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45歳社長、転生先でハズレスキル「綻びの目」を武器に没落領地を再建する  作者: アカメノコバチ
第21章 リオン・ハル男爵

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第598話 王宮からの要請

 王宮からの連絡を受け取ると、すぐにミラのところへ向かった。


「ミラ」


「どうしたの?」


「今から王都へ行ってくる」


「今から?」


「うん。王宮から至急来てほしいって」


 ミラの表情が少し変わった。


「何かあったのかな?」


「分からない。だから行ってくるよ」


「分かった」


「ピコをお願いしてもいい?」


「もちろん」


「ピー?」


 足元にいたピコを抱き上げる。


「ピコ。ミラと待ってて」


「ピー!」


「すぐ戻ってくると思うから」


 ピコをミラに渡した。


「気をつけてね」


「うん」


 同行はアストンだけにお願いした。


 屋敷の裏へ向かう。


「行こうか」


「はい」


 王都で借りている宿の部屋には、転移印を残してある。


 そこへ転移する。


 一瞬で景色が変わった。


 見慣れた宿の部屋だ。


「着いたね」


「はい」


 アストンは、もう驚かなくなった。


 部屋を出ると、そのまま王宮へ急いだ。


 ◇


「ハル男爵がお見えです」


「入れ」


 扉が開く。


「失礼いたします」


 アストンには外で待ってもらい、一人で中へ入った。


 国王の執務室だ。


「ハル男爵、参りました」


「……早かったな」


「至急とのことでしたので」


「……そうか」


 国王が少しだけこちらを見る。


 何か言いたそうだけど、それ以上は聞かれなかった。


 部屋の中には、すでに何人もの人がいた。


 宰相。


 アルフレッド第一王子。


 その隣には、サハル王国の第一王女でもあるセリカ妃。


 さらに、ヴァレスト公爵。


 トラウゼン侯爵。


 ローヴェル伯爵。


 三人とも王都に屋敷があり、今日はちょうど王都に滞在していたらしい。


「急な招集だったのでな」


 国王が言う。


「本来なら、もっと多くの領主を集めたかった。だが、まずは今すぐ来られる者に集まってもらった」


「はい」


「その前に、ハル男爵」


「はい」


「礼を言っておきたい」


「礼、ですか?」


「共鳴石通信機だ」


「ああ」


「非常に役に立っている」


 国王が机の上の書類に手を置く。


「ドラン帝国方面の国境からの情報が、以前とは比較にならない速さで届くようになった」


「お役に立てているならよかったです」


「それだけではない。他領との連絡も早くなった。今回のサハル情勢でも、各地の情報を集めるのに大いに役立っている」


「はい」


「国家への多大な貢献だと考えている」


「そんな」


 思わず首を振る。


「俺はきっかけを作っただけです。職人たち、それに実際に通信機を使っている人たちがいて初めて役に立つものなので」


「相変わらずだな」


 国王が少し笑った。


「まあいい。その件については、いずれ改めて話をしよう」


「はい」


 国王の表情が変わる。


「では、本題だ」


 机の上に地図が広げられた。


 サハル王国。


 国王の指が、その西側へ置かれる。


「ドラン帝国が侵攻を始めてから、すでに二週間以上が経った」


「はい」


「西部の被害が大きい」


 町や村が戦闘に巻き込まれ、多くの人が住む場所を失っているらしい。


 セリカ妃が地図を見つめている。


 表情は崩していない。


 でも、手を強く握っていた。


