第633話 不思議な石
新連載もよろしくお願いします!
『平民出身の転生執事、最強王女を育成する』という作品です。
お手すきの際に是非!
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ガイルとナディアに蒸気機関車を見せてから、一週間が過ぎた。
レイ湿原やビダン山で訓練していた騎士たちも、すでに領都へ戻ってきている。
ガイルは毎日のように騎士団の訓練に参加し、ベイルン騎士団とハル領騎士団の合同訓練を続けていた。
一方、ミラはナディアから回復魔法を教わっている。
ナディアは回復魔法が得意だ。
ミラも何とか使えるようになりたいと、熱心に練習している。
そして俺は。
「リオン様。こちらの書類もお願いいたします」
「うん!」
今日も政務所で仕事をしていた。
机の上には、確認しなければならない書類が積まれている。
俺の隣では、ピコが暇そうにしている。
「ピー」
「もう少しで終わるからね!」
俺は書類に目を通し、必要なところに署名していく。
ローレンさんにも確認してもらいながら、午前中の仕事を進めた。
「……よし!」
最後の書類を片づけ、俺は大きく伸びをした。
「これで午前中の分は終わりかな?」
「はい。お疲れさまでした」
ローレンさんが微笑んだ。
「午後はいかがなさいますか?」
「学校に行ってみようと思うんだ」
「学校ですか?」
「うん。今日はヴァイスさんが授業をするんだよね?」
「はい。その予定でございます」
「それなら、ちょっと見学してこようかな」
ヴァイスさんが子どもたちに、どんなことを教えているのか気になっていた。
「ピー!」
ピコも元気よく鳴いた。
「ピコも行きたい?」
「ピー!」
「じゃあ、一緒に行こう」
◇
昼食は、屋敷でガイルたちと一緒に取ることにした。
「リオン!今日もいい訓練ができたぞ!」
席に着くなり、ガイルが嬉しそうに言った。
「そうなの?」
「ああ!」
「それはよかった!」
ベイルン騎士団は実戦経験が豊富だ。
「ミラはどうだった?」
俺が尋ねると、ミラが少し困ったように笑った。
「うーん。回復魔法って、思っていたより難しいね」
「そうなの?」
「うん。まだうまく調整できなくて……」
「でも、少しずつ上達されていますよ」
ナディアが優しく微笑んだ。
「ミラさんは魔力の扱いがお上手ですから、慣れればきっとできるようになります」
「本当?」
「はい。ただ、回復魔法は相手の状態をよく見て、慎重に魔力を使う必要があるんです」
「なるほどね」
同じ魔法でも、攻撃と治療では勝手が違うんだろうな。
「午後も練習するの?」
「うん!」
「私も楽しみです」
ナディアが頷いた。
「リオンは午後、何をするんだ?」
ガイルが尋ねてきた。
「政務所内の学校を見に行こうと思ってるんだ」
「学校か!」
「うん。今日はヴァイスさんが先生なんだって」
「おお!子どもたちに何を教えるのか、気になるな!」
「そうそう」
ガイルは午後も騎士団の訓練。
ミラとナディアは回復魔法の練習。
そして俺は、ピコと一緒に学校を見学することになった。
◇
午後。
俺は政務所内に設けられた学校へ向かった。
「ピー!」
「今日は静かにしてようね」
「ピー!」
教室へ近づくと、中から子どもたちの声が聞こえてきた。
そっと覗いてみる。
十人ほどの子どもたちが、机に向かって座っていた。
その前に立っているのは、ヴァイスさんだ。
「さて、みんな。今日は少し変わった石の話をしよう」
……おお。
何だか面白そうだな。
俺は邪魔にならないよう、教室の後ろへ入った。
ヴァイスさんがこちらに気づき、軽く頷く。
俺も小さく頭を下げた。
ピコを膝に乗せ、空いている椅子に腰を下ろす。
……さて。
どんな授業なんだろう。
◇
「みんなは、魔石というものを知っているかね?」
ヴァイスさんが尋ねた。
「はい!」
子どもたちが元気よく答える。
「では、どんな魔石があるかな?」
「共鳴石です!」
一人の少年が手を上げた。
……あっ。
ジレンだ。
以前、リバーシの大会で優勝した少年だね。
相変わらず、授業でも積極的みたいだ。
「うむ。共鳴石は、離れた場所と連絡を取るために使われているね」
