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45歳社長、転生先でハズレスキル「綻びの目」を武器に没落領地を再建する  作者: アカメノコバチ
第21章 リオン・ハル男爵

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第575話 王家との交渉

 それから二日後。


 俺とアストンは王都へ着いた。


「まず宿を取ろうか」


「宿ですか?」


「うん」


 王宮へ行く前に、しばらく借りられる宿を探す。


 王都には貴族向けの立派な宿もあるが、俺が選んだのは大通りから少し離れた宿だった。


 建物は少し古い。


 ただ、部屋はきれいに掃除されているし、馬も預かってもらえる。


「ここにしよう」


「男爵様」


「何?」


「男爵様であれば、もう少し格式の高い宿でもよろしいのでは?」


「いや、今回は良いんだよ」


「なぜですか?」


「うーん、今回は三か月借りるつもりだからね」


「三か月?」


 アストンが少し驚いた。


「それほど長く王都に滞在されるのですか?」


「しないよ」


「では、なぜ?」


「転移する場所が欲しいんだ」


「なるほど……」


 王立学院の寮に残していた魔力印は、退寮する時に消している。


 これからは王都との行き来も増えるだろう。


 その度に馬で何日も掛けていたら、王都でやることに集中できない。


「使わない日の方が多い部屋だからね。今の領の財政状況で、高い宿を三か月も借りる余裕はないよ」


「確かにそうですな」


 二部屋を三か月借りることにした。


 自分の部屋へ入る。


 扉を閉める。


「ここでいいかな」


 床の端へ手を触れた。


 魔力を流す。


 転移用の印を残した。


「アストン」


「はい」


「一度戻るよ」


「承知しました」


 ◇


 次の瞬間。


 俺たちは領都の屋敷裏にいた。


「……」


「どうしたの?」


「いえ」


 アストンが周囲を見る。


「馬で二日掛けて王都まで向かったあと、一瞬でここへ戻るというのは、やはり妙な気分ですな」


「俺も最初はそうだったよ」


 今はもう慣れたけど。


「さぁ、ルッツさんのところへ行こう」


「はい」


 政務所内の工房へ向かった。


 中へ入ると、ルッツがすぐにこちらへ来た。


「リオン様」


「ルッツさん。お願いしてたものは?」


「はい。用意できました」


「本当?」


「こちらです」


 作業台の上に、小さな木箱が並んでいた。


 一。


 二。


 三。


 それぞれ数字が刻まれている。


「十組?」


「はい。十組です」


 以前のものより、さらに少し小さい。


「早かったね」


「構造が決まってきましたから。同じものを作るだけなら、前よりかなり早くできます」


「なるほど」


 一番と刻まれた箱を開く。


 中には共鳴石。


 それに石を押すための小さな棒。


 構造は今までと同じだ。


「この一番の片方、ミラに渡してもらえる?」


「ミラ様に?」


「うん。十分後くらいに俺から送るって伝えて」


「分かりました」


 もう片方を取る。


「それと、ほかのものは?」


「こちらです」


 ルッツが別の箱を開けた。


 硬化石。


 アーシタ山から持ち帰った銅鉱石。


 砂や細かな石。


 それから灰色の平たい板。


「これは?」


「硬化石を混ぜた道路用の試作品です」


 持ち上げる。


 重い。


 指で叩く。


 硬い。


「かなり良くなってるね」


「道路に使う配合なら、だいぶ固まってきました」


「水は?」


「数日浸しても問題ありませんでした」


「馬車は?」


「何度か通しています」


「割れなかった?」


「今のところは」


「すごいね」


「ただ、建物や水路に使うなら、配合は変えた方がいいと思います」


「やっぱり?」


「道路とは必要な硬さや粘りが違いますから」


「分かった」


 王宮で見せるには十分だ。


 必要なものを亜空間収納へ入れる。


「じゃあ、戻るよ」


「もうですか?」


「ああ」


 再び転移する。


 王都の宿の部屋へ戻った。


「……本当に戻ってきましたな」


「うん」


 一番の通信機を机へ置く。


「そろそろかな」


 三回。