「我が国としても、食料、薬、衣類などを集め、すでにサハルへ向けて輸送を始めている」


 サハルまでは遠い。


 今はまだ、支援物資を向かわせたばかりだ。


「だが、問題は物資だけではなくなってきた」


「と言いますと?」


「家だ」


 国王が地図を見る。


「戻る家そのものを失った者が増えている」


「……」


「サハル国内の安全な場所へ逃れる者もいる。サハルの南の聖教領ミラディアへ向かう者もいるだろう」


 国王が顔を上げる。


「そして、アルスレインへ逃れてくる者も出る」


「どれくらいですか?」


「まだ分からん」


 今度は宰相が答える。


「戦況そのものが動いております。サハルから何人が国外へ逃れるのか。

 そのうち何人がミラディアへ向かい、何人が我が国へ来るのか。現時点では予測できません」


「そうですか」


「そこでだ」


 国王が俺たちを見る。


「我が国でも、家を失ったサハルの民を受け入れたいと考えている」


 誰も口を開かない。


「ただし、ラウグレン公爵領とベイルン辺境公領など国境沿いの領には、引き続きドラン帝国への警戒に当たってもらわなければならん」


 アルフレッド殿下が続ける。


「大量の人を受け入れれば、食料や住居だけではなく、役人や警備の人員も必要になります」


「はい」


「できる限り、後方の領地へ分散して受け入れたいと考えています」


 なるほど。


「もちろん、今ここにいる者だけに負担を頼むつもりはない」


 国王が言う。


「ほかの領主にも順次話をする。だが、まずはすぐに集まれたお前たちの考えを聞いておきたい」


 その時。


「皆様」


 セリカ妃が立ち上がった。


 全員の視線が集まる。


「皆様に大きなご負担をお願いすることになるのは、承知しております」


 静かな声だった。


「ですが、今も故郷を追われている者が大勢おります」


「セリカ」


 アルフレッド殿下が隣を見る。


 セリカ妃は小さく頷いた。


「どうか、お力をお貸しください」


 そう言って頭を下げる。


「お顔をお上げください」


 最初に声を出したのはヴァレスト公爵だった。


「陛下。我が領でも受け入れます」


「そうか」


「我が領も受け入れましょう」


 トラウゼン侯爵も続いた。


 ローヴェル伯爵も頷く。


「人数が分かり次第、受け入れ場所を整えます」


「助かる」


 陛下が最後に俺を見る。


「ハル男爵はどうだ?」


「ハル領でも受け入れます」


「……よいのか?」


「はい。受け入れたいです」


 セリカ妃が俺を見る。


「ありがとうございます」


「いえ。ただ、受け入れられる人数は領に戻って確認させてください」


「そうだな」


 今ここで数字を言うことはできない。


「こちらも、まだ何人がアルスレインへ来るか分かっていない」


 国王が言う。


「状況が分かり次第、改めて各領と相談したい」


「承知しました」


 俺たちは頷いた。


 ただ、俺はできる限り受け入れたいと思っていた。


 戦争で家を失った人を助けたい。


 それが一番だ。


 そして。


 もし、その人たちが新しい場所で暮らしたいと思ってくれるなら。


 ハル領で新しい生活を始めてもらいたい。


 この領には、まだまだ人が必要だからだ。


 ◇


 話が終わり、執務室を出る。


「リオン君」


 後ろから声をかけられた。


 振り返る。


「ヴァレスト公爵」


「少しいいかな?」


「何でしょう?」


 ヴァレスト公爵が穏やかな顔でこちらを見ている。


「私のところに王宮から通信が来たのは、ほんの少し前なんだけど」


「はい」


「君はどこから来たんだい?」


「え?領地ですよ?」


「そうか」


「……はい」


 少し間が空く。


 しまった!


