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45歳社長、転生先でハズレスキル「綻びの目」を武器に没落領地を再建する  作者: アカメノコバチ
第21章 リオン・ハル男爵

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第625話 ガルセゾン団

新連載はじめました!

『王女殿下、まずは拳をお下げください ~転生執事と最強王女の成り上がり~』という作品です。

お手すきの際に是非!

https://ncode.syosetu.com/n5173mx/1からご覧いただけます。

 数日後。


 俺はアストンと一緒に、騎士団の訓練場を訪れることになっていた。


 今日は、新しく騎士を採用するための試験が行われる日だ。


 鉱山の開発が進み、街道を行き来する商人や馬車も増えている。


 領都の人口も、日に日に多くなっている。


 そのため、騎士団の人員を増やす必要が出てきた。


「リオン様。本日の予定はこちらです」


 屋敷を出る前に、ミアが予定を確認してくれた。


「ありがとう。午前中は騎士団の試験で、午後は政務所だね」


「はい。試験の間に届いた書類は、戻られてから確認できるようにしておきます」


「助かるよ」


「私もご一緒しますので、必要なことがあればお申し付けください」


「うん。お願い!」


 そこへ、ケーラがやってきた。


「男爵様。イレーナ様から、本日の採用試験を見学したいとのご連絡がございました」


「イレーナさんが?」


「はい。アストン様には、すでにお伝えしております」


「そうなんだ。ありがとう!」


 ……本当に助かるな。


「じゃあ、行ってくるね」


「はい。お気をつけて」


 ケーラに見送られ、俺はミアと一緒に屋敷を出た。


 ◇


 訓練場に着くと、すでに多くの志願者が集まっていた。


「アストン。応募者はどのくらい集まったの?」


「予定していた人数は確保できました。元兵士や冒険者、それに腕に覚えのある他領の若者など、経歴はさまざまです」


「へえ! 楽しみだね」


「ただ、採用できるのは一部になるでしょう」


「そうだよね」


 騎士団は、領民の安全を守るための組織だ。


 剣の腕だけでなく、体力や協調性、それに指示を守れるかどうかも大切になる。


「まずは基礎体力を確認し、その後に剣術や模擬戦、集団行動を見ます」


「うん。お願い!」


 俺が頷いたときだった。


 訓練場に集まった志願者たちの中に、見覚えのある顔を見つけた。


 ……あれ?


「ガレス?」


 そこにいたのは、ガレス・グレイヴだった。


 数日前、酒場で騒ぎを起こしていた。


 俺が声をかけると、ガレスはこちらを一度だけ見た。


「……ふん」


 そして、すぐに顔を背ける。


 ……来たんだ。


 酒場では、俺の世話にはならないと言っていたのにな。


 まあ、本人が応募すると決めたなら、それでいい。


 もちろん、特別扱いするつもりはないけど。


 ◇


 試験が始まった。


 最初は基礎体力の確認だ。


 決められた距離を走り、その後に腕立て伏せや荷物運びを行う。


 志願者たちは、落ち着いた様子で次々と課題をこなしていった。


 一方、ガレスはというと……。


「はぁ……はぁ……!」


 ……あれ?