「はい!」
「ほかには?」
「青輝石!」
今度は別の子どもが答えた。
「そうだね。青輝石は、町の街灯にも使われている」
ヴァイスさんが頷いた。
「こうした石は、魔力の性質を利用して役立てられているんだ」
……うん。
共鳴石通信機も、青輝石の街灯も、今の生活には欠かせないものになっている。
「では、魔力を利用しない石や鉱物には、どんなものがあるだろう?」
ヴァイスさんは、机の上に赤みがかった金属の塊を置いた。
「これは何かわかるかな?」
「……鉄?」
「惜しい。これは銅だよ」
ヴァイスさんが微笑んだ。
「アーシタ山では、こうした銅の原料になる鉱石が採れる。銅は道具や機械の部品など、いろいろなものに使えるんだ」
続いて、黒い塊を取り出した。
「では、これは?」
「石炭です!」
「うむ。よく知っているな」
ヴァイスさんが頷く。
「リンクス山で採れる石炭は、燃やすことで熱を得られる。蒸気機関を動かすためにも使われている」
「先生!」
「何だね?」
「石炭も鉱石なんですか?」
「よい質問だ」
ヴァイスさんが石炭を持ち上げた。
「石炭は地中から採れる資源だけれど、銅のような金属を取り出すための鉱石とは少し違う。石炭は主に燃料として利用されている」
「へえ!」
子どもたちが感心したように声を上げた。
「つまり、地中から採れるものにも、いろいろな種類があるということだ」
……なるほど。
石を紹介するだけじゃなく、それぞれの使い道まで教えているんだ。
◇
「さて、次はこれを見てもらおう」
ヴァイスさんが、小さな黒い石を取り出した。
表面は少しごつごつしている。
「これは磁石という石だよ」
磁石か……。
「磁石は、ヴァレスト公爵領やラウグレン公爵領でも採れる。みんな、名前を聞いたことはあるかな?」
「あります!」
「方位磁針に使う石ですよね!」
ジレンが答えた。
「そのとおりだ。方位磁針には磁石の性質が利用されている。ほかにも、この性質を利用した道具がある」
ヴァイスさんが微笑んだ。
「今日は、その不思議な性質を実際に見てもらおう」
机の上に、鉄の釘が数本置かれた。
ヴァイスさんが磁石を近づける。
すると。
カチッ。
釘が磁石にくっついた。
「わあっ!」
子どもたちが歓声を上げた。
「すごい!」
「釘が動いた!」
実際に見ると驚くよね。
「さて、みんな」
ヴァイスさんが磁石を持ち上げた。
「この石は、魔石だと思うかね?」
「魔石だと思います!」
「だって、釘が勝手に動きました!」
何人かの子どもたちが答えた。
すると、ジレンが手を上げた。
「先生!」
「何だね、ジレン君?」
「魔力を使っていなくても、釘が動くことはあるんですか?」
「ほう。どうしてそう思ったのかな?」
「方位磁針も磁石を使っているって聞きました。でも、魔力を入れなくても方角がわかるんですよね?」
……おお。
よく考えているなぁ。
「そのとおりだよ」
ヴァイスさんが嬉しそうに頷いた。
「この磁石は、魔力を使わずに鉄を引き寄せるんだ」
「……えっ!?」
子どもたちが驚いた。
「魔法じゃないんですか?」
「そう。自然の中には、魔力を使わなくても不思議な性質を持つものがある」
ヴァイスさんは磁石を机の上に戻した。
「磁石も、その一つ」
……うん。
いい授業だなぁ。
◇
「先生!」
そのとき、教室の後ろの方から声が上がった。
「何だね?」
一人の少年が、勢いよく手を上げている。
年齢は十一歳くらいだ。
少し日に焼けた顔をした少年だった。
「どうしたのかな、モス君?」
「先生! 鉄がくっつくんですよね?」
「そうだよ」
「じゃあ、銅もくっつくんですか?」
……おっ。
いい質問だな。
「それは面白いね。では、試してみよう」
ヴァイスさんは、先ほどの銅の小片を取り出した。
そこへ磁石を近づける。
しかし。
……何も起こらない。
「あれ?」
モスが首を傾げた。
「くっつかない……」
「そうなんだ。普通の磁石は、銅を鉄のようには引き寄せないんだよ」
「……同じ金属なのに?」
「うむ。金属にもいろいろな種類がある」
モスは、不思議そうに銅を見つめていた。
「先生!」
「何だね?」
「僕もやってみていいですか?」
「もちろんだよ」
