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45歳社長、転生先でハズレスキル「綻びの目」を武器に没落領地を再建する  作者: アカメノコバチ
第21章 リオン・ハル男爵

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第602話 公爵の視察

 数日後。


 ヴァレスト公爵がハル領へやってきた。


「お久しぶりです、公爵様」


「久しぶりだね、リオン君」


 公爵が馬車から降りる。


 今回の目的は、蒸気機関の視察だ。


「わざわざお越しいただき、ありがとうございます」


「いやいや。君がまた面白いものを作ったと聞いたからね」


「まだ試験中ですけど」


「それでも、鉱石の搬出量が三倍近くになる可能性があるんだろう?」


「はい。鉱山技師の方は、そうおっしゃっていました」


「それはぜひ見てみたいね」


 公爵が笑う。


 今回は一泊二日の予定らしい。


 ヴァレスト公爵領でも、サハルからの難民を受け入れる準備が始まっている様だ。


 あまり長く領地を離れるわけにはいかないそうだ。


「では、早速ビダン山へご案内しましょうか?」


「そうだね。ただ、その前に一ついいかな?」


「何でしょう?」


「君の屋敷の庭にも、面白いものがあると聞いたんだけど」


「ああ、蒸気機関車ですね」


「……蒸気機関車」


「はい。まだ小さいですけど、人も乗れるんですよ」


「そうなのかい?」


 公爵が少し目を細めた。


「それは、ぜひ見せてもらいたいね」


 ◇


「こちらです」


 公爵を庭へ案内する。


 大きな楕円形の線路。


 その上に、小さな蒸気機関車が載っている。


 前には蒸気機関と操縦席。


 後ろには、一人が乗れる小さな客車をつないでいた。


「……なるほど」


 公爵が機関車へ近づく。


 しゃがんで車輪を見た。


 それから、蒸気機関へ目を向ける。


「実際に動かしてもらえるかな?」


「もちろんです」


 ルッツさんと職人たちが準備を始める。


 炉に火を入れ、石炭を加える。


 水が温まり、やがて蒸気が上がってきた。


 シュウウウ……。


「準備できました」


「ありがとう」


 俺が操縦席に座る。


「公爵様、後ろに乗ってみませんか?」


「私がかい?」


「はい」


 公爵が笑った。


「それは面白そうだね」


 客車へまたがってもらう。


「ずいぶん低いんだね」


「まだ試作品なので」


「いや、十分だよ」


「では、動かします」


「ああ」


 周囲に人がいないことを確認する。


 ルッツさんが頷いた。


 少しずつ蒸気を送る。


 ガコン。


 ガタン。


 小さな機関車が動き出した。


「おお……」


 後ろから公爵の声が聞こえた。


 ガタン。


 ガタン。


 ゆっくりと線路の上を進んでいく。


「どうですか?」


「うん。面白いね」


 最初のカーブへ入る。


 車輪が線路に沿って曲がっていく。


 そのまま直線へ。


 次のカーブも問題なく通過した。


「これは……」


 公爵が小さく呟く。


「本当に作ってしまったんだね」


「え?」


「いや。見事なものだと思ってね」


「あはは。ありがとうございます」


 線路を一周して止まる。


「いかがでしたか?」


「驚いたよ」


「本当ですか?」


「ああ」


 公爵が機関車を振り返る。


「まさか、こんなものに乗れる日が来るとはね」


 ずいぶん喜んでもらえたみたいだ。


「リオン君」


「はい?」


「これは、どれくらい大きくできそうかな?」


「まだ分からないですけど、将来的には何人も乗れるくらいにしたいですね」


「何人も?」


「はい。それに、荷物も運べるようにしたいです」


「なるほど」


 公爵が頷く。


「では、車両を何台もつなぐことも考えているのかな?」


「あ、はい。そのつもりです」


「そうか」


 なんだろう。


 普通は、こんな小さな乗り物を見ても、何台もつなぐなんて思いつかないんじゃないだろうか。


「公爵様は、こういう機械に詳しいんですか?」


「いや。仕組みまではよく知らないよ」


「そうなんですね」


「ただ、使い道を考えるのは好きでね」


 公爵が笑った。


「それより、この機関車は君が作ったのかい?」


「いえ。俺はこういうものを作りたいって言っただけです」


「そうなのかい?」


