第631話 二人の怪物
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ガイルとイレーナさんが手合わせをすることになった。
さすがに町の通りで戦うわけにはいかないので、俺たちは町外れの広い空き地へ移動した。
周囲には、話を聞きつけた冒険者や町の人たちが集まっている。
ガルセゾン団の人たちも、何人か見に来ていた。
「おお!なかなか広い場所じゃないか!」
ガイルが嬉しそうに言った。
「ここなら、多少暴れても大丈夫だろう?」
イレーナさんが笑う。
「多少ならね!」
……多少で済むのかなぁ。
ちょっと心配だ。
ガウマンさんたちは、見物人が近づきすぎないようにしてくれていた。
ガイルは背負っていた大剣を外し、地面に置いた。
イレーナさんも腰の剣を外す。
「素手でいいのかい?」
「ああ!その方が面白そうだ!」
「ふふっ。いいねえ」
二人が向き合った。
……大きいなぁ。
イレーナさんも女性としては相当大きい。
たぶん百八十センチを超えていたはずだ。
でも、そのイレーナさんより、ガイルはさらに大きかった。
二メートル近い巨体。
しかも、全身が鍛え上げられている。
二人が並んでいるだけで、ものすごい迫力だ。
「ねえ、リオン」
隣にいたミラが声をかけてきた。
「何?」
「リオンは、どっちが勝つと思う?」
「……うーん」
難しい質問だなぁ。
俺はガイルとも、イレーナさんとも戦ったことがある。
「単純な力なら、間違いなくガイルだと思うよ」
「そんなに?」
「うん。ガイルの力は本当にすごいからね」
あの大剣を振り回す腕力だけじゃなく、速さも反応も普通じゃない。
「でも、イレーナさんもすごいんだよ」
「どういうこと?」
「相手が動く前から、攻撃を読んでいるみたいなんだ」
「……動く前から?」
「うん。俺が攻撃しようとしたときには、もう避け始めていることがあったんだ」
あのときは、本当に手も足も出なかった。
「それじゃあ、イレーナさんが有利なのかな?」
「いや、それもわからないんだ」
「どうして?」
「ガイルはガイルで、危険を察知する感覚がものすごく鋭いからね」
ただ力任せに戦っているわけじゃない。
相手の動きや気配を、本能的に感じ取っているようなところがある。
「だから、正直、俺にも予想できないよ」
「そっか……」
ミラが二人を見つめた。
ナディアも興味深そうにしている。
「お相手の方も強そうですね」
「うん!」
……さて。
どうなるんだろう。
◇
「それじゃあ、始めようか」
イレーナさんが軽く両手を上げた。
「おう!」
ガイルも構える。
周囲が静かになった。
……あれ?
二人とも動かない。
……。
しばらくすると、イレーナさんが口を開いた。
「どうしたんだい?来ないのかい?」
「……うーん」
ガイルが珍しく考え込んでいる。
「何だか、お前には何をやっても避けられそうな気がするんだよな!」
「……へえ?」
イレーナさんの目が、わずかに細くなった。
「面白いことを言うじゃないか」
「はっはっは!何となくだけどな!」
……おお。
やっぱり、ガイルは何か感じているんだ。
「それなら、こっちから行くよ!」
イレーナさんが踏み込んだ。
速い!
次の瞬間、長い脚がガイルの胴へ向かって伸びた。
ドンッ!
鈍い音が響いた。
「……おお!」
ガイルが嬉しそうに声を上げた。
……えっ?
ガイルは、その場からほとんど動いていなかった。
まともに蹴りを受けたはずなのに。
「いい蹴りだな!」
「……は?」
イレーナさんが目を丸くした。
「姉上くらい強いんじゃないか!?」
……いや。
姉上って、そういう比較で出てくる人なの?
イレーナさんは、すぐに距離を取った。
「……あんた、何を食ったらそんなに硬くなるんだい?」
「はっはっは!よく食べて、よく鍛えて、よく勉強しているだけだ!」
「それで済む話かねえ……」
イレーナさんが呆れたように笑った。
……わかるなぁ。
俺もガイルと戦ったとき、何度もそう思った。
「よし!今度は俺の番だな!」
ガイルが構え直した。
その瞬間。
……空気が変わった。
さっきまで豪快に笑っていたガイルが、まっすぐイレーナさんを見つめている。
「行くぞ!」
ドンッ!
ガイルが地面を蹴った。
……速っ!
あの巨体が、一瞬で間合いを詰める。
そして、右の拳が振り抜かれた。
まともに受けたら、大変なことになるぞ!