 短く光らせる。


 一。


 二。


 三。


 少し待った。


 箱の中が光る。


 一。


 二。


 三。


「よし。繋がってる」


 符号表を広げる。


 ゆっくり押していく。


《オウトニツイタ》


 送信を終える。


 しばらくすると、また光り始めた。


《オツカレサマ》


 続く。


《コッチハダイジョウブ》


「ミラだ」


「今、ですか?」


「うん」


「今この瞬間に、領都から返事が来たのですか?」


「そうだね」


 アストンが通信機を見つめる。


「……」


 ここから領都までは、馬なら何日も掛かる。


 それなのに、今はほとんど待っていない。


 もう一度送った。


《アシタオウキュウニイク》


 返事が来る。


《ガンバッテ》


 少し続いた。


《キンチョウシテル?》


 思わず笑う。


《スコシ》


 すぐに返ってきた。


《メズラシイ》


「失礼だな」


「ピー」


「ピコまで?」


 その後も、ミラと何度か短い文章を送り合った。


 光を文字に変えているうちに、前世のメールを思い出した。


 前世では当たり前だったな。


 その当たり前が、この世界でも始まろうとしている。


「……」


 机の上の共鳴石通信機を見る。


 今はまだ、文字を送るだけ。


 それでも、これが広がれば人と人との距離は大きく変わるはず。


「男爵様?」


「…あぁ、何でもない」


「ピー?」


「今日はもう休もうか」


「はい」


 明日は王宮だ。


 ◇


 翌日の昼。


 俺とアストンは王宮前へ向かった。


王宮へもっていく荷物は亜空間収納から出しているから重い。


「リオン」


 声が聞こえた。


「エドガー」


 エドガーが待っていた。


「待った?」


「いや。今来たところだ」


「東側はどうだった?」


「問題ない。報告も一通り確認してきた」


「そっか」


「昨日のうちに王都へ戻ったよ」


「セレナは?」


「ヴァレスト公爵邸。公爵にも話をするって」


「なるほど」


 エドガーが俺の荷物を見る。


「それ?」


「うん」


「結構大きいな」


「色々持ってきたからね」


 ここでピコをアストンに預けて、二人で王宮の門へ向かう。


「ハル男爵。お荷物を確認させていただきます」


「はい」


 箱を開ける。


 小型の通信機。


 符号表。


 共鳴石。


 硬化石。


 灰色の板。


 砂や細かな石。


 銅鉱石。


 衛兵が困ったように中を見る。


「こちらは……」


「国王陛下には話を通してある」


 エドガーが答えた。


「すべて持ち込んで構わない」


「承知いたしました」


 確認を終え、王宮へ入る。


 王宮へ来るのも久しぶりな気がする。


 ◇


 奥へ進むと、すぐに国王の執務室へ案内された。


「失礼いたします」


「入れ」


 中にいるのは、


 国王陛下。


 宰相。


 アルフレッド第一王子。


 そしてエドガー。


 国王が口を開く。


「リオン」


「はい」


「まずは座れ」


「ありがとうございます」


 椅子へ座る。


 国王が俺を見る。


「領主になってから、随分と動いているようだな」


「はい」


「エドガーから報告を受けている」


「そうでしたか」


「支出を減らし、政務所を整理し、湿地へ向かい、今度は山か」


「見つかってしまったので」


「見つかってしまった、か」


 国王が少し笑った。


「まあいい。よくやっているな」


「ありがとうございます」


「では、本題だ」


 表情が変わる。


「お前の領の南部について聞かせてもらおう」


「はい」


 資料を取り出す。


『南部鉱山共同出資契約』


 机へ置いた。


「まず、今回考えている事業について説明します」


 ノア山脈で見つけた資源。


 南部開発。


 二十年間の契約。


 山。


 土地。


 採掘権。


 これらはリオン領に残す。


 共同事業への外部参加枠は最大四十九%。


 残る五十一%はリオン領側とし、主導権を維持する。


 出資者には二十年間、鉱山事業の売上の五%を、出資割合に応じて分配する。


 さらに資源や加工品の優先購入権を付ける。


「そして」


 国王を見る。


「今回は、お金だけを出していただくつもりはありません」


「ほう」


