第572話 町の始まり
お手すきの際に是非!
《剣聖》になった弟に家を追い出された俺のスキルは《会員》でした
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領都を出て、南へ向かった。
今回はかなりの大所帯だ。
馬と馬車が長い列を作っていた。
「キュ!」
「ピー!」
その中で一番楽しそうなのは、ナッシュとピコだった。
ナッシュがガイルの肩から下りて走り出すと、ピコも追いかける。
「ピー!」
「キュウ!」
今度はナッシュがピコを追いかけた。
「もう仲良くなったの?」
「ピー!」
「キュ!」
早いな。
ナディアも二匹を見ながら微笑んでいた。
「そういえば、リオンさん」
「何?」
「ピコとは、従魔契約をされていますか?」
「従魔契約?」
「はい」
「……してないね」
「ピー?」
ピコは不思議そうにしている。
「ガイルさんとナッシュはどうですか?」
「俺もしてないぞ!」
「そうなのですね」
ナディアが少し驚いた。
「した方がいいの?」
「強制するものではありません。ただ、お互いが望んでいるのであれば、しておいた方が便利です」
「何が変わるの?」
「お互いの魔力が少し繋がります。離れていても、相手の状態が何となく分かることがあります」
「それはいいね」
「それに、正式な従魔であることも示せます」
それならピコとは契約しておきたい。
「難しい?」
「いいえ。相手も望んでいれば、それほど難しくありません」
やり方を教えてもらい、一度列を止めた。
「ピコ」
「ピー?」
「やってみる?」
「ピー!」
分かっているのかは怪しい。
ピコの頭へ手を置き、ゆっくり魔力を流す。
従魔契約を結びたい。
そう意識した瞬間だった。
「ピー!」
「あ」
こちらへ何かが返ってきた。
ほんのわずかな魔力。
でも、自分のものではないとはっきり分かる。
「成功したと思います」
「本当?」
「ピー!」
なんとなく、さっきよりピコの存在が近く感じる。
「やったね」
「ピー!」
「俺もやるぞ!」
ガイルがすぐにナッシュを抱き上げた。
「ナッシュ!」
「キュ?」
「契約するぞ!」
「キュウ!」
ガイルが大きな手をナッシュの頭へ置く。
しばらくすると。
「おお!」
「できた?」
「ああ! ナッシュがいるのが分かる!」
「キュウ!」
「やったな、ナッシュ!」
「キュ!」
「よかったですね」
ナディアが笑う。
「ありがとう!」
「俺も。ありがとう」
「いえ」
契約が終わると、ピコとナッシュはすぐにまた追いかけっこを始めた。
本人たちにとっては、契約より遊ぶ方が大事らしい。
◇
その日は穀倉地帯の南側にある村で一泊した。
村長は一行の顔ぶれにただただ恐縮していた。
翌朝から再び進み、昼前にはレイ湿原が見えてきた。
移動中も話題は尽きなかった。
エドガーは東側の王都直轄領の再建。
ヴィクトルは南部に作る工房。
そしてガイルは、ほとんどナッシュの話をしていた。
「ナッシュは肉が好きなんだ!」
「ドラゴンだからじゃない?」
「でも野菜も食べるぞ!」
「へえ」
「キュ!」
楽しそうで何よりだ。
途中、エドガーがミラの近くへ寄った。
「ミラ」
「何?」
「ガイルを呼んだのって、ナディアなんだろ?」
「うん」
「やっぱり」
「リオンが困ってそうだって手紙に書いたみたい」
「それで本当にすぐ来るところがガイルだよね」
「ね」
二人が笑う。
少し前を見ると、ちょうどガイルがナディアへナッシュの話をしていた。
ナディアも嫌そうではなく、時々ナッシュを撫でている。
◇
レイ湿原へ着くと、以前とは少し景色が変わっていた。
