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45歳社長、転生先でハズレスキル「綻びの目」を武器に没落領地を再建する  作者: アカメノコバチ
第21章 リオン・ハル男爵

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第594話 馬の代わりに

 それから数日。


 午前中、政務所で書類を確認していると、窓の外を歩く人たちが目に入った。


「……増えたな」


「何がでしょう?」


 向かいに座っていたローレンが顔を上げる。


「冒険者。最近、よく見るようになった気がする」


 剣を腰に下げた男や、大きな盾を背負った女、弓を持った二人組。


 以前なら領都ではほとんど見なかった格好だ。


「実際に増えておりますな」


「もう?」


「冒険者ギルドが、正式な建物の完成を待たずに仮支部を開きました」


「早いね」


「アナハイム近くの長屋を一棟借りたそうです。すでに依頼の受付も始まっております」


 ビダン山とアーシタ山では、既に冒険者への依頼が多く出ているらしい。


 調査員や採掘作業員の護衛、周辺の魔物討伐、素材回収など。


「それで領都にも冒険者が増えたのか」


「宿や店を利用する方もおりますからな」


 正式な建物はまだない。それでもギルドとしての仕事はもう始まっている。


 そこへ扉が叩かれた。


「どうぞ」


「失礼するぞ」


 入ってきたのはヴィクトルだった。


「どうしたの?」


「通信機工房の報告だ」


「進んでる?」


「ああ。予定より前倒ししてる」


「本当?」


 ヴィクトルが紙を机に置く。


「ドランがサハルへ侵攻したからな。作業の順番を変えて、先に進められるところから進めてる」


「職人も増やしたの?」


「少しな。必要な資材も先に押さえた」


「他の仕事は?」


「止めてない。お前がそう言ったんだろ」


「ならよかった」


 通信機が必要になる可能性は高い。


 でも、そのために領内の仕事を全部止めるわけにはいかない。


「それと」


 ヴィクトルが窓の外を見る。


「冒険者、増えただろ?」


「うん。今ちょうど話してた」


「ローデン商会からもかなり依頼を出してるからな」


「ヴィクトルも?」


「ああ。魔物の素材を集めてもらってる」


 皮、角、骨。薬の材料になるものや、防具などに加工できる素材。


「そんなに必要なの?」


「もう問い合わせが来てるからな」


「もう?」


「戦争が始まったんだぞ。武器だけじゃない。防具、薬、輸送に使う道具。

 必要になるものはいくらでもある」


「なるほど」


「王国内だけじゃなく、外からの問い合わせもある。軍だけじゃないぞ。

 商会も領地も、足りなくなる前に確保しようとするからな」


「だから今のうちに集めてるんだ」


「そういうことだ」


 さすが早いな。


 俺が通信機や難民への備えを考えている間に、ヴィクトルはすでに市場の変化を見て動いていた。


「さすがだね」


「何が?」


「動くのが早いなと思って」


「商売だからな」


 本人にとっては当然らしい。


「市場を荒らすほど集めたりはしないよね?」


「当然だ。そんなことをしたら、あとで自分たちが困る」


「それなら安心」


「お前に心配されなくても分かってる」


 ヴィクトルが呆れた顔をする。


「それより、お前は午後どうするんだ?」


「ビダン山を見に行く」


「また山か」


「仕事だよ」


「楽しそうだけどな」


「……仕事だよ」


 ヴィクトルが笑った。


 ◇


 昼食を終え、屋敷を出ようとするとアストンが歩いてきた。


「男爵様」


「アストン」


「午後はビダン山へ行かれるとか」


「うん」


「同行いたします」


「騎士団は大丈夫?」


「午前の訓練は終わっております。必要な指示も出しました」


 騎士団長になったばかりだ。


 今までのように、いつでも俺についてくるわけにはいかない。


「無理しなくていいよ?」


「申し上げたはずです。必要な時には、男爵様にも同行すると」


「ああ。確かに」


「ピー!」


 足元でピコが跳ねた。


「ピコも行く?」


「ピー!」


「じゃあ三人で行こう」


 屋敷裏からアナハイムへ転移した。


 景色が変わると、すぐに人の多さに気づいた。


 荷車が行き交い、鉱山で働く人たちが資材を運んでいる。


 その中に冒険者らしい姿も多い。

 

