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45歳社長、転生先でハズレスキル「綻びの目」を武器に没落領地を再建する  作者: アカメノコバチ
第21章 リオン・ハル男爵

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第574話 それぞれの次へ

 それから二日後。


 俺たちは領都へ戻った。


「やっと着いたね」


「ピー!」


 見慣れた屋敷が見えてくる。


 屋敷の前へ着く。


「お帰りなさいませ」


 ケーラが出迎えてくれた。


「ただいま」


「皆様もお疲れさまでございました」


 ようやく戻ってきた。


 ただ、休んでいる暇はなさそうだ。


「リオン様」


 ローレンが屋敷から出てくる。


「お帰りなさいませ」


「ただいま。何かあった?」


「エドガー殿下が王都へ送られた使者が戻っております」


「あ」


 エドガーと顔を見合わせる。


 南部へ向かう前に出した使者だ。


「返事が来た?」


「はい。王宮からです」


「早かったね」


「もう一通ございます」


「どこから?」


「ヴァレスト公爵閣下からです」


 セレナが反応する。


「お父様から?」


「はい」


 これはのんびりしていられなさそうだ。


 ◇


 応接室へ移動した。


 机の上には二通の手紙。


 まず王宮からのものを開く。


「……」


「何て?」


 ミラが聞く。


「簡単に言うと、至急王都へ来るようにって」


「やっぱり」


 エドガーが頷いた。


 南部鉱山共同出資契約に関する詳しい内容を直接確認したい。


 可能な限り早く王都へ来るように。


 そう書かれている。


「父上もかなり気になってるみたいだね」


「そりゃそうだろ」


 ヴィクトルが言う。


「そういう手紙を送ったんだから」


「まあね」


 次にヴァレスト公爵からの手紙を開いた。


 こちらは王宮からの手紙よりずっと短い。


 セレナからの手紙を読んだこと。


 鉱山の話に興味があること。


 そして最後に。


『詳しい話を直接聞きたい。王都へ戻り次第、顔を出してくれ。待っている』


「……」


 セレナを見る。


「これ、急いでる?」


「かなり」


「そうなの?」


「お父様がわざわざ『戻り次第』なんて書く時点で、相当気になってるわ」


「なるほど」


 ヴィクトルが笑う。


「王宮もヴァレスト公爵も、早く来いってことだな」


「そうみたい」


 ただ、もう一つ気になる。


「ハーウェイ侯爵からは?」


 ローレンに聞く。


「まだ届いておりません」


「そっか」


「ハーウェイ侯爵領へは別便で手紙を出しておりますので、もう少しかかるかと」


 ミラが頷いた。


「距離もあるしね」


「うん」


 こっちは待つしかない。


 でも、王宮とヴァレスト公爵は待たせる理由がない。


「明日、王都へ行くよ」


「明日?」


 ミラが聞く。


「うん。朝出る」


「誰と?」


「アストン」


「私も同行いたします」


 アストンがすぐに答えた。


「お願いします」


「承知しました」


「ピー!」


 ピコも一緒に行きたそうだ。


 今回、転移は使わない。


 王立学院の寮にあった魔力印は退去の際に消している。


「僕たちも一度戻ろう」


 エドガーが言った。


「王都へ?」


「その前に東側へ戻る」


「旧グレイヴ領東部?」


「ああ」


 エドガーが頷く。


「何日か空けたから、一度戻って色々と確認したい」


「そっか」


「それに、今回見てきたことも向こうの文官たちに伝えておくよ。もちろん、何を言うかは選ぶが。その後、王都へ向かう」


「分かった」


「私も一緒に行くわ」


 セレナが言った。


「セレナも東側へ?」


「ええ。そこからエドガーと王都へ戻る」


「お父さんのところにも?」


「もちろん」


 セレナが小さく笑った。


「手紙だけじゃ、たぶん納得しないもの」


「じゃあ、王都でまた会うね」


「そうなるわね」


 エドガーが俺を見る。


「父上には、僕からも山で見たことを話すよ」


「助かる」


「僕自身が確認したことだからね」


 銅。


 共鳴石。


 硬化石。


 第二王子であるエドガー自身が見ている。


 王宮で話す時には大きい。


「ナディアは?」


 俺が聞く。


「もしよろしければ、私はもう少しこちらに滞在させていただけますか?」


「もちろん」


「ありがとうございます」


「レイ湿原?」


「はい」


 ナディアが頷く。


「セルヴァンの者たちも来たばかりですし、試験区画の準備も始まったばかりです」


「気になる?」


「とても」


 ナディアが笑う。


「もう少し様子を見てから王都へ戻ろうと思います」


「むしろ助かるよ。お願いします」


