第627話 婚約の報告
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「実はな、俺たち、正式に婚約したんだ!」
「……えっ?」
俺は思わずガイルとナディアを交互に見た。
「えええっ!?」
「はっはっは!驚いたか!」
「そりゃ驚くよ!」
ガイルが嬉しそうに笑っている。
隣にいるナディアは、少し頬を赤くしていた。
「本当なの、ナディア?」
「はい。先日、婚約いたしました」
「すごい!おめでとう!」
「ありがとうございます、リオンさん」
ナディアが嬉しそうに微笑んだ。
「ナディア!おめでとう!」
ミラがナディアの両手を取った。
「ありがとうございます、ミラさん」
「よかったね!本当によかった!」
「……はい!」
ミラとナディアの目が少し潤んでいるように見えた。
……そっか。
ガイルとナディアが婚約したんだ。
学院時代から二人は仲がよかった。
でも、まさか結婚することになるとはなぁ。
それに、ナディアには以前、別の婚約者がいたはずだ。
いろいろあったんだろうな。
「ねえ、ガイル。せっかくだから、詳しく聞かせてよ」
「おう!そのつもりだ!」
俺たちは、屋敷の応接室へ移動することにした。
◇
応接室でお茶を飲みながら、改めて二人の話を聞く。
「それにしても、正式に婚約したってことは、両国の王家から認められたんだよね?」
「ああ!父上たちも、セルヴァンの国王陛下も認めてくださった!」
ガイルが胸を張った。
ナディアが微笑みながら補足する。
「婚姻後の生活や私の公務について、両国とベイルン家で協議を重ねていたんです」
「やっぱり、いろいろ大変だったんだね」
「はい。でも、ようやく合意することができました」
正式な手続きを終え、今回は共同訓練や稲作の視察を兼ねて来てくれたらしい。
「でも、どうして通信で教えてくれなかったの?」
俺がガイルに尋ねる。
「はっはっは!お前たちには直接伝えたかったんだ!」
「そっか」
「それに、驚いただろ?」
「驚いたよ!」
「なら、よかった!」
相変わらずだなぁ。
「正式な知らせも、いずれ届くと思います」
ナディアが微笑んだ。
「でも、私たちもリオンさんとミラさんには、直接お伝えしたかったんです」
「ありがとう。嬉しいよ」
ミラも大きく頷いた。
「うん!二人から聞けてよかった!」
◇
「でもさ、ナディア」
「はい?」
「婚約の話って、どうやってまとまったの?」
俺が尋ねると、ナディアは少し考え込んだ。
「もともと、ドラン帝国の動きがきっかけだったんです」
「ああ……」
ドラン帝国は、サハル王国への侵攻を繰り返していた。
アルスレインとセルヴァンが協力関係を強めたいと考えるのは、当然だろう。
「実は、リオンさんのおかげでもあるんです」
「……俺の?」
「はい。共鳴石通信のおかげでもあるんです」
「通信機が?」
ナディアが頷く。
「これまでは、両国が協力しようとしても、情報の共有に時間がかかっていました。でも、共鳴石通信があれば、国境で何か起きたときにも、以前より密に連携できます」
「うん」
「だからこそ、父上たちは、両国の同盟関係をこれまで以上に強固なものにする必要があると考えたそうです」
……ああ、なるほど。
通信の技術が進めば、軍事や外交のあり方も変わってくる。
情報を共有する機会が増えるほど、相手国を信頼できるかどうかが重要になるわけだ。
「なるほどね。外交的にも変わってくるからね」
「はい。その一つの形が、今回の婚約だったんです」
「へえ……」
確かに、王家同士や有力貴族家の婚姻は、国と国の関係を強める意味を持つ。
しかも、ベイルン家はアルスレイン王国でも有数の武門だ。
国境を長く守ってきた家でもある。
その嫡男とセルヴァンの第一王女が婚約する。
両国にとって、大きな意味があるんだろうな。
「でも、リオンさん」
ナディアが少し恥ずかしそうに続けた。
「国同士の事情だけで決まったわけではないんです」
「……うん?」
「私も、ガイルさんと結婚したいと思っています」
「おお!」
ガイルが嬉しそうに笑った。
「俺もだ!」
……あはは。
何だか、こっちまで嬉しくなるな。
◇
「ナディア」
ミラが優しく声をかけた。
「前にセレナと三人で話したことを覚えてる?」
「……はい」
ナディアが頷いた。
「私、あのときは本当にわからなかったんです」
ナディアが隣のガイルを見た。
「でも、今なら理由がわかります」
「ふふっ」
ミラが嬉しそうに笑った。
「やっぱり、そうだったんだね」
「……はい」
ナディアが少し照れたように俯く。
「ガイルさんと離れたくなかったんです」
「ナディア……!」
ガイルが感激したように声を上げた。
ナディアは、ますます顔を赤くした。
「ガイルさん。そんなに大きな声を出さなくても……」
「すまん!嬉しくて!」
「ふふっ」
ミラが笑う。
俺も思わず笑ってしまった。
二人とも、本当に幸せそうだ。
「ナディア。本当によかったね」
ミラが言った。
「……ありがとうございます」
二人は嬉しそうに微笑み合った。
◇
「ところで、結婚したら、二人はどこに住むの?」
俺が尋ねる。
「基本的にはベイルン領になる予定です」
ナディアが答えた。
「そうなんだ」