 少し離れた長屋の前には何人もの冒険者が集まり、壁には依頼書らしい紙が並んでいた。


「あれが仮支部か」


「そのようですな」


「もう普通に動いてるね」


 そこからビダン山へ向かった。


 ◇


 山へ着くと、ここも以前より明らかに人が増えていた。


 いくつかの場所で試掘が進み、ヴァレスト公爵領から来た専門家や採掘作業員が働いている。


 その周囲では冒険者たちが武器を持って警戒していた。


 少し離れた場所では、討伐した魔物を解体している。


「ヴィクトルが集めてる素材かな」


「おそらく」


 さらに奥へ進むと、ヴァレストから来た技師がこちらに気づいた。


「男爵様」


「こんにちは。調査はどうですか?」


「順調です。まだ試掘ですが、いくつかの坑道を掘り進めております」


「見てもいいですか?」


「もちろんです」


 何か所か案内してもらい、その中でも最も奥まで進んでいる試掘坑道へ向かった。


「……これ」


 坑道の中へ二本の木製レールが伸び、その上に小さな荷車のようなものが乗っている。


「トロッコです」


「やっぱり」


 車体は木製だが、四つの車輪は鉄でできていた。


「車輪は鉄なんですね」


「はい。ヴァレスト領の鉱山では一般的です。車体まで鉄にすると重くなりますので、こちらは木で作っております」


「なるほど」


 鉄の車輪をレールの上で転がせば、人が抱えて運ぶよりずっと多くの石を一度に運べる。


「これを人が押すんですか?」


「近い場所ならそうします。しかし、坑道が長くなると大変ですので、こちらを使います」


 技師が坑道の外を指した。


 少し離れたところに二頭の馬がいる。


 その中央には太い木の軸が立ち、そこから伸びた長い横木が馬につながっていた。


「これは?」


「今から動かします」


 その時、坑道の奥から声がした。


「準備できたぞ!」


 外にいた作業員が手を上げる。


「動かせ!」


 二頭の馬が歩き始めた。


「おお……」


 馬は中央の軸を中心に、ゆっくり円を描く。馬につながった横木が動き、中央の軸が回ると、そこに巻き付けられた太い縄が少しずつ巻き取られていった。


 やがて坑道の奥から、ガラガラと音が近づいてくる。


 鉄の車輪を回しながら、石を積んだトロッコが姿を現した。


「すごいな」


 隣を見ると、アストンも装置を見ていた。


「私は初めて見ました」


「ヴァレスト領の鉱山ではよく使っております」


 技師が説明する。


「坑道が深くなるほど、人力だけで鉱石を運び出すのは難しくなりますので」


「馬は外にいるだけでいいんですね」


「はい」


 馬が歩けば軸が回り、縄が巻き取られる。


 その力で重いトロッコが坑道から引き出される。


「……」


 俺は中央の軸を見た。


「男爵様?」


「これさ」


 技師を見る。


「馬じゃなくても、この軸を回せれば動くんですよね?」


「それはもちろんです」


「十分な力があれば?」


「はい」


 やっぱり。


 頭に浮かんだのは、前にルッツさんと作った湯沸かし器だった。


 水を温めたことで、中の圧力が上がった。


 あの時は危険だったから、圧力を逃がす方法を考えた。


「……蒸気」


「蒸気ですか?」


 アストンが聞く。


「うん。前にも考えたんだ。あの蒸気の圧力を、何かの力に使えないかって」


 でも、あの時は使い道まで見えていなかった。


 今は、その力で何を動かしたいのかが分かる。


「蒸気の力で、この軸を回せないかな」


 技師が首を傾げる。


「蒸気で?」


「うん」


 ただ、圧力があるだけでは軸は回らない。押す力を回す力に変える仕組みが必要になる。


 そこまでは俺にも分からない。


「帰ったらルッツさんに相談してみよう」


「作れるのでしょうか?」


 アストンが聞く。


「分からない」


「分からないのですか?」


「うん。俺は機械の専門家じゃないからね。でも、聞いてみる価値はあると思う」


「なるほど」


「ピー?」


 ピコが体を傾ける。


「まだ何も決まってないよ」


「ピー」


 もう一度、馬を見る。


 二頭がゆっくり歩くたびに中央の軸が回り、坑道の奥から次のトロッコが引かれてくる。


 前はただ、蒸気の力を何かに使えないかと思っただけだった。


 今は、目の前に動かしたいものがある。


「……」


「男爵様?」


「帰ったらルッツさんのところへ行くよ」


「承知しました」


「ピー!」


 ピコが大きく跳ねた。


 蒸気の力で、この軸を回す。


 できるかどうかはまだ分からないけど、試してみたいことが一つ増えた。



最後まで読んでいただきありがとうございます。

リオン、蒸気機関開発に着手します。

この作品の連載を開始した当初は早いうちにやろうと思っていましたが、594話までかかってしまいました。

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― 新着の感想 ―
ん?描写されてないけど、馬は台の上に上げて歩かせて、ロープは台の下で巻き取らないと、ロープが邪魔で馬に引っ掛かる気がする。
固定した場所なら水力や風力のほうが簡単そうではある。まずは歯車でトルク調整がいいのでは?蒸気もなかなか発明しがいがありそうのなので楽しみです。
蒸気機関は一度火を止めると沸騰まで燃料が無駄になるから24時間稼働が効率が良い 石炭を燃やして蒸気機関を動かして石炭を掘る 人は3交代制だ
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