 ずいぶん息が上がっている。


 ほかの志願者が次の課題へ向かう中、ガレスは膝に手をついていた。


「ガレス、大丈夫かな?」


 俺が呟くと、アストンが記録用紙に目を落とした。


「基礎体力は、今のところ下位ですな」


「……そうなんだ」


 王立学院で戦ったときのガレスは、もっと動けていたはずだ。


 その後も試験は続いた。


 剣術の基本動作では、ガレスの剣筋に鋭さが見られた。


 さすが《剣豪》だ。


 でも、同じ動きを繰り返すうちに、少しずつ姿勢が崩れていく。


 模擬戦でも、最初は相手を押していた。


 ところが、試合が長引くにつれ、足が止まり始める。


 最後は相手の攻撃を避けきれず、一本を取られてしまった。


「……くそっ!」


 ガレスが悔しそうに木剣を握りしめる。


 ……うーん。


 これは、予想していたより厳しいな。


「アストン。どう思う?」


「剣の基本は身についております。しかし、持久力が不足していますな」


「やっぱり、訓練してなかったのかな?」


「おそらく。長く鍛錬を怠っていたのでしょう」


 ……そっか。


 酒場でも、最近は剣を振っていないと言っていたもんな。


 努力して身につけたものでも、使わなければ衰えてしまうのだろう。


 俺もちゃんと体を動かさなきゃいけないな。


 そして、最後は集団行動の試験だ。


 数人で協力し、荷物を運びながら襲撃役から守るという課題だった。


 ガレスの組が出発する。


 しばらくすると、前方から襲撃役が現れた。


「俺がやる!」


 ガレスが真っ先に飛び出した。


「おい! 持ち場を離れるな!」


 仲間の志願者が叫ぶ。


 しかし、ガレスは止まらなかった。


 その隙に、別の襲撃役が荷物へ近づく。


「そこまで!」


 アストンの声が響いた。


 ……失敗だ。


 ガレスが戻ってくると、同じ組の志願者たちは不満そうな顔をしていた。


「お前が持ち場を離れなければ……」


「うるせえ! 俺が倒せばよかったんだろ!」


「荷物を守る試験だぞ!」


「……っ!」


 ガレスが言葉に詰まる。


 ……これは厳しいな。


 一方、別の組では、剣術の成績がそれほど高くなかった志願者が、仲間と協力して課題を成功させていた。


 なるほど。


 強い人が一人いればいいというわけじゃないんだ。


 ◇


 試験が終わり、アストンと担当者たちが結果を確認した。


 俺も記録を見せてもらう。


「……ガレスは?」


「不合格です」


 アストンが迷わず答えた。


「そうなんだ……」


「剣術には光るものがあります。しかし、体力、持久力、集団行動のいずれも基準に達しておりません」


「少し甘く見ても?」


「難しいでしょう。ほかの志願者との公平性もあります」


「……そうだよね」


 俺は頷いた。


 ガレスが努力していたことは知っている。


 でも、それは過去の話だ。


 今の実力で判断しなければならない。


 結果を伝えられたガレスは、納得できない様子だった。


「……ふざけるな!」


 アストンに詰め寄る。


「俺は《剣豪》だぞ! そこらの連中とは違う!」


「固有スキルだけで採用を決めることはない」


「俺の剣を見ただろ!」


「そのうえでの判断だ」


「……っ!」


 ガレスが拳を握りしめた。


 ……困ったな。


 俺が声をかけようとした、そのときだった。


「はっはっは!こりゃあ、ひどいねえ!」


 訓練場に豪快な笑い声が響いた。


 振り返ると、見覚えのある女性が立っていた。


「……イレーナさん?」


「よう、坊や。元気そうじゃないか」


 イレーナさんだ。


 隣には、体格のいい女性が立っている。


 肩幅が広く、鍛えられた腕が目立つ。


 腰には剣を下げ、背筋を伸ばしていた。


 ……強そうだな。


「今日はどうしたの?」


「アストンに頼んで、試験を見せてもらってたんだよ」


「ああ、ケーラから聞いたよ」


「そうかい。ウチでも人手が足りなくなってきてね」


 イレーナさんは、ノア山脈周辺の巡回や鉱山の警備を請け負っている。


 最近では、アナハイムで何でも屋の仕事を引き受けたり、冒険者ギルドの依頼を受けたりもしているそうだ。


 そのため、以前より仲間が増えているらしい。


「騎士団に落ちた連中の中にも、ウチで働ける奴がいるかもしれないだろ?」


「なるほど」


「騎士になれなかったからって、何の役にも立たないわけじゃないからね」


「確かに!」


「まあ、ウチでもちゃんと仕事は覚えてもらうけどな」


 イレーナさんが笑った。


 すると、近くにいた不合格者の一人が、おずおずと声をかけてきた。


「あの……俺みたいな奴でも、仕事はありますか?」


「何ができるんだい?」


「剣はあまり得意じゃありません。でも、荷馬車の扱いには慣れています」


