第637話 三日後の来客
新連載もよろしくお願いします!
『平民出身の転生執事、最強王女を育成する』という作品です。
お手すきの際に是非!
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あれから、一週間が経った。
その日、政務所で仕事をしていると、ミアが一枚の書類を持ってやって来た。
「リオン様。王宮から案内が届いております」
「王宮から?」
「はい。アルフレッド第一王子殿下の婚礼に関するご案内です」
「……おお!」
俺は思わず声を上げた。
「結婚式の日取りが決まったの?」
「はい。四か月後に王都で執り行われる予定だそうです」
「そうなんだ!」
アルフレッド殿下とサハル王国のセリカ王女。
二人はすでに夫婦となっているけれど、戦争などの影響もあって、盛大な婚礼の式典はまだ行われていなかった。
それが、ようやく開催されるらしい。
「おめでたいね!」
「はい。両国の王族や貴族も多数参列される予定とのことです」
「そっか!」
アルスレイン王国とサハル王国。
二つの国の王族が結ばれるのだから、きっと盛大な式になるんだろうな。
「招待状も届いたの?」
「いえ。今回のものは日程をお知らせする案内でございます。正式な招待状は、後日お届けになるそうです」
「なるほど!」
四か月後かぁ。
まだ少し先だけど、楽しみだな。
……そういえば。
エドガーとセレナも婚約しているんだよね。
二人の結婚式は、いつになるんだろう?
それに、ガイルとナディアも婚約したばかりだ。
少しずつ、結婚する人も増えていくんだなぁ。
……何だか不思議な感じだ。
◇
二日後。
夕方、ガイルとナディアがアナハイムから戻ってきた。
「リオン!帰ったぞ!」
「おお!ガイル!おかえり!」
「はっはっは!やっぱりここは落ち着くな!」
ガイルが豪快に笑った。
「リオンさん。ただいま戻りました」
「ナディアもおかえり!お疲れ様!」
「ありがとうございます」
ナディアが微笑んだ。
二人とも少し疲れているようだけど、元気そうだ。
ガイルたちは、上水道の試験工事を手伝うため、アナハイム方面へ向かっていた。
その間、アストンたちハル領騎士団も一緒に作業を進めていた。
「工事はどうだった?」
「おう!なかなか順調だぞ!」
「本当!?」
「ああ!石や土を運ぶのも、いい訓練になるからな!」
ガイルらしいなぁ。
アストンたちは引き続き現地に残り、試験工事を進めてくれているそうだ。
「詳しい話は夕食のときに聞かせてね!」
「おう!」
◇
夕食の席には、俺とミラ、それにガイルとナディアが集まった。
「それで、上水道の工事はどこまで進んだの?」
「はい。まず、条件のよい場所で短い水路を造り始めました」
ナディアが説明してくれた。
「おお!」
「実際に水を流してみた区間もあるそうですよ」
「本当!?どうだった?」
「水は予定した方向へ流れたそうです。ただ、土が崩れやすい場所も見つかったので、補強方法を検討しているとのことです」
「なるほど!」
水を流せたのは大きな前進だ。
でも、四十キロメートル以上もある水路だから、場所によって地盤の状態も違うんだろうな。
「それと、川を越える場所についても調査を続けています」
「ああ!水道橋を造ろうとしているところだね!」
「はい。川の両岸の地盤を調べて、どのような構造がよいか検討しているそうです」
「そっか!」
以前、ローレンさんから聞いた問題だ。
予定している高さのまま水路を延ばすと、途中にある川を越えなければならない。
そのため、水道橋を造る方法を考えているんだ。
「焦らず、安全な方法を考えてもらおう!」
「はい。職人さんたちも、慎重に進めているようです」
ナディアが頷いた。
「それにしても、ずいぶん土を運んだぞ!」
今度はガイルが口を開いた。
「騎士たちも最初は慣れなかったようだが、途中から手際がよくなってな!」
「おお!」
「はっはっは!あれなら、次の訓練ではもっと厳しくしても大丈夫そうだ!」
……ガイル。
工事の話をしていたはずなのに、もう訓練のことを考えてるのか。
◇
「そういえば、ナディア」
「はい?」
「レイ湿原の稲作の方はどうだった?」
レイ湿原では、セルヴァン王国の人たちに協力してもらいながら米作りを進めている。
以前、冷たい水が流れ込む場所では、稲の育ちが少し悪くなっていた。
