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45歳社長、転生先でハズレスキル「綻びの目」を武器に没落領地を再建する  作者: アカメノコバチ
第21章 リオン・ハル男爵

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第584話 先行投資

 それから数日後。


「リオン様!」


「何?」


 朝、政務所へ向かおうとしたところで文官が走ってきた。


「領都の東から大きな商隊が来ています」


「商隊?」


「ローデン商会です」


「お、ヴィクトルが来たか」


「かなりの人数です。それと荷馬車が……」


「何台?」


「かなりの数です」


「そんなに?」


 ミラとミアもやってくる。


「どうしたの?」


「ヴィクトルが来たみたい」


「ヴィクトルが?」


「ピー!」


「見に行こう」


 ◇


「……すごいな」


 領都の東側。


 街道に何台もの荷馬車が並んでいた。


 小麦や豆、塩、干し肉。


 衣服、靴、毛布。


 鍋や食器、日用品、工具。


 生活に必要な物が大量に積まれている。


「よう、リオン」


「ヴィクトル」


「久しぶりだな」


「何これ?」


「商品だよ」


「多すぎない?」


「これから必要になる」


「これから?」


 ヴィクトルが領都の方を見る。


「お前の領、これからもっと人が増えるんだろ?」


「うん」


「だったら食う物がいる。着る物も寝具も鍋もいる。

 人だけ増えて、生活する物が足りなくなったら困るだろ」


「確かに」


 商人にも仕入れを増やしてもらうつもりではいた。


 でも、ここまでの量は予想していなかった。


「これ全部、ローデン商会で売るの?」


「いや。この領の商店に卸す」


「地元の店に?」


「ああ。今までここで商売してきた連中から客を奪ってどうする」


 ヴィクトルが笑う。


「当面はかなり安く卸すつもりだ」


「そんなに安くして儲かる?」


「今は大して儲からないな」


「じゃあ、なんで?」


「リオン」


「何?」


「数年後も、この町が今と同じ大きさだと思ってるのか?」


「……」


 ヴィクトルが並んだ荷馬車を見る。


「人が増えれば、食う量も増える。服も売れる。店も増える。荷物も増える」


「うん」


「市場が大きくなってから慌てて入るより、今から商売の流れを作っておいた方がいい」


「先行投資か」


「そういうことだ」


 なるほど。


 今だけを見れば利益は小さい。


 でも人口が増え続ければ、市場そのものが大きくなる。


 その時には、ローデン商会の物流網がすでにできている。


「ヴィクトルらしいね」


 ◇


「それでな」


「まだあるの?」


「むしろ、こっちが本題だ」


「これ本題じゃなかったの?」


 ヴィクトルが地図を広げる。


「領都の東側。この辺りの土地を貸してほしい」


「土地?」


「ああ」


 指した場所を見る。


 領都の外。


 街道にも近い。


 土地はかなり余っている。


「何に使うの?」


「ローデン商会の物流拠点を作る」


「物流拠点?」


「大きな倉庫、荷馬車の置き場、馬小屋、荷物を積み替える場所。それと事務所も欲しい」


「かなり大きいね」


「最初から全部作るわけじゃない。ただ、土地は今のうちに確保しておきたい」


 ヴィクトルが地図を指でなぞる。


「王都から来た商品を、ここで分ける」


「分ける?」


「この領で売る物。西へ送る物。南へ送る物」


「……」


「俺はここが、いずれ王都からアルスレイン西部や南部へ物を運ぶ拠点になると思ってる」


「ここが?」


「ああ」


 ヴィクトルは本気だ。


「だから今から投資する」


「そこまで期待してるんだ」


「商人が期待だけで金を出すと思うか?」


「出さないね」


「そういうことだ」


 地図を見る。


「土地は売らないよ」


「構わん。貸してくれればいい」


「長期で?」


「ああ」


「分かった。条件はローレンと詰めよう」


「それでいい」


「働く人は?」


「全部ローデン商会から連れてくるつもりはないぞ」


「地元で雇う?」


「ああ。倉庫で働く人間、荷物を運ぶ人間、馬の世話をする人間。この辺りで雇う」


「それなら大歓迎」


 土地を貸せば地代が入る。


 さらに領民の仕事も増える。


 そこで働く人が金を使えば、周辺の商店にも客が増える。


「決まりだな」


「うん」


 ヴィクトルが笑った。


 ◇


「それと、もう二つ」


「本当にまだあるんだ」


「硬化石と共鳴石だ」


「あ」


「物流拠点の近くに工房を作ろう」


「それはいいね」


 山から運んできた硬化石と共鳴石を加工する。


 近くに物流拠点があれば、保管も出荷もしやすい。


「建物を作れる大工と、加工を始めるための職人はこちらで確保してきた」


