第630話 成長するアナハイム
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『平民出身の転生執事、最強王女を育成する』という作品です。
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温水路の様子を確認したあと、俺たちはレイ湿原の農民たちと、今後の作業について話し合っていた。
「リオン!」
そこへ、ガイルがやってきた。
「騎士団の次の訓練なんだが、少し考えがある!」
「何?」
「せっかくビダン山が近いんだ。魔物討伐をやらせたい!」
「魔物討伐?」
「ああ!」
ガイルが力強く頷いた。
「最近、ベイルン騎士団では実戦経験を積ませるために、魔物討伐を積極的に訓練に取り入れているんだ!」
「へえ!」
「相手が人間とは限らんからな!普段の訓練だけでは学べないことも多い!」
……なるほど。
確かに、魔物と戦う機会があれば、実際の戦闘に近い経験を積むことができる。
でも、危険もある。
「新人たちも参加するの?」
「いや、今回は実戦経験のある者を中心にする!」
「そっか」
「もちろん、若手には経験豊富な騎士をつけるぞ!」
そこへ、アストンもやってきた。
「リオン様。私もガイル様のご提案に賛成です」
「アストンも?」
「はい。我が騎士団は、魔物との実戦経験がまだ十分とは言えません。ベイルン騎士団から学べることも多いでしょう」
「なるほどね」
「もちろん鉱山の警備担当者、冒険者ギルドとも連携し、討伐する魔物や活動範囲は慎重に決めたいと思います」
「うん。それなら安心だね!」
ビダン山では、多くの人たちが鉱山開発に携わっている。
訓練のためとはいえ、勝手に魔物を追い回して作業員たちを危険にさらすわけにはいかない。
「それで、リオン!」
「ん?」
「もう半分は、ここの工事を手伝わせたらどうだ?」
ガイルがレイ湿原を見渡した。
「工事?」
「ああ!昨日の水路工事もいい訓練になったからな!」
確かに、両騎士団の連携はずいぶんよくなっていた。
でも、今は新しい水路も完成したところだ。
「何か工事する場所、あったかな?」
「男爵様!」
アーロンが声を上げた。
「来年以降の水田拡張に向けた準備なら、まだたくさんございます!」
「そうなの?」
「はい!候補地の草刈りや整地、それに水路を拡張する作業などです!」
……ああ、なるほど。
今年はまだ試験栽培の段階だ。
どれくらい収穫できるかもわからない。
だから、今すぐ大規模な水田を造るつもりはないけど、来年の準備なら進められる。
「それなら、お願いしてもいいかもしれないね!」
「おう!」
ガイルが嬉しそうに笑った。
結局、ベイルン騎士団とハル領騎士団、合わせて約四十人を二つの班に分けることになった。
それぞれに両騎士団から十人ほどずつ参加する。
ビダン山での魔物討伐訓練は、ハガーとノルが中心になって指導する。
一方、レイ湿原に残る騎士たちは、コディとアストンの指導のもと、農民や職人たちの仕事を手伝う。
どちらも、互いの騎士団から学べるようにした。
「よし!それでは始めるぞ!」
「はっ!」
ガイルの声に、騎士たちが元気よく返事をした。
……いいなぁ。
ただ訓練するだけじゃなく、領地の仕事にも役立ってくれる。
本当にありがたいね。
◇
「ところで、リオン!」
騎士たちを見送ったガイルが、俺に声をかけてきた。
「俺たちはどうする?」
「ああ、そうだね」
せっかくここまで来たんだ。
「このまま、アナハイムへ行ってみない?」
「アナハイム?」
「うん。前にみんなで町を造った場所だよ」
「おお!あそこか!」
ガイルが目を輝かせた。
「そういえば、あのときは長屋を三棟造ったな!」
「うん!」
「はっはっは!懐かしいな!」
ナディアも嬉しそうに微笑んだ。
「私も、その後の様子が気になっていました」
「じゃあ、決まりだね!」
「うん!私も見に行きたい!」
ミラも賛成してくれた。
こうして俺たちは、湿原の南にあるアナハイムへ向かうことにした。
もちろん、ナディアの護衛や侍女たちも同行する。
ポロリは上空からついてきて、ピコとナッシュはそれぞれ俺とガイルのそばにいた。
「ピー!」
「キュ!」
◇
アナハイムへ向かう道を進んでいくと、次第に人通りが増えてきた。
木材を積んだ荷馬車。
作業着を着た鉱山労働者たち。
大きな荷物を背負った冒険者。
商人らしい人たちの姿もある。
「……おお?」
ガイルが周囲を見回した。
「リオン!ずいぶん人が多いな!」
「うん。最近はどんどん増えてるみたいだよ」
「そうなのか!」
俺も報告は受けていたけど、実際に見ると驚くなぁ。
しばらく進むと、前方に建物が見えてきた。
……あれ?