「はい。実際に作ってくれたのはルッツさんたちです」


 ルッツさんを呼ぶ。


「公爵様、こちらがルッツさんです」


「お初にお目にかかります」


「君がこれを作ったんだね」


「はい。ただ、私一人ではありません。ほかの職人たちと試作を繰り返しました」


「そうか。少し話を聞いてもいいかな?」


「もちろんです」


 公爵は機関車の横にしゃがみ、ルッツさんの説明を聞き始めた。


 蒸気を筒へ送る。


 中の板が押される。


 棒が動く。


 その動きを回転に変える。


 最初は蒸気を出し入れする金具を、人が操作していたこと。


 そこから車輪の回転に合わせて、自動で切り替える仕組みを作ったこと。


 何度も失敗し、部品を作り直したこと。


 ルッツさんが順番に説明していく。


「なるほど」


 公爵が頷く。


「君たちが考えたのかい?」


「はい。リオン様から、どのように動かしたいかをお聞きして、職人たちと相談しながら作りました」


「そうか……」


 公爵がルッツさんを見る。


「素晴らしいね」


「ありがとうございます」


「これだけの仕組みを形にするのは、簡単ではなかっただろう?」


「はい。ですが、非常に勉強になりました」


 ルッツさんが笑う。


「最初は、本当に動くとは思っておりませんでしたから」


「そうだろうね」


 公爵も笑った。


「リオン君」


「はい?」


「君には、こういう人がいたんだね」


「え?」


「いや。素晴らしい職人に恵まれたと思ってね」


「ああ、はい。本当にそう思います」


 ルッツさんたちがいなかったら、蒸気機関なんて作れなかった。


 俺は完成した機関車の姿を知っている。


 でも、その仕組みを細かく説明できるわけじゃない。


 それを実際に作ってくれたのが、ルッツさんたちだ。


「これからも大切にするといい」


「もちろんです」


 公爵が満足そうに頷いた。


 ◇


「では、次はビダン山へご案内します」


「お願いするよ」


 庭を出て、屋敷の裏へ向かう。


 ただし、その前に公爵の随員には屋敷で待っていてもらうことにした。


 案内するのは俺とアストンだ。


「馬車はどちらかな?」


 公爵が尋ねる。


「ああ。今回は馬車を使いません」


「そうなのか?」


「はい。少し驚かれるかもしれませんが……」


 公爵を見る。


「俺の手につかまっていただけますか?」


「こうかな?」


 公爵が手を差し出した。


「はい」


 アストンも隣に来る。


「では、行きます」


 一瞬で景色が変わった。


「……」


 公爵が周囲を見回す。


 さっきまでいた屋敷の裏ではない。


「着きました」


 目の前にあるビダン山を見上げる公爵。


「……なるほど」


 公爵が俺を見る。


「これは驚いた」


「そうですよね」


「しかし、これで一つ分かったよ」


「何がですか?」


「以前、王宮で君に会った時のことさ」


「あ」


 あの時か。


 王宮から急いで来てほしいと言われて、すぐに転移した。


 公爵から、どこから来たのか聞かれたんだった。


「かなり急いで来たって言いましたよね、俺」


「そうだったね」


 公爵が笑う。


「本当に急いでいたんだね」


「……はい」


「安心するといい。誰かに話すつもりはないよ」


「ありがとうございます」


「しかし、便利なものだね」


「そうですね。ただ、行ける場所には限りがありますけど」


「なるほど」


 公爵はそれ以上聞かなかった。


 ◇


 鉱山へ向かう。


 坑道の入口近くには、蒸気機関が設置されていた。


 高い煙突から煙が上がっている。


 ゴオオオ……。


 石炭の燃える音が聞こえた。


「公爵様!」


 ヴァレスト公爵領から来ている鉱山技師が駆け寄ってきた。


「ご苦労様」


「わざわざお越しいただき、ありがとうございます」


「いや。報告を読んで、どうしても見てみたくなってね」


 公爵が蒸気機関を見る。


「これが例の装置かい?」


「はい」


「では、実際に動かしてもらえるかな?」


「承知しました」


 技師が作業員たちへ合図を出す。


 蒸気の圧力を確認する。


 縄の張り具合も確認する。


 坑道の奥と合図を交わした。


「準備できました!」


「では、始めてください」


 ガコン。


 ガコン。


 蒸気機関が動き始める。


 回転軸が回り、縄が巻き取られていく。


 やがて、坑道の奥から鉱石を積んだトロッコが姿を現した。


「おお……」


