第629話 温める水路
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『平民出身の転生執事、最強王女を育成する』という作品です。
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「リオン様!」
水田を眺めていると、アーロンがこちらへ駆け寄ってきた。
「あっ、アーロン!」
「ナディア殿下も、ようこそお越しくださいました!」
「お久しぶりです、アーロンさん」
ナディアが微笑んだ。
「稲がずいぶん大きくなりましたね」
「はい!セルヴァンの皆さんに教えていただきながら、何とかここまで育てることができました!」
「ふふっ。皆さんが頑張ったからですよ」
アーロンが嬉しそうに笑った。
……いいなぁ。
以前は田植えのやり方を教わっていたアーロンが、今では水田の管理を任されている。
少しずつ経験を積んでいるんだな。
「ところで、稲の育ちはどう?」
俺が尋ねると、アーロンは少し表情を曇らせた。
「おおむね順調です。ただ、気になる場所がありまして……」
「気になる場所?」
「はい。こちらへ来ていただけますか?」
俺たちはアーロンの案内で、水田の奥へ向かった。
◇
「ここです」
アーロンが指さした先には、ほかより少し背の低い稲が並んでいた。
「……あれ?」
確かに、周囲と比べると育ちが悪い。
葉の色も、少し薄いように見える。
「少し育ちが遅いんだね」
「はい。田植えをした時期は、他とほとんど変わらないのですが……」
そこへ、セルヴァンから来ている農業指導者もやってきた。
「この区画は、ほかより冷たい水が入りやすいのです」
「冷たい水?」
「はい。ビダン山の方から流れてくる水ですので、どうしても水温が低くなってしまいます」
……ああ、そうだった。
以前も、山から流れてくる水が冷たいという話を聞いたことがある。
そのときは、水田に入れる前に浅い水路を通して、少しでも温める工夫をしていたはずだ。
「今の水路では足りないの?」
「日によっては、十分に温まらないようです。ただ、水温だけが原因とは限りません」
「そうなんだ」
「土の状態も違いますし、ほかの理由も考えられます。今は水位や葉の様子を記録しながら、原因を調べています」
「なるほど……」
俺は水路に手を入れてみた。
「冷たっ!」
思っていた以上に冷たい水だった。
これが水田へ流れ込み続けたら、稲の育ちにも影響するかもしれない。
……うーん。
水を温める方法か。
何かなかったかな……。
そのとき、前世の記憶が蘇った。
そういえば、日本には山から流れてくる冷たい水を温めるための水路があったはずだ。
幅が広くて、浅い水路。
途中には小さな段差がいくつも設けられていた。
……あれだ!
「アーロン。ちょっと思いついたことがあるんだけど」
「はい!」
「水田に入る前の水路を、もっと長くできないかな?」
「水路を長く、ですか?」
「うん。それに、幅を広くして、水を浅く流すんだ」
俺は地面に簡単な図を描いた。
「こうすれば、水が日光や暖かい空気に触れやすくなると思うんだ」
「なるほど……」
農業指導者が興味深そうに図を覗き込んだ。
「今の水路でも似たことはしていますが、もっと大きな規模で行うわけですね」
「そういうこと!」
「確かに、効果があるかもしれません」
ナディアも隣から図を見つめていた。
「リオンさん。地面に傾斜がある場所なら、途中に小さな段差を設けることもできそうですね」
「うん! 地形に合わせて造れればいいなと思ってるんだ」
