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45歳社長、転生先でハズレスキル「綻びの目」を武器に没落領地を再建する  作者: アカメノコバチ
第21章 リオン・ハル男爵

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第576話 ヴァレスト公爵家

 王宮を出る。


「じゃあ、僕はここで」


「うん」


 エドガーが足を止めた。


「この後はヴァレスト公爵のところへ行くんだろ?」


「そのつもり」


「そうか」


 少し笑う。


「頑張って」


「ありがとう」


「公爵なら話は早いと思うよ」


「そうだといいんだけど」


 手を上げる。


「じゃあ、また」


「ああ」


 エドガーと別れ、王宮の門へ向かった。


 外へ出ると、アストンが待っていた。


「男爵様」


「お待たせ」


「ピー!」


 ピコも駆け寄ってくる。


「ただいま」


「ピー」


 頭を撫でた。


「それで、男爵様」


「うん?」


「王宮でのお話はいかがでしたか?」


「かなりうまくいったよ」


「資金の方は?」


「まだ正式には決まってないけど」


 少し考える。


「金貨二万枚前後は、早めに出してもらえると思う」


「……二万枚?」


「うん」


 アストンの足が止まった。


「どうしたの?」


「いえ……」


 また歩き始める。


「それだけでも、かなりの額かと思いまして」


「でも、まだ足りないからね」


「まだ、ですか?」


「目標は五万枚だから」


「……」


「次に行こう」


「次?」


「ヴァレスト公爵家」


 ◇


 しばらく歩く。


 見覚えのある大きな屋敷が見えてきた。


 ヴァレスト公爵家の王都屋敷。


「懐かしいな」


 初めて王都へ来た頃。


 王立学院の入試を受ける前にも、ここへ泊めてもらった。


 あの頃は学院へ入れるかどうかで頭がいっぱいだった。


 それが今は男爵になり、領地を持ち、金貨五万枚を集めるためにここへ来ている。


「……随分変わったな」


「何か?」


「いや。何でもない」


 門をくぐる。


 屋敷の扉が開いた。


「お待ちしておりました」


「あ」


 見覚えのある顔。


 背筋を伸ばした年配の男性。


 ヴァレスト公爵家の筆頭執事だ。


「お久しぶりです」


「ご無沙汰しております。ハル男爵様」


「男爵様ですか」


「お立場が変わられましたので」


「前はリオン様だったのに」


「そうでしたな」


 筆頭執事が俺を見る。


 少しだけ目を細めた。


「……ご立派になられましたな」


「え?」


「いえ。失礼いたしました」


 頭を下げる。


 なんだか少し照れた。


「こちらは?」


「俺を補佐してくれているアストンです」


「アストンと申します」


「お待ちいただく部屋をご用意しております」


「ありがとうございます」


 アストンを見る。


「少し待っててもらえる?」


「もちろんです」


「ピコは?」


「ピー」


 俺の足元へ来る。


「一緒に来る?」


「ピー!」


「だよね」


 筆頭執事がピコを見る。


「こちらのスライムはリオン様とご一緒で?」


「お願いします」


「承知いたしました」


 ◇


「リオン君」


「お久しぶりです」


 部屋へ入ると、ユリウス公爵が迎えてくれた。


 クラリス夫人。


 セレナ。


 それから――


「リオンさん!」


「ルーク」


 久しぶりに会う。


 以前より背が伸びていた。


「叙爵式以来だね」


 ユリウス公爵が言った。


「そうですね」


「まだ一か月ほどしか経っていないはずなんだが」


「はい」


「随分といろいろやったようじゃないか」


「色々ありまして」


 公爵が笑う。


「君なら面白い領地にするだろうと思っていたが、予想以上だ」


「まだ何もできてませんよ」


「そうかな?」


 クラリス夫人も笑った。


「お元気そうで安心しました」


「ありがとうございます」


「リオン」


「うん?」


 セレナが俺を見る。


「王宮はどうだったの?」


「かなり前に進んだよ」


「そう」


 少し安心したように頷く。


「それならよかったわ」


「そういえば」


 ユリウス公爵がルークを見る。


「ルークも今年、王立学院へ入学したんだ」


「そうなんですか?」


「ああ。Sクラスだよ」


「すごいじゃん」


 ルークを見る。


「おめでとう」


「ありがとうございます!」


 嬉しそうだ。


「学院はどう?」


