第634話 水を届ける準備
新連載もよろしくお願いします!
『平民出身の転生執事、最強王女を育成する』という作品です。
お手すきの際に是非!
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ヴァイスさんが磁石の授業をしてから、二週間が経った。
今日は、ヴァイスさんの奥さんが王都からやって来る日だ。
ヴァイスさんがハル領に移住してから、奥さんは王都の家の片づけなどを進めていた。
そして、ようやく引っ越しの準備が整ったらしい。
「ハル。これまでお世話になったな」
屋敷の玄関で、ヴァイスさんが頭を下げた。
「いえいえ。また遊びに来てください」
「そう言ってもらえるとありがたいな」
隣には、奥さんが立っている。
「夫がお世話になりました」
「とんでもないです!これからもよろしくお願いします!」
「こちらこそ、よろしくお願いいたします」
穏やかな笑顔の人だった。
「新しいお家は、もう見に行かれたんですか?」
ミラが尋ねた。
「ええ。先ほど案内していただきました。とても住みやすそうなお家ですね」
「よかったです!」
ヴァイスさんの新居は、領都の住宅街にある一軒家だ。
夫婦二人で暮らすには、十分な広さがある。
「ヴァイスさん。荷物の方は大丈夫ですか?」
「うむ。研究に必要なものは、政務所に置いてあるからな」
ヴァイスさんは、政務所の中にある、以前ルッツさんが使っていた部屋を研究室にしていた。
今はそこで、アノー山の苔や鉱石、蒸気機関に関する研究を進めてもらっている。
「そういえば、そのうち王都から新しい研究器具が届くんですよね?」
「ああ。王立研究所にいくつか依頼してある。以前の同僚たちにも相談しているところだよ」
「足りないものがあったら、遠慮なく言ってくださいね!」
「うむ。そうさせてもらおう」
鉱山開発や蒸気機関の研究については、これまでに資金調達したお金がある。
だから、その事業に必要な研究器具や材料は、そこから購入するようにしている。
もちろん、何でも好きなだけ買えるわけじゃない。
研究内容に応じて、予算はしっかり管理してもらう。
「それにしても、あなた」
奥さんがヴァイスさんを見た。
「こちらへ来てから、本当に楽しそうですね」
「そうかね?」
「ええ。手紙でも研究の話ばかりでしたもの」
「うむ。興味深いものが多くてな。調べたいことが次々に出てくるんだよ」
「ふふっ。王都にいた頃より、生き生きしているように見えます」
ヴァイスさんが少し照れたように笑った。
「まあ、これからもよろしく頼むよ」
「こちらこそ。でも、研究に夢中になって、食事を忘れないでくださいね」
「……気をつけよう」
……あはは。
奥さんには敵わないみたいだな。
「それじゃあ、ヴァイスさん。また政務所で!」
「ああ、ハル。研究室はこれまでどおりだからな。いつでも来てくれたまえ」
「はい!」
俺たちは、ヴァイスさん夫妻を見送った。
研究者としてだけでなく、一人の住民として、これからもこの領で暮らしてくれる。
そう思うと、嬉しかった。
◇
翌日。
政務所で仕事をしていると、ローレンさんがやって来た。
「リオン様。ハル子爵領から木材が到着いたしました」
「おお!もう届いたんだ!」
「はい。かなりの量でございます」
「じゃあ、見に行こう!」
俺はローレンさんと一緒に、領都の外に設けた資材置き場へ向かった。
「ピー!」
ピコもついてくる。
資材置き場に到着すると、木材を満載した荷馬車が何台も並んでいた。