ところが。
イレーナさんは、その拳が放たれる直前から動いていた。
ガイルの右側へ滑り込むように身をかわす。
ブンッ!
巨大な拳が空を切った。
その勢いで、イレーナさんの髪が大きく揺れる。
……すごい。
あの速さの攻撃を避けたんだ。
しかも、イレーナさんはそこで止まらなかった。
ガイルの脇腹へ、鋭い拳を叩き込む。
ドスッ!
「おお!」
ガイルが声を上げた。
「いい拳だな!」
「……効いてないのかい?」
「はっはっは!まだまだいけるぞ!」
……あはは。
すごいな、二人とも。
◇
「おおおっ!」
周囲から歓声が上がった。
「何だ、今の!?」
「ガイルって人、全然動かなかったぞ!」
「いや、それよりイレーナだ!あんな拳を避けるのかよ!」
冒険者たちが興奮している。
ガウマンさんも腕を組み、真剣な表情で見つめていた。
「……やっぱり、とんでもねえな」
どっちのことを言っているんだろう。
たぶん、両方かな。
再びガイルが踏み込む。
今度は左から拳を振るった。
イレーナさんは、また攻撃が始まる前に動いている。
普通なら、あんなに早く反応できるはずがない。
でも、ガイルも黙ってはいなかった。
「おおっ!」
左の拳を避けられると、そのまま体を回して右腕を伸ばす。
イレーナさんが後ろへ跳んだ。
さらにガイルが前へ出る。
……速い!
相手が避ける方向へ、どんどん踏み込んでいく。
イレーナさんも、少しずつ余裕がなくなっているように見えた。
「……やるじゃないか!」
「はっはっは!お前もな!」
ガイルが大きく腕を振った。
イレーナさんが身を沈める。
その頭上を拳が通り過ぎた。
次の瞬間、イレーナさんがガイルの腹へ拳を打ち込む。
ドンッ!
……でも。
「おお!いいぞ!」
ガイルは、やっぱり平気そうだった。
「……まったく!」
イレーナさんが笑う。
「本当に人間かい、あんた!」
「はっはっは!よく言われるぞ!」
……。
だろうね。
イレーナさんはガイルの攻撃を避けられる。
でも、ガイルはイレーナさんの攻撃を受けても平気そうだ。
これ、どうやったら決着がつくんだろう?
そのときだった。
「おい!」
遠くから、大きな声が聞こえた。
「大変だ! 誰か!」
……ん?
振り向くと、冒険者らしい男が、町の方から走ってきていた。
息を切らし、顔色を変えている。
「魔物だ!」
男が叫んだ。
「ビダン山から魔物が大量に出てきた!」
えっ!?
「鉱山の連中も逃げてる!早く応援を!」
周囲がざわめいた。
◇
「何だって!?」
俺が声を上げると、冒険者は必死に頷いた。
「山の中腹から、次々に魔物が下りてきてるんだ!」
「鉱山の人たちは!?」
「今、逃げてる!ガルセゾン団と騎士たちが食い止めてるが、数が多すぎる!」
……騎士たち?
ハガーとノルか。
「ガイル!」
「おう!」
ガイルは、もう大剣を拾い上げていた。
「手合わせは中断だな!」
「ああ。そうだね」
イレーナさんも剣を腰に戻した。
さっきまでの楽しそうな表情が消えている。
「ガウマン!」
「おう、姐さん!」
「団の連中を集めな!ビダン山へ行くよ!」
「わかった!」
ガウマンさんが走り出した。
「メラニー!」
「はい!」
「鉱山の人たちの避難状況を確認して!アナハイムへ逃げてくる人がいたら受け入れをお願い!」
「承知しました!」
メラニーも駆け出した。
俺たちも行こう。
「リオン」
ミラが俺を見た。
「私も行くよ」
「うん!」
「私もご一緒します」
ナディアも頷いた。
「ナディア、大丈夫?」
「はい。怪我をした方もいるかもしれませんから」
ナディアの回復魔法も必要になるかもしれない。
「ポロリ!」
ナディアが空を見上げた。
大きなガルーダが、ゆっくりと降りてくる。
「山の様子を見てきてください!」
ポロリは大きく翼を広げ、ビダン山へ向かって飛び立った。
「よし!俺たちも行くぞ!」
ガイルが声を上げる。
俺たちは護衛たちとともに、急いでビダン山へ向かった。
◇
ビダン山へ近づくにつれ、逃げてくる人たちが増えてきた。
鉱山労働者たちだ。
荷物を抱えた人。
仲間の肩を借りて歩く人。
必死に走っている人もいる。
「急げ!ここまでくれば安全だ!」
ガルセゾン団の人たちが、避難する人々を誘導していた。
そのとき。
「あっ!」
前を走っていた男性が、石につまずいて転んだ。
「大丈夫ですか!?」
ナディアがすぐに駆け寄った。
「くっ……!」
男性は膝を押さえている。
転んだ拍子に、膝を大きく擦りむいてしまったようだ。
「少し見せてください」
「す、すまねえ……」
ナディアが男性の膝に手をかざした。
淡い光が広がる。
すると、傷が少しずつ塞がっていった。
「……おお!?」
男性が驚いたように目を見開いた。
「痛みが……!」
「もう大丈夫そうですね。でも、無理はしないでください」
「あ、ありがとう!」
男性は何度も頭を下げた。
……さすがだなぁ。
ナディアは、その後も逃げる途中で転んだ人や、軽い怪我をした人たちを治療してくれた。
もちろん、俺たちも避難する人たちを手伝った。
怪我をして自力で歩けない人は、護衛たちと協力して安全な場所へ運ぶ。
……よし。
これで少しは安心かな。
「リオン!」
ガイルが山の方を指さした。
「あそこだ!」
見ると、少し離れた場所で騎士たちが戦っていた。
ハガーとノルだ!
