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45歳社長、転生先でハズレスキル「綻びの目」を武器に没落領地を再建する  作者: アカメノコバチ
第21章 リオン・ハル男爵

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第586話 どうしたらいい?

「俺、どうしたらいい?」


「どうしたらって……」


 思わずヴィクトルを見る。


「なんで俺を見るんだよ」


「ヴィクトルなら分かるかなって」


「分かるわけないだろ」


「そうなの?」


「なんで俺なら分かると思ったんだ」


「なんとなく」


「適当だな」


「おい!」


 ガイルが身を乗り出す。


「俺は真剣なんだぞ!」


「分かってるよ」


「なら考えてくれ!」


「自分の恋愛だろ」


 ヴィクトルの言っていることは正しい。


「でもさ」


「何だ?」


「ナディアには婚約者がいるんだよね」


「……ああ」


 急にガイルの声が小さくなった。


 ナディアには、幼い頃に決められた婚約者がいる。


 セルヴァン王国のカレイン公爵家。


「だから困ってるんだ」


「ナディアに気持ちを伝えたいの?」


「……分からん」


「分からない?」


「ああ」


 ガイルが頭を掻く。


「別に婚約をやめろとか、そういうことを言いたいわけじゃない」


「うん」


「ナディアを困らせたいわけでもない」


「じゃあ、どうしたいんだ?」


 ヴィクトルが聞く。


「それが分からんから聞いてるんだ!」


「ああ」


「最初からそう言ってるだろ!」


 ガイルが大きく息を吐いた。


「自分でも分からん!」


 ◇


「そもそも、いつから好きなの?」


「知らん」


「知らないの?」


「そんなの分かるか!」


「怒らなくても」


「じゃあリオンは、いつからミラが好きだったか分かるのか?」


「……」


 考える。


「全部は分からないかも」


「だろ!」


「でも、お前はかなり前からだと思うぞ」


 ヴィクトルが言う。


「かなり前?」


「ああ」


「いつだ?」


「だから俺に聞くな」


「役に立たんな!」


「なんで怒られるんだよ」


 俺も考える。


 ガイルとナディア。


 二人が一緒にいるところは、学院時代から何度も見てきた。


「そういえば、学院に入った頃からナディアに勉強を教えてもらってたよね」


「ああ」


「ガイル、勉強嫌いなのに」


「勉強は嫌いだ!」


「即答なんだ」


「でも、ナディアの説明は分かりやすい」


「へえ」


「分からないところを聞けば、ちゃんと分かるまで教えてくれるからな」


「嫌じゃなかった?」


「なんで嫌なんだ?」


「勉強させられるから」


「それとこれとは別だ!」


「そうなんだ」


 ヴィクトルが笑っている。


 他にもいろいろな話が出てくる。


「信用してるんだな、ナディアのこと」


「当然だ」


 ガイルは迷わず答える。


 そういうところなんだろう。


 特別な何か一つがあったわけじゃない。


 何年も同じ時間を過ごしてきた。


「じゃあ、ナディアのどこが好きなの?」


「……」


 今度は止まった。


「そこ聞くのか?」


「好きって言ったんだから」


「そうだけど……」


 珍しく歯切れが悪い。


「一緒にいると楽しい」


「うん」


「話してても楽しいし」


「うん」


「俺が分からないことを聞いても、馬鹿にしない」


「うん」


「あと……」


「あと?」


「褒められると嬉しい」


 ヴィクトルが横を向いた。


「おい、笑うな!」