ヴァイスさんが磁石を手渡した。
モスは嬉しそうに受け取ると、まず鉄の釘に近づけた。
カチッ。
「……くっついた!」
今度は銅に近づける。
しかし、やっぱりくっつかない。
「……何でだろう?」
モスは何度も試している。
「モス君」
ヴァイスさんが声をかけた。
「どんな違いがあったかな?」
「鉄はくっつくけど、銅はくっつきません!」
「そのとおりだ」
「先生!」
「うむ?」
「じゃあ、ほかの金属はどうなんですか?」
「よい質問だね。種類によって違うんだよ」
「全部、試してみたいです!」
……おお。
すごい好奇心だな。
ヴァイスさんも楽しそうに笑った。
「それなら、次の機会にいろいろ用意しておこう」
「はい!」
◇
その後も、授業は続いた。
子どもたちは順番に磁石に触れ、その不思議な性質を確かめている。
すると、モスが一枚の紙を手に取った。
「先生!」
「どうしたのかな?」
「この紙を間に挟んだら、鉄はくっつかなくなるんですか?」
面白いところに気づいたな。
ヴァイスさんが微笑んだ。
「どうなると思うかね?」
「うーん……」
モスが考え込む。
「紙があるから、くっつかないと思います!」
「そうか。では、試してごらん」
「はい!」
モスは机の上に鉄の釘を置き、その上に紙を重ねた。
そして、紙の上から磁石を近づける。
すると。
カチッ。
紙の下で、釘が動いた。
「……えっ!?」
モスが目を丸くした。
「動いた!」
子どもたちが一斉に身を乗り出す。
「本当だ!」
「紙があるのに!」
みんな驚いてるなぁ。
「先生!どうして紙があるのに動くんですか!?」
モスが興奮した様子で尋ねた。
「磁石の力は、触れていない鉄にも働くんだ」
「……触ってないのに?」
「そうだ」
モスは、しばらく磁石と紙を交互に見つめていた。
そして。
「先生!じゃあ、もっと離したらどうなるんですか?」
また新しい疑問だ。
「それも試してみようか」
「はい!」
モスは紙を取り除き、磁石を釘から少し離した。
釘が動く。
さらに離してみる。
……動かない。
「あれ?」
もう一度、磁石を近づける。
カチッ。
「……あっ!」
モスが嬉しそうに声を上げた。
「先生!近いと動くけど、遠いと動かないんですね!」
「うむ。よく気づいたね」
ヴァイスさんが頷いた。
「磁石の力は、距離が離れるほど弱くなるんだ」
「へえ!」
モスは夢中になって、磁石を近づけたり離したりしていた。
その隣では、ジレンが紙に何かを書いている。
「何を書いているのかな、ジレン君?」
「今日わかったことをまとめています!」
「ほう」
「鉄はくっつく。銅はくっつかない。紙を挟んでも動く。それから、遠くなると動かなくなる……」
さすがジレンだな。
ヴァイスさんが嬉しそうに微笑んだ。
「よく整理できているな」
「ありがとうございます!」
すると、モスがジレンの紙を覗き込んだ。
「……ジレン、すごいな」
「何が?」
「僕、そんなに早く書けないよ」
「でも、モスがいろいろ試してくれたから、わかったことだよ」
……いいなぁ。
二人とも、違ったところが得意みたいだ。
◇
「さて、今日はこのくらいにしよう」
ヴァイスさんが声をかけた。
子どもたちが一斉に顔を上げる。
「最後に、みんなに一つだけ覚えておいてほしいことがある」
ヴァイスさんは磁石を手に取った。
「この石が鉄を引き寄せることは、以前から知られている。方位磁針にも利用されている」
「はい!」
「しかし、なぜ鉄が引き寄せられるのか。その仕組みについては、まだわからないことも多い」
モスが手を上げた。
「先生にも、わからないんですか?」
「もちろんだ」
ヴァイスさんが笑った。
「私にも、わからないことは山ほどある」
「……そうなんだ」
「だからこそ、調べるんだ」
ヴァイスさんは、子どもたちを見渡した。
「何かを見て、不思議だと思う。そして、自分で確かめてみる。そうやって、少しずつ新しいことがわかっていく」
子どもたちは真剣に話を聞いている。
「知らないことを恥ずかしがる必要はない。大切なのは、知ろうとすることだ」
「はい!」
いいことを言うなぁ。
俺まで勉強になった気分だ。
◇
授業が終わり、子どもたちが教室を出ていく。