「はい」


「俺たちももう少しいるぞ!」


 ガイルが声を上げた。


「本当?」


「おう!」


「助かるよ」


「それにな!」


「何?」


「お前のところの騎士団!」


「うん」


「もっと鍛えた方がいいぞ!」


「……やっぱり?」


「おう!」


 大きく頷かれた。


 これは俺も分かっている。


 旧グレイヴ領時代からまともに訓練してこなかった騎士も多い。


 人数を減らし、ノルに訓練を見直してもらっているけど、まだ始めたばかりだ。


「しばらくベイルン騎士団の訓練に参加させるぞ!」


「いいの?」


「もちろんだ!」


「それは本当に助かる」


 ちょうどそこへノルが入ってきた。


「ノル」


「はい」


「今の話、どう思う?」


 ノルがガイルとベイルン騎士たちを見る。


「王国でも最強と名高いベイルン騎士団と共に鍛錬できるのであれば、あの者たちにとっても得難い機会でしょう」


「うん」


「きっと喜びますな」


「そうだよね」


 たぶん。


 訓練内容を知った後でも同じ答えをするかは分からないけど。


「任せろ!」


「よろしく、ガイル」


「おう!」


「ヴィクトルは?」


「俺も明日戻る」


「サリオス?」


「ああ」


 ヴィクトルが頷く。


「父さんに全部話す」


「鉱山のこと?」


「そこはどこまで話せるか道中考える。出資、採掘、加工、販売。全部絡んでくるからな」


「うん」


「さすがに俺一人で決める話じゃない」


「だよね」


「まとまったら、また来る。そんな時間はかからないだろ」


「お願いします」


「ミラは?」


「私はここにいるよ」


「いいの?」


「うん」


 ミラが頷いた。


「ハーウェイ領から返事が来るかもしれないし、こっちでできることもあるから」


「そっか」


「それにナディアもいるし」


「はい」


 ナディアが笑う。


「もう少しお世話になります」


「こちらこそ」


 明日には、みんな別々になる。


 ◇


 話が終わると、政務所へ向かった。


 執務室に入る。


「……増えたね」


 机の上に書類が積まれている。


「数日お留守でしたので」


 ミアが答えた。


「これ全部?」


「いいえ」


「違うの?」


「こちらで処理できるものは済ませております」


「これで?」


「男爵様の判断が必要なものだけです」


「……そっか。ありがとう」


 それでも結構ある。


「ピー」


 足元でピコが鳴いた。


「手伝ってくれる?」


「ピー!」


「紙は食べちゃ駄目だよ」


「ピー?」


 椅子へ座る。


「じゃあ、やろうか」


「はい」


 道路補修。


 農地。


 人員。


 支払い。


 騎士団。


 南部へ送る物資。


 一つずつ確認していく。


「これは?」


「南側の村からです」


「こっちは?」


「政務所の人員配置についてです」


「これはローレンに任せる」


「承知しました」


「こっちはミアにお願い」


「はい」


 全部を自分でやる必要はない。


 俺が決めること。


 任せられること。


 それぞれ分けていく。


 ひたすら書類と向き合い、気づけば夕方だ。


「……終わった」


「お疲れさまでした」


 ミアが言う。


「ありがとう」


「これからお休みになりますか?」


「いや」


 ミアが俺を見る。


「どちらへ?」


「ルッツのところ」


「……」


「何?」


「夕食までには、必ずお戻りください」


「分かった」


「必ずです」


「はい」


 ◇


 工房へ向かう。


 中へ入ると、ルッツが作業台に向かっていた。


 机には共鳴石や金属部品、硬化石の試料が並んでいる。


「ルッツさん」


 振り返る。


「リオン様。お帰りだったんですね」


「さっき戻った」


「南はどうでした?」


「かなり良かったよ」


「山もですか?」


「うん。アーシタ山でも、前に掘った場所からまた銅が出た」


「本当ですか?」


「離れた場所でもね」


「では、本格的に調べる価値がありそうですね」


「ヴィクトルもそう言ってた」


 ルッツが頷く。


「ビダン山は?」


「共鳴石も硬化石も、かなりありそう」


「それは良かったです」


 ルッツが作業台を見る。


「こちらも少しずつ試しています」


「順調?」


「まだ試したいことは多いですが」


「そっか」


「明日、王都へ行くことになった」


「明日ですか?」


「うん。王宮から呼ばれた」


「ああ……鉱山の件ですね」


「そう」


 俺は椅子へ座る。


「それで、王都にいる間にいくつかお願いしたいことがあるんだけど」


「はい。何でしょう?」


 考えていたことを順番に説明する。


 ルッツは時々質問しながら、紙へ書き込んでいった。


「分かりました」


「お願いできる?」