「人も欲しいです」


「人?」


「測量できる人。採掘の専門家。道路を造れる人。町を造れる人。それに加工技術を持つ職人も必要です」


 宰相が資料を見る。


「かなり大きな計画だな」


「はい」


「例の共鳴石とやらは?」


 国王が聞いた。


「こちらです」


 二番と刻まれた通信機を二つ取り出す。


「これで文字を送れます」


「実際に見せてもらえるか?」


「もちろんです」


 片方をエドガーへ渡す。


 それから符号表も渡した。


「隣の部屋から何か送って」


「文章は?」


「好きなのでいいよ」


「分かった」


 エドガーが隣室へ移動する。


 扉が閉まった。


 少し待つ。


「あ」


 石が短、長、短と光る。


 符号表と照らし合わせる。


 一文字ずつ読む。


「……『チチウエミエマスカ?』」


 父上、見えますか?だった。


 国王が眉を上げた。


「私にか?」


「みたいですね」


 アルフレッドさんが笑った。


 俺も返す。


《ミエテルミタイ》


 少しして扉が開いた。


 エドガーが戻ってきた。


「届いたよ。『見えてるみたい』だな?」


「なるほど……」


 宰相が通信機を見る。


「これは、どこまで離れて使える?」


 国王が聞く。


「限界はまだ分かっていません」


「確認できている最長距離は?」


「王都と私の領です」


「なに?」


「やってみますね」


 一番の通信機を取り出す。


「こちらはリオン領の領都と繋がっています」


「ここから?」


「はい」


 室内が静かになった。


「送ります」


 合図を送るとすぐに合図が返ってきた。


 符号表を確認する。


《オウキュウニイル。コクオウヘイカモイル》


 送信を終える。


 しばらく待つ。


 石が光った。


「来ました」


 一文字ずつ読む。


 思ったより長い。


「何と書いてある?」


「ええと……」


 最後まで確認する。


「『コクオウヘイカヲハジメ、ミナサマニシツレイノナイヨウニネ』」


「……」


 一瞬、静かになった。


 エドガーが笑った。


 アルフレッドさんも笑っている。


 国王まで口元を緩めた。


「ミラ嬢はしっかりしているな」


「はい……」


 宰相が俺を見る。


「確かに、陛下への接し方については問題があるからな」


「そこまでですか?」


「自覚がないのか?」


 また笑いが起きた。


 しかし、国王はすぐ通信機へ視線を戻した。


「今の返事は、本当にリオン領から来たのだな?」


「はい」


「何日も掛かる距離だぞ」


「そうですね」


「それが、これだけで……」


 国王陛下の表情が変わった。


「これは複数の場所へ同時に送れるか?」


 宰相が聞く。


「同じ原石から分けた石なら、同じように反応するはずです」


「例えば、王国の全領へ一斉に知らせることも?」


「それは、これから確かめなければ分かりません」


「可能性はあるのか?」


「あります。ただ、どれだけ細かく分けても安定して反応するのか。何個まで増やせるのか。そこはまだ試験していません」


「分かった」


「信号を第三者に見られた場合は?」


 アルフレッド第一王子が聞く。


「同じ符号表を持っていれば、読まれる可能性があります」


「危険だな」


「はい」


「対策は?」


「通信ごとに使う原石を分けます。それと王宮用、軍用、民間用で符号表を分ける。

 定期的に表を変更する方法も考えています」


 宰相が頷く。


「それでも完全ではないな」


「はい。誰が送ったものか確認する仕組みも必要です」


「そこまで含めて研究が必要か」


「そう思います」


 国王が共鳴石を見る。


「量はどれくらいあるんだ?」


「正確な埋蔵量はまだ分かりません。ただ、現時点でかなりの量が見つかっています」


 エドガーが続ける。


「僕も見ました。正式な調査は必要ですが、少なくとも一か所に少量だけあるという感じではありませんでした」


「そうか」


 国王と宰相が視線を交わした。


「共鳴石は」


 国王が言う。


「他の鉱物と同じ扱いにはできんな」


「私もそう思います」


「王立研究所から正式に研究要請を出す」


「はい」


「距離。分割数。安定性。通信内容の秘匿。それから軍事利用についてもだ」


「分かりました」