太い丸太に、長く切りそろえられた板。
加工しやすい大きさに製材された木材もある。
「……すごい量だね!」
「はい。今後も順次、運んでいただく予定です」
「父上にもお礼を言わないとね!」
実は、上水道の測量が進んできた段階で、ローレンさんと木材の調達について相談していた。
アナハイムの方から領都の近くまでは、地面を掘って水路を造る予定だ。
でも、領都の中では、道路の下に水を通した方がいい。
そこで必要になるのが、木製の水道管だった。
「ローレンさん。大工さんたちの準備はどう?」
「すでに手配しております。まずは試作品の製作から始める予定です」
「うん。それがいいと思う!」
木製の水道管といっても、前世で見たような丸い管とは少し違う。
厚い板を組み合わせて、四角い管を造る予定だ。
それを地面の下に埋めて、水を流す。
前世の日本でも、こうした木製の水道管が使われていたはずだ。
「ただ、継ぎ目から水が漏れないようにしないとね」
「はい。そこは大工たちと相談してまいります」
「お願い!」
長い間、水に触れるものだから、丈夫さも重要だ。
木が反ったり、継ぎ目に隙間ができたりしたら困る。
まずは何種類か試作品を造って、実際に水を流して確かめることになった。
「ところで、ローレンさん」
「はい」
「この仕事、もっと多くの人に手伝ってもらえないかな?」
「と申しますと?」
「農村で、農作業の合間に働きたい人とか、年を取って定職に就いていない人とか」
水道管を造るには、かなりの人手が必要になると思う。
もちろん、細かい加工は熟練の大工さんにお願いしたい。
でも、それ以外にも仕事はたくさんあるはずだ。
「木材の仕分けや寸法の確認なら、教えてもらえばできる人もいると思うんだ」
「なるほど。職人の補助をしていただくわけですな」
「そう!もちろん、ちゃんと賃金も払ってね!」
農村の人たちにも、それぞれ忙しい時期がある。
だから、毎日働いてもらう必要はない。
都合のよい日に参加できるようにする。
「承知しました。希望者を募集してみましょう」
「うん!よろしく!」
◇
数日後。
俺は、木製水道管の製作を始めた工房を訪れていた。
中では大工たちが木材を加工している。
その周りには、新しく仕事を始めた人たちの姿もあった。
「男爵様!」
一人の年配の男性が声をかけてきた。
白髪交じりの髪をした、六十代くらいの人だ。
「こんにちは!仕事はどう?」
「こうしてまた働けるのは、ありがたいことです。」
男性の前には、加工された木材が並んでいた。
「今は、板の寸法や傷を確かめる仕事を任せていただいております」
「おお!大切な仕事だね!」
「はい。昔の経験も、少しは役に立つようです」
男性が嬉しそうに笑った。
「実は、孫がいるんですがね」
「お孫さん?」
「ええ。靴がだいぶ傷んでおりまして。今度、新しい靴を買ってやろうと思っているんです」
「……そっか!」
男性は少し照れたように頭をかいた。
「久しぶりに、自分の稼ぎで何かしてやれそうです」
……いいなぁ。
働くことって、生活費を稼ぐだけじゃない。
家族に何かしてあげたり、自分の経験を生かしたり。
そういう喜びもある。
「これからもよろしくね!」
「はい!こちらこそ、よろしくお願いいたします!」
すると、男性が一枚の板を手に取った。
「おや。この板は少し反っておりますな」
近くにいた若い大工が、板を受け取った。
「あっ、本当だ。ありがとうございます!」
「いえいえ。昔から、こういうものを見てきましたので」
……おお。
早速、経験が役に立ってる!