「かなり急いできましたけどね」


「そうか」


「はい」


 ヴァレスト公爵が俺を見る。


「……」


「……」


 やっぱり無理があるか。


 しばらくすると、公爵が小さく笑った。


「まあ、いい」


「え?」


「君はかなり急いできた」


「はい」


「そういうことにしておこう」


「……ありがとうございます」


 完全に気づかれている気がする。


「それじゃあ、リオン君。また」


「はい」


 ヴァレスト公爵はそれ以上何も聞かず、先へ歩いていった。


 ◇


 少し歩いたところでアストンと合流した。


「お待たせ」


「いえ」


「帰ろうか」


「はい」


 王都で借りている宿へ戻る。


 部屋へ入り、扉を閉めた。


「じゃあ戻ろう」


「承知しました」


 転移する。


 一瞬で景色が変わった。


 見慣れた屋敷の裏だ。


「思ったより早く帰ってこれて良かったよ」


「はい」


 アストンが真顔で答える。


 屋敷へ戻る。


「ピー!」


「おっと」


 ピコが勢いよく飛んできた。


「ただいま」


「ピー!」


 抱き上げる。


 ミラもこちらへやってきた。


「早かったね」


「……今日、それ二回目に言われたよ」


「え?」


「何でもない」


 ミラが首を傾げる。


「それで、何の話だったの?」


「サハルの難民について」


 ミラの表情が変わった。


「難民?」


「うん。西部でかなり被害が出てるみたい」


「そう……」


「家を失った人も増えてるって」


「それで?」


「アルスレインでも受け入れることになりそう」


 ミラが俺を見る。


「この領でも?」


「うん」


「受け入れるって言ったの?」


「言った」


 ミラが少し考える。


「何人くらい?」


「まだ分からない」


「そうなんだ」


「サハル国内に残る人もいるし、ミラディアへ向かう人もいる。

 そこからアルスレインへ何人来るのかも、まだ分からないみたい」


「そっか」


 少し沈黙する。


「ミラ」


「何?」


「俺は、できるだけ多く受け入れたいと思ってる」


 ミラがこちらを見る。


「前にも話したけど、たくさん来れば問題は起きるよ」


「うん。分かってる」


「今だって、王都から来た人たちがようやく落ち着き始めたところだよ」


「そうだね」


「住む場所も必要になる」


「うん」


「食べ物も、水も、仕事も」


「分かってる」


「それに」


 ミラが少し間を置いた。


「今ここに住んでる人たちが、みんな賛成するとは限らないよ」


「それも分かってる」


 何百人。


 千人。


 もっと増えるかもしれない。


 それだけの人が来れば、この領そのものが変わる。


「それでも?」


「うん」


「どうして?」


 少し考える。


「まず、助けたいから」


 家を失った。


 住む場所がない。


 戦争から逃げてきた。


 そんな人たちを受け入れられるなら、助けたい。


「それが一番」


「うん」


「でも、もしその人たちが新しい場所で暮らしたいと思ってくれるなら」


 ミラを見る。


「俺は、できるだけ多くの人にこの領へ来てもらいたい」


「この領に?」


「うん」


 まだまだ、やりたいことがある。


「鉱山もある」


「うん」


「アナハイムもこれから大きくしたい」


「うん」


「道路も作りたい。工房も増やしたい。レイ湿原もある」


 どれも、人がいなければ進まない。


「人が増えれば、それだけできることも増える」


「そうだね」


 庭を見る。


 昨日まで何度も試していた、小さな蒸気機関車が置かれている。


「あれだってそうだよ」


「蒸気機関車?」


「うん」


 まだ小さい。


 人も乗れない。


 荷物だってほとんど運べない。


 でも。


「あれが本当に使えるようになったら、この領は大きく変わると思う」


「そんなに?」


「うん」


 鉱山から大量の資源を運べる。


 人も運べる。


 町と町をつなぐことだってできるかもしれない。


「だから、この領はこれからもっと大きくできると思ってる」


 ミラが黙って聞いている。


「その時、一緒に暮らしてくれる人がたくさんいた方がいい」


「……そっか」


「もちろん、無理に来てもらうわけじゃないよ」


「うん」


「でも、行く場所がない人がいて、この領で新しい生活を始めたいと思ってくれるなら」


 頷く。


「できる限り受け入れたい」


 ミラがしばらく考えていた。


「分かった」


「いいの?」


「反対はしないよ」


「ありがとう」


「でもね」


「うん?」


「人を増やすことと、一緒に暮らせるようにすることは同じじゃないよ」


「……うん」


「今いる人たちが、自分たちの暮らしが悪くなるって思ったら反発するかもしれない」


「そうだね」


「来た人たちだって、歓迎されてないって感じたら辛いと思う」


「うん」


 そこが一番難しい。


 家を建てれば終わりじゃない。


 仕事を用意すれば終わりでもない。


「だから」


 ミラが言った。


「まず、今いる人たちがどう思ってるのか聞いてみない?」


「うん」


 それがいい。


 難民を受け入れる。


 決めるだけなら、一言で済む。


 難しいのは、その後だ。



最後まで読んでいただきありがとうございます。

SNSなどを通じて、以前より難民問題について考える機会が増えた方も多いのではないでしょうか。

自分もその一人です。

難民を受け入れるべきだという意見もあれば、慎重であるべきだという意見もあります。

経済状況も、文化も、教育環境も異なる人々が、一つの社会で共に暮らしていくことは、決して簡単ではないと思います。

だからこそ、受け入れる側にも、受け入れられる側にも目を向けながら、この問題を物語の中で描いていきたいと思います。

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― 新着の感想 ―
現実とフィクションの違いが理解できないのならば去れば良い。 宗教についてはこの地域においてはほぼ単一であろう事が直近の話を見ていればわかるはず。 言語についても同様。エドガーの兄嫁が特別だという可能性…
私を含め外野がどう言おうと作者の描いた世界を無料で閲覧してるだけなので離れたければ離れるだけなのが筋でしょうが… 王側が呼んでおいていざ受け入れるとなったら「良いのか?」は流石に…じゃぁ、同じ環境で…
避難民を受け入れるにしても、現住民感情としても、簡単ではないはず。すでに王都の東区や他領からの移ってきた人もいる。 この物語では、あまり深くやらないでほしい。 リオンがどうこの領地を立て直していくか…
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