「へえ。だったら、荷運びや鉱山の仕事で役に立つかもしれないね」


「本当ですか!」


「ただし、楽な仕事じゃないよ。それでもやってみたいなら、後で話を聞きに来な」


「はい! ありがとうございます!」


 男が嬉しそうに頭を下げた。


 隣にいたミアが、その姿を見つめていた。


「よかったですね」


「うん」


「試験には落ちてしまいましたけど、あの方にもできる仕事があるかもしれないんですね」


「そうだね。得意なことは人によって違うからね」


 ミアが嬉しそうに微笑んだ。


「そういえば、坊や」


 イレーナさんが声をかけてきた。


「ウチの組織に、最近正式な名前を付けたんだよ」


「名前?」


「ああ。ガルセゾン団だ」


「ガルセゾン団?」


「いつまでも『イレーナの一味』じゃ格好がつかないだろ?」


「そうなんだ!」


「団員たちと相談して決めたんだ。なかなかいい響きだろ?」


「うん。覚えやすい名前!」


「だろ?」


 イレーナさんが満足そうに笑った。


「鉱山の警備から荷物運び、魔物の討伐まで、仕事は何でも請け負う。もちろん、依頼は選ばせてもらうけどね」


 ……へえ。


 ずいぶん大きな組織になってきたんだな。


 そのとき、イレーナさんがガレスに目を向けた。


「で、そこのだらしない豚は何だい?」


「……何?」


 ガレスが振り返った。


「おや。聞こえなかったのかい?」


 イレーナさんがにやりと笑う。


「グレイヴ家のお坊ちゃんも、ずいぶんだらしない豚になったもんだと言ったんだよ」


「……何だと!」


 ガレスの顔が真っ赤になった。


「貴様!俺が誰だかわかっているのか!」


「もちろん知ってるさ」


 イレーナさんが肩をすくめた。


「私がどこの領地で騎士をやってたと思ってるんだい?」


「……っ!」


「それにしても情けないねえ。あのグレイヴ家の息子が、騎士団の試験にも通らないとは」


「黙れ!」


 ガレスがイレーナさんに向かって突進した。


「ガレス!待って!」


 俺が叫ぶ。


 イレーナさんの強さは、よく知っている。


 まともに挑んで勝てる相手じゃない。


 しかし、止める暇もなかった。


「よっと」


 イレーナさんがガレスの腕をつかんだ。


 そのまま体をひねる。


「うわっ!」


 ガレスの体が宙を舞った。


 ドサッ!


 訓練場の地面に、背中から落ちる。


 ……うわぁ。


 豪快だな。


「イレーナさん!」


「おっと」


 イレーナさんが俺を見た。


「元領主様の息子だったね。坊や、問題ないよな?」


「領主の立場としては、喧嘩は認めない」


「相変わらず堅いねえ」


「でも、向こうから襲いかかってきたんだから、自分を守るための反撃までは責めないよ」


「はっはっは!そうかい!」


「でも、これ以上は駄目だ」


「わかってるよ」


 地面に倒れていたガレスが、ゆっくりと起き上がった。


「……くそっ!」


 イレーナさんが笑う。


「どうした、豚野郎。もう終わりかい?」


「ふざけるな!」


 ガレスが再び向かおうとする。


「待ちな!」


 イレーナさんが片手を上げた。


「これ以上やるなら、喧嘩じゃなくて稽古にしな。ここは訓練場だからね」


「……何だと?」


「お前が望むなら、相手をしてやるよ。嫌なら帰りな」


「……やってやる!」


 ガレスが即座に答えた。


 俺がアストンを見ると、小さく頷いた。


「本人が希望するのであれば、訓練として認めましょう。ただし、危険と判断した場合は中止させます」


「うん。お願い」


 イレーナさんはガレスを、藁を厚く敷いた場所へ連れていった。


「さあ、かかってきな」


「……ふざけるな!」


 ガレスが勢いよく踏み込む。


 しかし。


「ほらよ」


「うわあっ!」


 また投げ飛ばされた。


 ……ああ。


 今度は横向きに転がっている。


「何やってんだ?足元がお留守だよ」


「黙れ!」


 ガレスが立ち上がる。


「もう一度だ!」


 再び飛び込もうとしたガレスに、イレーナさんが声をかけた。


「お前、本当に何も考えてないねえ」


「……何だと!」


「同じように突っ込んで、同じように投げられる。それで次は勝てると思ってるのかい?」


「……っ!」


「悔しいなら、負けた理由を考えな」


 ガレスが黙り込んだ。


 ……あれ?


 イレーナさん、ちゃんと教えてるんだ。


「……もう一度だ」


 ガレスが構え直す。


 今度はすぐに飛び込まず、慎重に距離を詰めた。


 イレーナさんが右手を伸ばす。


 ガレスは、その手を避けて左へ回り込んだ。


 ……おお。


 さっきとは違うな。


 さらに、相手の袖へ手を伸ばす。


 しかし、イレーナさんは一歩踏み込み、逆にガレスの体勢を崩した。


「しまっ……!」


 ドサッ!


