第578話 父の支援
それから数日後。
政務所の執務室。
「リオン様」
「ん?」
顔を上げる。
アーロンが立っていた。
「お、アーロン。久しぶりだね」
「私は毎日この領内にはおりますが」
「そうなんだけど、最近ほとんど会わないから」
「村を回っておりますので」
アーロンが持っていた紙を机へ置いた。
「各村の畑や家畜について、分かる範囲でまとめました」
「ありがとう」
紙を見る。
小麦。
野菜。
家畜。
種。
堆肥に使えそうなもの。
村によって随分違う。
「湿原の方は?」
「セルヴァンから来られた方々と試験区画を見ています」
「米も?」
「はい。ナディア王女にも色々教えていただいております」
「そっか」
村を回って農業の状況を調べる。
湿原では米作り。
すっかり農業担当だな。
「引き続きお願い」
「承知しました」
アーロンが部屋を出ていく。
入れ替わるように、
「リオン」
ミラが入ってきた。
「どうしたの?」
「父上から返事が来たよ」
「本当?」
すぐに立ち上がる。
「読んでいい?」
「うん」
ミラが手紙を開いた。
「ええと……」
目を通す。
少し笑った。
「何て?」
「早く来いって」
「それだけ?」
「もう少し丁寧に書いてあるけど、だいたいそんな感じ」
「侯爵らしいね」
「父上だから」
ミラが笑う。
「リオン様」
今度はローレンが入ってきた。
「ちょうどよかった」
「何か?」
「ハーウェイ侯爵から返事が来た」
「それは何よりです」
「他は?」
「こちらも届いております」
「本当?」
「はい」
ローレンが二通の手紙を出した。
「ハル子爵様から」
「父上だ」
「それとトラウゼン侯爵様です」
まず父上の手紙を開く。
話は聞く。
都合の良い時に来なさい。
短い。
「父上らしいな」
「トラウゼン侯爵は?」
もう一通を開く。
「こちらも、いつでも構わないって」
「これで三家とも返事が来たね」
ミラが言った。
「うん」
ローレンは他の文官に呼ばれ部屋を出た。
俺は机を見る。
父上。
ハーウェイ侯爵。
トラウゼン侯爵。
「よし」
立ち上がる。
「どこか行くの?」
「父上のところ」
「え?今から?」
「うん」
「ハーウェイ領じゃなくて?」
「父上のところなら転移で行けるから」
今日中に往復できる。
ハーウェイ侯爵領へは明日から向かえばいい。
「まず一件終わらせる」
ミラが笑った。
「やっぱり」
「何?」
「リオンは思い立ったらすぐ行動するね」
「時間がもったいないから」
執務室を出る。
廊下でアストンを見つけた。
「アストン」
「はい」
「父上のところへ行こう」
「……今からですか?」
「うん」
一瞬だけ止まる。
「承知しました」
慣れてきたな。
屋敷へ戻ろうとすると、
「あ、リオン」
ガイルとナディアがいた。
「今度はどこ行くんだ?」
「父上のところ」
「また出かけるのか?」
「出資の相談」
「……」
ガイルが少し呆れた顔をした。
「お前、ずっと動いてないか?」
「そう?」
「王都行って、山行って、政務所行って、村行って」
「それくらいかな」
「十分だろ」
ナディアも心配そうに俺を見る。
「リオンさん、本当に大丈夫ですか?」
「大丈夫だよ」
「きちんと休んでますか?」
「寝てるよ」
ミラが笑った。
「大丈夫。リオンはずっとこうだから」
「ミラ」
「何?」
「もう少し心配して」
「心配はしてるよ」
「……」
「でも、止めても行くでしょ?」
「まあ……」
「ほら」
ナディアも笑った。
「無理だけはなさらないでくださいね」
「分かった」
「じゃあ、行ってくる」
「いってらっしゃい」
「ピー!」
ピコが足元へ来た。
「ピコも?」
「ピー!」
「うん、一緒に行こう」
◇
屋敷の裏。
アストン。
ピコ。
俺。
「じゃあ行くよ」
「はい」
魔力を流す。
景色が変わった。
「……」
見覚えのある部屋。
ハル領の屋敷にある、俺の部屋だ。
「懐かしいな」
「ピー」
机。
ベッド。
棚。
もう家を出たのに何も変わっていない。
「行こうか」
扉を開ける。
「あら?」
「え?」
母上がいた。
「リオン?」
「ただいま」
「……リオン!え、えーっと、そちらの方は??」
「私はアストンと申します。男爵様の警護を担当しています」
「そ、そうなんですね」
「母上、急に帰ってきてごめんなさい」
「本当に急ね」
母上が近づいてくる。