「ここがレイ湿原か」
エドガーが馬を止める。
「広いわね」
セレナも見渡した。
「かなり広いよ」
湿原の一角では、すでに人が作業している。
セルヴァンから来てもらった専門家たちだ。
もちろん、到着してまだそれほど日が経っていない。
稲が並んでいるわけではない。
今やっているのは、その前の準備だ。
以前選んだ試験区画の草を刈り、畦を作る。
水を入れるための細い水路。
余分な水を逃がすための水路。
水の深さを確認するための目印も立てられていた。
「あ」
俺たちに気づき、作業をしていた人たちが手を止める。
「ナディア殿下」
「進み具合はいかがですか?」
「予定通りです」
担当者が説明してくれた。
まず小さな区画で、水をきちんと管理できるか確認する。
同時に、種籾を水に浸けて発芽の準備を進めている。
苗を育てる場所も作り始めているそうだ。
「田植えはまだ先?」
「はい。まずは苗を育てなければなりません」
「そっか」
領内の農民たちも数人混ざっていた。
セルヴァンの専門家から教わりながら、水路を掘っている。
「男爵様!」
以前ここへ一緒に来た農民が手を上げた。
「どう?」
「まだ分からないことだらけです。でも面白いです」
「何が一番難しい?」
「水ですね。入れればいいってものじゃないみたいで」
「そうなんだ」
「多すぎても少なすぎても駄目だそうです」
専門家が隣で頷いている。
「頑張って」
「はい!」
まだ米が採れるのはずっと先だ。
それでも、何もなかった湿原で最初の作業が始まっている。
「ちゃんと進んでるね」
「はい」
ナディアも嬉しそうだった。
イレーナ達も彼らが生活できる長屋を既に作ってくれていた。
◇
さらに南へ進む。
湿地を抜けるにつれて地面は固くなり、その先に広い平地が見えてきた。
ノア山脈との間にある土地だ。
「ここ」
俺が馬を止める。
すでに人が働いていた。
木材がいくらか積まれ、地面には建物の位置を示す杭が打たれている。
その周りでは、草を刈ったり、地面の凹凸をならしたりしていた。
まだ、家らしい形はどこにもない。
「坊や」
「イレーナさん」
イレーナがこちらへ歩いてくる。
「ずいぶん大勢連れてきたね」
「増えました」
「見れば分かるよ」
イレーナが俺の後ろを見る。
エドガー。
セレナ。
ナディア。
ヴィクトル。
ガイル。
そして騎士たち。
そこで少しだけ表情が変わった。
「……ベイルン騎士団じゃないか」
「知ってるんですか?」
「坊や」
「何?」
「王国でも一、二を争う騎士団を知らない方がおかしいんだよ」
「そうなんだ」
視線がガイルへ移る。
「しかもベイルン家の坊ちゃんまでいる」
「手伝いに来たぞ!」
「……そうかい」
イレーナが俺を見る。
「坊や。あんた、どこからこんな連中を引っ張ってきたんだ?」
「俺もこうなるとは思ってなかったけどね」
建設中の場所を見る。
「今、どこまで進んでます?」
「二棟分の場所を決めて、これから準備をするところだ」
「今日は俺達も作業するよ」
イレーナがゆっくり俺を見る。
「坊や、家ってのは、そんな簡単にできるもんじゃないんだよ」
「わかってますよ、でも今日は人が多いから」
「人数だけの問題じゃないんだよ」
「今日は三棟やろう!」
ガイルが言った。
イレーナの目がガイルへ向く。
「一日に三棟?何を言ってるんだ」
「俺たちも手伝うぞ!」
「……」
その後ろにはベイルン騎士団。
そしてセレナやエドガーたちまでいる。
「まあ」
イレーナが小さく息を吐いた。
「そこまで言うなら、やれるところまでやってみるか」
「ありがとう」
「まぁ、完成するとは思わないことだね」