「リオン様。こちらもご覧ください」
別の大工が、俺を呼んだ。
作業台の上には、四角い木製の水道管が置かれていた。
「おお!もう試作品ができたんだね!」
「はい。これから水を流してみます」
大工たちは水道管を支え、片側から水を流し込んだ。
しばらくすると。
……ぽたっ。
板の継ぎ目から、水が漏れてきた。
「あっ……」
「やはり、まだ隙間がありますな」
大工が腕を組んだ。
「木材の合わせ方と、隙間を塞ぐ方法を工夫する必要がありそうです」
「うん。いろいろ試してみよう!」
最初から完璧なものができるとは思っていない。
でも、こうして問題を見つけながら、少しずつ改良していけばいいんだ。
工房では、大工たちと新しく雇われた人たちが、一緒に作業を進めていた。
上水道の建設は、まだ始まっていない。
それでも、すでに新しい仕事が生まれ、領民たちの暮らしを少しずつ変え始めている。
◇
さらに翌週。
政務所で仕事をしていると、ローレンさんが一枚の報告書を持ってやって来た。
「リオン様。上水道の測量が、一通り完了いたしました!」
「……えっ!?」
俺は思わず立ち上がった。
「本当!?」
「はい。取水候補地点までの予備測量が完了したとのことです」
「おお!やったね!」
領都からアナハイム方面へ測量を始めて、ずいぶん時間がかかった。
でも、ようやく全体の様子がわかってきた。
「それで、水は流せそう?」
「はい。取水候補地点の方が領都より高く、自然に水を流せる見込みでございます」
「よかった!」
ビダン山の北、アナハイムの南にある取水候補地点から領都の端までの距離は四十キロくらいある。
そこを、できるだけ自然の高低差を利用して水を流す予定だ。
「ただ、まだ詳しく調べる必要がある場所もございます」
「そうなの?」
「はい。地盤の弱い区間や、川を横切る場所などでございます」
ローレンさんが地図を広げた。
そこには、測量したルートが線で描かれている。
「ここは少し迂回した方がよさそうですな」
「うん。無理に真っすぐ造る必要はないもんね」
「はい。今後は、実際に水路を造る高さや、必要な補強について詳しく調べてまいります」
……なるほど。
測量が終わったからといって、すぐに全区間を掘り始められるわけじゃない。
「じゃあ、工事はまだ先かな?」
「いえ。比較的条件のよい区間については、工事を始められる見込みです」
「本当!?」
「はい。まずは短い区間で、水路の形や補強方法を確認するのがよいかと存じます」
「それがいいね!」
最初から全部を造ろうとする必要はない。
短い水路を造り、実際に水を流して確かめる。
問題があれば、次の工事に生かせばいい。
「でも、かなりの人手が必要になるよね?」
「はい。専門の職人に加えて、大勢の作業員が必要になるでしょう」
「そっか……」
今は道路工事も進めているし、木製水道管の製造も始まった。
職人たちを、いろいろな仕事で取り合うようなことにはしたくない。
「ローレンさん。騎士団にも手伝ってもらえないかな?」
「騎士団ですか?」
「うん。もちろん、警備や訓練に支障がない範囲でだけど」
今、領都にはハル領騎士団だけでなく、ガイルたちベイルン騎士団も滞在している。
レイ湿原の整地でも、騎士たちに手伝ってもらった。
「ガイルたちにも相談してみるよ!」
「承知しました」
◇
昼食のとき、俺はガイルに上水道の工事について相談した。
「おお!測量が終わったのか!」
「うん!それで、騎士団にも工事を手伝ってもらえないかなって」
「はっはっは!もちろんだ!」
「本当!?」
「ああ!石や土を運ぶのも、いい訓練になるだろう!」
……ガイルらしいなぁ。
「でも、ガイル。騎士団の訓練もあるでしょ?」
「うむ。そこは調整せねばならんな」
ガイルが腕を組んだ。
「全員を一度に工事へ出すわけにはいかん」
「そうだね」
「ハガーやコディーたちとも相談して、交代で参加させよう。ベイルン騎士団の方も、訓練の予定を確認しておくぞ!」
「ありがとう!」
ベイルン騎士団は、あくまでガイルの領地から来てくれている騎士たちだ。
だから、無理に工事へ参加してもらうつもりはない。
ガイルが訓練の一環として協力してくれるなら、本当に助かる。
「工事の進め方は、専門の職人さんたちに任せるつもりなんだ」
「ああ!」
「騎士団には、重い資材の運搬とか、掘った土を運ぶ仕事をお願いしたいな」
「任せておけ!」
……頼もしいなぁ。
「それにしても、リオンさん」
ナディアが微笑んだ。
「これほど長い水路を造るなんて、本当に大きな事業ですね」
「そうだね!完成したら、領都の人たちがきれいな水を使いやすくなると思うんだ」
「素晴らしいことです」
すると、ミラが尋ねてきた。
「リオン。水路って、全部地面の下に造るの?」
「ううん。領都の近くまでは、地面を掘った水路で運ぶ予定だよ」
「そこからはどうするの?」
「町の中では、今造ってもらっている木製の水道管を使うんだ」
「なるほど!だから木材をたくさん運んでもらったんだね!」
「そういうこと!」
……ただ、飲み水として使うなら、水の安全性も考えなければならない。
そこは、ヴァイスさんにも相談しておきたいな。
◇
午後。
俺は政務所にあるヴァイスさんの研究室を訪れた。
コンコン。
「ヴァイスさん、入ってもいいですか?」
「おお、ハルか。ちょうどよいところだ。入ってくれ」
「失礼します!」
「ピー!」
ピコも元気よく鳴いた。
部屋の中には、研究器具や小瓶、たくさんの記録が並んでいた。
棚の上には、青緑色の苔が入った箱も置かれている。
「今日も苔の研究ですか?」
「ああ。実は、面白い結果が出たところでな」
「おお!何かわかったんですか?」
「うむ。まずは、これを見てくれたまえ」
ヴァイスさんが、二つの箱を机の上に並べた。
片方には湿らせた石。
もう片方には、同じような石の表面に青緑色の苔が広がっている。
「……あれ?」
「気づいたかね?」
「これって、アノー山の苔ですよね?」
「そのとおりだ」
ヴァイスさんが嬉しそうに頷いた。
「この苔は、アノー山から少量持ち帰ったものなんだ」
「えっ!?こんなに増えたんですか?」
「ああ。ここで育てたものだよ」
……おお!