「連絡くらいしなさい」
「すみません」
転移だから、連絡する間もなかった。
今日、共鳴石を置いていくから次からは大丈夫だろう。
「元気?」
「はい」
「ちゃんとご飯は食べているの?」
「食べてます!」
「本当に?」
「はい!」
「ミラさんを困らせてない?」
「そこは……」
「そこは?」
「何とも言えないですけど、頑張ります」
「もう!」
母上が呆れたように笑った。
「父上は?」
「執務室よ。エリアスと話をしているわ」
「ありがとうございます」
「今日は泊まるの?」
「たぶん、すぐ戻ります」
「もう帰るの?」
「仕事があるので」
「本当に忙しいのね」
「はい」
「無理しちゃ駄目よ」
「分かりました」
母上に頭を下げ、執務室へ向かった。
◇
コンコン。
「父上、リオンです」
一瞬、静かになる。
「……入れ」
「失礼します」
扉を開ける。
父上。
それからエリアス。
「ご無沙汰しております。リオン様」
「お久しぶりです」
父上が俺を見る。
「突然だな」
「すみません」
「まあ、座れ」
「はい」
アストンは後ろへ控える。
ピコは俺の足元。
「まず」
「何だ?」
「色々とありがとうございます」
「色々?」
「ノルとテオを送ってくれて」
「ああ」
「それから、ミアとアーロンが俺の領へ来ることも認めてくれて」
「本人たちが希望したことだ」
「本当に助かってます」
「そうか」
「紙も大事に使わせてもらっています」
「役に立っているか?」
「すごく」
頷く。
「ノル達は元気にやっているか?」
「はい。ノルにはうちの騎士団を鍛えてもらっています。
加えて今はベイルン騎士団も来ていて、うちの騎士団を鍛えてもらっています」
「ベイルン騎士団が?」
「はい」
父上が少し身を乗り出した。
「ガイル殿もいるのか?」
「います」
「ほう」
少し考える。
「なら、うちの若い騎士も何人か送るか」
「いいんですか?」
「ベイルン騎士団から直接学べる機会など滅多にない」
エリアスも頷く。
「二、三名ずつ交代で派遣するのがよろしいかと」
「そうだな」
「助かります」
父上が俺を見る。
「それで?」
「はい?」
「礼を言うためだけに来たわけではないだろう」
「はい」
「お前が急に来たのは手紙の件だろ?」
「はい」
資料を机へ置いた。
「手紙にも書きましたが、領南部の山を開発することになりました」
◇
説明する。
ノア山脈。
硬化石。
共鳴石。
銅。
そして、これから本格的な調査と開発を始めること。
「必要な資金は?」
「予備費も含めて金貨五万枚です」
「五万枚?」
父上の表情が変わる。
「はい」
「それほどの規模なのか?」
「なると思います」
契約についても説明する。
「なるほど」
「それで」
少し間を置く。
「王家から金貨二万枚」
「……何?」
「ヴァレスト公爵家から一万枚」
父上とエリアスが黙った。
「合わせて三万枚の出資が決まっています」
「……」
父上がエリアスを見る。
エリアスも珍しく驚いた顔をしている。
「王家が二万?」
「はい」
「ヴァレスト公爵家が一万?」
「はい」
「もう決まったのか?」
「数日前に」
「……」
父上が額に手を当てた。
「お前は本当に……」
「何です?」
「いや」
資料を取る。
「それで、いくらだ?」
「え?」
「ハル領からも出そうと言っている」
「ありがとうございます!父上には金貨五千枚をお願いしたいです」
父上が資料を見る。
エリアスも横から確認する。
「五千枚か」
「難しいですか?」
「いや」
父上が顔を上げた。
「出そう」
「本当ですか?」
「ああ」
「ありがとうございます!」
「エリアス」
「はい」
「早急に準備してくれ」
「承知しました」
「用意できた分から送ればいいか?」
「はい」
これで、金貨三万五千枚だ。
残り一万五千枚。
「それと」
父上が続ける。
「金だけでいいのか?」
「え?」
「お前が欲しいのは金だけではないのだろう?」
「……はい」
さすが父上。
「なら、人も出せる」
「人?」
「以前、旧グレイヴ領からハル領へ移ってきた者たちがいる」
「はい」
父上がエリアスを見る。
「故郷へ戻りたい者がいないか、確認してくれ」
「承知しました」
「もちろん無理に戻す必要はない」
「はい」
「ただ、旧グレイヴ領西部が今はリオンの領になったこと。仕事が増えていることは伝えてやろう」
「ありがとうございます」