 公爵が目を細める。


 ガコン。


 ガコン。


 トロッコがゆっくり近づいてくる。


 そのまま坑道の外へ出てきた。


「なるほど」


 公爵が頷く。


「これなら、馬を使わずに鉱石を運び出せるわけだね」


「はい」


 鉱山技師が答える。


「以前は馬を使って縄を巻き取っていましたが、今はこちらの装置で動かしております」


「能力はどれくらい違うんだい?」


「まだ試算ですが、この坑道の搬出量を三倍近くまで増やせる見込みです」


「三倍か」


「はい。ただ、採掘量そのものが三倍になるわけではありません」


「そうだね。運ぶ量が増えても、掘る人が足りなければ意味がないからね」


「その通りです」


 公爵が蒸気機関を見つめる。


「ほかの坑道にも設置できそうかな?」


「形や距離に合わせた調整は必要ですが、可能性は十分あります」


「なるほど」


 公爵が頷いた。


「ところで、燃料は石炭なんだね?」


「はい」


「どこから運んでいるんだ?」


「リンクス山です」


 俺が答える。


「……リンクス?」


「はい。あの向こうに見える山です」


 西の方を指さす。


 ビダン山の向こうに、リンクス山が見えていた。



「あれがリンクス山かい?」


「そうです。石炭が採れるんですよ」


「……そうか」


 公爵が山へ目を向ける。


「アーシタ、ビダン……リンクス」


「はい」


 公爵が少し考える。


「リンクス、ね……」


「どうかしましたか?」


「いや」


 公爵がこちらを向いた。


「以前、君が山の名前をつけた時のことを思い出してね」


「ああ」


「まだ名前のない山もあっただろう?」


「はい。もう名前を決めましたよ」


「そうなのかい?」


「アノー山とエヴィン山です」


「……アノーとエヴィン」


「はい」


 公爵が小さく頷いた。


「なるほど。そういう名前になったんだね」


「何か?」


「いや。いい名前だと思ってね」


「ありがとうございます」


 公爵はもう一度、リンクス山を見た。


 それから何事もなかったように、鉱山技師へ顔を向けた。


 相変わらず、山の名前を気にする人だな。


 ◇


「ところで、安全面はどうなっているんだい?」


 公爵が尋ねた。


「現在、毎日点検を行っております」


「具体的には?」


「蒸気漏れ、部品の摩耗、縄の傷み、それから燃料と水の消費量などです」


「なるほど。蒸気の圧力は?」


「確認しております。危なそうな場合には運転を止め、余分な蒸気を逃がす仕組みも設けました」


「そうか。それは大切だね」


 公爵が装置を眺める。


「煙や煤への対策は?」


「そちらも行っております」


 技師が煙突を指す。


「煙突を高くして、火の粉が外へ飛びにくいよう金網も設けました」


「金網?」


「はい。ただし、煤が詰まることもありますので、定期的に外して掃除しております」


「なるほど」


 公爵が頷く。


「作業員の健康への影響は?」


「そちらも確認しております」


 蒸気機関は坑道の外に置いてある。


 住居や休憩場所からも離している。


 風向きによっては煙が作業場所へ流れるため、その場合は運転を見合わせることもあるそうだ。


「煙が坑道の中へ入ることは?」


「今のところ確認されておりません。ただ、風向きには十分注意しております」


「そうだね」


「石炭を燃やす作業員についても、交代で作業するようにしております」


「休憩も取れているのかな?」


「はい。炉のそばに立ち続けることがないようにしております」


 さらに、石炭を扱う際に舞う粉塵や、炉から出る灰についても対策を進めているらしい。


 灰や煤は集めて保管し、勝手に捨てないようにしている。


 装置の点検記録だけでなく、作業員の咳や目の痛みなども報告してもらっているそうだ。


「なるほど」


 公爵が頷いた。


「よく考えられているね」


「ありがとうございます」


「ただ、まだ運用を始めたばかりだろう?」


「はい」


「長い間働いて、初めて分かる問題もあるからね」


「承知しております」


「それと、装置が動いている間は、縄や回転軸に人を近づけないようにしてほしい」


「はい。立ち入り場所も決めております」


 公爵は作業員が働いている場所も確認した。


 俺も一緒についていく。


「リオン君」


「はい?」


「君も安全には気を配っているんだね」


「はい。庭で試した時にも、いろいろ問題が出たので」


「そうか」