水路を長くして、浅く広げる。
地形に合わせて段差も設ければ、水の流れを調整できるかもしれない。
「ただ、水田に必要な水量は確保しなければなりません」
農業指導者が言った。
「それに、水が速く流れすぎても、滞ってしまっても困ります」
「そうだよね」
「まずは、一部の区画で試してみるのがよいでしょう」
「うん。俺もそう思う!」
さて、どれくらいの長さなら造れるかな。
◇
「リオン! 面白そうな話をしているじゃないか!」
ガイルが近くに来た。
「何を造るんだ?」
「水を温めるための水路だよ」
「水を温める?」
「うん。山から流れてくる水が冷たいから、水田に入る前に少しでも温めたいんだ」
「なるほど!」
ガイルが大きく頷いた。
「それなら、俺たちが手伝おう!」
「……えっ?」
「ちょうど騎士団がいるじゃないか!」
……ああ。
確かに、今回はベイルン騎士団だけで二十人ほど来ている。
ハル領騎士団もいるんだ。
「でも、工事は結構大変だと思うよ?」
「はっはっは! 土を掘ったり運んだりするのは、いい訓練になるぞ!」
「それはそうかもしれないけど……」
俺が考えていると、アストンも話に加わった。
「リオン様。私も賛成です」
「アストンも?」
「はい。こうした土木作業も、騎士団にとって重要な経験になります」
「なるほどね」
もちろん、領民たちの仕事を奪うようなことは避けたい。
でも、今回は新しい水路を試験的に造る工事だ。
騎士団に力仕事を手伝ってもらえば、農民や職人たちは専門的な作業に集中できる。
それに、完成した水路を管理するのは、これからも彼ら自身だ。
「アーロン。みんなにも協力してもらっていいかな?」
「もちろんです! 農民たちも喜ぶと思います!」
「よし!」
俺はガイルとアストンを見た。
「それじゃあ、お願いしてもいい?」
「おう!任せろ!」
「承知しました!」
「キュ!」
ガイルの肩にいたナッシュも、元気よく鳴いた。
「おお!ナッシュもやる気だな!」
「ピー!」
すると、ミラのそばにいたピコまで声を上げた。
「あはは!二匹も手伝ってくれるの?」
「キュ!」
「ピー!」
……本当かなぁ。
でも、二匹とも嬉しそうだ。
少し離れた草地では、ポロリが大きな翼をたたんで休んでいた。
あんなに大きな体だから、水田の近くには降りられないのか。
……よし。
みんなで力を合わせて、しっかりした試験水路を造ってみよう。
◇
その日の午後、俺たちは水路の予定地を確認することにした。
アーロンやセルヴァンの農業指導者、それに水路工事に詳しい職人たちも参加している。
場所は、既存の用水路が通っている一帯だ。
日当たりがよく、地面には緩やかな傾斜がある。
「ここなら、今の用水路に沿って造れそうですね」
職人が言った。
「どれくらいの長さにできるかな?」
「まずは二百メートルほどでしょうか」
「二百メートル?」
「はい。地面を大きく掘り下げる必要もありませんし、騎士団の皆さんに協力していただければ、明日のうちに形にできるかもしれません」
「おお! 二百メートルか!」
ガイルが嬉しそうに声を上げた。
俺も頷いた。
最初の試験としては、十分な長さだと思う。
「でも、今の用水路を止めるわけにはいきません」
農業指導者が言った。
「稲には、引き続き水が必要ですから」
「そうだよね」
「そこで、現在の水路の横に新しい区間を造り、完成してから水を切り替えたいと思います」
「それなら安心だね!」
工事をする場所が決まり、職人たちは縄と杭を使って水路の位置を示し始めた。
俺も予定地を見渡す。
そのとき。
……ん?