「ただ、私はセルヴァン王国の第一王女ですので、今後も両国の交流に関わっていくことになりました」
「へえ!」
「具体的な仕事はこれから決めていきますが、必要に応じてセルヴァンへ戻ることもあると思います」
「なるほどね」
ナディアがアルスレインへ嫁いでも、セルヴァンとのつながりがなくなるわけじゃない。
むしろ、両国を結ぶ重要な役割を担うことになるんだろうな。
「ガイルはどう思ってるの?」
「もちろん賛成だ!」
即答だった。
「ナディアには、ナディアのやりたいことがあるからな!」
「ガイルさん……」
「それに、俺もベイルン家を継ぐために、もっと勉強しなければならん!」
「……えっ?」
俺は思わず聞き返した。
「今、勉強って言った?」
「おう!」
「ガイルが?」
「何だ、その反応は!」
「いや、別に……」
学院時代、ガイルは筆記試験も頑張っていた。
ナディアに教えてもらいながら。
ただ、自分から領地経営の勉強をしなきゃと言い出すのは、少し意外だった。
「リオン。お前、俺が勉強できないと思ってるだろ!」
「そんなことないよ!」
「本当か?」
「うん。学院でも、ちゃんと成績を上げてたじゃないか」
「そうだろう!」
ガイルが満足そうに頷いた。
……単純だなぁ。
「でも、将来のために勉強しようと思うのは、すごくいいことだね」
「ああ!強いだけでは領地は治められんからな!」
おお。
ガイルも、将来のことをしっかり考えているんだな。
◇
しばらくして、話題は明日からの共同訓練へ移った。
「そうだ、リオン! 騎士団の方はどうなんだ?」
「新しい騎士が増えたところだし、今は訓練に力を入れてるよ」
「ほう!それは楽しみだな!」
「うん。アストンも、今回の共同訓練をすごく楽しみにしてたんだ」
「アストンが?」
「そう。以前にベイルン騎士団から教えてもらったことも、日々の訓練に取り入れてるんだって」
「おお!それは嬉しいな!」
ガイルが目を輝かせた。
「今回は、騎士団全体を見てもらいたいんだ。アストンも、今の実力を確かめたいって言ってたよ」
「任せろ!」
「新人も増えたし、課題もいろいろあると思うんだ」
「ああ!しっかり見てやろう!」
ガイルが力強く頷いた。
……よし。
今回の共同訓練は、きっといい機会になる。
「それにしても、ガイルが来てくれて助かったよ」
「何を言ってる!俺たちも楽しみにしていたんだ!」
「本当?」
「ああ!以前の訓練から、どれだけ強くなったか確かめられるからな!」
「そっか!」
アストンたちも、きっと喜ぶだろうな。
◇
それからも、俺たちは最近の出来事について話した。
ガイルは相変わらず声が大きい。
ナディアはそんなガイルに時々苦笑しながらも、嬉しそうにしている。
ミラも楽しそうだ。
……いいなぁ。
こうして集まると、学院にいた頃に戻ったような気がする。
「それにしても、ガイルとナディアが婚約かぁ」
俺が呟く。
「まだ驚いているのか!」
「うん。だって、こんなに早く婚約するとは思わなかったから」
「はっはっは!」
ガイルが豪快に笑った。
「お前だってミラと婚約しているだろう!」
「まあ、そうだけどね」
俺がミラを見ると、ミラは少し照れたように笑った。
「ふふっ。みんな、少しずつ変わっていくんだね」
「そうだね」
学院にいた頃とは違う。
ガイルにはベイルン家の将来がある。
ナディアには、二つの国を結ぶ役割がある。
俺とミラにも、この領地でやりたいことがたくさんある。
それぞれ進む道は違うけど、こうして会えるのは嬉しいな。
そのときだった。
「さて、ガイルさん」
ナディアが、にこりと微笑んだ。
「ん?」
「そろそろ、今日のお勉強をしましょうか」
「……えっ?」
俺は思わずナディアを見た。
「勉強?」
「はい。最近、ガイルさんに領地経営についてお教えしているんです」
「へえ……」
ガイルが大きく頷いた。
「おう!今日は領地の収支と、税の使い道だったな!」
「はい。昨日の続きです」
「ちょ、ちょっと待って。今からここで始めるの?っていうか、ガイル?」
戸惑う俺をよそに。
「よし!始めよう!」
ガイルが、自分から勉強を始めようとしている?
しかも、ずいぶん楽しそうだ。
俺はミラと顔を見合わせた。
ミラも驚いた顔をしている。
「……ガイル、変わったね」
「うん……」
こんなふうに張り切って領地経営を学ぼうとするとは思わなかった。
ナディアが嬉しそうに笑う。
「それでは、最初の問題です」
「おう!何でも来い!」
「領内の税収が予定より少なかった場合、何を確認するべきでしょうか?」
「ふむ……」
ガイルが腕を組んだ。
「まず、なぜ税収が減ったのかを調べる!」
「はい。そのとおりです」
「税を上げる前に、原因を知らなきゃいけないからな!」
「ふふっ。よく覚えていましたね」
「当然だ!」
……おお。
ちゃんと答えてる。
ナディアも嬉しそうだ。
俺は、もう一度ミラと顔を見合わせた。
そして、二人で小さく笑った。
ガイルとナディア。
婚約した二人は、俺が思っていた以上に、いい組み合わせなのかもしれないな。
ただ、なぜ今ここで勉強を始めたのかはわからなかった。
最後まで読んでいただきありがとうございます。
ちなみにヴィクトルはあることが理由でセルヴァン王国へ出かけています。




