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45歳社長、転生先でハズレスキル「綻びの目」を武器に没落領地を再建する  作者: アカメノコバチ
第21章 リオン・ハル男爵

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第579話 ハーウェイ侯爵領へ

 翌朝。


 政務所の会議室。


「一週間くらい、領を空けるから」


 俺が言うと、ローレンが頷いた。


「ハーウェイ侯爵領ですな」


「うん。片道三日くらいだから」


 往復だけで六日。向こうでも話をする。


「その間のことなんだけど」


 机の上に紙を広げる。


「ローレン」


「はい」


「政務所全体はお願い。王家やヴァレスト公爵家、それに父上のところから人や物が来るかもしれない」


「承知しました」


「金貨が届いても、すぐ金庫室には入れないでね」


「まだ試験中ですからな」


「うん」


 次。


「アーロン」


「はい」


「村の調査は今まで通りお願い」


「承知しました」


「湿原の方も、ナディアたちと相談しながら進めて」


「はい」


 ノルを見る。


「騎士団のこと、お願い」


「お任せください」


「それからルッツさん」


「はい」


「金庫室の強度試験と、例の警報装置、よろしく」


「進めておきます」


「お願い」


 イレーナたちは、すでにノア山脈周辺の巡回を始めている。


「ローレン、イレーナたちから何か報告があったら教えて」


「分かりました」


 一通り確認する。


「俺がいないからって、止めなくていいからね」


 ローレンが俺を見る。


「判断できることはこちらで進めます」


「うん。お願い」


 全部、自分でやる必要はない。というより、全部自分でやっていたら領主なんて務まらない。


「リオン様」


「何?」


 ルッツが小さな箱を机へ置いた。


「こちらをお持ちください」


 箱を開けると、持ち運べるように小さく組んだ共鳴石が入っていた。


「通信機?」


「はい。試作品ですが」


「もうできたんだ」


「基本的な仕組みは同じですから」


 ルッツがもう一台、同じものを出す。


「こちらを政務所に置いてください」


「じゃあ、ローレン」


「はい?」


「三日後、このくらいの時間に一度連絡する」


「三日後ですか?」


「その頃にはハーウェイ侯爵領に入ってると思うから」


「使い方は?」


「細かい使い方はルッツさんに聞けば分かるよ」


「私が説明しておきます」


「お願いします」


 通信機を鞄へ入れる。これで遠く離れていても領の様子が分かる。


「じゃあ、行ってくる」


「お気をつけて」


「はい」


「ピー!」


 ◇


 屋敷の前には馬車が一台止まっていた。


「思ったより大きいね」


「一週間分の荷物がありますから」


 ミアが言った。


 今回は俺だけじゃない。ミラ、ミア、ミラ付きの侍女、アストン、ミラの護衛騎士、それからピコも一緒だ。


 俺、ミラ、ミア、侍女、ピコが馬車に乗り、アストンと護衛騎士は馬で同行する。


「準備できた?」


 ミラに聞く。


「うん」


「忘れ物は?」


「ないと思う」


「本当?」


「私の実家だよ?」


「あ」


 そうだった。忘れ物があっても向こうに大抵のものはある。


「それじゃあ行こう」


「うん」


 馬車へ乗る。


 ゆっくりと動き始め、領都の建物が後ろへ流れていく。


「……」


 背もたれに体を預ける。


「どうしたの?」


 ミラが聞いた。


「いや」


「疲れた?」


「何もしないで座ってるの、久しぶりだなって」


「まだ出発したばかりだよ」


「そうなんだけど」


 ここ最近は王都へ行き、ノア山脈へ行き、村や政務所を回り、昨日はハル領まで行った。ずっと動いている。


「じゃあ少し休んだら?」