「それに、鉱山で働く人たちが怪我をしたり、病気になったりしたら困りますから」


「うん」


 公爵が少し笑った。


「それは大切なことだよ」


 それから、もう一度蒸気機関を見た。


「しかし……本当に動いているんだね」


「はい」


「しかも、実際の仕事に使えるところまで来ている」


「まだ試験中ですけどね」


「それでも大きな一歩だよ」


 公爵はしばらく蒸気機関を眺めていた。


「リオン君」


「はい?」


「君は、この装置をほかにも使おうと考えているのかな?」


「もちろんです」


「例えば?」


「まずは、さっきの蒸気機関車ですね」


「うん」


「それから、工房の機械も動かせるんじゃないかと思っています」


「工房の機械?」


「はい。木材を切ったり、金属を加工したり」


「なるほど」


「水を汲み上げることにも使えると思うんですよね」


 鉱山で地下水がたまった時にも役立つかもしれない。


「ただ、まだ思いついただけですけど」


「いや。それで十分だよ」


 公爵が頷いた。


「一つ、聞いてもいいかな?」


「何でしょう?」


「もし、あの蒸気機関車をもっと大きくできたら、線路はどこまで延ばすつもりなんだい?」


「え?」


「屋敷の庭だけではもったいないだろう?」


「ああ」


 少し考える。


「まずは領内ですね」


「うん」


「鉱山と町をつないだり、荷物を運んだり」


「その先は?」


「いずれは、ほかの領地ともつなげられたらいいなって」


「そうか……」


 公爵が少し笑った。


「それは楽しみだね」


「はい」


「でも、なかなか大変そうだね」


「そうですね。線路も作らないといけませんし、機関車だってまだ小さいですから」


「それだけではないよ」


「え?」


「ほかの領地まで線路を延ばすなら、その領主にも協力してもらわなければならないだろう?」


「ああ……」


 確かに。


「それに、誰が線路を作り、誰がお金を出すのかも決めなければならない」


「そうですね」


 公爵が頷く。


「考えることは多いね」


「はい」


「ただ……」


「はい?」


「方法がないわけではないと思うよ」


「本当ですか?」


「ああ」


 公爵が笑った。


「まあ、その話はまたにしようか」


「……はい」


 何か考えがあるんだろうか。


 ◇


 その後も鉱山を見て回った。


 坑道の入口。


 石炭や水の保管場所。


 作業員の休憩場所。


 蒸気機関を使った運搬作業。


 公爵は一つ一つ確認していた。


 夕方になる頃には、視察も一通り終わった。


「公爵様、そろそろ戻りましょうか」


「そうだね」


 鉱山技師と作業員たちへ礼を言う。


「今日はありがとうございました」


「こちらこそ、お越しいただきありがとうございました」


「引き続き、安全第一でお願いします」


「承知しました!」


 公爵も技師へ声をかけた。


「今後の試験結果も報告してほしい」


「はい!」


「何か問題が見つかったら、隠さず知らせること。安全を優先してほしい」


「承知いたしました」


 それから、アナハイムへ向かった。


「では、公爵様。また手につかまってください」


「ああ」


 公爵が俺の手を取る。


 アストンも隣に来た。


 転移する。


 一瞬で景色が変わった。


 見慣れた屋敷の裏だ。


「着きました」


「……本当に便利なものだね」


「そうですね」


 公爵が笑う。


「これがあれば、馬車も鉄道も必要なくなりそうだけど」


「あはは。でも、俺しか使えませんから」


「そうだね」


 公爵が頷く。


「大勢の人や大量の荷物を運ぶなら、別の方法が必要だね」


「はい」


 屋敷へ向かう。


「公爵様」


「何かな?」


「十分なおもてなしはできませんが、今夜はぜひゆっくりしていってください」


「ありがとう。楽しみにしているよ」


 ◇


 夕食は屋敷で用意してもらった。


 ミラも一緒だ。


「ミラ嬢、久しぶりだね」


「お久しぶりです、公爵様」


「元気そうで何よりだよ」


「ありがとうございます」


 食事をしながら、今日見た蒸気機関車の話になった。


「ミラ嬢も乗ったのかな?」


「はい! ピコと一緒に乗りました」


「そうか。楽しかったかい?」


「とても!」


 ミラが笑う。


「最初はびっくりしましたけど、本当に馬がいないのに動くんですよ」


「私も乗せてもらったよ」


「いかがでした?」