そのため、水温を上げるための温水路も造った。
「はい。アーロンさんたちが、毎日熱心に観察を続けています」
「おお!それで、温水路の効果はあった?」
「水の温度については、改善が見られているようです」
「本当!?」
「はい。温水路を通した水と、直接引き込んだ水を比べると、温度に違いが出ているそうです」
「それはよかった!」
「ただ、稲の生育への影響については、もう少し時間をかけて調べる必要がありますね」
「そうだね!」
水温が上がったからといって、すぐに稲が大きくなるわけじゃない。
ほかの水田と比較しながら、時間をかけて確かめてもらおう。
「それに、アーロンさんもずいぶん熱心でしたよ」
「そうなの?」
「はい。セルヴァンの指導者たちに、毎日のように質問しているそうです」
「おお!」
以前は米作りの経験なんてなかったのに。
今では、自分でいろいろ考えながら育てているんだ。
「収穫が楽しみだね!」
「はい。私も楽しみです!」
ナディアが嬉しそうに頷いた。
◇
「そういえば、リオン!」
ガイルが思い出したように声を上げた。
「何?」
「ガレスのやつ、よく働いていたぞ!」
「……えっ!?ガレスが?」
「ああ! ガルセゾン団の一員として、上水道の工事に参加していたんだ!」
「そうなんだ!」
ガレスは、騎士団の採用試験に落ちたあと、イレーナさんのガルセゾン団で見習いとして働き始めた。
あれから、どうしているのか気になっていた。
「実はな、昔のグレイヴ家に恨みのある者たちから、ずいぶん厳しいことを言われていたんだ」
「……そうなの?」
「ああ。だが、あいつは言い返さずに、黙って石を運び続けていたぞ!」
……へえ。
以前のガレスなら、きっと怒っていたと思う。
少なくとも、俺が学院で知っていたガレスは、そういう人間だった。
「しかもな、悪口を言っていた年寄りが怪我をしそうになったとき、真っ先に助けに行ったんだ!」
「……本当!?」
「ああ!俺も少し見直したぞ!」
ガイルが嬉しそうに笑った。
「ガレス、頑張ってるんだね!」
「おう!まだまだ弱いけど、なかなか根性があるじゃないか!」
……そっか。
イレーナさんたちのところで、少しずつ変わり始めているんだな。
「いつか、立派になれるといいね!」
「ああ!今度会ったら、俺も鍛えてやりたいところだ!」
「……ガイル」
「何だ?」
「ガルセゾン団の訓練だけでも、十分大変だと思うよ?」
「はっはっは!強くなるには鍛錬あるのみだ!」
ガイルはガイルだなぁ。
ナディアも、隣で小さく笑っていた。
◇
夕食を終え、屋敷の居間でくつろいでいたときだった。
政務所から、共鳴石通信が入ったとの知らせが届いた。
しかも、王宮からだという。
「……王宮?」
何だろう?
俺は急いで政務所へ向かった。
「お待たせしました!リオン・ハルです!」
『ハル男爵様。夜分に失礼いたします』
「どうされました?」
通信の相手は、王宮の職員だった。
『アルフレッド第一王子殿下のご予定について、ご連絡がございます』
「アルフレッド殿下?」
『はい。三日後、ハル領へ赴かれることが決まりました』
「……えっ!?」
俺は思わず聞き返した。
「三日後!?」
『はい』
「ずいぶん急ですね!」
『急なご連絡となり、申し訳ございません』
「いえいえ!それは大丈夫です!」
……でも、どうしたんだろう?
アルフレッド殿下が、わざわざ俺の領地に来るなんて。
「それで、どのようなご用件でしょうか?」
『先日ご案内した婚礼の件もございます。殿下は、ハル男爵様へ直接招待状をお渡ししたいとお考えです』
「……えっ!?直接ですか!?」
『はい。ほかにもお話ししたいことがあるとのことでございます』
「そうなんですか……」
招待状を自分で持ってきてくださるのは嬉しい。
でも、それだけのために王都から来るとは思えないな。
何か別の用事があるんだろうか。
『なお、殿下は一泊される予定です。随行者の人数などにつきましては、改めてお知らせいたします』
「わかりました!準備しておきます!」
『ありがとうございます。警備につきましても、王宮側から担当者を派遣し、事前に確認させていただきます』
「はい!よろしくお願いします!」
通信が終わった。
……三日後かぁ。
ずいぶん急だけど、アルフレッド殿下が来てくださるのは嬉しいな。
それにしても、婚礼の招待状以外に話したいことって、何だろう?
……まあ、まずは準備しないと!