「できるだけ頑張るよ」
でも、このメンバーならできる気がしてきた。
◇
作業に入る前に、みんなへこの土地の構想を説明した。
「ここを町にする?」
エドガーが聞く。
「うん」
北にはレイ湿原。
南にはノア山脈。
「山で働く人と、湿原で働く人がここに住むのかしら?」
セレナが聞く。
「そう」
鉱山で働く人。
冒険者。
米作りをする人。
職人。
商人。
「宿や店、倉庫も欲しい」
「鍛冶屋もいるな」
ヴィクトルが言う。
「うん」
「冒険者ギルドは?」
ガイルが聞いた。
「人が増えたらね」
「いいな!」
「それと、いずれここから北へ街道を伸ばす」
「領都まで?」
「ああ。ただ、道は後。まずここに人が住めるようにする」
エドガーが湿原と山を見比べた。
「ここが本当に町になったら、西側の南部はかなり変わるね」
「そうしたい」
◇
「よし!」
ガイルが腕をまくる。
「何からやる!」
「待ってください、副団長」
ハガーが止めた。
「何だ?」
「先に人を分けましょう」
「おう!」
ハガーは建設予定地を歩き、杭の位置や地面の状態を確認していく。
設計図は道中ですでに確認している。
「一棟四戸」
「ああ」
イレーナが連れてきた職人が答える。
「壁と屋根を共有する。四軒別々に作るより、木も時間も少なくて済む」
「うん」
ハガーが周囲を見る。
「ベイルン騎士団、これより訓練を開始する。伐採班は西の森へ。魔法班は木材の乾燥。残りは整地と基礎だ」
「はっ!」
「運搬は力のある者を優先。職人から指示がある場合は必ず従え」
「はっ!」
ベイルン騎士団が一斉に動き出した。
「早いね」
「ハガーはこういうの慣れてるからな!」
ガイルが胸を張る。
◇
俺も騎士団の伐採班と一緒に建設予定地からすぐ近くの西の森へ入る。
「いくぞ!」
ガイルが大斧を振った。
一振り。
ミシミシッ――バキッ!
太い木が傾き、大きな音を立てて倒れた。
「……一振り?」
「おう!」
「やっぱりガイルの力はおかしいね」
「何がだ!」
「いや、褒めてるんだよ」
俺も別の木の前へ立つ。
「俺もやるぞ!」
身体強化。
斧を振る。
カーン!
結構、深くまで入ったぞ。
もう一度。
カーン!
ミシミシッ――バキッ!
ズズン!
二回目で木が倒れた。
隣を見ると、エドガーも同じだった。
「エドガーも二回?」
「僕だって鍛えてるよ」
「王子なのに」
「領主になったリオンには言われたくないな」
周囲の騎士たちが俺たちを見ている。
「どうしたの?」
「……いえ」
騎士が首を振った。
ガイルが次。
俺も次。
エドガーも続く。
「やっぱり力じゃガイルに勝てないな」
「当たり前だ!」
ガイルが笑う。
「あ、そうだ」
「何?」
「前にベイルン領で会ったアレンって冒険者も、一振りで木を斬ってたぞ!」
「一振り?」
「ああ!」
「ガイルみたいな大きな斧で?」
「いや、普通の剣だ!」
「……」
「もっと太い木だった!」
「そんな怪物みたいな人いるの?」
「Aランク冒険者だからな!」
「Aランクか」
ノア山脈を見る。
あそこには強い魔物がいる。
本格的に調査するようになれば、冒険者の力も必要になる。
「その人、いつかここに来てもらえないかな」
「アレンか?」
「うん。山の魔物を調べる時とか」
「今度会ったら言っとくぞ!」
「本当?」
「おう!」
覚えておこう。
◇
切った木が次々に平地へ運ばれる。
普通なら、すぐ建物には使えない。
木を乾かす必要がある。
そこでベイルン騎士団の魔法を使える者たちが、木材の乾燥を始めていた。
「そこのあなた」
セレナが一人の騎士を止める。
「はい?」