以前より、ずいぶん増えていない?
「リオンさん」
ナディアも驚いたように声を上げた。
「あれがアナハイムですか?」
「うん!」
「……こんなに建物がありましたっけ?」
「あはは。なかったと思うよ」
以前は、長屋といくつかの建物がある程度だった。
それが今では、建物が何棟も並んでいる。
しかも、あちこちで新しい建物の工事が進んでいた。
「おおおっ!」
ガイルが大きな声を上げた。
「本当に町になっているじゃないか!」
……そうなんだよね。
まだ完成したわけじゃない。
でも、もう単なる作業員の宿舎ではなくなっている。
◇
「あっ、男爵様!」
アナハイムへ入ったところで、聞き覚えのある声がした。
「メラニー!」
荷馬車のそばに立っていた若い男性が、こちらへ駆け寄ってきた。
メラニーだ。
王都東地区から移住してきた青年で、今はアナハイムの駐在文官として働いている。
「ようこそお越しくださいました!」
「やぁ、メラニー。今日はちょっと町の様子を見に来たんだ」
「そうでしたか!」
メラニーが嬉しそうに笑った。
そして、俺の隣にいる三人に目を向ける。
「あっ、失礼いたしました!」
「ううん。紹介するね」
俺はミラ、ガイル、ナディアを順番に紹介した。
メラニーは姿勢を正し、改めて頭を下げた。
「ミラ様、ガイル様、ナディア殿下。ようこそアナハイムへお越しくださいました!」
「こんにちは!」
ミラが笑顔で答える。
「おう!よろしく頼む!」
「よろしくお願いいたします」
ナディアも優しく微笑んだ。
「ところで、メラニー。ここで何をしてたの?」
「はい!新しく来られた方々の登録と、資材の確認をしておりました!」
「へえ!」
「最近は、毎日のように新しい方がいらっしゃるんです!」
「そうなんだ!」
……すごいなぁ。
「メラニー、今は忙しい?」
「はい!毎日忙しくしております!」
「そっか。大変だね」
「大変です。でも、面白いです!」
……あはは。
相変わらずだなぁ。
「それなら、少し町の案内をお願いできる?」
「もちろんです!」
メラニーは近くの文官に仕事を引き継ぐと、俺たちを案内してくれることになった。
◇
町の中へ進む。
まず目に入ったのは、以前より増えた建物だった。
長屋。
倉庫。
作業場。
そして、いくつもの商店。
建物の前では人々が荷物を運び、通りには買い物をする人たちが行き交っている。
「……すごいな」
ガイルが呟いた。
「前に来たときは、こんなに店はなかったぞ!」
「うん。あのときは、まだ長屋を造ったばかりだったからね」
「はっはっは!俺たちが木を切っていた場所だな!」
「そうそう!」
あのときは、ガイルたちベイルン騎士団が大活躍してくれた。
一日で三棟もの長屋を完成させた。
今思い出しても、とんでもない速さだったなぁ。
「あっ!」
ガイルが前方を指さした。
「あれじゃないか!?」
見ると、見覚えのある長屋が並んでいた。
以前みんなで建てた長屋だ。
その周囲には、新しい長屋が何棟も増えている。
物干しには洗濯物が干され、建物の前では子どもたちが遊んでいた。
「……おお」
ガイルが嬉しそうに笑った。
「本当に人が住んでいるんだな!」
「うん!」
こういう光景を見ると、町を造ってよかったと思える。
「こちらでは、鉱山で働く方々や職人さんたちが暮らしております」
メラニーが説明してくれた。
「それに、最近はご家族を呼び寄せる方も増えてきました!」
「家族も?」
「はい!長くこちらで働きたいと考えている方が増えているんです!」
「それは嬉しいね!」
ただ働くために来るだけじゃなく、ここで暮らしていこうとする人が増えている。
……少しずつ、町になってきているんだな。
◇
さらに進むと、商店が立ち並ぶ通りに出た。
道具屋。
武器防具を扱う店。
食堂。
それに、酒を出す店もある。
「おお!ずいぶん賑やかだな!」
ガイルが嬉しそうに言った。