◇
「隊列を崩すな!」
ハガーの声が響いていた。
「作業員を先に逃がせ!」
「はい!」
ベイルン騎士団とハル領騎士団の騎士たちが、魔物の群れを食い止めている。
周囲には、狼のような魔物が何頭もいた。
さらに、大きなワイルドボアまでいる。
……多いな!
これだけの数が、どこから出てきたんだろう。
「ノル!」
「はい!」
「左側を頼む!」
「承知しました!」
ノルが騎士たちを率いて移動する。
そのすぐ後ろを、鉱山労働者たちが逃げていった。
……よかった。
騎士たちのおかげで、避難は進んでいるようだ。
でも、魔物はまだかなり残っている。
「おお!」
ガイルが声を上げた。
「なかなかの数じゃないか!」
「ガイル、気をつけてね!」
「はっはっは!任せろ!」
ガイルが大剣を構えた。
そして。
「行くぞ!」
ドンッ!
地面を蹴った。
……速っ!
ガイルは一瞬で、魔物の群れへ飛び込んでいった。
◇
最初に襲いかかってきたのは、大きなワイルドボアだった。
太い牙を突き出し、ガイルへ向かって突進してくる。
「おおおっ!」
ガイルが大剣を振った。
ズバンッ!
ワイルドボアの巨体が、横へ倒れた。
一撃か!?
「はっはっは!次だ!」
ガイルは止まらない。
続けて飛びかかってきた狼型の魔物も、大剣で次々に倒していった。
「……おい」
近くにいた冒険者が呟いた。
「あいつ、一人で何頭倒すつもりだ?」
……あはは。
俺もそう思うよ。
でも、今日はガイルだけじゃない。
「ガウマン!右だ!」
「おう、姐さん!」
イレーナさんが魔物の群れへ走り込んだ。
狼型の魔物が飛びかかる。
しかし、イレーナさんは、その魔物が地面を蹴る前に体を動かしていた。
剣が閃く。
一頭。
続いて、二頭目。
さらに背後から迫った魔物も、振り向きざまに斬り伏せる。
……うわぁ。
相変わらず、すごいなぁ。
「おいおい……!」
冒険者たちが驚いていた。
……イレーナさんも、ガイルに負けていないな。
◇
「リオン!」
ミラが声を上げた。
「右から来てる!」
「うん!」
見ると、数頭の魔物がこちらへ向かっていた。
その後ろには、逃げ遅れた鉱山労働者の姿がある。
……まずい!
俺は魔力を集中させた。
風魔法を放つ。
ゴウッ!
突進していた魔物の一頭が、横へ押し流された。
すぐに《綻びの目》で相手の動きを確認する。
踏み込もうとしている前脚に、綻びが見えた。
俺は狙いを定め、もう一度風魔法を放った。
魔物が体勢を崩す。
その隙に、近くの騎士が剣を振り下ろした。
「やった!」
これなら、みんなと協力して戦える。
「リオン、後ろ!」
「えっ?」
振り返ると、別の魔物が迫っていた。
でも。
「リオン、伏せて!」
ミラの声が響いた。
俺が身を低くすると、すぐ頭上に強い光が広がった。
「ギャッ!」
魔物が一瞬ひるむ。
さらにミラが放った光の魔法が、魔物を直撃した。
魔物が倒れる。
「ありがとう、ミラ!」
「うん!」
……助かった。
ミラも、しっかり周囲を見てくれているんだな。
◇
少し離れた場所では、ナディアが魔法を使っていた。
「危ない!」
鉱山労働者の一人へ、狼型の魔物が迫る。
その瞬間。
「えいっ!」
ナディアが手をかざした。
ゴウッ!