「そこまで?」


「俺もこの事業で商売するんだから当然だ」


「助かるよ」


 物流拠点はローデン商会が自分たちの金で作る。


 一方、硬化石と共鳴石の加工工房は鉱山事業そのものだ。


 こちらは鉱山の帳簿から出す。


「建物を作る人手なら、こっちにもいるよ」


「ベイルン騎士団も数に入ってるのか?」


「今のところは」


「お前らしいな。ガイルたちが湿原で水路を掘って、今度は建物まで次々作ってるんだろ」


「うちの騎士団も一緒にやってる」


「それなら早そうだな」


「本当にありがたいよ」


 力がある。


 体力もある。


 大人数で動くことにも慣れている。


 しかも本人たちは訓練だと思っている。


「大工さんに指示してもらえば、かなり早く建てられると思う」


「それは助かる」


「ガイルにも話してみるよ」


「どうせ喜ぶだろ」


「たぶんね」


 ◇


 ガイルに聞いてみた。


「大きな建物を作るのか!」


 やっぱり喜んだ。


「工房を二つね」


「いいな!」


「何が?」


「砦や大きな建物を素早く作れるようになるのは、騎士にも必要だ!」


「やっぱりそうなるんだ」


「戦場で最初から建物が用意されているとは限らんからな!」


 ガイルが腕を組む。


「柵もいる! 倉庫もいる! 寝る場所もいる!」


「うん」


「やろう!」


「お願いします」


「任せろ!」


 本当にありがたい。


 ◇


 次にルッツさんと、トラウゼン侯爵領から来た道路整備の職人たちを呼んだ。


 地図を広げる。


「ここに物流拠点。それから、こことここに加工工房を作る予定です」


 領都の東側。


 三つの場所を指す。


「これから荷馬車がかなり増えるぞ」


 ヴィクトルが言う。


「今の道では傷むのも早いでしょうね」


 トラウゼン侯爵領から来た職人が答える。


「ルッツさん。硬化石の道路はどう?」


「短い区間で試していますが、今のところ大きな問題は出ていません」


「じゃあ、次はもっと実際に使う場所で広げたい」


「ここですか?」


「うん」


 領都から物流拠点。


 そこから硬化石と共鳴石の工房まで。


「最初から全部じゃなくて、工房に近いところから少しずつ伸ばそう」


「分かりました」


 これまで小規模な試験はしてきた。


 水にも耐えた。


 馬車を何度も通しても、大きな問題は出ていない。


 次は、毎日荷馬車が走る本当の物流路だ。


「下地はこちらで確認します」


 トラウゼンの職人が言う。


「地面を固めて、必要なところには砕いた石を入れます。水が溜まらないようにもします」


「その上に硬化石を混ぜた材料?」


「はい」


 ルッツさんが頷く。


「配合はこちらで用意します」


「お願いします」


 この道路は鉱石や加工品を運ぶためにも使う。


 鉱山開発に必要な道路だ。


「ローデン商会の敷地の中は、こっちで整備する」


 ヴィクトルが言う。


「分かった」


 これなら会計も分けられる。


「じゃあ進めよう」


 ◇


 翌日。


 屋敷の裏。


「本当に一緒に行く?」


「行く」


 屋敷の裏でミラが答えた。


「初めてだよね?」


「うん」


「一瞬だから」


「分かってる」


 そう言いながら、ミラが俺の手を握る。


 ぎゅっ。


「……結構強く握ってない?」


「初めてなんだから仕方ないでしょ」


「そうだね」


 アストンが少し離れたところで笑っている。


「ピー!」


 ピコはいつも通りだ。


「じゃあ行くよ」


「うん」


 魔力を流す。


 一瞬。


 景色が変わった。


 ◇


「着いたよ」


「……」


「ミラ?」


 まだ手を握っている。


「大丈夫?」


「うん」


 ミラが周囲を見る。


「本当に一瞬なんだね」


「平気そうだね」


「思ってたより平気」


 手を離す。


「すごいな」


「何が?」


「アストンは最初かなり驚いてたから」


「リオン様」


「はい」


「それは言わなくてよろしいかと」


「ごめん」


 ミラが笑った。


「ピー!」


 ピコが先に跳ねていく。


「あ、ピコ。待って」


 ◇


 ノア山脈の間にある平地へ向かう。


「……すごい」


 ミラが足を止めた。


 以前は何もなかった場所だ。


 今は簡易宿舎や長屋が並び、資材倉庫や共同炊事場もできている。


 馬をつなぐ場所もある。


 まだ町とは呼べない。


 でも、人が暮らせる場所にはなり始めていた。


「こんなに作ったの?」


「ベイルン騎士団がかなり手伝ってくれてるんだ」


 レイ湿原では今も排水路や田の区画作りが続いている。


 ただ、大きな掘削が一段落した班から、こちらの建築にも回ってもらっている。


 リオン騎士団も一緒だ。


「リオン様」


「ノル」


 ノルが近づいてきた。


「どう?」


「順調です」


 建築現場を見る。