それはすごい!
「アノー山以外でも育つんですね!」
「うむ。少なくとも、適した環境を用意すれば繁殖することは確認できた」
「どんな環境なんですか?」
「湿り気があり、強い日差しが当たりすぎない場所だ。ただし、乾燥させたり、水に沈めたままにしたりすると、増え方が悪くなった」
「なるほど!」
これなら、アノー山から毎回大量の苔を運んでくる必要はないかもしれない。
領都の近くで増やせるようになれば、利用できる場所も広がるはずだ。
「それで、もう一つの結果なんだが……」
ヴァイスさんが、机の上に記録を広げた。
「以前から、苔が水に与える影響を調べていただろう?」
「はい!」
「同じ場所で採った水を分け、一方だけ苔を使って処理してみたんだ」
「どうなったんですか?」
「苔を使った方では、濁りが減った。それに、いくつかの金属成分についても、少なくなっている兆候が見られた」
「……本当ですか!?」
「ああ。詳しい分析は王立研究所にも依頼してあるが、今のところはよい結果だよ」
……すごい!
アノー山の苔には、水をきれいにする力がある。
それが、領都での実験でも確かめられ始めたんだ。
「それなら、上水道にも使えそうですね!」
「うむ。ただし、水路にそのまま苔を広げるのは避けた方がよいだろうな」
「どうしてですか?」
「繁殖力が強いからだよ。水路を塞いでしまう可能性がある」
「……ああ!」
そうか。
水路の中が苔だらけになったら、水が流れにくくなってしまう。
「だから、水路とは別に、苔で水を処理する場所を設けるのがよいと思う」
「専用の池みたいなものですか?」
「ああ。水の流れを調整し、苔が増えすぎたら取り除けるようにするんだ」
「なるほど!」
それなら管理もしやすそうだ。
「それと、苔が吸収したものが内部に残るなら、取り除いた苔の処分方法も考えなければならん」
「そうですね!」
苔を使った後のことまで考える必要がある。
「ヴァイスさん。その水なら、飲み水にも使えますか?」
「可能性はある。ただ、今の結果だけで安全に飲めるとは言えないな」
「そうなんですか?」
「ああ。目に見えない病の原因まで取り除けるかは、まだわからない」
……確かに。
水が透明だからといって、安心して飲めるわけじゃない。
「それなら、ほかの方法も組み合わせた方がよさそうですね」
「うむ。砂や石を使って水をろ過することも考えているところだよ」
……いいなぁ。
いろいろな方法を組み合わせれば、より安全な水を届けられるかもしれない。
「それと、農業にはどうでしょう?」
「農業かね?」
「はい!レイ湿原の米作りや穀倉地帯や畑にも使えたらと思って!」
すると、ヴァイスさんが微笑んだ。
「実は、その可能性についても少し調べているんだ」
「えっ!?」
「苔で処理した水と、そうでない水を使って、植物の育ち方を比べていてね」
「おお!」
「今のところ、苔で処理した水を使ったものも問題なく育っている。条件によっては、こちらの方が育ちのよいものもあるんだ」
「本当ですか!?」
「ああ。ただ、まだ小さな実験だよ。水以外の条件が影響している可能性もある」
「なるほど」
「それに、稲がよく育つかどうかは、実際に試してみなければわからない。必要な養分まで取り除いてしまっては困るからな」
……そっか。
水がきれいなら、必ず作物がよく育つというわけではない。
「だったら、アーロンたちにも協力してもらいましょう!」
「うむ。水の温度や肥料の条件もそろえて比較すると、面白い結果が得られるかもしれんな」
「はい!」
「それから、ハル」
「はい?」
「この苔は、使い終わった水をきれいにするのにも役立つかもしれん」
「……使い終わった水?」
「ああ。鉱山から流れ出る水や、町で使われた後の水だよ」
「おお!」
排水処理だ!