「木を乾燥させてるんでしょ?」
「はい」
セレナが木材へ触れた。
「魔力操作が少し粗いわ」
「申し訳ありません」
「謝らなくていいわ。こうした方がいい」
セレナが木材へ魔力を通す。
表面だけを急激に熱するのではなく、木全体から均等に水分を抜いていく。
「……」
騎士が目を見開いた。
少しして、セレナが手を離す。
「これでいいわ」
「もうですか?」
「確認して」
職人が木材を見る。
「……使えます」
「本当?」
「はい。これなら」
「次、いくわよ」
セレナが言った。
「はい!」
乾燥班の作業速度が一気に上がった。
「じゃあ」
ナディアも立ち上がる。
「私もお手伝いします」
「ナディアも?」
「セレナさんほど速くはできませんが」
別の木材へ魔力を通す。
こちらも、乾燥がどんどん進んでいった。
「十分早いよ」
「では、こちらを担当しますね」
ハガーが二人を見る。
「……乾燥待ちがなくなるな」
その一言で、また全体の動きが変わった。
「副団長!」
「何だ!」
「もっと木が必要です!」
「任せろ!」
ガイルが森へ戻っていった。
「なんか楽しそうだね」
「あぁ、訓練はいつだって楽しいぞ!」
ガイルは次々と木を倒していく。
俺とエドガーもガイルほど早くはないけど、木を倒していく
◇
「俺は力仕事はやらないぞ」
ヴィクトルが言った。
「じゃあ何するの?」
「加工」
職人に教わりながら、寸法を測り、印を付け、木材の形を整えていく。
「できるんだ」
「まあな、ローデン商会じゃ子どもの頃から倉庫でも工房でも手伝わされたからな」
「へえ」
「私もやる」
ミラも隣へ座った。
「ミラも?」
「これくらいならね」
二人が職人の指示を受けながら木材を整える。
俺、ガイル、エドガー、アストン、テオは伐採。
別の騎士たちは枝を払い、木を運ぶ。
セレナとナディアが木材の乾燥。
イレーナたちの職人は、木材の寸法を決め、柱や梁へ加工していく。
ヴィクトルとミラもその手伝いだ。
残ったベイルン騎士団は、整地、基礎、柱立て。
そして加工が終わった木材から、職人の指示で次々と建物を組み上げていく。
そして。
「ピー!」
「ピコ?」
ピコが地面に落ちていた端材をくわえた。
ぱくっ。
「……」
飲み込んだ。
「ピー!」
次の端材も食べる。
ミラが手を止めた。
「ピコって木も食べちゃうんだ」
「俺も初めて知った」
「大丈夫なの?」
「ピー!」
「大丈夫みたい」
「便利……なのかな?」
「ゴミは減るね」
「ピー!」
ピコは嬉しそうだった。
◇
そこからは、異常な速度だった。
「梁を上げるぞ!」
「せーの!」
騎士たちが一気に持ち上げ、職人が固定する。
「次は二棟目だ!」
ハガーの指示が飛ぶ。
乾燥した木材が途切れない。
伐採した木はすぐ運ばれ、すぐ加工され、すぐ組み上がる。
あっという間に二棟目も形になった。
「……早すぎない?」
俺が言う。
「早いに決まってるだろ」
イレーナが答える。
「伐採したそばから乾いて、王国でも一、二を争う騎士団が運んでるんだよ」
「ああ」
「しかも王子と領主まで木を切ってる」
「人がいるから」
「そういう問題じゃないんだよ」
夕方が近づいても、作業は止まらなかった。
「三棟目!」
ハガーが声を上げる。
全員がまた動いた。
さすがに内装まで完璧にはできない。
家具もない。
細かな仕上げは後日になる。
それでも、床。
壁。
屋根。
簡単な扉。
今夜、寝られるところまでは持っていく。
そして日が傾き始めた頃。
「終わったぞ!」
ハガーの声が響いた。
顔を上げる。
三棟目にも屋根が載っていた。
「……本当にできた」
一棟四戸。
三棟で十二戸。