 ……また投げられた。


 でも、今度は少しだけ粘ったように見えた。


 イレーナさんがガレスを見下ろす。


「……だんだんいい顔になってきたじゃないか」


「……何だと?」


「今のは、少し考えて動いてたね」


 ガレスが悔しそうに唇を噛んだ。


「……もう一度!」


「いや、今日はここまでだ」


「まだ、俺は!」


「立つのもやっとのくせに、何を言ってんだい」


 ガレスは言い返そうとして、地面に手をついた。


 呼吸が荒い。


「……くそっ」


 しばらくして、小さな声が漏れた。


「前みたいに動けねえのは、俺が一番わかってる……!」


 イレーナさんは何も言わなかった。


「……なのに、どうすりゃいいのかわからねえんだよ!」


 ガレスが拳を握りしめる。


 イレーナさんは、少しだけ表情を和らげた。


「だったら、最初からやり直せばいいじゃないか」


「……簡単に言うな!」


「簡単じゃないさ。体を鍛え直して、毎日剣を振って、仕事も一つずつ覚える。面倒なことばかりだよ」


「…………」


「でも、さっきのお前は、一度投げられてから動きを変えただろ?」


 ガレスが顔を上げた。


「今はそれで十分だ。今日できなかったことを、次に一つできるようにすればいい」


「……っ!」


「うまくいかないからって、そこで全部投げ出すんじゃないよ」


 ガレスが俯いた。


 ……ああ。


 イレーナさんは、ガレスが負けたことを笑っているんじゃないんだ。


 悔しいなら、もう一度頑張ってみろ。


 そう言っているんだな。


 ◇


「エメラルダ!」


 イレーナさんが声を上げた。


 隣にいた大柄な女性が、一歩前へ出る。


「はい、団長」


「こいつはお前が面倒を見ろ」


「承知しました」


 ……えっ?


「イレーナさん?」


「何だい、坊や」


「ガレスを引き受けるの?」


「ああ。ウチで働かせてやろうと思ってね」


「でも、あれだけ問題を起こしたんだよ?」


「だからどうした?」


「……大丈夫なのかって」


 イレーナさんがガレスを見た。


「坊やだからな」


「……え?」


「まだまだガキってことさ。これからいくらでも変わる」


「なるほど……」


 イレーナさんが腕を組んだ。


「ウチには、何度失敗しても諦めずに働いてる奴が大勢いる。あいつも、その仲間になれるかもしれないだろ?」


「それはそうだけど」


「失敗した奴に、もう一度やってみろって言える場所くらい、あってもいいじゃないか」


 ……うん。


 いい考えだと思う。


 ん?


「そういえば、イレーナさん。いつも俺のことも坊やって呼んでるよね?」


「ああ?」


 イレーナさんが俺を見た。


「何か言いたいことでもあるのかい?」


「……いえ、何でもありません」


「はっはっは!」


 ……相変わらずだなぁ。


 でも、少しわかった気がする。


 ガルセゾン団は、ただ仕事を請け負うだけの組織じゃない。


 うまくいかなくても、もう一度頑張りたい人に機会を与える場所でもあるんだな。


 その間に、エメラルダと呼ばれた女性がガレスの前に立った。


「立て」


「……何だよ」


「団長がお前に働く機会をくださるそうだ」


「はあ?誰がお前らなんかと!」


 ガレスが顔を上げる。


「俺は、あの女の部下になんか――」


 パァン!