これは大きい。
もともと住んでいた人たちなら、土地のことも分かっている。
「他には?」
父上が聞く。
「井戸のポンプ」
「あれか」
「送ってもらえますか?」
「西の森で作っている」
エリアスが答えた。
「今、どれだけ送れるか確認いたします」
「お願いします」
「街灯も必要か?」
父上が聞く。
「欲しいです」
「なら送ろう」
「本当ですか?」
「取り付けられる者も必要だろう」
「はい」
「何人か派遣する」
「ありがとうございます」
ポンプ。
街灯。
それを取り付けられる職人。
「それと紙」
「安い紙か?」
「はい。政務所でかなり使います」
「もっと送らせよう」
エリアスが次々と書き留めていく。
「金貨五千枚」
「はい」
「若手騎士の研修派遣」
「はい」
「旧グレイヴ領出身者への案内」
「はい」
「井戸のポンプ」
「はい」
「街灯と職人」
「はい」
「安い紙」
「はい」
エリアスが顔を上げた。
「かなりありますね」
「すみません」
「いえ」
少し笑う。
「久しぶりにリオン様らしいお願いを聞いた気がします」
「そうですか?」
「はい」
父上も笑った。
「今日は泊まっていくのか?」
「あ」
窓の外を見る。
「すみません。今日は戻ります」
「もうか?」
「金庫室を作っているので」
「……金庫室?」
「これから金貨が来るので」
「……そうか」
「また来ます」
「今度はもう少しゆっくり来い」
「はい」
立ち上がる。
「父上。ありがとうございます」
「ああ」
「エリアスもお願いするよ」
「お任せください」
「失礼します――あ!一つ忘れてました」
「なんだ?」
「これを父上に持っていて欲しいのですが…」
共鳴石の通信機を机の上に置く。
「これがさっき話していたものか?」
「はい。使い方を説明しますね」
これまで王宮やヴァレスト公爵邸でやったことと同じことをする。
「……」
父上とエリアスは言葉を失っている。
「使い方をまとめた紙をここに置いておきますので、急ぎの時はこちらで話をさせてください」
「あ、ああ。わかった」
「それでは今日はここで失礼します!」
執務室を出た。
◇
――リオンが去ったあと。
ガルドは閉まった扉を見つめていた。
「……嵐のようなやつだな」
エリアスが少し笑う。
「リオン様は、とても生き生きとされていましたね」
「ああ」
ガルドも小さく笑った。
「久しぶりに息子の元気な顔が見られた。それだけでもよかった」
「はい」
エリアスが手元の紙を見る。
そこには、先ほど頼まれたものがずらりと並んでいる。
「さて」
「何だ?」
「私もリオン様に恥をかかせないよう、早急に手配を進めます」
「うむ」
ガルドが頷いた。
「頼んだ」
◇
自室へ戻る。
「じゃあ帰ろう」
「もうですか?」
アストンが聞く。
「うん」
「滞在時間は……」
「短かったね」
「……そうですな」
「ピー!」
魔力を流す。
景色が変わった。
リオン領の屋敷。
「ただいま」
「おかえり」
ミラがすぐにやってきた。
「どうだった?」
「金貨五千枚出してもらえることになった」
「本当?」
「うん」
「これで三万五千枚?」
「そう」
「すごいね」
「それだけじゃないよ」
「まだあるの?」
「旧グレイヴ領からハル領へ移った人たちに、戻る気があるか聞いてくれるって」
「それは助かるね」
「ポンプ。街灯。取り付ける職人。それに紙も」
「……たくさんお願いしたね」
「うん」
ちょっとお願いしすぎたかもしれない。
「それで」
「何?」
「明日からハーウェイ侯爵領へ行こう」
「明日?」
「侯爵も早く来いって言ってたんでしょ?」
「そうだけど」
「じゃあ行こう」
「うん。分かった」
ミラが少し慌てる。
「準備するね」
「お願い」
「リオンは?」
「金庫室」
「……まだ働くの?」
「ちょっとだけ」
ミラが呆れた顔をした。
「本当に無理しないでね」
「分かった」
◇
政務所の裏。
「そこだ!」
「掘れ!」
「土を上げろ!」
「はい!」
土が次々と運び出されている。
「……」
凄まじい早さで地下室が掘られている。
ベイルン騎士団は本当にすごいな。
「リオン様」
「ルッツさん」
「政務所の真下を掘るのは危ないので、少し場所をずらしました」
「危ない?」
「建物を支えている地面を崩してしまう可能性があります」
「それは駄目だね」
