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45歳社長、転生先でハズレスキル「綻びの目」を武器に没落領地を再建する  作者: アカメノコバチ
第21章 リオン・ハル男爵

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第592話 ここにいてほしい

 王宮を出た後、アストンと宿へ戻った。


「じゃあ、帰ろうか」


「はい」


 領都の屋敷裏に転移した。


「ピー!」


「あ」


 屋敷の方からピコが跳ねてくる。


「ピー!」


「ただいま」


 抱き上げる。


 ピコが腕の中で何度も跳ねた。


「そんなに長く離れてなかったでしょ?」


「ピー!」


「お帰り」


 ミラも出てきた。


「ただいま」


「王宮、どうだった?」


「うん。色々と話があったよ」


「やっぱり」


「納品するだけのつもりだったんだけどね」


「だから言ったでしょ」


「……言ってたね」


 ミラが笑う。


「ローレンにも聞いてもらった方がいい?」


「うん。話せることだけ共有しておきたい」


 ◇


 ローレンを呼び、ミラと一緒に話をする。


 ピコは俺の膝の上だ。


「まず、通信機十組は王宮に渡してきた」


「無事に納品できましたか」


「うん。安全対策も説明した。国内での商業利用も、このまま進めていいって」


「それは何よりですな」


 ローレンが頷く。


「量産工房の準備も予定通り進めましょう」


「お願い」


 そして、ドラン帝国についても話す。


「サハルへ?」


 ミラの表情が曇った。


「まだ決まったわけじゃない。でも、王宮はその可能性が高いと見てる」


「そう……」


 ローレンの顔も少し険しくなる。


「でしたら、こちらも今進めている準備を継続した方がよろしいでしょうな」


「俺もそう思う」


 食料。


 道路。


 通信機。


 戦争が起きなくても無駄にならないものばかりだ。


「今のところ、うちの領から兵を出すよう求める予定はないって」


 ミラが少しだけ安心した顔をする。


「ただ、共鳴石通信機と硬化石については、今後さらに協力を求められるかもしれない」


「承知しました」


「そっちは準備を続けよう」


「はい」


 王宮の話はこれくらいだ。


 ただ、俺にはもう一つ大事な話があった。


「ローレン」


「はい?」


「今日、王宮でもう一つ聞いたんだ」


 ローレンが俺を見る。


「ローレンと、アストンと、ケーラの今後について」


「……そうでしたか」


「三人とも、この領で働き続けたいって希望してるって」


「はい」


 やっぱり本当なんだ。


「三人と、一人ずつちゃんと話したい」


「でしたら」


 ローレンが少し笑う。


「私は今でも構いません」


「いいの?」


「もちろんです」


 ミラを見る。


「ミラも一緒にいてもらっていい?」


「うん」


 ◇


「改めて聞くけど」


 ローレンを見る。


「これからも、この領で働きたいって本当?」


「はい」


 迷いのない返事だった。


「王宮からも、本人たちの意思を優先するって言われた」


「ありがたいことです」


「でも」


 少し姿勢を正す。


「王宮がそう言ってるから、そのまま残ってもらうのは違うと思って」


 ローレンが俺を見る。


「男爵様?」


「俺からお願いしたい」


 立ち上がる。


 ローレンへ向き直った。


「ローレン」


「はい」


 頭を下げる。


「これからも、俺と一緒にこの領を立て直してください」


「男爵様」


「お願いします」


「どうか頭をお上げください」


 顔を上げる。


「まだ全然途中だけどね」


 農村。


 財政。


 騎士団。


 これから作る町。


 問題はいくらでも残っている。


「でも、ここまで来られたのはローレンがいてくれたからだと思ってる」


「そのようなことは」


「あるよ」


 政務所へ来たばかりの頃を思い出す。


 書類。


 人員整理。


 仕事の整理。


 俺が領都を空けている時の判断。


「ローレンがいなかったら、俺は今でも政務所から出られてなかったかもしれない」


「それはさすがに大げさかと」


「そうかな?」


 ミラが笑った。


「私からも、ありがとうございます」


「ミラ様まで」


「リオンが山や湿原へ行けるのも、政務所を任せられる人がいるからですよね?」


「まあ……そうですな」


「だから私も感謝しています」


 ローレンが少し困ったように笑った。


「ありがとうございます」


 それから、俺を見る。


「私も正直に申し上げてよろしいでしょうか」


「もちろん」


「男爵様がこの地へ来られた時、これほど短期間で状況が変わるとは思っておりませんでした」


「やっぱり?」


「はい」


 即答された。


「もう少し迷ってくれてもよくない?」


「事実ですので」


 ミラがまた笑う。


「もちろん、問題はまだ多くございます」


「うん」


「ですが、以前とは明らかに違います」


 山を調べる人がいる。


 道路を造る人がいる。


 商人が来る。


 冒険者ギルドも来る。