「笑ってない」


「絶対笑ってるだろ!」


「続けろよ」


「お前が聞いたんだろ!」


 ガイルが腕を組む。


「それと、ナディアに注意されたら……まあ、聞こうと思う」


「ガイルが?」


「なんだよ!」


「いや、珍しいなって」


「俺だって人の話くらい聞く!」


 ヴィクトルと目が合う。


「なんだ、その目は!」


「何でもないよ」


「何でもない」


「絶対何かあるだろ!」


 ガイルがまた頭を掻く。


「あと、一緒に飯を食うのも好きだな」


「そっか」


「ああ」


 少しずつ分かってきた。


 ガイルにとってナディアは、いつの間にか一緒にいるのが当たり前の相手になっていたんだ。


「卒業する前にさ」


「何だ?」


「ナディアがセルヴァンに戻るって話をした時、ガイル言ってたよね」


「俺が?」


「ナディアがいなくなると寂しいって」


「……」


 ガイルが黙る。


「覚えてる?」


「……ああ」


「その頃にはもう好きだったんじゃない?」


「……そうなのか?」


「俺に聞かれても」


「お前が言ったんだろ!」


「たぶんって話だよ」


 ヴィクトルが呆れた顔をする。


「自分の気持ちくらい、自分で考えろ」


「考えてる!」


「なら、どうなんだ?」


「……」


 ガイルが俯く。


「嫌だった」


「何が?」


「ナディアがセルヴァンに戻るって聞いた時」


「うん」


「もう今までみたいに会えなくなると思ったら、嫌だった」


 ゆっくり顔を上げる。


「今だってそうだ」


「今?」


「あいつは、いずれセルヴァンに戻る」


「うん」


「俺だって、ずっとここにいるわけじゃない。ベイルン領へ戻る」


 そうだ。


 今はたまたま二人とも、この領にいる。


 でも、この生活がずっと続くわけじゃない。


「そうなったら、今みたいには会えないだろ」


「……うん」


「それが嫌なんだ」


「離れるのが?」


「ああ」


 少し間が空く。


「……一緒にいたい」


 ガイルが言った。


「できれば、ずっと」


 今までで一番小さな声だった。


 でも、一番分かりやすかった。


「そっか」


「ああ」


 ヴィクトルも、今度は笑わなかった。


「じゃあ、好きなんだろ」


「だから最初からそう言ってる!」


「ああ。そうだったな」


「お前な!」


 ◇


「でも」


 俺はガイルを見る。


「今すぐ何かしなくてもいいと思う」


「そうなのか?」


「ナディアには婚約者がいるからね」


「……ああ」


「ガイルも、ナディアを困らせたいわけじゃないんでしょ?」


「当然だ」


「だったら、そのことは考えないと」


「俺もそう思う」


 ヴィクトルが頷く。


「好きだからって、何でも言えばいいわけじゃない」


「分かってる」


「それなら今は、自分の気持ちが分かっただけでもいいんじゃないか?」


「それだけで?」


「昨日までは、それすら分かってなかったんでしょ?」


「……まあな」


「なら一歩進んだじゃん」


 ガイルが腕を組む。


「でも、何もしないのか?」


「それは自分で決めなよ」


「結局それか!」


「俺たちが決めることじゃないでしょ」


「役に立たんな!」


「二回目だぞ」


 ヴィクトルが笑う。


「でもさ」


「何だ?」


「急いで答えを出さなくてもいいんじゃない?」


「……そうか」


「うん」


 ガイルがしばらく考える。


 そして、大きく頷いた。


「分かった!」


「声大きいよ」


「おう!」


 本当に分かったのかな。


 ◇


 翌朝。


「おはようございます」


「お、おう!」


 ……あれ?