「ですので裏手から掘り下げて、地下で政務所につなげます」
「なるほど」
俺だけで決めなくてよかった。
「深さは?」
「このくらいあれば十分です」
穴を見る。
もう人の背より深い。
「これ、今日から掘り始めたんだよね?」
「この数日、場所と地下の状態を調べていました。掘り始めたのは今朝です」
「早くない?」
「ベイルン騎士団が……」
見る。
「運べ!」
「はい!」
土を入れた籠を持ち上げる。
一人で運んでいる人までいる。
「……早いわけだ」
ガイルたち、おかしい。
掘り終えた場所では、底を平らにしていた。
砕いた石を敷く。
何度も突き固める。
「まず床です」
「うん」
その上に木の枠を組む。
別の場所では材料を混ぜていた。
硬化石を細かく砕いたもの。
砂。
小さな砕石。
水。
灰色の材料ができていく。
硬化石を混ぜた材料は、普通の石材よりかなり早く固まる。
だから、混ぜ終わったらすぐに使わないといけない。
「流します!」
床の型枠へ入れる。
「一か所に入れすぎないでください!」
「はい!」
「広げて!」
ルッツの指示が飛ぶ。
棒で何度も突く。
「何してるの?」
「中に大きな隙間を残さないためです」
「なるほど」
床が終わると、今度は壁。
大工たちが厚い木の板を組んでいく。
内側。
外側。
二枚の型枠を作り、その間に材料を流し込む。
「少しずつ!」
「はい!」
入れる。
棒で突く。
また入れる。
少しずつ壁の形になっていく。
天井には太い木材で支えを作り、その上に緩く丸みをつけた型枠を組んでいた。
「天井は丸くするんだ」
「上から力が掛かりますから」
「なるほど」
アーチ状の天井。
そこにも硬化石を使った材料を入れていく。
ベイルン騎士団が土を運ぶ。
リオン領騎士団が材料を運ぶ。
ベイルン騎士団に比べると動きは鈍いが必死に食らいついている。
大工が型枠を組む。
ルッツが全体を見て指示を出す。
とにかく速い。
夕方には、
「おお……」
地下に一つの部屋の形ができていた。
「できた」
「まだです」
ルッツが言う。
「え?」
「木枠は外せません」
「ああ」
「表面はかなり固まっていますが、中まで同じように固まっているかは分かりませんから」
「明日調べる?」
「はい」
ルッツが近くに置いてある灰色の塊を指した。
「同じ配合で作った試験用のものがあります」
「これを叩くの?」
「それもします」
「壁そのものじゃなくて?」
「せっかく作った壁を壊したくありません」
「確かに」
「強度に問題がないか見てから、型枠を外します」
「分かった」
「その後も何日か状態を見たいです」
「お願い」
「リオン様!」
「ん?」
振り返る。
ベイルン騎士団の騎士が何人か立っていた。
「この材料!」
「硬化石?」
「はい!」
一人が壁の型枠を見る。
「かなり丈夫な建物が作れそうです」
「まだ試験中だけどね」
「我々にも使わせていただけませんか?」
「何に?」
「長屋です」
「ああ」
「倉庫にも使えそうです」
確かに。
「ルッツさん」
「まだ試験中です」
「だよね」
騎士たちを見る。
「ルッツさんの試験が終わって、問題なかったらね」
「ありがとうございます!」
「でも、勝手には使わないでよ」
「もちろんです!」
本当に元気だな。
◇
夜。
「いただきます」
「いただきます!」
屋敷の食卓。
俺。
ミラ。
ナディア。
ガイル。
それからピコ。
目の前には、ナディアたちがセルヴァンから持ってきた米。
最近は食卓に出る回数も増えた。
「おかわり」
「俺も!」
ガイルとほぼ同時だった。
ミラが笑う。
「早くない?」
「腹減った」
「俺も」
「二人ともずっと動いてたからね」
ナディアも笑った。
「ガイルさんは朝から訓練でしたし」
「ああ」
「午後は?」
「地下掘ってた!」
「……」
「すげえぞ。あの石」
「硬化石?」
「ああ!」
ガイルが米を口へ入れる。
「硬いし、火にも強いんだろ?」
「まだ試験中だけどね」
「俺たちにも使わせてくれ」
「さっき騎士たちにも言われた」
「いいだろ?」
「ルッツさんの試験が終わってからね」
「分かった!」
また米を食べる。
「リオンも」
ミラが言った。
「何?」
「食べるの早い」
「お腹空いてるから」
「ちゃんと噛んで」
「はい」
ナディアが笑う。
「本当にお二人ともよく召し上がりますね」
「動いてるからな!」
「ガイルは動きすぎ」