「そうする」


「うん」


 目を閉じる。


 しばらくして開くと、窓の外には街道や畑、家々、道端を歩く人たちが見えた。


「リオン」


「何?」


「仕事のこと考えてるでしょ?」


「考えてないよ」


「本当?」


「景色見てるだけ」


 ミアも窓の外を見る。


「道路を見ているように見えますが」


「……道路も景色の一部だから」


 ミラが笑った。


 ◇


 馬車は西へ進み、昼を過ぎた頃にハル領へ入った。


「……」


 窓の外を見る。


 街道が変わり、馬車の揺れも少し小さくなった。


 整えられた道の向こうには畑が広がり、水路や家が並ぶ。


 荷物を積んだ馬車も多く、人の往来も活発だ。


「どうしたの?」


 ミラが聞いた。


「ハル領、随分変わったなと思って」


 俺が家を出た頃とも違う。


 この数年で、ハル領は急速に変わった。


 道路や街灯、井戸、紙、西の森の開発。


 父上やエリアス、ノル、ミア、アーロン、それに領民たちと少しずつ積み重ねてきた結果だ。


 また窓の外を見る。


 俺の領はまだ道も悪く、人も少ない。食べ物だって足りない。


 でも、いずれは変えていきたい。


 ここだって最初から今の姿だったわけじゃないんだ。


 俺の領も、もっと良くできる。


 そう思うと少し楽しみになった。


「今度は何考えてるの?」


「領のこと」


「やっぱり」


 ミラが笑う。


「完全に領主だね」


「そうかな?」


「うん」


 ◇


 さらに南へ進みハル領を抜けると、そこから先は王都直轄領。


「おお……」


 景色が変わった。


 街道の両側いっぱいに畑が広がっている。


 まだ穂は出ていない。冬を越した麦が春の日差しを浴び、青々と伸びていた。


 風が吹くと柔らかな葉が一斉に傾き、緑の波が道の脇から遠くへ走っていく。


 畑と畑の間には細い水路があり、流れる水が春の光をきらきらと反射している。


 農民たちは土を耕していた。


 さらに向こうにも畑。その先にも畑。


「すごいな……」


「王都の食料を支えてる場所だからね」


 ミラが言った。


「これ、ずっと続くの?」


「この辺りはほとんど農地だよ」


 道沿いには大きな倉庫もある。そこから出てきた荷車には、いくつもの袋が積まれていた。


 去年収穫して保管していた穀物だろう。


 反対に、種や農具を載せた馬車は畑の方へ向かっている。


 人も馬も荷車も、ひっきりなしに動いていた。


 ここから食料を仕入れる量、増やせないかな。


「リオン様」


「何?」


 ミアが俺を見る。


「またお仕事のことを考えていませんか?」


「……なんで分かったの?」


 ミラが笑う。


「さっきから畑じゃなくて、倉庫と荷馬車ばっかり見てるから」


「景色だよ」


「倉庫も?」


「景色」


「本当?」


 二人が笑った。


「ピー」


 窓から入る風には、若い草と湿った土の匂いが混じっていた。


 麦の葉が揺れ、馬車の車輪が一定の音を刻んでいる。


 まあ、少しくらい旅を楽しんでもいいか。


 その日は王都直轄領の宿場町で泊まった。


 ◇


 夜。


 宿屋の部屋で、机の上に地図を広げる。


「明日はこのまま南か」


 現在地を見る。


 リオン領から西へ進んでハル領へ入り、そこから南へ下って王都直轄領。


 さらに南へ進んでから東へ向かえば、ハーウェイ侯爵領だ。


「かなり回るな」


「ノア山脈があるからね」


「そうなんだよな」


 地図を見ていると、ふと東側へ目がいった。


 地図の東側には、太いレコア川が描かれている。


 王都方面から南へ流れ、俺の領とハーウェイ領の東側を通って、そのまま海へ続いている。


「……レコア川か」


 鉱山が本格的に動き始めたら、かなりの量を運ぶことになる。


 全部馬車で運ぶのは現実的ではない。


 馬車一台で運べる量には限界がある。馬も人も必要だし、道路も傷む。

 