俺はピコを抱き上げ、ヴァイスさんのところへ向かった。
「ヴァイスさん!」
「おお、ハル。どうだった?」
「はい!とても面白い授業でした!」
「そう言ってもらえると嬉しいな」
ヴァイスさんが微笑んだ。
「子どもたちが熱心で、私も教えるのが楽しいよ」
「ジレン、すごいですね」
「ああ。あの子は、聞いたことを整理するのが本当に上手だ」
「はい!」
「それに……」
ヴァイスさんが教室の方を見た。
そこには、まだ磁石を眺めているモスの姿があった。
「あの子も面白い」
「モスですか?」
「うむ」
ヴァイスさんが頷いた。
「答えを聞くだけでは満足せず、自分で確かめようとしていた」
「そうですね!」
「勉強が得意な子もいれば、実物に触れることで理解を深める子もいる」
ヴァイスさんが嬉しそうに笑った。
「みんな、違っていていいんだよ」
確かにそうだ。
ジレンにはジレンの得意なことがある。
モスにはモスの得意なことがある。
それぞれのよさを伸ばしてあげられたら良い。
「ヴァイスさんは、いい先生ですね!」
「ははは。まだまだ勉強中だよ」
「えっ?」
「研究者としては長くやってきたが、子どもたちに教えるのは新鮮だ」
ヴァイスさんが微笑んだ。
「こちらが教えているつもりでも、子どもたちに気づかされることがある」
「なるほど!」
……うん。
ヴァイスさんに来てもらえて、本当によかったなぁ。
◇
俺は、机の上に置かれた磁石を見つめた。
……そういえば。
磁石って、前世ではもっといろいろなことに使われていた。
例えば、モーター。
電気と磁石の力を利用して、回転させていた記憶がある。
それに、磁石と銅線を組み合わせて動かすことで、電気を作ることもできたはずだ。
たぶん。
詳しい仕組みはわからない。
石炭を燃やして蒸気の力で機械を回せば、火力発電もできるはずだ。
でも、蒸気機関をうまく使えば発電所とかも作れたはずだ。
前世では、電気なんて当たり前に使っていた。
でも、いざ一から作ろうとすると、わからないことばかりだ。
そもそも、電球ってどうやって作るんだろう?
ガラスの中に細い線が入っていたのはわかるが……。
何の材料を使えばいいのかさえわからない。
「ハル?」
ヴァイスさんが声をかけてきた。
「どうした?」
「あっ、いえ!磁石って、面白いなと思って!」
「そうだろう?」
ヴァイスさんが笑った。
「身近なものにも、まだ知らないことはたくさんある」
「本当にそうですね!」
俺には電気のことを詳しく説明できない。
まして、今すぐ発電機やモーターを作るなんて無理だろう。
でも、ヴァイスさんのような研究者がいる。
ルッツさんのような職人もいる。
そして、今日の子どもたちのように、新しいことに興味を持つ人もいる。
いつか、俺が知らないものまでみんなが作ってくれる日が来るのかもしれない。
教育、研究への投資はどんどんやっていこう。
◇
「先生!」
そのとき、モスが駆け寄ってきた。
「おや、モス君。どうした?」
「僕、もっと磁石のことを調べてみたいです!」
「そうか。それはいいことだ」
「学校が終わったあとでも、いろいろ試していいですか?」
「もちろん。ただし、安全な方法で行うこと。それから、もう一つお願いがある」
「何ですか?」
「試したことを、きちんと書き残してほしい」
「……書き残す?」
「そう。何を試して、どうなったのか。記録しておけば、あとから比べることもできる」
モスが大きく頷いた。
「やってみます!」
「うむ。楽しみにしているぞ」
ヴァイスさんが嬉しそうに笑った。
モスは磁石をもう一度眺めると、大切そうに机の上へ戻した。
新しいことを知って、もっと知りたくなる。
そして、自分で確かめようとする。
そういう子どもたちが、これからもっと増えてくれたら嬉しいな。
「ピー!」
ピコが俺の腕の中で元気よく鳴いた。
「ピコも楽しかった?」
「ピー!」
俺は笑いながら、ヴァイスさんとモスを見た。
最後まで読んでいただきありがとうございます。
王立研究所の所長だった人に教えてもらうなんて、リオンの領の子供たちは贅沢だと思います。
リオン、ミラ、ガイル、ナディアもなんか授業やればいいのに。
うーん、やってもらうか。