「研究所からの要請には協力してもらう」


「もちろんです」


 宰相が続ける。


「一方で、民間での利用まで王宮が独占する必要はないと考える」


「いいのですか?」


「ああ」


 通信機を見る。


「商人同士の連絡。街道の状況。災害。物流。使い道はいくらでもあるのだろう?」


「はい」


「ただし条件がある」


「何でしょう?」


「王宮や諸侯が使う通信の内容が、外部へ漏れないようにすることだ」


「はい」


「これほど便利なものなら、盗み見ようとする者も必ず出る」


「私もそう思っています」


「秘匿の仕組みができる前に、重要な通信を無制限に使わせるな」


「分かりました」


「それからセルヴァンだ」


 国王が言う。


「ナディア王女から話があったそうだな」


「はい」


「お前はどうしたい?」


「三組ほど用意できればと思っています」


「三組?」


「一組はアルスレイン王宮とセルヴァン王宮」


 国王が頷く。


「一組は王都にあるセルヴァン大使館とリオン領」


「最後は?」


「セルヴァン側で使い道を決めてもらえればと」


 宰相が少し考える。


「王宮間通信については、アルスレイン王国としてセルヴァン王国へ正式に話をしよう」


「その方がいいと思います」


「大使館とリオン領については」


 国王が続ける。


「使用そのものには反対しない」


「ありがとうございます」


「ただし、国家機密の扱いには十分注意しろ」


「はい。ドラン帝国への対応もあると思うので、扱いには注意します」


 国王が俺を見る。


「そこまで考えていたか」


「最近の情勢から考えればそうなるかと」


「よく見えているな」


 宰相が机を指で軽く叩く。


「ただし、もう一つある」


「何でしょう?」


「これだけ重要なものが採れるとなれば、山そのものを王家管理にすべきだという意見は必ず出る」


「そうだな」


 国王も頷いた。


「そう考えるのは分かります」


「受け入れるのか?」


「共鳴石の管理に王宮が関わること自体は受け入れます」


「では?」


「ただ、山そのものまで王家管理に移す必要はないと思います」


「お前はどうしたいんだ?」


「山と土地。それに採掘権はリオン領に残したいです」


「軍事利用は?」


「王宮管理で構いません」


「共鳴石そのものは?」


「必要な分は王宮へ優先的に供給します」


「民間利用は?」


「私の領で事業化したいです。ローデン商会などにも協力してもらいます」


「他国への提供は?」


「軍事利用につながる形で他国へ提供する場合は、必ず王宮と相談します」


 国王が宰相を見る。


「どう思う?」


「妥当かと」


「山まで王家管理にする必要はないということか?」


「はい」


 宰相が通信機を見る。


「我々に必要なのは、山そのものではありません」


「では?」


「安全保障上必要な量を確保できること。そして軍事利用の仕組みを管理できることです」


「なるほど」


「山まで王家管理に移せば、ハル男爵領が開発する利益を失います。結果として開発が遅れれば、王国の損失になるでしょう」


 国王が少し考える。


「分かった」


 俺を見る。


「その方向で正式に詰めよう」


「ありがとうございます」


 一つ、大きな山を越えた。


「次は?」


「硬化石です」


 灰色の板を机へ置く。


「これが?」


「硬化石を使った道路用の試作品です」


 国王陛下が持ち上げる。


「重いな」


「叩いてみてもいいですよ」


「いいのか?」


「はい」


 用意していた小さな金槌も出す。


 国王陛下が軽く叩いた。


 コンッ。


「おお」


 アルフレッド第一王子が板を覗き込む。


「割れないな」


「馬車も何度か通しています」


「これをどう作る?」


「砂や細かな石などに、硬化石を混ぜます」


 持ってきた材料を見せる。


「道路で使える配合は、ある程度できています」


「道路では?」


「はい。建物や水路に使うなら、配合を変えなければいけません。そちらはまだ研究中です」


「同じものを何にでも使えるわけではないと」


「そうです」


 宰相がサンプルを見る。


「それでも、これを道路に使えるだけで十分大きい」


「俺もそう思っています」


「最後が銅か」


「はい」


 アーシタ山から持ってきた鉱石を出す。