 教会も建てようとしている。


「この領へ来る人が増えました」


「そうだね」


「今後、どのように変わっていくのか」


 ローレンが少しだけ表情を緩めた。


「可能でしたら、これからもお近くで見させていただきたいと思っております」


「ありがとう」


 本当に嬉しい。


「たぶん、これからもっと変わると思う」


「でしょうな」


「だから、ローレンの仕事も変わると思う」


「私の仕事も?」


「うん。今みたいに何でも自分で確認するんじゃなくて、もっと下の人に任せてもらう」


 政務所が大きくなれば、人も増える。


 仕事も増える。


 ローレン一人に集めるわけにはいかない。


「ローレンには、自分で仕事をするより、人を動かす方をお願いすることが増えると思う」


「なるほど」


「それでも、よろしくお願いします」


「承知しました」


 ローレンが頭を下げる。


「あ、それと」


「まだございますか?」


「家族」


 ローレンの表情が少し変わる。


「家族も、この領へ呼んで良いから」


「……よろしいのですか?」


「もちろん」


 ローレンは長く家族と離れて、この領で働いてくれている。


「今までずっと一人で頑張ってもらったから」


「ですが、住居なども必要になります」


「用意するよ」


「男爵様」


「家族が不自由なく暮らせるように準備する。必要なものがあったら遠慮なく言って」


 ミラも頷く。


「私もお手伝いします」


「ミラ様まで……」


「一緒に暮らせる方がいいですよね?」


 ローレンは少し黙った。


 やがて、ゆっくり頭を下げる。


「ありがとうございます。家族とも相談してみます」


「うん」


 ずっと仕事の話ばかりしてきた。


 でも、ここで働いてくれる人にも生活がある。


「今まで、本当にありがとう」


「こちらこそ」


 ローレンが笑った。


「これからも、よろしくお願いいたします」


「お願いします」


 ◇


「次はアストンを呼んでもらっていい?」


「承知しました」


 しばらくして、アストンが入ってきた。


「男爵様。お呼びでしょうか」


「うん。座って」


「失礼いたします」


 ミラもそのまま残っている。


 ピコは今度はミラの膝の上だ。


「ピー」


「アストン」


「はい」


「今日、王宮で聞いた」


 アストンがこちらを見る。


「これからも、この領で働きたいって」


「はい」


「本当に?」


「はい」


 こちらも即答だった。


「そっか」


「何か問題がございましたか?」


「逆だよ」


 少し笑う。


「ありがとうって言いたくて」


「お礼、ですか?」


「うん」


 領都にいたと思ったら、山。


 次は湿原。


 今度は王都。


「俺、かなり振り回してるでしょ?」


「私は職務を全うしているだけです」


「馬まで転移させたし」


「……あれは驚きましたな」


「しかも屋敷の中に入れた」


 ミラが笑った。


「ケーラさんに怒られてたよね」


「注意されただけだよ」


「同じでは?」


「違うと思う」


「ピー」


 アストンが少し笑った。


「でも、本当に助かってる」


 どこへ行く時も、アストンは当然のようについてきた。


「俺が危ない場所にも行けるのは、アストンがいるからだ」


「私からも、ありがとうございます」


 ミラが頭を下げる。


「リオンが無事に帰ってきてくれるのは、アストンさんのおかげです」


「私は当然の務めを果たしているだけでございます」


「それでも、ありがとう」


「ありがとうございます」


 アストンが頭を下げた。


 ここからが本題だ。


「それで、アストン」


「はい」


「俺から、もう一つお願いしたい」


 立ち上がった。


「正式にこの領に残ってくれるなら」


 アストンをまっすぐ見る。


「騎士団長をお願いしたい」


 アストンの表情が変わった。


「……私が、ですか?」


「うん」


 頭を下げる。


「この領の騎士団を任せたい。お願いします」


「男爵様、頭をお上げください」


 顔を上げた。


「今の騎士団はまだ作り直してる途中だ」


 以前の騎士団長は辞めた。


 残った騎士たちは訓練を続けている。


 でも。


 これからは、それだけでは足りない。


「アナハイムにも人が増える。鉱山も増える。冒険者も来る」


 領内を行き来する人も増える。


「騎士団も、今の人数のままじゃないと思う」


「はい」


「俺には騎士団を一から作る経験なんてない」


 王宮騎士団。


 ベイルン騎士団。


 ノルから教わった訓練や考え方。


「アストンは全部見てる」


「……」


「だからお願いしたい」


 アストンはしばらく黙っていた。


「一つ、確認してもよろしいでしょうか」


「うん」


「騎士団長となれば、これまでのように常に男爵様のお側にいることは難しくなります」


「分かってる」


「それでも?」


「うん」


 迷う必要はない。


「これからは俺一人じゃなくて、この領を守ってほしい」


 アストンが黙る。


「お願いします」


 もう一度、頭を下げた。


 少しして。


「承知しました」


 顔を上げる。


