第570話 それぞれの再建
お手すきの際に是非!
《剣聖》になった弟に家を追い出された俺のスキルは《会員》でした
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エドガーとセレナを屋敷の応接室へ案内した。
俺とミラ、ナディア、ヴィクトルも一緒だ。
ケーラがお茶を置いて部屋を出ていく。
「それにしても、元気そうで安心したよ」
エドガーが俺を見る。
「そんなに心配してた?」
「していたよ。西側はかなり厳しいと聞いていたからね」
「厳しいのは厳しいよ」
「そうは見えないけど?」
セレナが言う。
「慣れただけ」
「それ、あまり良くないんじゃない?」
「そう?」
ヴィクトルが横から笑う。
「こいつ、金がないって言いながら山を二つ掘ってるからな」
「山?」
エドガーが俺を見る。
「ああ。それは後で話すよ」
「何か見つけたのか?」
「ちょっとね」
「ちょっとじゃないけどな」
「ヴィクトル」
「本当のことだろ?」
エドガーとセレナが顔を見合わせた。
「まあ、それも気になるけど」
エドガーがお茶を置く。
「まずは、お互いの状況を確認しておこう。東と西で隣り合ってるからね」
「うん。そっちはどう?」
「正直、すぐに良くなる状態じゃないよ」
「やっぱり?」
「ああ。だから、急いで成果を出そうとは考えていない」
「どうするの?」
「まず無駄を減らしてる」
エドガーは指を折りながら説明した。
「似た仕事をしている部署をまとめて、必要性の低い契約や支出も見直してる。
誰がどんな仕事をしているかも、もう一度確認してるところだよ」
「俺と似てるね」
「そうだね。無駄が残ったまま金を入れても、また消えていくだけだから」
「ああ」
そこは俺も同じだ。
「それと、税の記録も調べ直してる。人口、耕作されている土地、空き家、商店の数も確認してるよ」
「そこまで?」
「一度、現状を正確に知らないと計画を立てられないからね」
さすがだ。
「道路や橋、水路も調べてる。全部を一度には直せないから、市場や主要街道につながるところから優先するつもりだ」
「新しいものは作らないの?」
「今のところはな」
エドガーが頷く。
「東側には町も畑も街道も残っている。だから、新しいものを増やすより、まず今あるものを普通に使える状態に戻す」
「なるほど」
「王都からの支援もしばらく受けるつもりだ」
「そうなんだ」
「ああ。無理に自力で赤字を埋めようとすれば、領民への負担が増えるからね」
「確かに」
「三年か五年か分からないけど、長い目で少しずつ立て直すつもりだよ」
半年ごとに人口や税収、耕作されている土地、市場の店の数などを確認して、本当に回復しているかも見るらしい。
派手ではない。
でも、かなり堅実だ。
「エドガーさんらしいですね」
ナディアが言う。
「そうかな?」
「はい。一度にすべてを変えようとせず、今あるものを使いながら確実に戻していくのですね」
「そのつもりだよ」
セレナも頷く。
「それで、リオンは?」
「俺?」
「これからどうするつもりなの?」
「うーん……」
少し考える。
「俺も最初は同じかな。無駄な支出を減らして、人も仕事も整理した」
「その後は?」
「新しいものを作る」
「新しいもの?」
「西側は、戻そうにも元々大きな産業がほとんどないから」
「……」
セレナが黙った。
「何?」
「それ、さらっと言うこと?」
「でも本当だよ」
エドガーが苦笑する。
「だから山を掘っていたのか?」
「それもある」
「それも?」
「うん」
「ナディアがこうしているのも何かやろうとしているからだろ?」
「うん。ナディアにはセルヴァン王国の米作りを教えてもらってるんだ」
「米?そういえば、セルヴァン王国大使館で食べさせてもらったな」
「はい。リオンさんの領には広大な湿地がありますので、そこで作れないかと思っています」
ナディアが答える。