◇
屋敷へ戻ると、俺はすぐにケーラを呼んだ。
「ケーラ!」
「はい。男爵様」
「三日後に、アルフレッド第一王子殿下がいらっしゃるんだ!」
「……第一王子殿下でございますか?」
「うん!一泊される予定なんだって!」
ケーラは少し驚いた様子だった。
でも、すぐにいつもの落ち着いた表情に戻った。
「承知いたしました。では、客室の準備を進めます」
「お願い!」
「随行される方々の人数は、おわかりでしょうか?」
「それが、まだなんだ。後から知らせてくれるって!」
「かしこまりました。人数がわかり次第、必要な部屋を整えます」
「ありがとう!」
ケーラは、早速準備することを紙に書き始めた。
客室の掃除。
寝具の確認。
食事の手配。
浴室の準備。
それから、随行者たちの宿泊場所や、王宮から来る警備担当者との打ち合わせも必要だ。
「……結構、やることが多いね」
「はい。ですが、三日あれば、必要な準備は整えられると思います」
「おお! 頼もしい!」
ケーラが微笑んだ。
「お食事については、王宮側にお好みやお召し上がりになれないものがないか確認しておきます」
「うん!よろしくね!」
……ケーラがいてくれて、本当によかったなぁ。
◇
「それにしても、ケーラ」
「はい?」
「この屋敷って、本当に広いよね」
「そうでございますね」
俺は廊下の先を見た。
この屋敷は、もともとこの地域の大商人が所有していた。
それを、後からグレイヴ家が買い取った。
商人の屋敷だっただけあって、来客を迎えるための部屋も多い。
グレイヴ家が使っていた頃も、大勢の客を迎えることがあったそうだ。
俺が男爵になって引き継いだときは、正直、広すぎると思っていた。
何しろ、あの頃は領地の財政が厳しかった。
屋敷の使用人も大幅に減らさなければならず、使っていない部屋もたくさんあった。
でも、今は違う。
ナディアはセルヴァン王国の王女だし、エドガーはアルスレイン王国の第二王子だ。
ガイルはベイルン家の嫡男で、セレナはヴァレスト公爵家の令嬢。
そんな人たちが滞在しても、十分に対応できる広さがある。
しかも、今回は第一王子殿下だ。
「……そう考えると、いい屋敷だね!」
「ありがとうございます」
ケーラが微笑んだ。
「今では、以前よりお客様をお迎えする機会も増えましたからね」
「そうだよね!」
研究者や商人が訪ねてくることもあるし、ほかの領地の貴族たちが来ることもある。
これから領地が発展すれば、もっと来客が増えるかもしれない。
……うん。
広い屋敷を残しておいて、よかったなぁ。
◇
「そういえば、ケーラ」
「はい?」
「これを機に、使用人をもう少し増やそうか?」
ケーラが顔を上げた。
「使用人でございますか?」
「うん!」
領主になったばかりの頃は、財政難のため、屋敷の人件費を大幅に削減した。
あの頃は、ケーラ一人にずいぶん負担をかけてしまった。
その後、領地の財政が改善してからは、必要に応じて手伝いに来てもらったり、少しずつ人を増やしたりしてきた。
でも、最近は来客も増えている。
今までの人数で十分なのかな?
「前にも、必要な人を増やしていこうって話したよね?」
「はい。覚えております」
「今はどう?人手は足りてる?」
ケーラは少し考えた。
「普段の生活については、今のところ大きな問題はございません」
「そっか!」
「ですが、今回のように王族の方をお迎えする場合には、やはり人手が必要になります」
「そうだよね」
「特に、客室の管理とお食事の準備を担当する者が、もう少しいれば助かります」
「なるほど!」
以前のように、必要以上の使用人を抱えるつもりはない。
でも、仕事が増えているのに、いつまでも少ない人数で頑張ってもらうのも違うと思う。
「じゃあ、今後のことも考えて、何人か採用しよう!」
「よろしいのでございますか?」
「もちろん!」
ケーラは少し驚いた顔をした。
「今の屋敷に必要な人数を、ケーラに考えてもらってもいいかな?」
「私が、でございますか?」
「うん!この屋敷のことは、ケーラが一番詳しいからね!」
「……ありがとうございます」
「もちろん、ローレンさんとも相談して、予算は決めよう!」
「承知いたしました」
それに、採用したあとのことも考えなければならない。
新しい使用人が来れば、仕事を教える必要がある。
「ケーラ。新しく来る人たちの仕事の分担や、教え方も考えてもらえるかな?」
「はい。お任せください」
「ありがとう!でも、ケーラだけで全部やろうとしないでね!」
「……ふふっ。かしこまりました」
ケーラが小さく笑った。
……あれ?