「面白かったね。また乗ってみたいくらいだよ」


 ミラが嬉しそうに笑った。


「ピコも気に入ってるんです」


「ピー!」


 近くにいたピコが鳴いた。


 公爵も笑う。


「それは何よりだね」


 それから、公爵家の近況も聞いた。


 ルークやセレナも元気にしているらしい。


「セレナは最近どうですか?」


「相変わらず勉強熱心だよ」


「そうですか」


「君の話も時々しているね」


「え?」


「いろいろ新しいことを始めているそうだから、気になるんだろうね」


「あはは」


「そのうち、エドガー殿下とここへ来るかもしれないね」


 その後は、サハルからの難民の話になった。


「受け入れの準備はどうかな?」


「まだ人数が分からないので、できるところから進めています」


「そうか」


「水や住居、食料、仕事。それに医療や衛生も」


「いろいろ必要になるね」


「はい」


 公爵が頷く。


「我が領でも同じだよ」


「やっぱり大変ですか?」


「ああ。何人来るか分からないからね」


「そうですよね」


「受け入れたいと思っていても、何も準備せずに迎えるわけにはいかない」


「はい」


 ミラも口を開いた。


「今いる人たちのことも、ちゃんと考えたいと思っています」


「そうだね」


 公爵がミラを見る。


「受け入れる人たちだけでなく、今暮らしている人たちの生活も守らなければならないからね」


「はい」


「二人でよく相談しながら進めるといいよ」


「ありがとうございます」


 その後は、あまり難しい話はしなかった。


 学院の頃のこと。


 公爵領で過ごした時のこと。


 ルークやセレナの近況。


 懐かしい話もいろいろ聞けた。


 公爵も楽しそうだった。


 ◇


 食事が終わる頃には、すっかり夜になっていた。


「今日はありがとうございました」


 俺が礼を言う。


「こちらこそ。とても楽しかったよ」


「よかったです」


「蒸気機関も見られたし、機関車に乗ることまでできた」


「はい」


 公爵が少し笑う。


「それに、ルッツ君という優秀な職人にも会えた」


「本当にすごい人なんですよ」


「そうだろうね」


 公爵が頷いた。


「リオン君」


「はい?」


「君のところには、いい人たちが集まっているね」


「あはは。そうですね」


「それが何よりだよ」


 公爵の言葉に、なんだか嬉しくなった。


 その後、客室へ案内する。


「明日も少し話をさせてもらえるかな?」


「もちろんです」


「ありがとう。では、また明日」


「はい。おやすみなさい」


「おやすみ」


 公爵が客室へ入る。


 扉が閉まった。


 俺も自分の部屋へ戻ることにした。


 今日は、公爵に蒸気機関を実際に見てもらうことができた。


 ルッツさんたちの仕事も評価してもらえた。


 それだけでも十分だ。


 ただ、一つ気になることがあった。


 公爵は、蒸気機関車の使い道について、ずいぶん具体的なことを聞いてきた。


 車両を何台もつなぐこと。


 領地を越えて線路を延ばすこと。


 誰が建設費を負担するのかということ。


 俺もいずれは考えなきゃいけないと思っていたけど、まだ何も決めていない。


「……何か考えがあるのかな」


 明日は、その話を聞けるかもしれない。


 俺は自分の部屋へ戻った。



最後まで読んでいただきありがとうございます。

ヴァレスト公爵がリンクス山に見せた反応。

あれには、実はちゃんとした理由があります。

本編で明かせるかどうかはわかりませんが……。


※明日からの更新について

書籍化作業、新作準備などがある為、しばらくは12時と18時更新にさせて頂きます。

更新ペースが滞り申し訳ありませんが、よろしくお願いします。

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― 新着の感想 ―
ま、大方の読者の皆様の想像通りで、公爵も転生者でほぼ確じゃないかなw ただ、こういう転生もので前世技術の再現に詰んでしまうタイプの、、、 自分の能力は高いから出世はできるけど、協力者が得られなかった…
公爵は共通点がわかってる?
まぁここまで意味深に匂わせといてまだ分からない方が不思議ですが…。公爵にルッツみたいな優れた技術者がいたらあれこれ作らせていたかもですが、リオンとルッツの2人だからこその化学反応ではないかと思います。…
感想一覧
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