「リオンもだろ」
「そうかな」
「そうだ」
ガイルと目が合う。
まあいいか。
「そういえば」
ナディアが言った。
「明日からレイ湿原へ行こうと思っています」
「米?」
「はい」
「何するの?」
「水路を作ります」
「もう?」
「試験区画を広げるなら、先に水を引けるようにしておいた方がいいですから」
「なるほど」
「それで」
「うん?」
ナディアがガイルを見る。
「ベイルン騎士団の方々にも、工事を手伝っていただければと思うのですが」
「おお!」
ガイルがすぐ答えた。
「いいぞ!」
「よろしいのですか?」
「水路掘りだろ?」
「はい」
「訓練になる!」
「またそれ?」
思わず笑う。
「じゃあお願いしようかな」
「任せろ!」
「ありがとうございます」
ナディアが頭を下げた。
「こっちこそ助かるよ」
米。
鉱山。
道路。
金庫室。
明日からはハーウェイ侯爵領。
「……」
「リオン?」
「何?」
「また仕事のこと考えてるでしょ」
「少し」
「今はご飯」
「はい」
ケーラが俺とガイルを見る。
「おかわりはどうされますか?」
「お願い!」
「俺も!」
「ガイルはもう少し待って」
「なんでだ!」
みんなで笑った。
◇
同じ頃。
屋敷で働く者たちが使う食堂。
ミア。
アストン。
ルッツ。
アーロン。
ハガー。
コディ。
六人が同じテーブルを囲んでいた。
「はあ……」
アストンが椅子へ深く座る。
「どうされました?」
ミアが聞いた。
「いや」
今日一日を思い出す。
「一つ聞きたいのですが」
「何ですか?」
「リオン様は、昔からあのような方なのですか?」
「あのような?」
「次から次へと、新しいことを始められる」
「ああ」
ミアが笑った。
「昔からです」
「やはり……」
「ハル領にいた頃から、ずっとあんな感じでした」
アーロンが料理を口へ運ぶ。
「領主になってから、さらにひどくなった気もしますが」
「アーロンさん」
「悪い意味ではありません」
ミアが笑う。
「分かっています」
「私は村や湿原を回っていますが、政務所へ戻ってくる度に何か増えています」
「分かります」
ルッツが頷いた。
「俺も、一つ作り始めると集中して止まらなくなることはあります」
「そうなのですか?」
「はい。あ、でも、リオン様は違います」
「何が?」
「同時にやるんです」
ルッツが指を折る。
「鉱山」
「はい」
「道路」
「はい」
「通信」
「はい」
「硬化石」
「はい」
「今日、金庫室まで増えました」
「農業もあります」
アーロンが付け足す。
アストンが黙る。
「……よく倒れませんな」
「それは私も思います」
ルッツが答えた。
「でも」
ハガーが言う。
「副団長も似たようなもんですぞ」
「ガイル様ですか?」
「はい」
「朝からずっと動いてます」
コディも頷いた。
「訓練して、掘って、運んで、また訓練です」
「ガイル様の体力はどうなってるんですか?」
「我々でも底が知れません」
「以前からガイル様の噂も聞いてましたが、想像以上でした」
アストンが頷く。
「あれは……」
「何だ?」
「確かに人間離れしておりますな」
「そう思います」
ハガーとコディが笑った。
ミアも笑う。
「でも」
アストンが食堂を見渡した。
以前より人がいる。
仕事がある。
食事もある。
皆、疲れている。
それでも、嫌そうな顔をしている者はいない。
「忙しいですが」
「はい?」
「悪くありませんな」
ミアが嬉しそうに笑った。
「はい!」
「俺もです」
ルッツが言う。
「やることが多すぎますけどね」
「私も村を回るのは楽しいですよ」
アーロンも笑った。
「明日も早いですよ」
ハガーが言う。
「水路掘りらしいです」
「また掘るのですか?」
アストンが驚く。
「副団長は張り切ってたぞ」
「……」
全員が一瞬黙る。
そして、笑った。
忙しい。
本当に忙しい。
でも、今の領には活気がある。
人が働き、物が作られ、次々と新しい何かが生まれている。
領は確実に、前へ進み始めていた。
その中に自分たちがいることが嬉しくもあり、誇らしくもある。
最後まで読んでいただきありがとうございます。
アストン、ルッツ、ミア、ノル、ミラの侍女、護衛、ナディアの侍女、護衛、ケーラと、リオン達に使える人たちも同じ屋敷で生活をしています。
作中で描写はありませんが、リオンの住んでいる屋敷はとても大きいです。