「楽しいです。それに――」


「うん?」


「リオンさんたちの話を、すごく聞きます」


「俺たち?」


「はい」


 ルークが指を折る。


「リオンさん。姉上。エドガー殿下。ガイルさん。ナディア王女。ヴィクトルさん」


「……」


「先生たちもよく言うんです。去年のSクラスはすごかったって」


「そんなに?」


「二回も飛び級した人が何人もいたんですよ?」


「まあ……」


「それに王都武闘大会」


「ああ」


「俺も見てました!」


 ルークの目が輝く。


「決勝まで全部」


「そうだったんだ」


「リオンさんが優勝した時、本当にすごかったです」


「ありがとう」


「今でも学院で話す人がいるんですよ」


「なんか恥ずかしいな」


「ルーク」


 セレナが口を挟む。


「はい?」


「あなたも二回飛び級を目指しなさい」


「え?」


「せっかくSクラスに入ったのだから」


「姉上……」


「私たちはできたわ」


「姉上たちを基準にしないでください!」


 思わず笑った。


 ユリウス公爵も笑っている。


「まあ、学院の話はそのくらいにしておこう」


 俺を見る。


「今日は昔話をしに来たわけではないんだろう?」


「はい」


「執務室へ行こうか」


 ◇


 机の上へ資料を広げる。


『南部鉱山共同出資契約』


 ユリウス公爵が目を通す。


「ノア山脈で見つけた資源を開発したいと思っています」


「必要額は?」


「試算では金貨四万四千百枚です。ただ、予備費を含めて五万枚を集めるつもりです」


「なるほど」


「山と土地。それに採掘権は俺の領に残します」


「外部へ渡すのは事業への参加枠」


「はい。最大四十九%です」


「残り五十一%は君の領が持つ」


「そうです」


「主導権は渡さない」


「そのつもりです」


 資料を一枚めくる。


「出資者には二十年間、鉱山事業の売上の五%を出資割合に応じて分配。さらに資源と加工品の優先購入権」


「はい」


「借金ではない」


「はい」


「返済も利払いもない代わりに、将来の利益を一部渡す」


「そういうことです」


 早い。


 ほとんど説明が要らない。


「それだけじゃありません」


「人も必要なんだろう?」


「……はい」


 また先に言われた。


「鉱山を調査できる人。測量できる人。採掘できる人。それに道路や町を造れる人も必要です」


「だから一つの家から全額を集めない」


「はい」


「複数の家に参加してもらって、資金だけでなく人材と技術も集める」


「その通りです」


 やっぱり早い。


「例の共鳴石も持ってきたんだろう?」


「もちろんです」


 箱を机へ置く。


 三。


 数字が刻まれている。


「これで、離れた場所へ文字を送れます」


「相手は?」


「俺の領です」


「ここから?」


「はい」


 符号表を渡した。


「少し時間は掛かりますが、見ていてください」


 石を押す。


 短く。


 長く。


 また短く。


 一文字ずつ送っていく。


《オウトノヴァレストコウシャクテイニイル》


 送信を終える。


 少し待った。


 共鳴石が光る。


「来ました」


「もう?」


「はい」


 符号表を見ながら読む。


《リョウハモンダイナシ》


「領は問題なし、です」


 ユリウス公爵が通信機を見る。


「相手は本当に君の領に?」


「はい」


「馬なら何日掛かる?」


「何日も掛かります」


「それが、数分か」


「そうなります」


「……ほう」


 公爵が少し笑った。


「これは通信革命だな」


「通信革命?」


「ああ」


 すぐに通信機へ視線を戻す。


「商人同士の取引に使える。街道の状況も分かる。災害が起きた時にも使える」


「はい」


「税や物資の報告も早くなる」


「そうですね」


「軍も使える」


「俺もそこは考えています」


「そうだろうね」


 驚くより先に、使い道を考えている。


「次はこちらです」


 硬化石。


 それから、硬化石を混ぜて作った灰色の板を置く。


「道路用の試作品です」


 公爵が持ち上げた。


「重いね」


「叩いても大丈夫です」


 小さな金槌を渡す。


 コンッ。


 乾いた音が響く。


「割れない」


「馬車も何度か通しました。水に数日浸しても問題ありません」


「建物には?」


「配合を変えれば使える可能性があります。ただ、そちらはまだ研究中です」


「なるほど」


 公爵が板を置く。


「道路だけでも十分大きい」


「はい」


 最後に銅鉱石を出した。


「アーシタ山では銅も見つかっています」


「ああ」


 公爵が手に取る。