「騎士団もずっと手伝ってる?」


「はい。非常に良い訓練になっております」


「建物を作るのが?」


「重い木材を何人かで運び、合図に合わせて持ち上げる。足場の悪い場所で作業する。指示された順番を守る。連携の訓練になります」


「なるほど」


「災害や戦の際に、宿舎や倉庫、簡単な防御施設を自分たちで作れることも重要です」


「剣を振るだけじゃないんですね」


「実戦では、剣を振っている時間の方が短いものです」


「……確かに」


 そう考えると、土木や建築も立派な訓練だ。


 ◇


「いい匂い」


 ミラが言う。


「ピー!」


 ピコが先に反応する。


 昼時。


 大きな鍋から湯気が上がっていた。


 その横では大量の肉が焼かれている。


「肉、多くない?」


「ベイルン騎士団はかなり食べます」


 ノルが答えた。


「今日は?」


「ワイルドボアです」


「また獲ってきたの?」


「はい。周辺の警戒も兼ねて、交代で森へ入っています」


 ワイルドボアをはじめ、食べられる魔物を狩っているらしい。


 森の魔物を減らせる。


 訓練になる。


 食料にもなる。


 一石三鳥だ。


 改めてベイルン騎士団を見る。


 やっぱり身体が大きい。


「屈強なのは、食事も関係してる?」


「かなり」


 ノルが頷く。


「訓練だけでは身体は作れません」


「そうだよね」


「鍛える。十分に食べる。そして休む。それを毎日繰り返します」


 食事を見る。


 肉だけじゃない。


 パン。


 豆。


 野菜。


 量そのものも多い。


「うちの騎士団は?」


「以前より増やしております。ただ、訓練量を考えると、もう少し増やしてもよいかと」


「増やそう」


「費用は掛かります」


「騎士が弱い方が、後で高くつくよ」


 怪我をする。


 病気になる。


 いざという時に戦えない。


 訓練させるなら、身体を作るところまで考えた方がいい。


「承知しました」


「ハル領から来ている若手騎士にも?」


「同じように経験させています」


「父上のところでも参考になるかもしれないね」


「はい。ハル子爵様には、私からお伝えします」


「お願いします」


「承知しました」


 ◇


「リオン!」


「何?」


 ガイルが泥だらけのまま歩いてくる。


 相変わらず楽しそうだ。


「こっちを見ろ」


「何?」


 周囲を見る。


 建物が次々と建っている。


「そろそろ、ここにも名前を付けた方がいいんじゃないか?」


「名前?」


「ああ」


「ここに?」


「人に場所を説明する時も不便だろ」


「確かに」


 今までは「ノア山脈の間の平地」で通じていた。


 でも人が増え、建物も増えた。


 これから鉱山へ向かう人たちの拠点にもなる。


 通信で報告する時にも、地図で場所を示す時にも名前があった方がいい。


「ガイル、何かない?」


「俺に聞くのか?」


「一応」


 ガイルが腕を組む。


「……思いつかん!」


「早いな」


「リオンが決めろ!」


「結局俺?」


「ああ!」


「そうだな……」


 周りを見る。


 人がいる。


 建物が増えている。


 これから鉱山が動けば、工房も増えるだろう。


 職人も技術者も集まってくる。


 新しい物が、ここで作られるようになるかもしれない。


 それなら――。


「……アナハイムは?」


「アナハイム?」


「うん」


 ガイルが何度か口にする。


「アナハイム……」


「どう?」


「なんか強そうでいいな!」


「強そう?」


「ああ!」


「そこなんだ」


「いい名前だ!」


 ミラが笑う。


「私はいいと思うよ」


「本当?」


「うん。覚えやすいし」


「ピー!」


「ピコも賛成みたいですね」


 アストンが言う。


「じゃあ、アナハイムにしようか」


「決まりだ!」


 ガイルが大きな声を上げる。


 《アナハイム》。


 ノア山脈の間に、新しい拠点が生まれ始めていた。



最後まで読んでいただきありがとうございます。

アメリカのアナハイムという都市の名前の由来は、アナ川+ドイツ語の家「ハイム」から来ているそうです。

ビダン山からレイ湿原へ流れている川の名前は、きっとアナ川になるでしょう。

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― 新着の感想 ―
ガンダムにもアナハイムが出てましたよね?
2026/10/05 09:49 アルテイシア
王立学院での学生時に築いた実績と人脈を基に、資金調達に成功したリオンくん。 第569話の時点で、ヴィクトルと『山の価値』を試算していた時は資金協力を求めるはずだったベイルン家。 ガイル自身の貢献はかつ…
こちらは戦争の影響はありませんか? 援軍の派遣とか
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