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45歳社長、転生先でハズレスキル「綻びの目」を武器に没落領地を再建する  作者: アカメノコバチ
第21章 リオン・ハル男爵

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第590話 集まり始める

 それから数日。


 午前中は政務所で仕事。


 午後になると、アストン、ミラ、ヴィクトル、ピコと一緒にアナハイムへ転移する。


 向かうのは、この前石炭を見つけた山だ。


「今日はこっちを見よう」


「昨日と反対側か?」


「うん」


 ヴィクトルが山を見上げる。


「本当に全部見るつもりだな」


「できる範囲でね」


「ピー!」


「ピコもやる気だね」


 山へ入る。


 前回とは違う場所。


 《綻びの目》を使いながら、岩肌や崩れた斜面を見ていく。


 しばらくして。


「……ここ」


「またか?」


「うん」


 岩の表面を少し崩す。


 黒い層が出てきた。


 ヴィクトルへ欠片を渡す。


「石炭だ」


「やっぱり」


 翌日。


 今度はさらに離れた場所。


「ここも」


「また石炭だな」


 その翌日も。


 別の斜面から黒い層が見つかった。


「……結構あるのかな」


 山を見上げる。


「可能性はある」


 ヴィクトルが答える。


「でも?」


「でも、だ」


「分かってるよ」


「俺たちが何か所も見つけたことと、山に大量に埋まっていることは別だ」


「うん」


「掘りやすい場所にどれくらいあるかも分からない」


「そこは専門家にお願いしよう」


「そういうことだ」


 何日か見て回った。


 一か所だけじゃない。


 かなり離れた場所からも石炭が出た。


 少なくとも、本格的に調査する価値はありそうだ。


 石炭自体は、アルスレイン王国でも採れる。


 珍しいものじゃない。


 鍛冶や工房でも燃料として使われている。


 でも、この山から大量に採れるなら、使い道はもっと広がる。


「……」


 その隣を見る。


 ノア山脈には、まだ調べていない山が二つ残っている。


「リオン」


 ヴィクトルが声をかけてきた。


「何?」


「そっちを見るな」


「まだ何も言ってないよ」


「顔を見れば分かる」


「ちょっと気になっただけ」


「まず、この山だ」


「分かってるよ」


 ミラが笑った。


「残りの山も、そのうち見ればいいよ」


「だよね」


「ミラまで煽るな」


「煽ってないよ」


「ピー!」


 ◇


 翌朝。


 領都の政務所。


 通信室へ入った。


 ここには、ヴァレスト公爵家とつながっている通信機がある。


「じゃあ、これをヴァレスト公爵に伝えておいて」


「はい」


 担当の文官が符号表を開く。


《セイブノヤマデ セキタンヲカクニン》


《フクスウカショデ サイシュ》


《ビダン アーシタノチョウサゴ》


《コノヤマモ チョウサシテホシイ》


 送信。


 返事を待つ間、執務室へ戻った。


 少しして。


「リオン様」


「来た?」


「はい」


 文官に紙を渡される。


 紙に書き取られた文字を見る。


《ゲンバノハンダンニ マカセル》


「現場の判断に任せる……」


 続き。


《リョウガカクニンデキレバ》


《ヴァレストリョウデ カイタイ》


「……買いたい?」


 隣にいたヴィクトルが笑った。


「そりゃ欲しいだろ」


「まだどれだけあるかも分からないよ」


「だから『量が確認できれば』だろ」


「そっか」


 ヴァレスト領北部には鉱山がある。


 鉱石を処理する場所もある。


 工房も多い。


 燃料はいくらあっても困らないということか。


「まだ調査もしてないのに、買い手候補ができたね」


「まだ候補だからな」


 ヴィクトルがいると、最近よく止められる。


 ◇


 午後。


 アナハイムへ転移する。


 今日は山へは向かわない。


「今日はどこ?」


 ミラが聞く。


「鉱山の専門家のところ」


 町の一角へ向かう。


 ヴァレスト公爵領から来てもらった人たちが、机の上に地図を広げていた。


 石。


 紙。


 測量に使う道具。


 俺たちとは調べ方が全然違う。


「こんにちは」


「これは男爵様」


 何人かが立ち上がろうとする。


「そのままで大丈夫です」


「ありがとうございます」


 地図を見る。


 ビダン山。


 アーシタ山。