さっきまで何もなかった平地に、十二世帯が暮らせる場所ができた。
「一日で三棟……」
ミラも呆然としている。
「正確には、イレーナたちが先に準備してくれてたけどね」
「それでも普通じゃないよ」
「うん」
俺もそう思う。
これは人が多かったからだけじゃない。
職人。
騎士団。
魔法。
それぞれが得意な仕事をして、待ち時間がほとんどなくなった結果だ。
建物が三棟並んでいる。
「ここから増えていくんだね」
ミラが言った。
「うん」
まだ町ではない。
でも、最初の三棟だ。
◇
「じゃあ、あたしらは戻るよ」
イレーナが職人たちへ声を掛けた。
イレーナ達は北側の村を仮宿にしているらしい。
「帰るの?」
「仕事は終わったからな」
「一緒にご飯食べていきませんか?」
イレーナが俺を見た。
「冗談はよしな」
「冗談じゃないよ」
「王子様に王女様、公爵家のお嬢様までいる席だ」
「うん」
「あたしらが混ざる場所じゃない」
「でも、イレーナたちもずっとこの領のために働いてくれたでしょ?」
「それとこれとは別だよ」
「俺は別だと思わないけど」
「坊やはそうでも、世の中はそうじゃない」
「でも――」
「イレーナさん」
エドガーが声を掛けた。
「……はい、殿下」
「よかったら、一緒に食べませんか?」
「……」
「僕たちも、今日は一緒に働きました」
「それは……」
「なら、同じでしょう?」
イレーナがエドガーをしばらく見る。
「王子様にそこまで言われちゃ、断る方が失礼ってもんだね」
「じゃあ決まり」
俺が言う。
「坊や」
「何?」
「最初からそのつもりだったんじゃないだろうね?」
「違うよ」
「どうだか」
でも、帰るのはやめてくれた。
「リオン!」
林の方からガイルの声がする。
「何?」
「見ろ!」
大きなワイルドボアを担いで戻ってきた。
「なんで?」
「いたから倒した!」
「……そっか」
「今夜は肉だ!」
ベイルン騎士団から歓声が上がる。
そこからは早かった。
騎士たちは慣れた手つきでワイルドボアを捌き、鉄板と薪を用意する。
「慣れてるね」
「訓練で野営もするからな!」
「いつもこんな感じ?」
「ああ! 訓練が終わった後に皆で食うこともあるぞ!」
ナディアの侍女たちは米を炊く準備を始めていた。
「米も?」
「せっかくですから」
ナディアが笑う。
「ありがとう」
エドガーやセレナの従者も食器や飲み物を準備し、イレーナ側の職人たちも手伝い始める。
日が沈み、火が灯った。
鉄板の上で肉が焼け、脂の弾ける音と匂いが広がる。
「腹減った!」
ガイルが言う。
「ずっと働いてたもんね」
「みんなでな!」
「うん」
「じゃあ食うぞ!」
「まだ焼けてないよ」
「待つ!」
本当に元気だ。
◇
焼いたワイルドボア。
炊きたての米。
野菜。
スープ。
騎士団が即席で作ったテーブル。
全員で同じ食卓を囲んだ。
「うまい!」
ガイルが肉を食べる。
「米と肉は合うな!」
「でしょ?」
「リオンが作ったわけじゃないでしょ」
ミラが言う。
「そうだけど」
「ピー!」
ピコにも肉を渡す。
「キュ!」
ナッシュも隣で食べていた。
「ナッシュ、美味しいですか?」
ナディアが聞く。
「キュウ!」
「美味しいみたいだぞ!」
ガイルが代わりに答える。
「ガイルに聞いてないよ」
笑い声が広がった。
俺は端まで見渡す。
エドガー。
セレナ。
ナディア。
ミラ。
ヴィクトル。
ガイル。
騎士たち。
護衛。
侍女。
イレーナと職人たち。
身分も立場も違う人たちが、同じ食卓を囲んでいる。
「何見てるの?」
ミラが聞いた。
「いや」
「?」
「なんか、いいなと思って」
「何が?」