「正式な調査はこれからです」


「人材については都合がいいね」


「北部ですよね」


 俺が言う。


 公爵が少し笑った。


「覚えていたか」


「もちろんです。学院でも習いましたし、以前、公爵家の帳簿も見せてもらいましたから」


 ヴァレスト公爵領北部。


 鉄鉱石と銅鉱石が採れる地域がある。


「大鉱山というほどではないが、長く採掘を続けている」


「はい」


「調査、測量、採掘。それに鉱石の処理に詳しい者もいる」


「何人か貸していただけますか?」


「そのつもりだよ」


「ありがとうございます」


「数日以内に選んで、君の領へ向かわせよう」


「道路についても、詳しい人がいれば助かります」


「そちらも探させる」


 ありがたい。


 今の領には、とにかく人がいない。


 金だけあっても、使える人がいなければ開発は始められない。


「では」


 公爵が資料へ目を戻した。


「肝心の金だね」


「はい」


「ヴァレスト家には、いくら出してほしい?」


「金貨一万枚をお願いしたいです」


「分かった」


「……」


「全額出そう」


「え?」


「足りないかい?」


「いえ」


 思わず聞き返す。


「もう少し考えなくていいんですか?」


「君の説明を聞いた」


「はい」


「資料も読んだ」


「はい」


「事業の価値も分かった」


「……」


「なら、あとは出すか出さないかだろう?」


「そうですけど」


「出すよ」


 あっさり言った。


「金貨一万枚」


「ありがとうございます」


「総額五万枚のうち一万枚なら、資金負担は二割」


「はい」


「外部参加枠四十九%を出資額に応じて割り振るなら」


 ほんの少し考える。


「我が家の持分は九・八%ほどか」


「……そうです」


 本当に早い。


「誰か」


 公爵が呼ぶ。


 すぐに扉が開いた。


 筆頭執事が入ってくる。


「お呼びでしょうか」


「金貨一万枚を用意してくれ」


「承知いたしました」


「できるだけ早くハル男爵領へ送る。全額を一度に動かせないなら、準備できた分からでいい」


「かしこまりました」


「それと北部へ連絡を」


「はい」


「鉱山の調査と採掘に詳しい者を何名か選ばせる。数日以内にハル男爵領へ向かわせたい」


「承知いたしました」


「道路建設に詳しい者も探してくれ」


「直ちに」


 筆頭執事が頭を下げ、部屋を出ていった。


「……早いですね」


「遅くする理由があるかい?」


「ないですけど」


「なら、早い方がいい」


「そうですね」


 前世でも同じだった。


 決めた後に動かない時間が、一番もったいない。


「リオン君」


「はい?」


「一つ聞いていいかな」


「何でしょう?」


 ユリウス公爵が俺を見る。


「こういう資金調達の考え方を、どこで学んだ?」


「……」


「王立学院では教えていないはずだ」


「そうですね」


「所有権を残したまま出資を募る。利益を分配する。その上、資金だけでなく人材や技術まで集める」


「……」


「十五歳の男爵が普通に思いつく方法ではないね」


 じっと見られる。


 この人……。


「内緒です」


 公爵が少し目を細めた。


「そうか」


「はい」


「なら、それ以上は聞かないでおこう」


「ありがとうございます」


「そういえば」


「はい?」


「アーシタ山とビダン山」


「……」


「君が名付けたそうじゃないか」


「はい」


「まだ名前の決まっていない山もあるんだろう?」


「三つあります」


「そうか」


 公爵が笑う。


「次は何という名前になるのか、楽しみにしているよ」


「……そうですか」


「ああ」


 何だろう。


 さっきから、少し引っ掛かる。


 公爵はそれ以上何も言わず、共鳴石へ視線を戻した。


「もう一つ」


「はい」


「これは慎重に扱った方がいい」


「共鳴石ですか?」


「ああ」


 表情が少し真剣になる。


「ドラン帝国は、遠くないうちにサハル王国へ侵攻するだろう」


「俺もそう思います」


「アルフレッド殿下とセリカ王女も、すでに夫婦だ」


「はい」


「サハルが戦争になれば、アルスレインも無関係ではいられない」


「そうですね」


 公爵が三番の通信機を指す。


「その時、この通信機は戦況そのものを変える」


「情報が届く速さですか?」


「そうだ」


 頷く。


「敵がどこにいるか。味方がどこまで進んだか。援軍が必要なのか。これまで何日も掛かった情報が、数分で届く」


「補給もですね」


「ああ」


「食料や武器がどこで足りないかもすぐ分かる」