「鉱山で採取した水でも、小規模な実験を行っている。こちらでも、一部の成分が減っている兆候が見られた」
「それはすごいですね!」
「うむ。ただ、すべての汚れを取り除けるわけではない。さらに詳しく調べる必要があるだろうな」
「もちろんです!」
でも、これは大きな可能性があると思う。
上水道で、きれいな水を届ける。
そして、使い終わった水も処理する。
もし両方で苔が役に立つなら、領都の衛生環境は大きく改善するかもしれない。
「ヴァイスさん。研究を続けてもらえますか?」
「もちろんだよ」
ヴァイスさんが楽しそうに笑った。
「まだ調べたいことが山ほどあるからな」
「ありがとうございます!」
……やっぱり、ヴァイスさんに来てもらえてよかったなぁ。
◇
研究室を出た後、俺はローレンさんのもとへ向かった。
「ローレンさん!」
「はい。どうされました?」
「上水道の計画に、追加で検討したいものがあるんだ」
「何でございましょう?」
「水をきれいにするための施設だよ」
俺は、ヴァイスさんから聞いた研究結果を説明した。
アノー山の苔が、領都でも繁殖したこと。
水に含まれる一部の不純物を減らせる可能性があること。
そして、農業用水や排水の処理にも応用できそうなこと。
「なるほど。それは興味深い研究ですな」
「うん!だから、領都の近くに専用の施設を造れたらと思ってるんだ」
「配水池の近くに設けることも考えられますな」
「そうだね!」
ただし、まだ研究は始まったばかりだ。
今すぐ大きな施設を造るつもりはない。
まずは、水路を完成させることが先だろう。
「苔の研究はヴァイスさんに続けてもらって、設備の方は結果を見ながら考えよう!」
「承知しました」
「それから、木製水道管の試作も引き続きお願い!」
「はい」
ローレンさんが地図を広げた。
「それでは、水路の試験工事についても、職人たちと具体的な計画を進めてまいります」
「うん!よろしく!」
これで、上水道の建設に向けた準備が整い始めた。
……と思った、そのときだった。
「リオン様。もう一点、ご相談がございます」
「ん?」
ローレンさんが、地図の一か所を指さした。
「実は、測量を終えた職人たちから、気になる報告がありまして……」
「どんな?」
「ここでございます」
指さした場所には、一本の小さな川が描かれていた。
「この場所では、川が周囲の土地より低いところを流れております」
「……うん」
「予定している高さのまま水路を延ばすと、この川を越えなければならないのです」
「……えっ?」
俺は地図を覗き込んだ。
水源から領都までの高低差には問題がない。
でも、途中にこういう場所がある。
「迂回するのは?」
「それも検討しております。ただ、迂回すると距離が延び、ほかの土地も調べ直す必要がございます」
「そっか……」
「職人たちからは、水路を川の上に通す方法も考えられると報告を受けております」
……川の上に?
俺は、もう一度地図を見た。
確か、前世にもそんな構造物があったような……。
水路を支える橋。
水道橋だ。
この水路事業の中で、初めて具体的な難所が見えてきた。
……これは、職人さんたちとじっくり相談しないといけないな。
俺は地図に描かれた小さな川を見つめながら、これから始まる工事のことを考えていた。
最後まで読んでいただきありがとうございます。
作者は大学時代にお茶の水や水道橋あたりをうろついてました。
あれから〇〇年。水道橋、神田川とかのルーツを知ることになるとは……。