「離れた三か所から確認しています」


「銅で間違いないのか?」


「正式な調査はこれからですが、間違いないかと思います」


 エドガーも頷く。


「僕も場所を見ました。かなり離れた三か所です」


 国王が三つの資源を見る。


 共鳴石。


 硬化石。


 銅。


 そして契約書へ目を移した。


「それで、いくら必要だ?」


「試算では金貨四万四千百枚です」


「四万四千百……」


「ただ、実際には金貨五万枚を集めたいと思っています」


 宰相が顔を上げる。


「差額は何だ?」


「予備費です」


「約六千枚も?」


「まだ本格調査前です」


 契約書を指す。


「道路も町も鉱山も、これからです。四万四千百枚は今分かっている範囲での必要額です」


「想定外の費用が出ると?」


「出る前提で考えています」


「だから一割以上多く集める」


「はい」


 前世でもそうだった。


 計画通りにしか金が出ていかない事業なんて、ほとんどない。


 余裕がない資金計画は、少しの問題で止まる。


「面白い」


 国王が資料を見る。


「王家が、その五万枚をすべて出すと言ったら?」


「ありがたいです」


「なら――」


「でも、全部をお願いするつもりはありません」


 国王が止まった。


「なぜだ?」


「今欲しいのは、今すぐ私の領で使えるお金と人です」


「……」


「領の財政上、すぐに使えるお金が必要です。加えて鉱山を調べる人がいなければ開発できません。

 道を造る人も必要です。加工できる人も必要です」


「だから出資者を分ける?」


 宰相が聞いた。


「はい」


「誰に声を掛ける?」


「ヴァレスト公爵家。ハーウェイ侯爵家。トラウゼン侯爵家。それとハル子爵家にも話すつもりです」


「実家にもか」


 エドガーが笑う。


「もちろん」


「それぞれから、金だけでなく人も出させる」


 宰相が言う。


「はい」


「つまり」


 宰相が資料を見る。


「金を集めるのではなく、開発する力そのものを集めたいわけか」


「その通りです」


「なるほど」


「ただ」


 国王を見る。


「陛下には一番多く出していただけると、とても助かります」


「そこは遠慮しないのだな」


「困っているので」


 国王が笑った。


「分かった」


 宰相を見る。


「どう思う?」


「王家だけで抱えるより合理的かと」


「理由は?」


「複数の家を参加させれば、資金だけでなく人材と技術も集まります。それに、利益を共有すれば継続して協力する理由もできます」


 国王が頷く。


「我々が支払う額は?」


「財務官との確認が必要です」


「急がせろ」


「承知しました」


「ハル男爵」


「はい」


「出せる額については早急に決める。すぐに出せる分については、先にお前の領へ送ることも検討しよう」


「ありがとうございます」


 心の中でガッツポーズをした。


「あ」


「どうした?」


「もう一つお願いしてもいいですか?」


 国王が少し呆れた顔をする。


「まだあるのか」


「ついでなので」


「言ってみろ」


「王都東地区で、私の領への移住希望者を募集してもいいでしょうか?」


「移住?」


「はい」


 国王と宰相が顔を見合わせる。


「今の私の領は、とにかく人が足りません」


「それは聞いている」


「南部を開発するなら、さらに必要になります」


「それで東地区か」


「はい」


 以前訪れた時のことを思い出す。


 仕事が安定しない人。


 狭い家で暮らす人。


 日雇いの仕事を探していた人。


「もちろん、強制じゃありません」


「当然だ」


「移住したい人がいれば、仕事と住む場所を用意して受け入れたいです」


 国王が宰相を見る。


「問題は?」


「本人の意思による移住であれば、基本的には問題ありません」


「王都への影響は?」


「一度に大量の人数を集めず、募集条件と受け入れ人数を明確にすれば問題ないかと」


「なら認める」


「本当ですか?」


「ああ」


「ありがとうございます」


 働く場所を探している人たち。


 今の俺の領には、その人たちの力が必要だ。


 どちらにとっても悪い話じゃない。


 ◇


 話が終わった。


 資料をまとめる。


「今日はありがとうございました」


「こちらも、かなり大きな話を聞かされた」