 いくつもの線と数字が書き込まれている。


「調査はどうですか?」


「順調です」


 一人が答えた。


「ビダン山は、だいぶ分かってきました」


「共鳴石と硬化石は?」


「どちらも複数の場所で確認できています。ただ、採りやすさにはかなり差があります」


「やっぱりそうなんですね」


「はい。アーシタ山はもう少し時間をいただきます」


「銅?」


「鉱脈がどこまで続いているか調べています」


「分かりました」


 持ってきた袋を机へ置く。


「それが終わったら、もう一つお願いしたいんです」


「もう一つ?」


 袋を開く。


 黒い石を取り出した。


「……石炭ですか?」


「はい」


 調査員が手に取る。


「どこで?」


「西側の山です」


「一か所だけですか?」


「いえ。何日か調べて、離れた場所でも何度か見つけました」


「なるほど……」


 石を回しながら見る。


「ビダン山とアーシタ山が一段落したら、そっちもお願いできますか?」


「もちろんです」


「ヴァレスト公爵からも、現場の判断に任せると返事をもらっています」


「でしたら問題ありません」


「お願いします」


「承知しました」


 調査員が新しい紙を取り出す。


 筆を持ち、止まった。


「男爵様」


「何ですか?」


「その山のお名前は?」


「……」


 名前。


 そういえば、まだなかった。


 ビダン山。


 アーシタ山。


 その次。


「そうだな……」


 少し考える。


「リンクス山」


「リンクス山?」


「はい」


「承知しました」


 調査員が紙へ書き込む。


『リンクス山』


「……」


 三つ目。


 リンクス山。


 これで名前も決まった。


 ◇


 夕方。


 アナハイムの屋敷へ戻る。


 裏へ回った。


「じゃあ帰ろうか」


「うん」


「はい」


「ピー!」


 魔力を流す。


 景色が変わる。


 領都に戻ってきた。


 ◇


 翌朝。


 政務所へ行くと、ローレンが待っていた。


「リオン様」


「おはようございます」


「お客様がお見えです」


「誰?」


「冒険者ギルド本部の方です」


「あ」


 すぐに分かった。


 以前、アナハイムへの支部設置について話をしていた。


「会います」


「すでに応接室へお通ししております」


 ◇


「ハル男爵様」


 男が頭を下げる。


「お待たせしました」


「いえ」


 向かいに座る。


「以前お話ししました、アナハイムの件です」


「はい」


「本部で正式に決まりました」


「本当ですか?」


「はい」


 男が頷く。


「アナハイムに冒険者ギルドの支部を設置したいと考えております」


「お願いします」


 すぐに答えた。


「即答ですか?」


「来てほしかったので」


「それはありがたい」


 条件を確認する。


 土地はこちらで用意。


 建物はギルド側。


 税については通常通り。


 特別扱いはしない。


 それで十分だ。


 ギルドができれば冒険者が来る。


 宿を使う。


 食事をする。


 装備を買う。


 素材を売る。


 人が増えれば、町で使われる金も増える。


 それに。


「お願いしたい仕事もあります」


「仕事ですか?」


「はい」


 地図を広げる。


 ノア山脈を指した。


「鉱山の調査をしています」


「聞いております」


「調査員や測量をする人たちの護衛をお願いしたいんです」


「なるほど」


「それから魔物の討伐」


「はい」


「使える素材が取れる魔物なら、回収もお願いしたいです」


「いずれも冒険者への依頼として扱えます」


「よかった」


「継続して依頼が出ますか?」


「出します」


 山の調査は続く。


 これから採掘も始まる。


 魔物がいる場所へ、調査員や作業員だけを入れるわけにはいかない。


 イレーナたちだけに任せ続けるのも無理がある。


 冒険者なら、その仕事を任せられる。


「では、支部を置く場所も相談させてください」


「もちろん」


 アナハイムに冒険者ギルドができる。


 これで、また人が増える。


 ◇


 午後。


「リオン様」


「今度は何?」


「お客様です」


 ローレンが答える。


「聖教領ミラディアからの使者です」


「ミラディア?」


「はい」


 少し意外だった。


 応接室へ向かう。


 中には白を基調とした服を着た男がいた。


 胸元の印を見る。


 神官だ。