「お引き受けいたします」


「本当?」


「はい」


 アストンがまっすぐこちらを見る。


「王宮騎士団には規律がありました」


「うん」


「ベイルン騎士団には、実戦に強い連携があります」


「うん」


「そして、この領の騎士たちはノル殿たちから多くを学んでおります」


 静かに頷く。


「それぞれの良いところを取り入れ、この領に必要な騎士団を作ります」


「お願いします」


「私からも、よろしくお願いします」


 ミラも頭を下げる。


「お任せください」


 頼もしい。


「正式な任命の手続きはローレンと進めるね」


「承知しました」


「ただし」


 今度はアストンが言った。


「何?」


「騎士団長になったからといって、男爵様の護衛を完全にやめるつもりはございません」


「そうなの?」


「必要な時には同行いたします」


「団長なのに?」


「団長が屋敷から出てはいけないという決まりはございませんので」


「それはそうだけど」


「それに」


「何?」


「男爵様は、放っておくとどこへ行かれるか分かりません」


 ミラが吹き出した。


「私もそう思う」


「ミラまで?」


 ◇


 最後はケーラだ。


 部屋へ入ってきたケーラが一礼する。


「お呼びでしょうか」


「うん。座って」


「失礼いたします」


 ケーラが席につく。


「ケーラにも、最初に言っておきたいことがあって」


「何でしょう?」


「ごめん」


「……何がでございますか?」


「この領に来てもらった時のこと」


 あの頃、屋敷専属の使用人は一人もいなくなった。


「広い屋敷をほとんど一人で任せちゃったから」


「できる範囲で行っていただけでございます」


「それでもだよ」


 掃除。


 食事。


 洗濯。


 来客。


 客室。


 それだけじゃない。


 俺自身、屋敷にほとんどいない。


「俺が山へ行っても、湿原へ行っても、王都へ行っても」


 必ず帰る場所がある。


「戻ってきた時に、この屋敷がちゃんと動いてる」


 ケーラを見る。


「それはケーラが守ってくれてるからだよ」


「そのような……」


「本当にそう思ってる」


「私からも、ありがとうございます」


 ミラが続けた。


「私が急に来ても、いつも何も困らないようにしてくださってますよね」


「当然のことでございます」


「それが当然にできるのがすごいんです」


 少し前には、多くの人がこの屋敷へ来た。


 俺の同級生たち。


 その時も、大きな問題は起きなかった。


「だから」


 俺は立ち上がった。


「ケーラにも、改めてお願いしたい」


 頭を下げる。


「これからも、この屋敷を任せたい。お願いします」


「男爵様!」


「俺が安心して外へ出られるように、これからもここを守ってほしい」


「どうか頭をお上げください!」


 顔を上げる。


「引き受けてくれるかな?」


「もちろんでございます」


「ありがとう」


「こちらこそ、そのように言っていただき光栄でございます」


「それと」


 まだある。


「これからは、ケーラ一人にはしないから」


「一人?」


「屋敷で働く人を少しずつ増やす」


 以前のように必要以上の人数を抱えるつもりはない。


 でも、一人で維持するのもおかしい。


「人が増えたら、ケーラにみんなをまとめてもらいたい」


「私が、でございますか?」


「うん」


 この屋敷を一番分かっている。


 俺の生活も。


 来客への対応も。


「お願いできる?」


「はい」


 ケーラが深く頭を下げる。


「喜んでお引き受けいたします」


「私からもお願いします」


 ミラが言う。


「ケーラさんがいてくださると、私も安心します」


「ありがとうございます」


「あ、そうだ」


「はい?」


「サンドイッチ」


 ケーラが少しだけ首を傾げる。


「ミラに作り方教えてくれてありがとう」


「ああ」


「すごく美味しかった」


 ミラを見る。


「本当?」


「本当だよ」


「よかった」


 ミラが嬉しそうに笑う。


「ケーラさんに細かいところまで教えてもらったの」


「私は少しお手伝いしただけでございます」


「それでもありがとう」


 少し空気が柔らかくなる。


「これからも俺、屋敷にいないことが多いと思うけど」


「はい」


「よろしくお願いします」



最後まで読んでいただきありがとうございます。

リオンは「人」に恵まれていると思います。

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― 新着の感想 ―
リオン君、ローレンとアストンとケーラの賃金について、これまでの王宮負担から男爵領負担になると思うのだけど安請け合いして大丈夫かい?来年度以降、黒字の収支報告をした上での本採用なら理解できます。現時点で…
でも貴族だからね緩々王国だけど(´・ω・`) 部下の方で弁えてるというのが悲しい・・・
年齢や立場で注意や指導を受けたり頭を下げる回数が減ってくるけど、謝罪でもなくお願いとしてしっかり頭を下げられるのは見てて気持ちの良い回でした。
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