少し先の地面に、綻びが見えた。
《綻びの目》だ。
表面は普通の土に見えるけど、その下に弱い部分があるらしい。
このまま工事を進めたら、土手が崩れてしまうかもしれない。
「アーロン。あそこの地面、ちょっと調べてもらっていい?」
「あそこですか?」
「うん。ほかと土の様子が違う気がするんだ」
「わかりました!」
アーロンが職人たちと一緒に地面を掘って確認する。
すると。
「あっ!」
表面の土を取り除いたところで、水を多く含んだ柔らかい土が現れた。
「男爵様! ここはかなり土が弱いようです!」
「やっぱり」
職人が土を手に取り、確かめた。
「このまま水路を造ると、土手が崩れる恐れがありますね」
「それなら、どうしたらいいかな?」
「この部分は少し位置を変えて、地面のしっかりした場所を通した方がよさそうです」
「なるほど!」
俺は、もう一度周囲を見渡した。
少し離れた場所には、目立った綻びがない。
「じゃあ、こっちはどう?」
職人が地面を確認する。
「……はい。こちらの方がよさそうです」
「よかった!」
その後も地面の状態を調べ、段差を設ける場所や、硬化石で補強する場所を決めていった。
……よし。
これなら、安心して工事を始められそうだ。
こういうときに、本当に頼りになるスキルだな。
◇
翌朝。
水路の予定地には、大勢の騎士たちが集まっていた。
ベイルン騎士団からは、若手を中心とした二十人ほど。
ハル領騎士団からも、同じくらいの人数が参加している。
現場では、アーロンや農業指導者、職人たちが準備を進めていた。
昨日のうちに必要な資材を集め、草を刈り、掘る場所には印をつけてある。
「よし! 始めるぞ!」
ガイルの声が響いた。
「おおっ!」
騎士たちが一斉に返事をする。
ハガーとコディが作業を分担し、アストンも部下たちに指示を出した。
土を掘る者。
掘った土を運ぶ者。
水路の底を整える者。
それぞれ役割を決め、作業を進めていく。
さすがだな。
ベイルン騎士団の若手たちは、驚くほど手際がいい。
大きな土の塊も、次々に運んでいく。
ハル領騎士団も負けじと頑張っていた。
「無理に一人で運ぶな! 仲間と協力しろ!」
アストンが声を上げる。
「はい!」
昨日の訓練でも聞いた言葉だ。
騎士たちは互いに声をかけ合いながら、土を運んでいった。
こういう作業も、集団行動の訓練になるんだな。
「リオン!お前も手伝え!」
「うん!」
俺もガイルと一緒に、土を運ぶことにした。
ふぅ!
結構重いな。
でも、ガイルは大きな荷物を軽々と運んでいる。
「はっはっは!どうした、リオン!」
「いや、ガイルがすごすぎるんだよ!」
「まだまだいけるぞ!」
……あはは。
相変わらずだなぁ。
そのときだった。
「ピー!」
足元から聞き覚えのある声がした。
「あれ? ピコ?」
見ると、ピコが小石を一つ運んできた。
どうやら、水路の底を整えている職人たちを見ていたらしい。
「もしかして、石を片づけてくれてるの?」
「ピー!」
ピコは嬉しそうに鳴くと、また小石を探し始めた。
「キュ!」
すると、ナッシュもガイルの肩から降りてきた。
ピコの真似をして、小さな石をくわえて運んでくる。
「おお!ナッシュも手伝うのか!」
「キュウ!」
「よし!頑張れ!」
ガイルが嬉しそうに声を上げた。
「ガイル。あんまり張り切らせすぎないでよ」
「はっはっは!わかっている!」
二匹は楽しそうに小石を集め始めた。
職人たちも、二匹が運んできた石を見て笑っている。
「これは助かりますね」
「ピー!」
「キュ!」
……あはは。
小さな二匹も、ちゃんと工事に参加しているんだな。
◇
昼頃になると、水路の形がかなりできあがってきた。
幅を広げた水路が、緩やかな傾斜に沿って続いている。
ところどころには、小さな段差も設けられていた。
職人たちは地面の高さを確かめながら、底の形を調整している。