「ハル男爵様。お時間をいただき、ありがとうございます」


「いえ」


 向かいへ座る。


「本日は、聖教領ミラディアよりお願いがあり参りました」


「はい」


「この領都に、教会を建てる許可をいただきたいのです」


「教会を?」


「はい」


 この世界では、教会は生活の中に深く関わっている。


 祈りの場だけじゃない。


 病人やけが人を診る神官もいる。


 そして十二歳になった子供たちは、神殿でスキルを授かる。


 俺が《綻びの目》を授かったのも十二歳だった。


「どうして、この時期に?」


 聞きたいのは教会の役割じゃない。


 今、この領地へ来た理由だ。


「鉱山開発が始まり、この領へ人が集まり続けていると伺いました」


「はい」


「アナハイムという新しい町も造られているとか」


「まだ町と呼べるほどではありませんけど」


「今後さらに人口が増えると判断しております」


 神官が続ける。


「それに……」


 少し間があった。


「旧グレイヴ領であった頃にも、こちらへ教会を置きたいと何度か申し入れておりました」


「そうなんですか?」


「はい」


「でも、なかった」


「グレイヴ伯爵家から許可をいただけませんでした」


「……なるほど」


 それ以上は聞かなかった。


 でも。


 何となく理由は想像できる。


 教会は領主の組織じゃない。


 領民が領主を通さずに頼れる場所になる。


 困っている人。


 怪我をした人。


 食べるものがない人。


 親を失った子供。


 そういう人たちが来れば、当然、神官は領内の実情を見る。


 外へ伝わることもある。


 旧グレイヴ家にとって、そういう場所が領内にあるのは都合が悪かったのだろう。


「……」


「男爵様?」


「いえ」


 ローレンを見る。


「王国としては?」


「聖教領ミラディアによる教会の設置は、王国内でも認められております」


「領主が許可すれば?」


「問題ありません」


「分かりました」


 俺個人の好みで拒む話でもない。


 王国の方針に合わせる。


「建設費は?」


「こちらで負担いたします」


「神官も?」


「ミラディアから派遣いたします」


「土地はこちらが用意する」


「お貸しいただければ幸いです」


「分かりました」


 場所は後で考えよう。


 人が来やすいところ。


 今後の町の拡張を邪魔しないところ。


 道も必要だ。


 水も。


「それと」


 神官が続ける。


「教会が完成すれば、この領内の子供たちも、遠方の神殿へ赴かずに授与の儀を受けられるようになります」


「……」


 十二歳。


 神殿。


 水晶。


 あの日のことを思い出す。


『《綻びの目》です』


 周りの空気が変わった。


 父上まで肩を落とした。


 役に立たない。


 ハズレスキル。


 そんなふうに言われた。


 でも、その《綻びの目》で、俺はここまで来た。


「リオン様?」


 ローレンの声で我に返る。


「あ、ごめんなさい」


 神官を見る。


「王国として問題がないなら、俺も反対しません」


「では?」


「教会を建てる方向で進めてください」


「ありがとうございます」


 神官が深く頭を下げた。


 ヴァレスト領から来た鉱山の専門家。


 冒険者ギルド。


 そして教会。


 少し前まで、この領地には人がいなかった。


 人が足りない。


 金が足りない。


 そればかり考えていた。


 今は、外から人が来る様になり、


 仕事が生まれ、


 町が大きくなってきている。


 そして、この領地の子供たちもいつか十二歳になる。


 どんなスキルを授かるかは分からない。


 でも、スキル一つでその子の価値まで決まるわけじゃない。


 それだけは俺が誰よりも知っている。



最後まで読んでいただきありがとうございます。

聖教領ミラディアはアルスレイン王国の北東にある宗教国家です。

各国に教会があり、多くの信者がいます。


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― 新着の感想 ―
共鳴石って鉱床ではなくてある程度の塊がバラバラに無数に存在してるイメージでいいんだっけか
前話の出だしも、 それから数日 だったような? そして、、、次はリンクスかぁ。 その次は、アノーかにゃ? それとも、、、マフティー?ナビーユ?エリン?
神官さんを巻き込んで学校の先生をしてもらうのかな
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