鋭い風が魔物の横から吹きつける。
魔物は踏み込んだ脚を取られ、横へ吹き飛ばされた。
……おお!
見事な風魔法だ!
「ガイルさん!」
「おう!」
近くにいたガイルが、一気に踏み込んだ。
大剣が振り抜かれる。
魔物はその場に倒れた。
「よし!」
すごい。
二人の連携も見事だなぁ。
ナディアは、ほかの騎士たちの動きもよく見ていた。
別の魔物が騎士団の側面へ回り込もうとすると、すぐに風魔法を放つ。
魔物の進路が変わり、騎士たちの正面へ押し戻された。
「今です!」
「承知!」
ハガーが応じ、騎士たちが一斉に攻撃する。
魔物は次々に倒されていった。
ナディアはただ魔物を倒しているんじゃない。
周囲の人たちが戦いやすいように、風魔法を使っているんだ。
しかも、危険が少なくなると、今度は負傷者のもとへ向かっていた。
「こちらの方も、怪我をされていますね」
ナディアが膝をつき、回復魔法を使う。
……本当にすごいなぁ。
戦うことも、人を助けることもできるんだ。
「……何なんだよ、あの人たち」
近くの冒険者が呆然としていた。
「さっきの大男も、あの女剣士も……」
「あの男爵様の魔法もすごいぞ!」
「それに、あの女まで……!」
「風魔法も回復魔法も、あんなに使いこなせるのかよ……」
そう言ってもらえるのは嬉しいけど、今は戦いに集中しないと。
◇
「ピー!」
「キュ!」
後方から、ピコとナッシュの声が聞こえた。
二匹は護衛のそばで、こちらを見守っている。
そのとき、空から大きな影が落ちた。
ポロリだ!
大きな翼を広げながら、鉱山の方へ飛んでいく。
……あれ?
何かを見つけたのかな。
見ると、岩場の陰に、逃げ遅れた鉱山労働者がいた。
その近くへ、数頭の魔物が迫っている。
……まずい!
「ポロリ!」
ナディアが声を上げた。
ポロリは急降下すると、大きく翼を羽ばたかせた。
バサァッ!
強い風に、魔物たちがたじろぐ。
その隙に、近くの騎士たちが駆け寄った。
「こっちです!」
逃げ遅れていた労働者を、安全な場所へ誘導する。
「さすがね、ポロリ!」
ナディアが嬉しそうに言った。
ポロリは大きく翼を広げ、もう一度上空へ舞い上がった。
本当に頼もしいなぁ。
◇
それからしばらくして。
「最後の群れを確認した!」
ハガーの声が響いた。
「よし!全員、周囲を警戒しろ!」
ガイルが指示を出す。
騎士たちが散開し、周囲を確認していった。
すでに、目の前にいた魔物の大半は倒されている。
残っていた数頭も、ガイルとイレーナさんたちがあっという間に片づけてしまった。
あれだけいた魔物が、もういない。
でも、完全に終わったかどうかは確認しないと。
しばらくして、ノルが戻ってきた。
「リオン様。周辺の確認が終わりました」
「どうだった?」
「近くに魔物の姿はありません。鉱山労働者の避難も完了しております」
「よかった!」
「負傷者はおりますが、幸い命に関わるような怪我をした者はいないようです」
ふぅ、それは何よりだ。
ナディアも怪我をした人たちの治療を続けてくれている。
ガルセゾン団の人たちは、鉱山の入口や避難路を確認していた。
「男爵様」
そこへ、鉱山で働いている男性がやってきた。
「どうしたの?」
「今回の魔物なんですが……」
「うん?」
「こんなに大勢で山を下りてきたのは、あまり見たことがありません」
「……そうなの?」
……うーん。
どうして、急にこんなにたくさん現れたんだろう。
「ガウマンさん」
「おう、男爵様!」
「ガルセゾン団の人たちにも、何かわかったら教えてもらえるかな?」
「もちろんだ。姐さんにも伝えておくぜ」
「ありがとう!」
すぐに原因がわかるとは限らないけど、鉱山で働く人たちの安全にも関わることだ。
今後も注意してもらおう。
ひとまず、今日のところは大丈夫そうだ。
◇
「いやあ、すごかったな!」
ガイルが満足そうに笑った。
「いい訓練になったぞ!」
「まったく、あんたは元気だねえ」
イレーナさんが呆れたように言った。
「おお!イレーナ!」
「何だい?」
「お前もなかなかやるじゃないか!」
「……ふふっ」
イレーナさんが笑った?
