから」
「だろう?」
ガイルが腕を組んだ。
「それに、港ができて人や荷物が集まれば、警備も必要になるぞ」
「確かに」
船から降ろした荷物を盗まれたり、倉庫に不審者が入り込んだりする可能性もある。
今まで以上に人が集まるなら、治安のことも考えなければならない。
「港の警備についても、早いうちに計画を立てた方がよさそうだね」
「ああ!おまえの領の騎士団をもっと強くしなきゃな!」
「ありがとう、ガイル!」
すると、ナディアも口を開いた。
「リオンさん。船の運航についても、少し考えておいた方がよいかもしれません」
「運航?」
「はい。ラグナ河でも、川を上るときは、下るときより時間がかかります」
「そうだよね」
「レコア川は流れが速いとのことですから、船の大きさや積む荷物の量も、慎重に決めた方がよいと思います」
「……なるほど」
さすがナディアだ。
「ナディア。セルヴァンで船を運航している人たちに、話を聞くことはできるかな?」
「はい。父上に相談すれば、経験のある方をご紹介いただけると思います」
「それは助かるよ!」
レコア川とラグナ河では条件が違う。
でも、船の運航や港の管理については、参考になることがたくさんあるはずだ。
……うん。
まずは、経験のある人たちから話を聞いてみよう。
◇
「そういえば……」
俺は、先ほど見せた蒸気機関車の図面に目を向けた。
……待てよ。
港を造るなら、将来的には鉄道ともつなげられるんじゃないか?
「アルフレッド殿下。一つ、考えていることがあるんです」
「何だい?」
「この港、将来は鉄道と結ぶこともできると思うんです」
「……鉄道と?」
「はい」
俺は地図の上に指を滑らせた。
「例えば、アーシタ山やリンクス山で採れた資源を、蒸気機関車で港まで運ぶんです」
「なるほど」
「そして、そこで船に積み替える。そうすれば、王都や南の領地へ大量に運べると思います」
アルフレッド殿下が目を見開いた。
「さっき見せてもらった、あれだね?」
「そうです」
「……なるほど。鉄道と船を組み合わせるわけか」
「はい。まずは領内の鉄道を完成させる必要がありますけどね」
鉱山から港までは鉄道。
港から先は船。
それぞれ得意な方法で荷物を運べば、輸送にかかる時間や費用を減らせるかもしれない。
「そうなると、港の場所を決めるときも、将来の鉄道を考えておく必要があるね」
「……そうなんです!」
俺は思わず笑顔になった。
「港の周辺に線路を通せる場所を確保しておけば、あとから工事をしやすくなります!」
「うん。それはぜひ考えてほしい」
……よかった。
アルフレッド殿下も、鉄道の可能性を理解してくださっている。
「それと、蒸気機関には、もう一つ大きな可能性があるんです」
「それは?」
「船にも使えるかもしれません」
「……船に?」
アルフレッド殿下が首を傾げた。
「蒸気で船を動かすということかい?」
「はい」
前世には、蒸気機関の力で水車のようなものを回し、船を進ませる技術があった。
この世界でも、実現できる可能性はある。
「レコア川は流れが速いので、上流へ戻るのが大変なんですよね?」
「ああ。そこが一番の問題だ」
「もし船に蒸気機関を載せられれば、その力で川を上れるようになるかもしれません」
「……なるほど!」
アルフレッド殿下が身を乗り出した。
「それなら、船を上流へ戻す時間も短くできるわけだね!」
「そうです。もちろん、船の大きさや機関の重さ、必要な燃料など、調べることはたくさんありますけどね」
今はまだ、大型蒸気機関を安定して動かすための試験を進めている段階だ。
すぐに蒸気船が造れるわけではない。
でも、将来の開発目標としては面白いと思う。
「それに、蒸気機関は港でも役に立つと思うんです」
「港でも?」
「はい。例えば、重い荷物を持ち上げるクレーンです」
俺は紙に簡単な絵を描いた。
「蒸気機関の力で荷物を吊り上げれば、人の力だけでは動かせないようなものも、船から降ろせるかもしれません」
「……そんなこともできるのか?」
「はい。ほかにも、綱を巻き取る装置や、川底の土砂を掘り出す機械などに応用できそうです」
アルフレッド殿下が、しばらく考え込んだ。
「……すごいね」
「そうですか?」
「ああ。蒸気機関車だけでも驚いたのに、船や港にも使えるかもしれないなんて」
殿下が微笑んだ。
「君の考えていることは、本当に面白いよ」
「ありがとうございます!」
……嬉しいなぁ。
ただ、蒸気機関を広く使うなら、もう一つ考えなければならない問題がある。
「アルフレッド殿下。蒸気機関については、気をつけたいこともあるんです」
「何だい?」
「煙や煤の問題です」
「……煙?」
「はい。蒸気機関は石炭を燃やして動かしますから」
俺は、先ほどの試験場を思い出した。
大きな機関が動く様子は、本当に迫力があった。
でも、そのためには石炭を燃やさなければならない。
機関が増えれば、それだけ煙も増えるだろう。
「煙や煤が増えれば、周囲の人たちの健康に悪い影響が出るかもしれません」
「……なるほど」
「それに、燃えたあとの灰や汚れた水を、川へ流すわけにもいきません」
アルフレッド殿下の表情が真剣になった。