「だからこそ、扱う人間を選んだ方がいい」


「王宮でも同じ話をしました」


「なら安心したよ」


 俺は通信機を公爵の前へ押した。


「これ、使ってください」


「これを?」


「はい」


「いいのかい?」


「もちろんです。片方は俺の領に置いてあります」


「つまり」


「これがあれば、いつでも俺の領へ連絡できます」


 公爵が箱を見る。


「ずいぶん便利なものを置いていくんだね」


「出資者ですから」


「そうか」


 少し笑う。


「なら、ありがたく使わせてもらおう」


 その後も色々と話をした。


 ◇


 話を終える頃には、窓の外が暗くなっていた。


「もうこんな時間か」


 ユリウス公爵が窓を見る。


「夕飯はうちで食べていきなさい」


「いいんですか?」


「昔は何度もここで食べただろう?」


「そうでしたね」


「同行しているアストン殿にも用意させよう」


「ありがとうございます」


 公爵がピコを見る。


「それから、その子にも必要だね」


「ピー!」


「お願いします」


 扉が開く。


 筆頭執事だった。


「失礼いたします」


「どうした?」


「王宮より使者が参っております」


「王宮から?」


 公爵と顔を見合わせる。


「ハル男爵様へのお届け物です」


「俺に?」


 一通の書状を受け取る。


 開いた。


「……」


「どうした?」


「王家の出資額が決まったみたいです」


「いくらだい?」


「金貨二万枚」


 財務官との確認が終わり、


 まず王家から金貨二万枚を出資する。


 準備できた分から、順次リオン領へ送る。


 そう書かれていた。


「これで三万枚だね」


 公爵が言う。


「はい」


「残り二万枚」


「ハーウェイ侯爵家。トラウゼン侯爵家。それに実家にも話をします」


「なるほど」


 公爵が笑った。


「今日だけでも随分進んだじゃないか」


「そうですね」


 ようやく少し実感が湧いてきた。


 金貨三万枚。


 一日で、そこまで集まった。


 ◇


 食卓を囲む。


 ユリウス公爵。


 クラリス夫人。


 セレナ。


 ルーク。


 そして俺。


 ピコは俺の足元で、用意してもらった料理を食べている。


 アストンにも別室で食事を用意してもらった。


「領主としての生活には慣れましたか?」


 クラリス夫人が聞く。


「まだ全然です」


「あら」


「毎日、何か起きるので」


「リオンらしいわね」


 セレナが言う。


「俺が起こしてるわけじゃないよ」


 ルークが笑った。


「でも、本当にすごいです」


「何が?」


「男爵になって、まだ一か月くらいですよね?」


「そうだね」


「色々とご活躍されていると聞きました」


「まぁ、必要だからね」


「俺もいつか領地を任されたら、そういう風になりたいです」


「ルークの場合は、まず学院だな」


 ユリウス公爵が言う。


「はい……」


「Sクラスに入っただけでは駄目よ」


 セレナが続ける。


「姉上……」


「二回飛び級」


「まだ言うんですか?」


「もちろん」


「無理ですよ!」


「やる前から言わないの」


「姉上たちがおかしいんです!」


 思わず笑った。


「リオンさんも笑わないでください!」


 ルークも笑う。


「でも、学院に入ったら先生も先輩もリオンさんを知ってるから」


「……」


 また恥ずかしくなってきた。


「リオン」


 セレナが笑っている。


「顔、赤いわよ」


「気のせい」


「そう?」


「そう」


 料理を口へ運ぶ。


 ふと向かいを見る。


 ユリウス公爵が笑っていた。


 何だろう。


 心なしか、いつもより楽しそうに見える。


「あなた」


 クラリス夫人が言った。


「今日はずいぶん楽しそうですね」


「そうかな?」


「ええ」


「面白い話を聞けたからね」


 そう言って、俺を見る。


「?」


 何だろう。


 ◇


「今日はありがとうございました」


 屋敷の外へ出る。


「こちらこそ。面白い話だったよ」


 ユリウス公爵が答える。


 クラリス夫人。


 セレナ。


 ルークも見送りに来てくれた。


「リオンさん」


「うん?」


「また学院の話、聞かせてください」


「もちろん」


「それと、いつかリオンさんの領にも行ってみたいです」


「いつでも来ていいよ」


「本当ですか?」


「ああ」


「ルーク」


 ユリウス公爵が言う。


「まず学院の勉強だ」


「……はい」


「二回飛び級ね」


 セレナが言った。


「姉上!」


 みんなで笑った。


「それでは」