「はい。できるところから試しておきます」


「ありがとう」


 その後も少し話した。


 気づけば窓の外が暗くなり始めている。


「あ」


「どうされました?」


「夕食」


「もうそんな時間ですか」


「ミアに絶対戻れって言われてた」


「でしたら、戻られた方がいいですよ」


「そうする。ルッツさんもあまり遅くならないようにね」


 ◇


 その夜、全員で食堂に集まった。


 この顔ぶれで食事をするのは、今夜で最後だ。


 明日。


 俺とアストンは王都へ。


 エドガーとセレナは旧グレイヴ領東部へ戻り、その後王都。


 ヴィクトルはサリオスへ。


 ナディアとガイルはここに残る。


 ミラも領都に残る。


「なんか変な感じだね」


 ミラが言った。


「何が?」


「急にみんな集まって、明日にはまた別々になるから」


「ああ」


 確かに。


 学院を卒業して、それぞれ別の場所へ行った。


 それなのに、またここへ集まった。


「とても有意義な時間だったよ」


 エドガーが言った。


「そう?」


「ああ」


 エドガーが頷く。


「西側の状況も見られたし、リオンが何をしようとしているのかも分かった」


「まだ始めたばかりだけどね」


「それでもだ」


 エドガーが笑う。


「山も湿原も、話だけ聞くのと実際に見るのでは全然違った」


「うん」


「父上にも、自分で見たことをちゃんと話せる」


「お願いします」


「任せて」


「私も父に話すわ」


 セレナが言う。


「ありがとう」


「でも、王都で話す時は気をつけなさいよ」


「何を?」


「ヴィクトルと二人で数字の話を始めると、途中から周りがついていけなくなるでしょ」


「ああ」


 ナディアが小さく笑った。


「確かに、途中からかなり難しかったです」


「気をつけるよ」


「頼むぞ、男爵様」


 ヴィクトルが俺を見る。


「それにしても」


「何?」


「お前、領都に戻って早々、夕方まで書類を片づけてたんだろ?」


「うん」


「終わったら?」


「ルッツのところ」


「相変わらずだな」


「何が?」


「そういうところだよ」


 ヴィクトルが呆れたように笑う。


 そしてミラを見る。


「ミラ」


「何?」


「お前、これから苦労するぞ」


「どうして?」


「こいつ、多分ずっとこんな感じだ」


「こんな感じ?」


「次から次へと思いついて、気になったらすぐ動く」


「うん」


「休めって言われたら、別の仕事を始める」


「それもあるね」


「苦労するぞ?」


 ミラは少し笑った。


「私はいいよ」


「いいのか?」


「うん」


 ミラが俺を見る。


「私は、リオンがこうやって楽しそうに色々考えて、試して、何かを変えていくところを一番近くで見ていられるのが幸せだから」


「……ミラ」


「だから、別に苦労じゃないよ」


 一瞬、言葉が出なかった。


「……ありがとう」


「うん」


 ミラが笑う。


「いいですね」


 ナディアがぽつりと言った。


「何が?」


「お二人が、です」


「俺たち?」


「はい」


 ナディアが微笑む。


「とても素敵だと思います」


 その時、セレナが何とも言えない表情でナディアを見た。


「ナディア……」


「はい?」


「……何でもないわ」


「?」


 ナディアが首を傾げる。


「何の話だ?」


 ガイルが聞いた。


「ガイルは気にしなくていいわ」


 セレナが答える。


「なんでだ!」


 みんなが笑った。


 ◇


 夕食が終わった。


 明日から、またそれぞれ別の場所へ向かう。


 夕食を終え、部屋へ戻る前に窓の外を見る。


 窓の外、そのずっと南にはレイ湿原とノア山脈がある。


 少しずつこの領の可能性が見えてきた。


「ピー」


 足元でピコが鳴いた。


「うん、明日からが勝負だね」


 明日からの交渉で、この領地の未来が決まる。


 絶対に失敗できない。



最後まで読んでいただきありがとうございます。

セレナ、ヴィクトル、エドガー、ナディア、ガイルが出てくる会は書いてて楽しいです。

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― 新着の感想 ―
切ないなぁ。 穏便に、婚約破棄する(させる)方法ないのかなぁ。(ぉぃ
リオン君は破滅ルートに突入? リオン君「鉱山事業についてセキュリティ対策を考えてます。」 現実⇒全くできてません。共鳴石の扱い等、国の方針すら定まっていないのに早々に採掘場所までエドヴィン、ナディア…
ルッツはリオンの帰りを把握してなかったみたいですが、リオンは持っていった試作品のテストを現地でしなかったのかなぁ。 そんなプレゼンを視察先でやってた感じ、気づきませんでした。 ルッツ、どんまい!
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