「はい!冒険者の方々が増えたおかげで、商売も盛んになっております!」
メラニーが説明する。
「鉱山で働く方々も道具を必要とされますし、冒険者の方々は武器や防具の修理もされますから」
「なるほど!」
確かに、これだけ人が増えれば、いろいろな店が必要になる。
鉱山で働く人が増える。
冒険者が集まる。
その人たちが食事をし、道具を買い、宿に泊まる。
すると、店で働く人も増える。
……いい循環ができているんだな。
「宿屋も増えたの?」
俺が尋ねる。
「はい! 新しい宿屋ができました!」
「へえ!」
「ただ、冒険者の方々が多い日は、それでも部屋が足りなくなることがあります」
「そっか」
「今後も宿屋を建てたいという方がいらっしゃいますので、場所を確認しているところです」
「なるほどね」
少し先には、冒険者ギルドの仮設支部が見えた。
建物の前には、依頼書を眺める冒険者たちが集まっている。
◇
「そういえば、メラニー」
「はい!」
「ここには子どもたちも増えてるんだよね?」
「はい!ご家族で移住される方も増えておりますので!」
「じゃあ、学校も必要になってくるね」
俺が言うと、メラニーが大きく頷いた。
「はい!実は、その準備も進めようとしております!」
「本当?」
「はい!領都で始まった学校を、アナハイムでも開けないかと相談しているところです!」
「おお!」
それは嬉しいな。
「昼間は子どもたちが学べるようにして、夜は大人の方々にも読み書きなどを教えられないかと考えております」
「いいね!」
「ただ、教師をお願いできる方を探さなければなりませんし、建物も必要になりますので……」
「そっか」
確かに、思いついたからといって、すぐに学校を始められるわけじゃない。
先生も必要だし、机や椅子もいる。
でも、ここに住む子どもたちが増えているなら、早めに準備した方がいい。
「ローレンさんにも相談しておこう」
「ありがとうございます!」
ナディアが嬉しそうに微笑んだ。
「素敵ですね」
「うん?」
「働く場所があるだけではなく、子どもたちが学べる場所もできるんですね」
「うん。そうしたいと思ってるんだ」
「それなら、ここで暮らし続けたいと思う方も増えるでしょうね」
「そうだと嬉しいな!」
俺は通りを見渡した。
鉱山で働く人たち。
店を営む人たち。
冒険者。
そして、子どもたち。
最初は鉱山開発のために造った町だった。
でも、今はそれだけじゃない。
◇
「それにしても、リオン!」
ガイルが周囲を見ながら言った。
「町って、こんなに早くできるものなのか!?」
「どうなんだろう?」
俺も少し驚いているくらいだ。
すると、ナディアが答えた。
「いいえ。これほど短い期間で町が発展するのは、かなり珍しいと思います」
「そうなのか!」
「はい。建物を造るだけでも大変ですし、そこに仕事や商売が生まれなければ、人は集まりませんから」
「なるほど!」
「でも、アナハイムには鉱山があります。それに、道路や宿舎も整備されて、冒険者ギルドまでできています」
ナディアが通りを見渡した。
「それでも、この成長の速さは驚きですね」
「はっはっは!リオン、お前はすごいな!」
「いやいや、みんなが頑張ってくれたおかげだよ!」
俺一人では、こんな町は造れない。
鉱山を調査してくれる人。
建物を造ってくれる職人。
物資を運んでくれる商人。
そして、メラニーのように、いろいろな仕事を調整してくれる人。
みんなの力があって、今のアナハイムがあるんだ。
「メラニーも、本当に頑張ってくれてるよね」
「い、いえ!そんな!」
メラニーが慌てて首を振った。
「私は、皆さんに教えていただきながら仕事をしているだけです!」
「あはは。でも、それが大切なんだよ」
「ありがとうございます!」
そのときだった。
「ふざけるな!」
通りの向こうから、怒鳴り声が聞こえてきた。
「そっちが約束を破ったんだろうが!」
「何だと!?」
……ん?