 大量輸送なら船の方が向いている。しかもレコア川は海まで続いている。


 いずれは水運も考えないとな。


 海へ出られれば、もっと遠くとの交易にも使えるかもしれない。


 ◇


 翌朝、再び馬車に乗って王都直轄領を南へ進んだ。


 朝露が麦の葉に残り、日が昇るにつれて小さな水滴が光り始める。


 遠くの農家からは細い煙が上がり、畑へ向かう人、町へ向かう人、荷車を引く馬が行き交っていた。


 あちこちで一日が始まっている。


「綺麗だね」


 ミラが言った。


「うん」


 今日はなるべく仕事のことを考えない。


 そう決めた。


 窓の外を流れていく畑を見る。


 ピコも窓際で外を見ている。


「ピー」


「綺麗だね」


「ピー!」


 昼は街道沿いの町で食事をした。


 久しぶりに何の指示も出さず、何の書類も見ず、ただ料理を食べる。


「……」


「どうしたの?」


「いや」


 ピコが隣で食事をしている。


 ミラとミアが話している。


 外から人の声が聞こえる。


 こういう時間も悪くないな。


 少しだけ、本当に休めた気がした。


 その日も南へ進み、街道沿いの町で一泊した。


 ◇


 三日目。


 街道を東へ進む。


 午前中、遠くに山の影が見え始めた。


 最初は薄く見えるだけだったが、進むにつれて少しずつ輪郭がはっきりしてくる。


 高い山。その隣にも山。さらにその先にも続いている。


 山が長く連なるノア山脈。


「やっぱり大きいな」


 思わず言った。


「こっち側から見ると少し違うでしょ?」


 ミラも窓の外を見る。


「うん」


 八つのうち五つが俺の領、三つがハーウェイ侯爵領にある。


 今まで俺は北側から山脈を見ることが多かったが、今は南西側から近づいている。


 同じ山脈なのに形が少し違って見えた。


 地図を出す。


「出た」


 ミラが言った。


「何が?」


「地図」


「だって気になるから」


「何が?」


 指を置く。


 俺の領。その南にノア山脈があり、さらに南側にハーウェイ侯爵領がある。


「今は西へ回って、南へ下って、それから東へ来てる」


「そうだね」


「三日」


「うん」


「この山脈を通れたら、もっと近いよね」


「山を越えるの?」


「どこかに道を作れないかな」


 ミラが山を見る。


「魔物も多いよ」


「うん」


「険しい場所もある」


「分かってる」


 簡単じゃない。むしろかなり難しい。


 いずれは、トンネルとか作れないかな。


 前世では当たり前にあったが、この世界で山を掘り抜くとなれば大工事だ。


 崩落もある。地下水も出る。掘削自体も簡単じゃない。


 そこで硬化石を思い出す。


 掘った後の壁を、硬化石で固められれば……。


 可能性はあるな。


 ただ、今考えることじゃない。


 まずは地形を調べるところからだな。


 通れそうな場所があるか。それを調べる方が先だ。


 それでも、三日掛かるのが二日になれば大きい。


 人も物資も鉱石も、全部の動きが変わる。


「リオン」


「何?」


「また何か作ろうとしてる?」


「まだ何も作ってないよ」


「まだ?」


「あ」


 ミラが笑った。


「やっぱり」


 ミアも笑っていた。


 昼前、ようやくハーウェイ侯爵領へ入った。


 ◇


 昼過ぎ。


「そろそろだ」


 俺が言った。


「何が?」


「ローレンと連絡する時間」


「あ」


 馬車を止めてもらい、道端で休憩する。


 鞄から通信機を取り出す。


 少し向こうには大きなノア山脈。その向こう側に俺の領がある。


「届くかな」


 ミラが言った。


「試してみよう」


「まずは呼び出し」


 石を三回押す。


 少しすると、三回光った。


「よし、山の向こうでも通じるぞ」


 符号表を見ながら石を押す。短く、長く、また短く。一文字ずつ送っていく。


《ハーウェイリョウニハイッタ》


 送信を終えて待つ。


 しばらくすると、共鳴石が光った。


「来た」


 符号を読む。


《リョウハモンダイナシ》


 続けて、


《キンコシツモンダイナシ》


「領も金庫室も問題なしだって」


「よかったね」


「うん」


 目の前の山を見る。


「それにしても、すごいな」


「何が?」


「ノア山脈を挟んでも、ちゃんと届くんだよ?」