「こういうの」
ミラも周囲を見る。
「……うん」
昨日まで何もなかった平地に、今は家が三棟ある。
灯りがある。
人の声がする。
肉の焼ける匂いがする。
まだ町ですらない。
それでも。
少しだけ、町の始まりみたいに見えた。
◇
食事を終えると、イレーナたちは北側の村へ戻ることになった。
「今日はありがとう」
「仕事だからね」
「また仕事をお願いするよ」
「金を払うならね」
イレーナが帰路へ向かう。
一度だけ建物を振り返った。
「……またな」
それだけ言って、職人たちと帰っていった。
◇
一棟四戸。
三棟で十二戸。
これなら王族や女性たちを無理に詰め込む必要もない。
護衛や騎士たちも二、三人ずつ分かれれば十分に泊まれる。
「ねえ」
ミラが言った。
「私たち三人、同じ部屋にしない?」
「三人?」
セレナが聞く。
「私とセレナとナディア」
「いいわね」
「私も構いません」
ナディアも頷いた。
「卒業してから、三人でゆっくり話してないし」
「そうね」
セレナが笑う。
「学院にいた時も、二人みたいに同じ寮にいたわけじゃないけど、三人でよく話したものね」
「はい」
「今日は帰る時間も気にしなくていいよ」
ミラが楽しそうだ。
「では、三人で」
「決まり」
「俺たちは?」
ガイルが聞いた。
「別」
セレナが即答した。
「なんでだ!」
「なんでって……」
セレナが呆れる。
「当たり前でしょ」
「そうか!」
「納得するの早いね」
ガイルは面白い奴だ。
◇
ミラたちの部屋。
「そういえばナディア」
セレナが寝具を広げながら声を掛けた。
「はい?」
「ガイルを呼んだの、あなたなんでしょ?」
「はい。リオンさんが困っているようでしたので」
「本当にすぐ来たわね」
ミラが笑っている。
「ガイルだからね」
「ナッシュまで連れてきたのは想像していませんでした」
ナディアが楽しそうに話す。
「ナディア、ナッシュかなり気に入ってたよね」
「可愛いですから」
「ガイルじゃなくて?」
「ミラ?」
「あ、違った?」
「違います」
少しだけ間が空く。
「ふふ」
「セレナまで笑わないでください」
「そういうミラさんは、リオンさんとのご結婚はいつなのですか?」
「……まだ分からないよ」
「リオン、今は領地のことで頭いっぱいだと思うし」
「でも、結婚しないとは言ってないんでしょ?」
「うん」
「なら待ってればいいじゃない」
「簡単に言うね」
「私だって似たようなものよ」
その後、女子たちの話は深夜まで続いたらしい。
◇
ミラたちは何を話してるんだろう。
外でウロウロしていると。
「おい、リオン」
ヴィクトルに呼ばれた。
「何?」
「聞き耳立てるな」
「立ててないよ」
「顔がそっち向いてるぞ」
「ちょっと気になっただけ」
「リオン、女性たちの部屋の前をうろつくのは感心しないな」
エドガーが細い目で俺を見てくる
「はいはい。わかりましたよ」
俺は自分の部屋へ向かった。
部屋に入る前に外を見る。
三棟の長屋。
その向こうにレイ湿原があり、さらに先にはノア山脈がある。
ここに、もっと家が増える。
店ができる。
宿ができる。
人が集まる。
いずれ街道が領都まで伸びる。
いつか、本当に町になるんだ
「ピー」
足元でピコが鳴いた。
「うん」
今日はその最初の日だ。
最後まで読んでいただきありがとうございます。
ガイルたちベイルン騎士団は体力だけならアルスレイン王国最強だと思います。
20日くらいをほぼ野営で過ごし、ほとんど休まず長屋づくりをしています。
アルスレイン王国はベイルン騎士団があるから北のドラン帝国が侵攻してこないといっても過言ではありません。