何だろう。
見ると、冒険者らしい男が二人、通りの真ん中で言い争っていた。
どちらも武器を身につけ、かなり体格がいい。
周囲には人だかりができていた。
「おいおい、やめとけよ!」
「相手はBランクだぞ!」
「どっちもBランクだろ! 巻き込まれたら大変だ!」
……えっ?
Bランク同士?
それはまずいんじゃないかな。
どうやら、魔物討伐の依頼を巡って揉めているらしい。
報酬の分け方について、意見が食い違っているようだ。
「だから、あの魔物を倒したのは俺たちだって言ってるだろ!」
「最後に仕留めたのはこっちだ!」
……ああ。
そういうことか。
これはギルドに確認してもらった方がよさそうだな。
「メラニー。ギルドの人を呼んで――」
そう言いかけたとき。
「おお!」
ガイルが声を上げた。
「面白そうなことになっているな!」
「……ガイル?」
「ちょっと行ってくる!」
「えっ!?」
ガイルは楽しそうに笑うと、二人の方へ走っていった。
……ああ!
行っちゃった!
◇
「おい!いい加減にしろ!」
「うるせえ!」
二人の冒険者が、ついに武器に手をかけた。
周囲にいた人たちが慌てて後ずさる。
近くの商店では、店主が商品を片づけ始めていた。
……まずい!
その瞬間。
「おお!待て待て!」
ガイルが二人の間へ飛び込んだ。
「何だ、てめえ!」
「邪魔するな!」
二人が怒鳴る。
でも、ガイルは笑ったままだ。
「町の中で武器を抜くのは良くないぞ!」
「何だと!?」
「邪魔するなら、お前から――」
一人の冒険者が剣を抜きかけた。
その瞬間。
ガシッ!
「……えっ?」
ガイルが、その男の手首をつかんでいた。
……速っ!
男が慌てて腕を引こうとする。
でも、びくともしない。
「な、何だ!?」
「落ち着け!」
ガイルが笑った。
「剣を抜く必要はないだろう!」
そのとき、もう一人の冒険者がガイルの背後から踏み込んだ。
「この野郎!」
「ガイル!」
俺が思わず声を上げる。
しかし。
「おっと!」
ガイルは振り向きもせず、一歩だけ横へ動いた。
冒険者の腕が空を切る。
次の瞬間、ガイルはその腕もつかんでいた。
「……なっ!?」
「よし!二人とも落ち着いたか!」
ガイルが両腕を広げるようにして、二人を離した。
男たちは必死に抵抗している。
でも、まったく動けない。
……うわぁ。
Bランクの冒険者が二人相手を、ガイルは何でもないように押さえている。
「元気があるのはいいが、町の中で暴れるのは駄目だぞ!」
「く、くそっ!」
「離しやがれ!」
「離してほしいなら、もう暴れないと約束しろ!」
「……っ!」
二人は顔を真っ赤にしていた。
でも、これだけ力の差があっては、どうしようもないらしい。
やがて、一人が力を抜いた。
「……わかったよ!」
「俺もだ!」
「よし!」
ガイルが二人の腕を離した。
二人はよろめきながら後ずさる。
……すごいなぁ。
あっという間だった。
しかも、二人とも大きな怪我はしていないようだ。
……やっぱり、ガイルは怪物だな。
◇
「おい!何の騒ぎだ!」
そこへ、体格のいい男が数人の仲間を連れてやってきた。
……あれ?
「ガウマンさん?」
俺が声をかけると、男がこちらを見た。
「ん?……おお、男爵様じゃないか!」
「こんにちは!」
「こんなところで何してるんだ?」
「今日は町を見に来たんだ」
「そうだったのか」
ガウマンさんは、イレーナさんの下で働いている人だ。
以前、ビダン山で不審者を捕まえたときにも活躍してくれた。
今はガルセゾン団の一員として、アナハイムの巡回や鉱山の警備もしているらしい。
「それで、何があったんだ?」
「冒険者同士が喧嘩してたんだけど……」
俺はガイルを指さした。
「あの人が止めてくれたんだ」
「……ああ?」
ガウマンさんが二人の冒険者を見る。
そして、ガイルへ目を向けた。
「おいおい……」
「どうしたの?」
「あいつら、両方ともBランクだぞ?」
「うん。そうみたいだね」
「……それを一人で止めたのか?」
「うん」
ガウマンさんが目を丸くした。
「しかも、素手で?」
「そうだよ」
「……何だ、あいつ?」
ガウマンさんは、ガイルをまじまじと見つめた。
「体のでかさと言い、本当に人間か?」
……あはは。
その気持ちは、よくわかるなぁ。
「ガイル!」
俺が声をかける。
「おお、リオン!」
「こちら、ガウマンさん。ガルセゾン団の人なんだ」
「ほう!」
ガイルが嬉しそうに笑った。
「ガイル・ベイルンだ!よろしく頼む!」
「……ベイルン?」
ガウマンさんの表情が変わった。
「おい、まさか……ベイルン辺境公家の?」
「ああ!」
「……はあ!?」
……あれ?