「あ」


 ミラも山を見る。


 馬車なら山を大きく迂回して三日かかる。それが数分で届く。


 これは大きい。


 領を離れても状況が分かる。何かあれば連絡できる。


 それだけじゃない。


 山の向こうに警備所を作っても、領都とつなげられる。


 鉱山が本格的に動けば、山中にも人が増える。


 その時、この通信はもっと役に立つ。


 そしてローレン、アーロン、ノル、ルッツがいる。


 俺がいなくても、みんながそれぞれ仕事を進めている。


 ちゃんと動いてる。


 それも嬉しかった。


「帰ったら通信機、もっと増やしたいな」


「ほら」


「何?」


「また仕事」


「これは仕方ないでしょ?」


 ◇


 夕方。


「見えてきたよ」


 ミラが言った。


 窓の外を見る。


「おお……」


 ハーウェイ侯爵領の領都。


 大きい。


 建物が立ち並び、街道を何台もの馬車が行き交う。


 店や倉庫、工房も多く、その向こうにはノア山脈がそびえていた。


「領都も大きいけど、やっぱり山脈も大きいな」


 ミラが笑った。


「まだ山を見てるの?」


「気になるから」


 町を進むと、やがて大きな屋敷が見えてきた。


「……」


 かなり立派だ。


 高い塀に大きな門。その奥には広い敷地があり、大きな屋敷が建っている。


 ハーウェイ侯爵家だ。


 馬車が門へ近づく。


「ミラ様だ!」


 衛兵の声がした。


 門の前にいた兵士たちが姿勢を正し、大きな門が開く。


「おかえりなさいませ、ミラ様!」


「おかえりなさいませ!」


 声が重なる。


 ミラが窓から少し顔を出した。


「ありがとうございます」


 穏やかに笑う。


 いつも一緒にいるから忘れそうになるけど、ミラって本当に侯爵家のお嬢様なんだよな。


 馬車が敷地へ入り、庭を進んで大きな屋敷の玄関前で止まった。


「着いた」


「うん」


 先に降り、続いてミラが降りる。


 大きな扉が開いた。


「ミラ」


「あ」


 ハーウェイ侯爵が自ら出迎えに来ていた。


「父上」


 ミラが頭を下げる。


「ただいま戻りました」


「ああ」


 侯爵の表情が緩んだ。


「ようやく戻ってきてくれたか」


「はい」


 ミラが少し申し訳なさそうにする。


「長い間、領を離れてしまい、申し訳ありませんでした」


「謝る必要はない。手紙で聞いている」


「ですが――」


 俺も頭を下げる。


「侯爵」


「リオン殿」


「ミラには、本当に助けてもらっています」


「そうなのか?」


「はい。自分が気づいていないところでも色々やってくれています。

 ミラがいなかったら、もっと時間が掛かっていたと思います」


「……そうか」


 侯爵が娘を見る。


「よく頑張ったな、ミラ」


「……はい」


 ミラが少しだけ笑った。


「あなた」


 声がした。


 屋敷の中からハーウェイ侯爵夫人が出てくる。


「いつまで玄関でお話ししているのです?」


「いや」


「ミラも久しぶりに帰ってきたのですよ」


 夫人がミラを見て優しく笑った。


「おかえりなさい、ミラ」


「母上。ただいま戻りました」


「無事で何よりです」


 そして俺を見る。


「リオン殿も、長旅でお疲れでしょう」


「ありがとうございます」


「食事の用意はできています。まずは中へ入っていただきましょう」


「ああ、そうだな」


 侯爵が頷く。


「話は明日にしよう。今日はゆっくり休みなさい」


「ありがとうございます」


 屋敷へ入る。


 三日掛けてようやくハーウェイ侯爵領へ着いた。明日は出資の話だ。



最後まで読んでいただきありがとうございます。

リオン領の東を流れるレコア川は今後、ちゃんとやりたいです。

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― 新着の感想 ―
リオンってほんとワーカホリックだよね~^^;トンネル掘ったらって考えるとかどんだけ~!だよwその内列車も走らせたいとか言い出しそう。
一つ二つなら実在のものもあるし、大丈夫だろうけど・・・・書籍化するなら某ハゲの国から怒られまくる気がするのだが(´;ーωー`) ホドホドニ
シロッ湖かパプテマス谷とかでてくるんだろうか。
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