「確かに、便利になっても、住民の暮らしが悪くなっては意味がないね」
「そうなんです」
俺は頷いた。
「今の蒸気機関の試験でも、煙や煤を減らす方法を調べていきたいと思っています」
「何か考えはあるのかい?」
「いくつかあります。石炭を効率よく燃やす方法や、煤を集める装置などですね」
それから、アノー山の特殊な苔。
あの苔には、有害物質を吸収する働きがあるかもしれない。
鉱山の排水をきれいにするだけでなく、煙に含まれる有害物質の除去にも使えるかもしれない。
「ただ、まだ研究段階なので、どのくらい効果があるのか確かめる必要があります」
「そうなんだね」
「蒸気機関をいろいろな場所で使うのは、そうした問題を調べながら進めたいと思っています」
アルフレッド殿下が頷いた。
「うん。大切なことだね」
蒸気機関は、これからの領地の発展に欠かせない技術になるかもしれない。
だからこそ、最初から安全や環境への影響も考えておきたい。
「それにしても、リオン」
「はい?」
アルフレッド殿下が笑った。
「港の建設について相談するつもりだったのに、蒸気の船や他の蒸気の活用法の話まで出てくるとは思わなかったよ」
「……あはは。つい、いろいろ考えてしまって」
「いや。面白かったよ」
アルフレッド殿下は、もう一度地図を見つめた。
「僕としては、まず王都とハル領の間で、船を使った物流を始めたいんだ」
「そうですね。それが第一歩になると思います」
「その仕組みがうまくいけば、周辺の領地にも広げていきたい」
「はい。交易が盛んになれば、みんなにとって利益がありますからね」
ミラも、隣で頷いた。
「ハーウェイ領でも、王都へ多くの荷物を運んでいます。もし船が利用できるようになれば、父上も関心を持つと思います」
「そうだね。ハーウェイ侯爵とも話をする必要があるだろう」
アルフレッド殿下が答えた。
「もちろん、ほかの領主たちにも協力してもらいたいと考えているよ」
……なるほど。
今回の事業が成功すれば、王国の物流が大きく変わるかもしれない。
でも、まずは小さな一歩からだ。
「アルフレッド殿下」
「何だい?」
「港の建設については、ぜひ前向きに進めさせてください」
「……本当かい?」
「はい。まずは、王宮の測量資料を詳しく確認して、港の候補地を選びたいと思います」
「うん」
「それから現地調査を行い、建設費用や運営方法について、エドガーとも相談させてください」
「わかった。王宮の測量担当者にも協力させるよ」
「ありがとうございます」
「必要な資料も提供するように手配する」
「助かります」
これなら、調査を始めるための準備も進めやすい。
それに、王宮が資金を負担してくれるなら、領内のほかの事業を圧迫せずに済むかもしれない。
「エドガーには、僕からも連絡しておくよ」
「ありがとうございます。近いうちに、直接話をしてみたいです」
「うん。彼も喜ぶと思う」
アルフレッド殿下が手を差し出した。
「それじゃあ、よろしく頼むよ。リオン」
「はい。こちらこそ、よろしくお願いします」
俺たちは握手を交わした。
◇
「……ふふっ」
突然、アルフレッド殿下が笑った。
「どうされたんですか?」
「いや、ここまで会いに来てよかったと思ってね」
「……そうですか?」
「ああ。君に相談して正解だったよ」
アルフレッド殿下は、もう一度俺を見た。
「最初は慎重に話を聞いていたのに、領地にとってよい話だとわかった途端、ずいぶん嬉しそうになったからね」
「……あはは」
「それに、蒸気船やクレーンの話をしているときは、まるで子供のように目を輝かせていたよ」
「……そんなにわかりやすかったですか?」
「ああ」
殿下が楽しそうに笑った。
……まいったな。
自分では、結構冷静に話していたつもりだったんだけど。
すると、ミラが横から口を開いた。
「リオンは、いつもそうなんですよ」
「……えっ?」
「新しいことを考えているときとか、誰かが頑張っている話を聞いたときとか、すぐに嬉しそうな顔になるんです」
「……ミラ!」
「ふふっ。本当のことでしょ?」
みんなが笑った。
ミラにはかなわないな。
◇
俺は、もう一度地図を眺めた。
王都の南を流れるシーン川。
そこから西へ分かれ、ハル領の東端へと続くレコア川。
さらに南へ流れる川の先には、海が広がっている。
今は、ほとんどの荷物を馬車で運んでいる。
でも、もし船を使って大量に運べるようになったら……。
王都から届く荷物も増えるだろう。
俺の領地で採れた銅や石炭を、もっと遠くへ運べるかもしれない。
港で働く人が増え、商人たちが集まる。
新しい倉庫や店が建ち、街が発展していく。
しかも、今回は王宮が資金を出してくれる事業だ。
こんな機会は、そう何度もないだろう。
……うん。
ぜひ成功させたい。
一つずつ問題を解決していけば、きっと形にできるはずだ。
俺は、レコア川の流れを指でなぞった。
……よし。
まずは、現地調査から始めよう。
港ができれば、この領地はまた一つ、大きく変わるかもしれない。
最後まで読んでいただきありがとうございます。
久しぶりに登場したレコア川。リオンの領にどんな変化をもたらすのかお楽しみに。