「あんたこそ。やるじゃないか、ガイル」
「はっはっは!」
……おお。
二人とも、何だか楽しそうだな。
「しかし、さっきの手合わせは途中だったな!」
ガイルが思い出したように言った。
「そうだねえ」
また始まるのかな?
「今から続けるか!?」
「いや。今日はもう十分暴れただろう?」
「むっ。そうか!」
「その代わり、また今度やろう」
「おう!約束だぞ!」
「ふふっ。覚えておくよ」
どうやら、次の楽しみができたみたいだ。
◇
その日の夕方。
アナハイムでは、ちょっとした宴が開かれることになった。
討伐した魔物の中には、ワイルドボアが何頭もいた。
そこで、解体に慣れた冒険者たちにお願いして、食用にできるものを選んで処理してもらうことにした。
食堂の料理人たちも手伝ってくれることになり、準備が進められた。
その間に、騎士たちは再び周辺を巡回し、鉱山の安全を確認してくれている。
やがて日が傾く頃には、町の広場にいくつもの焼き台が並んでいた。
騎士たち。
冒険者たち。
ガルセゾン団の人たち。
それに、鉱山で働く人たちも集まっている。
ずいぶん賑やかだな。
「リオン!肉が焼けたぞ!」
ガイルが大きな声で呼んでいる。
「うん!」
俺が近づくと、焼き台の上ではワイルドボアの肉がいい音を立てていた。
ジュウウッ……。
香ばしい匂いが広がってくる。
……お腹がすいてきたな。
「はっはっは!やっぱり、戦った後の肉はうまいな!」
相変わらずだなぁ。
ナディアも楽しそうに笑っている。
「ガイルさん。今日は本当にお疲れさまでした」
「おお!ナディアも頑張っていたな!」
「ありがとうございます」
「風魔法も見事だったぞ!」
「ふふっ。ガイルさんが守ってくださったおかげです」
「はっはっは!」
仲がいいなぁ。
少し離れたところでは、イレーナさんとガウマンさんが肉を食べていた。
「姐さん、あのガイルって男、とんでもなかったな」
「ああ。あれは本物だね」
「Bランク二人を押さえ込んだときも驚いたが、まさかあそこまでとはな……」
「ふふっ。面白い奴がいるね」
イレーナさんが嬉しそうに笑った。
これは、また手合わせすることになりそうだな。
「ピー!」
「キュ!」
足元から声がした。
ピコとナッシュだ。
二匹とも、肉の匂いが気になるらしい。
「あはは。二匹もお腹がすいた?」
「ピー!」
「キュウ!」
「そっか!」
もちろん、二匹にも食べられるものを用意してある。
少し離れた広場の端では、ポロリも大きな肉を食べていた。
今日はポロリも大活躍だったからなぁ。
◇
「リオン!」
ガイルが肉を片手に声をかけてきた。
「今日は楽しかったぞ!イレーナとも手合わせできたし、魔物も倒せた!」
「あはは。ガイルらしいね」
「それに、アナハイムもずいぶん発展していた!」
「うん!」
「いい町になりそうだな!」
……そうだね。
俺は広場を見渡した。
笑い合う騎士たち。
肉を頬張る冒険者たち。
楽しそうに話す鉱山労働者たち。
少し前まで、この場所には建物もほとんどなかった。
それが今では、こんなに大勢の人たちが集まっている。
もちろん、町が大きくなれば、いろいろな問題も起こるだろう。
今日のように、魔物が襲ってくることだってある。
でも、こうして力を合わせてくれる人たちがいる。
きっと、この町はもっといい町になる。
「リオン!もっと肉を食え!」
「えっ?たくさん食べたよ!?」
「はっはっは!もっとだ!」
俺は笑いながら、焼き台へ向かった。
アナハイムの賑やかな夜は、まだ始まったばかりだ。
最後まで読んでいただきありがとうございます。
イレーナ対ガイルはいずれ決着をつける時がきます。
ところで、ノア山脈ですが、アノー山を除くと魔物が多いです。
いつか、その魔物を狩りに3人の冒険者がやってくることになるでしょう。