 乾いた音が響いた。


 エメラルダが、ガレスの頬を平手で打っていた。


「……っ!」


 ガレスが目を見開く。


「貴様!何をする!」


「口の利き方がなってないぞ」


 エメラルダが低い声で言った。


「団長が直々に、お前に働く機会を与えてくださったのだ。その御厚意を踏みにじるつもりか」


「……何だと!」


「不服なら断ればいい。だが、あのお方への侮辱は許さん」


 ……うわ。


 こっちも相当怖いな。


 でも、さすがに今のは行き過ぎだと思う。


「エメラルダさん」


「何だ?」


「ガレスの態度が悪いのは確かだけど、いきなり叩くのはやめてほしいな」


 エメラルダが俺を見た。


 そして、イレーナさんへ視線を向ける。


「……団長」


「坊やの言うとおりだよ。お前も少し落ち着きな」


「……申し訳ございません」


「ウチは、殴って言うことを聞かせる集団じゃないからね」


「承知しました」


 エメラルダがガレスに向き直った。


「……今のは私が行き過ぎた。詫びよう」


「…………」


「だが、団長への口の利き方は改めてもらう」


「……くそっ」


 ガレスが不満そうに顔を背けた。


 ……まあ、簡単には変わらないよな。


 イレーナさんがガレスに声をかけた。


「で、どうするんだい?」


「……何がだ」


「ウチに来るか、来ないかさ」


「…………」


「言っとくけど、最初から剣を使う仕事なんて任せないよ。荷物運びでも掃除でも、できることからやってもらう」


「……俺に荷物を運べっていうのか?」


「ああ。今のお前じゃ、それすら満足にできるかわからないからね」


「……っ!」


「嫌なら断りな。無理に連れていくつもりはないよ」


 ガレスが拳を握りしめた。


 しばらくの間、誰も口を開かなかった。


 やがて、ガレスが顔を上げる。


「……あんた」


「ああ?」


「俺が本気で鍛え直したら、もう一度相手をしてくれるか?」


 ……えっ?


 イレーナさんが、にやりと笑った。


「もちろんさ」


「……本当だな?」


「ああ。ただし、今度はもう少し楽しませてくれよ」


「……くそっ!」


 ガレスが悔しそうに歯を食いしばった。


「……だったら、やってやる」


「へえ?」


「荷物運びだろうが何だろうが、やってやるよ!」


 イレーナさんが豪快に笑った。


「はっはっは!いいねえ!」


 そして、エメラルダを見た。


「聞いたか?」


「はい、団長」


「まずは基礎から鍛え直してやりな。それと、仕事も一から教えてやってくれ」


「承知しました」


 エメラルダがガレスに向き直る。


「立て。行くぞ」


「……どこへだよ」


「まずは手当てだ。それから、明日からの仕事について説明する」


「……今日からじゃねえのか?」


「その体で何ができる。まずは休め」


「……わかったよ」


 ガレスがゆっくりと立ち上がった。


 ……おお。


 本当に行くんだ。


 まだ納得していないことも多そうだけど、自分で決めたみたいだな。


 ◇


「それじゃあ、坊や」


 イレーナさんが俺に声をかけた。


「こいつはウチで採用するが、いいな?」


「うん。でも、ほどほどにお願いね。ガレスもこの領の一員なんだから」


「わかってるよ。壊しちまったら働けないからね」


「……その言い方、ちょっと怖いんだけど」


「はっはっは!」


 イレーナさんが豪快に笑った。


「まあ、最初は見習いだよ。仕事ぶりを見て、正式に雇うか決めるさ」


「うん。それならいいと思う」


「それに、あいつが本気で鍛え直すなら、少しは使いものになるかもしれないしね」


「そうだね」


 俺はガレスの方を見た。


 エメラルダさんに何か指示され、不満そうな顔をしている。


 でも、ちゃんとその後について歩いていた。


「リオン様」


 ミアが隣で声をかけてきた。


「何?」


「ガレスさん、よかったですね」


「うん。まだどうなるかわからないけどね」


「はい。でも、もう一度頑張れる場所が見つかって、よかったと思います」


「そうだね」


 俺は、ガレスの背中を見送った。


 王立学院で初めて会った頃のガレスは、家柄を誇るばかりの嫌なやつだった。


 その後、王都武闘大会の学院代表選考では、努力して強くなった姿を見せてくれた。


 そして今は、その努力も途絶えてしまっている。


 ……だけど。


 さっきのガレスは、何度投げ飛ばされても立ち上がっていた。


 負けるたびに、少しずつ動きを変えていた。


 あの頃の負けず嫌いなガレスが、少し戻ってきた気がする。


 騎士団の試験には落ちた。


 でも、新しい居場所は見つかった。


 ……よかったな、ガレス。


 まあ、イレーナさんとエメラルダさんの下で働くのは、相当大変そうだけどね。



最後まで読んでいただきありがとうございます。

ガルセゾンです。ガルセゾンですよ?

ガレスが成長してくれると良いな~と思っています。

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― 新着の感想 ―
平民の犯罪者にぺこぺこする領主
ギャルセゾンかぁ。
イレーナ姐さん 面倒見が良くかっこいい。ガルセゾン団と名付けてハル領の第2騎士団に昇格しそうです。ガレス頑張れ!
感想一覧
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