 ナディアが首を傾げる。


「ガイルさん?」


「何だ!?」


「どうされたのですか?」


「何がだ!?」


「いえ……」


 ナディアが少し困ったように笑う。


「今日は、いつも以上に声が大きいので」


「いつも大きい!」


「それはそうですね」


「……」


 ガイルが固まった。


 昨日までなら普通に話していたのに。


 自分で好きだと言葉にした途端、明らかにおかしい。


「ピー」


 隣でピコが鳴く。


「ガイル、分かりやすいね」


 ミラが小さな声で言った。


「やっぱり?」


「昨日何かあったの?」


「あとで話す」


「分かった」


 なぜかヴィクトルもいる。


 さらにハガーとコディまでいる。


 朝から今日の作業分担について話すために集まっていたのだが、いつの間にか全員の視線がガイルへ向いていた。


「……」


「……」


「お前ら」


 ガイルがこちらを見る。


「なんで俺を見てるんだ?」


「見てないよ」


「見てるだろ!」


「私は見ていますぞ」


 ハガーが普通に答えた。


「なんでだ!」


「今日のお前は変だからだ」


 ヴィクトルが口を挟む。


「変じゃない!」


「顔も赤いです」


 コディまで言う。


「暑いだけだ!」


「朝ですが」


「俺は暑いんだ!」


「そうですか」


「ピー!」


「ピコまで何なんだ!」


 ミラが口元を押さえている。


 笑ってるな。


 ナディアだけが不思議そうにガイルを見ていた。


「本当に大丈夫ですか?」


「大丈夫だ!」


「そうですか?」


「ああ!」


「ならいいですが」


 いつものナディアだ。


 昨日までと何も変わらない。


 ◇


「やっぱりさ」


「何?」


 少し離れたところで、ミラに声を掛ける。


「ナディアもガイルのこと好きなのかな」


「私は前からそう思ってるよ」


「だよね」


「今さら?」


 ミラが笑う。


「でも、どうして改めてそう思ったの?」


「ガイルをここに呼んだの、ナディアだったでしょ?」


「ああ」


 そうだった。


 この領が人手不足で困っていた時。


 ナディアがガイルへ手紙を出した。


 俺が困っていることを伝え、それを読んだガイルがベイルン騎士団を連れて来てくれた。


 もちろん、俺たちを助けるためだったんだと思う。


 でも、ナディアが頼れる相手はガイルだけじゃない。


 それでも、わざわざガイルへ手紙を書いた。


「やっぱり特別なのかなって」


「私はそう思うけど」


「だよね」


「ピー!」


「ピコも?」


「ピー!」


「完全にミラ側だね」


「そうみたい」


 ミラが笑った。


 ◇


「ガイルさん」


「な、何だ!」


 また変な声になっている。


「今日、湿原の東側も確認していただけますか?」


「もちろんだ!」


「ありがとうございます」


「おう!」


「それと」


「何だ!?」


 ナディアが少しだけ目を丸くする。


「……声が大きいです」


「……悪い」


「ふふっ」


 ナディアが笑った。


「では、後ほどお願いします」


「あ、ああ!」


 ナディアはそのまま、セルヴァンから来た人たちのところへ戻っていった。


 ガイルは、その背中をじっと見送っている。


「……」


「……」


「……」


「……」


「……」


「ピー」


「お前ら!」


 ガイルが振り返る。


「なんでまだ見てるんだ!」


「いや」


 ヴィクトルが笑いを堪えている。


「思ってたより重症だなって」


「誰がだ!」


「ガイル」


「俺は普通だ!」


「ピー」


「ピコまで頷くな!」


 少し離れたところでは、ナディアがいつも通り仕事を始めている。



最後まで読んでいただきありがとうございます。

青春だな~と思いながら書いています。

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― 新着の感想 ―
二人に言ってほしい 「罪な女だ・・・(´ーωー`)ヤレヤレ」 まーガイル君もヴィクトル君にはともかくリオン君には言われたくないであろう しかしまあ・・・実際には難しいだろうなぁ 王女様が裏で暗躍すれ…
こうなると、ナディアとセレナとミラの女子トークの中身が気になりますね。青春だ。
残念、ナディアのお相手はセルヴァン王国のカレイン公爵家でしたか。 まぁ、幼いころに決まったお相手だから、当時から有力な貴族様だったのでしょう。 そんな彼がセルヴァン国王に叱責されるようなことを起こさな…
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