そういえば、俺も以前、何でも自分でやろうとして、ミラに注意されたことがあったな。
ケーラも、無理をしないでくれるといいが。
「それで、今回の殿下のご訪問については?」
「あっ!そうだね!」
「三日後ですので、まずは今お願いしている方々にも協力していただき、準備を進めます」
「うん!よろしく!」
新しい使用人を採用するには、時間がかかる。
身元や仕事の経験も確認したいし、王族を迎える仕事なら、礼儀作法も必要になる。
今回の訪問は、今いる人たちに協力してもらいながら対応しよう。
◇
「ところで、男爵様」
「何?」
ケーラが、少し言いにくそうに口を開いた。
「お庭のお片づけは、いかがいたしましょうか?」
「……庭?」
「はい」
……あっ。
「蒸気機関車のこと?」
「はい。あちらでございます」
屋敷の庭には、小さな蒸気機関車を走らせるための線路が敷かれている。
楕円形の線路だ。
その上に、一人乗りの小さな蒸気機関車が置かれている。
以前、ルッツさんたちと一緒に試験をしたものだ。
「第一王子殿下をお迎えするのでしたら、あちらも片づけておいた方がよろしいかと……」
「……うーん」
確かに、普通の貴族の屋敷の庭に、蒸気機関車なんて置いていないだろう。
それに、線路まで敷いてある。
改めて考えると、変わった庭だなぁ。
「でもさ、ケーラ」
「はい?」
「俺、アルフレッド殿下も興味を持つと思うんだよね!」
「……蒸気機関車に、でございますか?」
「うん!」
馬を使わずに、自分の力で走る乗り物。
初めて見る人は、きっと驚くと思う。
それに、アルフレッド殿下は国の将来を担う人だ。
こういう新しい技術を見てもらうのは、悪いことじゃないと思う。
「だから、線路と蒸気機関車は、そのままにしておこう!」
「……承知いたしました」
ケーラが小さく息をついた。
「それでは、周囲に置かれた工具や資材だけは片づけさせていただきます」
「あっ!それはお願い!」
「それから、蒸気機関車の状態も、ルッツ様に確認していただいた方がよろしいかと存じます」
「そうだね!」
せっかく見ていただくなら、動くところも見てもらいたい。
もちろん、実際に動かすかどうかは、ルッツさんに安全を確認してもらってからだ。
「じゃあ、明日ルッツさんに相談してみるよ!」
「かしこまりました」
ケーラが一礼する。
そして、部屋を出ようとしたところで、ふと足を止めた。
「……男爵様」
「何?」
「一つ、お伺いしてもよろしいでしょうか?」
「うん!」
「将来、このお庭の線路は、もっと増えるのでございましょうか?」
「……えっ?」
俺は少し考えた。
蒸気機関車は、これからもっと大きくする予定だ。
いずれは人や荷物をたくさん運べるようにしたい。
でも、大きな機関車の試験は、すでに別の場所で始めている。
「うーん。たぶん、庭の線路はこのままだと思うよ!」
「……本当でございますか?」
「うん!大きな機関車は別の場所で造ってるからね!」
ケーラが、ほっとしたように微笑んだ。
「それを伺って安心いたしました」
「……あはは」
そんなに心配してたんだ。
まあ、庭に突然線路を造ったんだから、そうなるよね。
◇
その日の夜。
俺は屋敷の窓から庭を眺めていた。
暗くなった庭には、小さな蒸気機関車が置かれている。
三日後には、アルフレッド殿下がこの屋敷にやって来る。
直接招待状を渡してくださるなんて、ありがたいなぁ。
それに、殿下にはほかにも話したいことがあるらしい。
……何だろう?
婚礼の準備に関することかな。
それとも、サハル王国との関係について?
最近は蒸気機関車や上水道の開発も進んでいるし、そういう話かもしれない。
……うーん。
考えても、今はわからないな。
俺は、庭の蒸気機関車に目を向けた。
そういえば、アルフレッド殿下は、まだこれを実際に見たことがないんだよね。
初めて見たら、どんな反応をするんだろう?
それも楽しみだな。
でも、やっぱり気になる。
アルフレッド殿下は、いったい何を話しに来るんだろう?
最後まで読んでいただきありがとうございます。
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