「ああ。また」


「失礼します」


 頭を下げる。


 アストンとピコと一緒に歩き始めた。


 屋敷が少しずつ遠くなる。


「男爵様」


「何?」


 アストンが隣から聞いてきた。


「結局、本日はどれほどの資金を調達されたのですか?」


「今日?」


「はい」


「王家が金貨二万枚」


「はい」


「ヴァレスト公爵家が一万枚」


「……」


「だから、三万枚」


 アストンが足を止めた。


「どうしたの?」


「金貨……三万枚?」


「うん」


「一日で?」


「そうなるね」


「……」


「アストン?」


「現在の領の年間予算が、約六千五百枚」


「うん」


「三万枚なら……」


 少しだけ黙る。


「四年半分以上です」


「計算早いね」


「そこではありません!」


 声が大きくなった。


「ごめん」


「男爵様は、一日で領の年間予算四年半分以上の資金を集めたのですぞ?」


「でも、まだあと二万枚必要だよ」


「まだ集めるおつもりで?」


「五万枚必要だからね」


「……」


 アストンが黙った。


 その後、宿屋にいた馬を連れ、大通りを外れる。


 徐々に人通りが少なくなる。


 さらに進み、建物の裏へ入った。


 周囲を見る。


 誰もいない。


「ここでいいかな」


「男爵様」


「うん?」


「……ここから転移ですか?」


「そう」


「我々は王都まで馬で二日掛けて来たのですが」


「今度からは宿の部屋へ転移できるからね」


「……そうでしたな」


「じゃあ、帰ろうか」


「ピー!」


 魔力を流す。


 景色が変わった。


 ◇


 領都の屋敷裏。


「到着」


「……」


 アストンが周囲を見る。


「本当に戻ってきましたな」


「うん」


「つい先ほどまで王都にいたのですが」


「そうだね」


「……」


「アストン」


「はい」


「今日は付き合ってくれてありがとう」


「いえ」


「明日からも忙しいから、今日はしっかり休んでね」


「……承知しました」


「じゃあ、馬は頼んだよ」


「はい」


 屋敷へ向かう。


 振り返る。


 アストンと2頭の馬はまだその場に立っていた。


「どうしたんだろ?」


「ピー」


「疲れたのかな」


「ピー?」


 屋敷へ入る。


「ただいまー」


 奥から足音が聞こえた。


「おかえり」


 ミラだ。


「ただいま」


「ピー!」


「ピコもおかえり」


「ピー!」


 ミラが俺を見る。


「どうだった?」


「かなりうまくいったよ」


「よかった」


「うん」


「ご飯は食べた?」


「食べたよ」


「公爵家で?」


「うん。ご馳走になった」


「そっか」


 ミラが頷く。


「あ」


「何?」


「いや」


 ふと思った。


 今までは王都へ行けば、


 いつ帰るのか。


 何日掛かるのか。


 戻ってみるまで分からなかった。


 でも今は違う。


 共鳴石通信がある。


「これからはさ」


「うん?」


「帰る時間も、先に連絡できるね」


 ミラが少し考える。


「あ」


「向こうでご飯を食べる時も」


「それは助かるかも」


「でしょ?」


「じゃあ、今度から連絡して」


「分かった」


「ご飯を作った後に『食べてきた』は駄目だからね」


「はい」


「ピー」


「ピコまで?」


 思わず笑った。


 今日、王宮では国を変える話をした。


 ヴァレスト公爵とは戦争の話までした。


 共鳴石通信は、この国そのものを変えるかもしれない。


 でも、俺としては家族に帰る時間を伝える。


 晩ご飯がいるかどうかを伝える。


 そんなことにも使える世の中になって欲しい。


 前世では当たり前だったこと。


 その当たり前が、この世界でも少しずつ増えていく。


 悪くないな。


 そう思った。



最後まで読んでいただきありがとうございます。

今回はヴァレスト公爵回でした。

ヴァレスト公爵は初期から登場している作者お気に入りのキャラクターです。

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― 新着の感想 ―
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やっぱり上層部はポンコツには見えないのになんでああなる?という ある程度は権力の分散があるのだろうとは思うけど、それって立憲君主制とか王権の制限があるってことでその描写はない 解せぬw 硬化石は前に…
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