何だか、さっきより驚いてない?
「そりゃ強いわけだ……」
ガウマンさんが額に手を当てた。
「いや、それにしたって限度があるだろ……」
「はっはっは!」
ガイルは楽しそうに笑っていた。
……相変わらずだなぁ。
◇
「ところで、何があったんだ?」
ガウマンさんが二人の冒険者に尋ねた。
二人はまだ不満そうだったけど、さっきまでの勢いはなくなっていた。
「討伐の報酬のことで揉めただけだ」
「こいつが俺の取り分を――」
「そこはギルドに確認してもらおう」
ガウマンさんが二人の話を遮った。
「お前ら、通りで騒ぎを起こしたんだ。勝手に帰るなよ」
「……わかったよ」
ガウマンさんは仲間たちに指示を出し、周囲の安全を確認させた。
メラニーも近くにいたギルド職員へ事情を説明している。
……よかった。
こういうときに対応してくれる人がいるのは、ありがたいな。
でも、人が増えれば、こういう揉め事も増えてくるのかもしれない。
町が大きくなることは嬉しい。
だけど、安心して暮らせる町にするためには、治安のことも考えないといけない。
「おや?」
そのとき、聞き覚えのある声がした。
「何だい、この騒ぎは?」
振り返ると、一人の女性がこちらへ歩いてきた。
「あっ、イレーナさん!」
「よう、坊や!」
イレーナさんだ。
「姐さん!」
ガウマンさんが声を上げた。
「冒険者同士の喧嘩だ。もう収まったぜ」
「そうかい」
イレーナさんが二人の冒険者を見る。
「Bランク同士で何やってんだ。まったく……」
「それがな、姐さん」
ガウマンさんがガイルを指さした。
「あの人が、二人まとめて止めちまったんだ」
「……ああ?」
イレーナさんがガイルを見る。
そして、少し目を細めた。
「……おや」
「おお!」
ガイルも気づいたらしい。
「イレーナだったな!」
「久しぶりじゃないか。ベイルン家の坊ちゃん」
「はっはっは!元気そうだな!」
「そっちもね」
イレーナさんが笑った。
……そういえば、二人は以前にも会っていたんだった。
「で?」
イレーナさんがガウマンさんを見た。
「この坊ちゃんが、Bランクを二人まとめて押さえたって?」
「ああ。それも、素手でだぞ」
「へえ……」
イレーナさんが、もう一度ガイルを見る。
「なかなかやるじゃないか」
「はっはっは!ちょっと体を動かしただけだ!」
「……そうかい」
イレーナさんが、にやりと笑った。
「面白そうだねえ」
……あれ?
何だか、嫌な予感がするぞ。
「ガイル」
「何だ、リオン!」
「そろそろ行こうか?」
「おう!」
よし。
今のうちに――。
「ねえ、ベイルン家の坊ちゃん」
イレーナさんが声をかけた。
「ん?」
「あんた、一度あたしと手合わせしてみないかい?」
「……おお!」
ガイルの目が輝いた。
「いいのか!?」
「はっはっは!面白そうじゃないか!」
……ああ。
やっぱり、そうなるよね。
俺は思わずミラを見た。
ミラも少し困ったように笑っている。
ナディアはというと……。
「ふふっ。ガイルさん、嬉しそうですね」
……そっか。
ナディアは慣れてるのか。
でも、ちょっと待って。
ガイルだって、とんでもなく強い。
それに、イレーナさんも普通じゃない強さなんだ。
この二人が戦ったら、どうなるんだろう?
……うーん。
想像がつかないな。
俺は嬉しそうに笑うガイルとイレーナさんを交互に見た。
どうやら、アナハイムの視察は、まだ終わりそうになかった。
最後まで読んでいただきありがとうございます。
ガイル対イレーナの戦いはいつか書きたいと思っていました。