「リオン様!」
アーロンが声をかけてきた。
「どうしたの?」
「予定より早く進んでいます!」
「本当?」
「はい!騎士団の皆さんのおかげです!」
よかった。
でも、まだ完成したわけじゃない。
水路の底を整え、崩れやすい部分を補強する必要がある。
ここからは職人たちの腕が重要になる。
「リオンさん」
ナディアが近づいてきた。
「ずいぶん進みましたね」
「うん。みんなのおかげだよ」
ナディアは水路を見渡した。
「農業指導者の方たちとも相談したのですが、水が速く流れすぎないようにすることが大切だそうです」
「そうだね」
「それに、水田へ送る水の量も減らせませんから」
「うん。その辺りは、みんなに任せようと思ってるよ」
農業のことは、実際に長年米を育ててきた人たちの経験が頼りになる。
俺の知識だけで決められることじゃないからね。
「それにしても、ガイルさんは本当に元気ですね」
ナディアが微笑んだ。
少し離れた場所では、ガイルが大きな土の塊を運んでいた。
「よし!次だ!」
もう何度も往復しているのに、全然疲れていないように見える。
「ガイルは昔からあんな感じだよね」
「ふふっ。そうですね」
ナディアが嬉しそうに笑った。
そのとき、職人の一人がアーロンに声をかけた。
「アーロンさん。少しよろしいですか?」
「はい。どうしました?」
「補強に使う硬化石が、少し足りなくなりそうです」
「えっ?」
どうやら、掘り進めてみると、予想よりも地盤の弱い場所が多かったらしい。
補強する範囲を広げたため、用意していた硬化石では足りなくなってしまったそうだ。
「近くに予備はないの?」
俺が尋ねる。
「街道の方にある資材置き場には、まだございます。ただ、ここまで運ぶとなると……」
職人が湿原の方を見た。
荷車が通れる道は限られている。
資材置き場からここまで運ぶには、大きく迂回する必要があるらしい。
……うーん。
せっかく順調に進んでいるのに。
「それなら、俺たちが取りに行こう!」
ガイルが言った。
「騎士団で運べば、すぐだ!」
「でも、ここから人を減らすと、工事が遅れちゃうんじゃないかな?」
「むっ……」
ガイルが考え込んだ。
そのとき。
「リオンさん」
ナディアが声をかけてきた。
「ポロリに運んでもらうのはどうでしょう?」
「……ポロリに?」
「はい。空を飛べば、湿原を迂回する必要もありませんから」
……あっ!
そうか!
ポロリは、人を乗せて飛べるほど大きなガルーダだ。
補強用の硬化石を運ぶこともできるかもしれない。
「それ、いい考えだね!」
「おお!ポロリならできそうだな!」
ガイルも嬉しそうに声を上げた。
「ナディア、頼めるか?」
「もちろんです」
ナディアが微笑んだ。
◇
ポロリは、水田から少し離れた広い草地で休んでいた。
ナディアが近づくと、大きな首を下げる。
「ポロリ。少しお願いしてもいい?」
ナディアが優しく声をかける。
ポロリは、まるで返事をするように翼を広げた。
「硬化石を運んでほしいのです」
資材置き場の場所を確認すると、ポロリは大きな翼を羽ばたかせ、空へ舞い上がった。
「おお!」
ガイルが歓声を上げた。
……やっぱり、すごいなぁ。
あの大きな体が、軽々と空へ浮かび上がっていくんだから。
しばらくすると、遠くの空にポロリの姿が見えてきた。
大きな爪で、丈夫な網にまとめられた硬化石をつかんでいる。
「来た!」
ポロリは工事現場から離れた草地に降り、運んできた資材をそっと下ろした。
周囲で待っていた騎士たちが、すぐに硬化石を受け取る。
「すごい!もう運んできたんだ!」
「ふふっ。ポロリは力持ちですから」
ナディアが嬉しそうに言った。
ポロリは再び翼を広げ、資材置き場へ向かって飛び立った。
その後も何度か往復して、必要な硬化石を運んできてくれた。
……すごいな。