 国王が通信機を見る。


「王立研究所の件はすぐ手配する」


「お願いします」


「鉱山の認可と出資についても早急に進める」


「ありがとうございます」


 立ち上がる。


「では失礼いたします。私の領と繋がっている通信機は置いていきます」


「ああ」


 エドガーも立った。


「僕も行くよ」


 俺たちは執務室を出た。


 ◇


 扉が閉まる。


 執務室に残ったのは、国王、宰相、アルフレッド。


 机の上には、まだ通信機と契約書が残っている。


 国王が契約書を手に取った。


「リオン・ハル。以前は報告書に名前が載るたび驚かされたものだが」


 宰相が小さく笑う。


「最近は驚かなくなっておりました」


「今日は?」


「少し違いましたな」


「何がだ?」


 宰相が契約書を見る。


「以前のハル男爵は、何かを見つける側でした」


 アルフレッドが頷く。


「未知の魔法。王宮の結界の弱点。それに領地での様々な改善」


「そうだ」


「しかし今日は」


 宰相の指が契約書を叩く。


「見つけたものをどう使うか。そのために誰から金を集め、誰から人を集め、どこまで自分の権利として残すかまで考えて持ってきた」


 国王が黙って聞いている。


「もう、学院にいた頃と同じ見方はできませんな」


「領主になった、ということか」


「はい」


 アルフレッドが通信機を見る。


「それにしても、一か月少しですよね」


「ああ」


 国王が苦笑した。


「旧グレイヴ領西部を任せた時は、数年掛けて立て直せれば十分だと思っていた」


「私もです」


 宰相が答える。


「それが一か月少しで、王家に投資の話を持ってくるとは思いませんでした」


「しかも王家だけでは足りないと言った」


 アルフレッドが笑う。


「普通は逆でしょうね」


「王家から金を引き出せるなら、それで満足する」


「はい」


「だが、あれは金だけでは足りないと言った」


 国王が契約書を見る。


「人も。技術も。協力する理由まで欲しい、と」


「商人のような考え方ですな」


「十五歳の男爵に言う言葉ではないな」


「確かに」


 少しだけ静かになった。


 宰相が口を開く。


「陛下」


「何だ?」


「今すぐとは申しませんが」


「うん?」


「いずれ中央で使える人材になれば、手放したくはありませんな」


 アルフレッドが笑う。


「宰相殿の後継に?」


「まず礼儀を覚えてもらってからですが」


「そこか」


 国王が笑った。


「それは確かに重要だな」


 笑いが収まる。


 国王はもう一度、机の上を見る。


 共鳴石。


 硬化石。


 銅鉱石。


 そして共同出資契約。


「王国としても、使うだけでは駄目だな」


「はい」


 宰相が答える。


「力を発揮できる場所を用意し、その成果が王国にも戻る形にするべきでしょう」


「囲い込むのではなく?」


 アルフレッドが聞く。


「無理に囲えば離れるだけです」


「なら?」


「この国にいた方が、本人にも得だと思えるようにすることです」


 国王が頷いた。


「その方がいい」


 しばらくして国王は机の上の通信機を指した。


「まずは、これだな」


「はい」


「財務官と王立研究所を呼べ」


「直ちに」


「ああ」


 国王が少し笑った。


「ハル男爵だけを忙しくさせるわけにもいかんだろう」


 宰相も立ち上がった。


「承知しました」


 その日。


 リオンが王宮を出た直後から王宮も動き始めた。



最後まで読んでいただきありがとうございます。

今回、王家や各貴族から集めようとしているお金は金貨5万枚=50億円です。

リオンの領の現段階の年間予算が約6億5000万円なので、かなり大きな金額ですね。

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― 新着の感想 ―
共鳴石に依存する前に回転運動で発電機をつくって銅を主とした電線に以降出来るといいな
そのうち電話あたりまで開発しそうだなぁ。
宰相さん、王宮務めのフィーネより成績優秀、王都から派遣された護衛が3位だった王都武闘大会も1位で国に相当な魔法・技術革命(多分経済的面も相当でしょう)をしてるリオンが「いずれ中央で使える」って相当の見…
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