湿原を大回りしなくても、空からならあっという間なんだ。
「ポロリ!よくやった!」
ガイルが大きな声で褒めた。
ポロリは誇らしそうに首を上げる。
「ありがとうございます、ポロリ」
ナディアが優しく声をかけた。
……あはは。
今日はポロリが大活躍だな。
おかげで、工事を止めずに済みそうだ。
◇
午後になると、工事はいよいよ仕上げに入った。
ポロリが運んでくれた硬化石を使い、水路の弱い部分を補強していく。
ミラは農民たちと協力して、作業する人たちの飲み水や休憩の準備をしてくれていた。
「リオン。少し休んだ方がいいよ」
「うん。ありがとう!」
俺は水を飲みながら、工事の様子を眺めた。
……すごいな。
昨日までは草の生えていた場所に、幅の広い水路ができている。
しかも、もうすぐ二百メートルになる。
「ピー!」
「キュ!」
見ると、ピコとナッシュも戻ってきた。
二匹とも、まだ小石を運んでいたらしい。
「二匹とも、お疲れさま!」
「ピー!」
「キュウ!」
ミラが二匹のそばにしゃがんだ。
「いっぱい頑張ったね」
嬉しそうに鳴く二匹を見て、俺も笑ってしまった。
……本当に仲がいいなぁ。
その後も騎士たちが力を合わせ、職人たちが仕上げを進めていった。
そして、夕方。
「リオン様! 完成しました!」
アーロンが嬉しそうに報告してくれた。
「本当!?」
「はい! およそ二百メートルです!」
「おお!」
俺は水路を見渡した。
幅の広い水路が、緩やかな傾斜に沿って続いている。
途中には小さな段差があり、崩れやすい部分は硬化石で補強されていた。
すごい。
本当に一日で造っちゃったよ。
「はっはっは!なかなかのものだろう!」
ガイルが胸を張った。
「うん!本当にありがとう!」
「何を言っている!俺たちにとってもいい訓練になったぞ!」
アストンも満足そうに頷いていた。
「リオン様。私たちの騎士たちにとっても、よい経験になりました」
「うん。みんな頑張ってくれたね!」
もちろん、ポロリたちもね。
ただ、まだ大事なことが残っている。
実際に水を流してみなければ、使えるかわからない。
「それじゃあ、試してみようか!」
「はい!」
職人たちが、少しずつ新しい水路へ水を流し始めた。
水が、幅の広い水路に流れ込んでいく。
水面がゆっくりと広がり、緩やかな傾斜に沿って進んでいった。
やがて、小さな段差に差しかかる。
サラサラ……。
水が段差を越え、下の水路へ流れていく。
「おお!」
ガイルが声を上げた。
水はそのまま、次の段差へ向かって進んでいった。
職人たちが土手を歩きながら、水の流れや補強した場所を確認している。
……うん。
今のところ、大丈夫そうだ。
ところが。
「男爵様!」
一人の職人が声を上げた。
「こちらに、少し水が染み出しています!」
「えっ?」
俺は急いで近づいた。
見ると、土手の下の方が湿っている。
どうやら、水が漏れているらしい。
《綻びの目》で確認すると、土手の一部に細い綻びが見えた。
水が通り始めてから、弱くなった場所があるようだ。
「この辺りかな?」
俺が土手の一部を指さす。
職人がそこを調べた。
「……はい!ここから染み出しているようです!」
「補強できそう?」
「もちろんです。この程度なら、すぐに直せます!」
職人たちが土を締め直し、必要な部分を補強した。
少し待つと、水の染み出しも収まった。
「よし!これで大丈夫そうです!」
「よかった!」
……ふう。
やっぱり、実際に水を流してみないとわからないこともあるんだな。
その後も水の流れを確認し、無事に水路の終わりまで水が届いた。
「やった!」
「リオン様!水が通りました!」
アーロンも嬉しそうだ。
周囲から拍手が起こった。
「ピー!」
「キュ!」
ピコとナッシュも嬉しそうに鳴いた。
少し離れた草地では、ポロリが大きく翼を広げている。
「はっはっは!みんなのおかげだな!」
ガイルが力強く頷いた。
……本当にそうだね。
騎士たちも、職人たちも、農民たちも。
そして、ポロリたちも。
みんなが力を合わせて、二百メートルの水路を完成させたんだ。
あとは、水を温める効果がどれくらいあるかだな。
◇
翌日。
朝からよく晴れていた。
俺たちは再び、完成した温水路を訪れた。
アーロンや農民たち、それにセルヴァンの農業指導者も集まっている。
「今日は、水の温かさを確かめてみましょう」
指導者は農民たちに頼み、水路の入口と出口から、同じ形の器に水を汲んでもらった。
なるべく同じ時刻に採った水を、すぐに比べるそうだ。
俺も入口の水に手を入れてみた。
「……冷たい!」
続いて、出口の水に触れる。
「……あれ?」
何となく、冷たさが和らいでいる気がする。
でも、正直よくわからない。
指導者も両方の水を確かめた。
「……出口の方が、わずかに冷たさが弱いように感じますね」
「本当!?」
「はい。ただ、手の感覚だけでは断言できません。天気や水量によっても変わりますから」
「なるほど」
それでも、少しは期待できそうだ。
「アーロンさん。皆さんも試してみてください」
指導者が農民たちを呼んだ。
「はい!」
「大切なのは、毎日同じように確かめることです。朝と昼、晴れた日と曇った日では、水の温かさも違います」
アーロンが真剣な表情で頷いた。
「それから、水だけではなく、稲の様子も見てください。葉の色や伸び方、水田による違いも記録するんです」
「わかりました!」
「水が温かくなっても、水量が足りなければ意味がありませんからね」
「はい!」
農民たちも、次々に水へ手を入れている。
指導者は、その一人一人に確かめ方を教えていた。
「アーロン」
「はい!」
「温水路を使っていない水田とも、育ち方を比べてみよう」
「なるほど!効果があるか確かめるんですね!」
「うん。今年の経験を、来年にも生かしたいからね」
「わかりました!」
アーロンが力強く頷いた。
……頼もしくなったなぁ。
こうして、セルヴァンの人たちの経験が、この領の農民たちにも伝わっていく。
いつか、みんなだけで立派な米を作れるようになってほしい。
◇
「リオンさん」
ナディアが声をかけてきた。
「素敵な水路ができましたね」
「うん!みんなのおかげだよ」
「これで、稲がもっと育ちやすくなるといいですね」
「そうだね!」
そこへ、ガイルもやってきた。
「どうだ!役に立ちそうか?」
「まだ試験中だけど、期待できそうだよ」
「はっはっは!それなら、造った甲斐があったな!」
「ガイルさん。ありがとうございました」
ナディアが微笑んだ。
「何を言っている!ナディアの役に立てたなら、それだけで十分だ!」
「ふふっ。でも、一番頑張ってくれたのはポロリかもしれませんね」
「はっはっは!確かにそうかもしれんな!」
「ピー!」
「キュ!」
足元では、ピコとナッシュも元気よく鳴いていた。
「あはは。二匹も頑張ってくれたよね!」
……本当に、みんなお疲れさま。
俺は、もう一度水路を見渡した。
幅の広い水路を、澄んだ水がゆっくりと流れている。
小さな段差を越えるたび、サラサラと心地よい音が響いた。
その先には、青々とした稲が育つ水田がある。
まだ二百メートルの試験水路だ。
効果がどれくらいあるのかは、これから確かめなければならない。
でも、うまくいけば、もっと長い水路を造ることもできるだろう。
そして、ここで学んだ人たちが、自分たちの力で米作りを広げていく。
……楽しみだな。
俺は、風に揺れる稲を眺めながら、そんな未来を思い描いていた。
最後まで読んでいただきありがとうございます。
ポロリは基本的に大人しく無口です。そして、ピコ、ナッシュよりも賢いです。
だから、大型(翼を広げたら小さな家くらいの大きさ)でも人間社会で生活できます。