エドガーがますます気になったような顔をする。
そのまま少し考えてから、俺を見た。
「ちょうどいいか」
「何が?」
「実は父上から頼まれてることがあるんだ」
「国王陛下から?」
「ああ」
エドガーが姿勢を正す。
「リオン、本当に何も必要ないのか?」
「え?」
「父上が不思議がってたよ」
「何を?」
「東側より西側の方が厳しいはずなのに、お前から全然支援を求めてこないって」
「ああ……」
そういえば、一度もお願いしていない。
「父上は必要なら金を出すつもりだし、王宮の文官や技術者を送ることも考えてる。食料だって必要なら用意するそうだ」
「ありがたいね」
「ただ、必要か分からないものを勝手に送るのも違うだろうって。それで僕に聞いてきてほしいと言われた」
「そっか」
「何か必要なものはないか?」
少し考える。
「今のところ、支援はいらないかな」
「やっぱりそう言うと思ったよ」
「分かってた?」
「なんとなくな」
セレナが呆れたように俺を見る。
「でも困ってるんでしょ?」
「うん。困ってるよ」
「だったら、お願いすればいいじゃない。あなたの立場なら当然の権利よ」
「うん。でも」
俺はエドガーを見る。
「近いうちに王宮には行こうと思ってた」
「やっぱり何かあるのか?」
「ある」
「支援?」
「違うよ」
「じゃあ?」
「出資してほしい」
「……出資?」
エドガーが首を傾げた。
セレナも同じだった。
◇
昨日まとめた資料を持ってきてもらった。
『南部鉱山共同出資契約』
それと、ビダン山で採れた共鳴石と硬化石。
アーシタ山で採った銅鉱石を机に並べる。
「鉱山?」
エドガーが銅鉱石を手に取った。
「うん。ノア山脈で見つけた」
「本当に銅なの?」
セレナが聞く。
「ヴィクトルが確認した」
二人がヴィクトルを見る。
「ああ。間違いない」
「量は?」
「まだ分からない」
ヴィクトルが答える。
「ただ、離れた場所を何か所か掘って、全部から銅が出た。本格的に調査する価値はある」
「なるほど……」
エドガーが鉱石を見ながら言う。
「でもリオン。分かってると思うけど、正式に鉱山として開発するなら王宮の認可が必要になるぞ」
「うん。それは分かってる」
領地の中にある山だからといって、見つけた地下資源を領主が勝手に大規模採掘していいわけじゃない。
新しく鉱山を開くなら王宮へ報告し、正式に認めてもらう必要がある。
「だから出資の話をする前に、鉱山の開発許可もとるつもりだった」
「ならいいが……」
「採掘権も、ちゃんとリオン領側に置けるように話したい」
「それも含めて父上と話した方がいいな」
「うん」
俺は次に共鳴石を手に取った。
「それで、こっちも同じ山脈で見つけた」
「これは?」
「共鳴石」
昨日ヴィクトルに説明したことを、二人にも簡単に話した。
同じ石から割った欠片なら、片方に触れるともう片方も光る。
短い光と長い光を組み合わせれば、遠く離れた場所へ文字を送ることもできる。
「……待って」
セレナが止めた。
「遠くって、どれくらい?」
リオンが窓の向こうのノア山脈を指さす、
「あの山とこの屋敷では確認した」
「あの距離に文字を送れるの?」
「うん」
エドガーの表情が変わる。
「王都と領地でも使える可能性は?」
「あると思う」
「国境でも?」
「距離の限界はまだ分からないけど、可能性はある」
「……」
二人とも黙った。
ヴィクトルが笑う。
「俺も昨日そんな顔になった」
「これはなるよ」
エドガーが共鳴石を見る。
次に硬化石も説明する。
砂や石などと混ぜて固めれば、道路や建物、水路などに使える可能性がある。
「まだ配合は調べてる途中だけどね」
「それでも」
セレナが硬化石を見る。
「本当に使えるなら、こっちも相当なものじゃない?」
「うん」
俺は契約案を開いた。
「それで、この二つの山を中心に南部を開発する事業を考えてる」
二十年間の契約。
山や土地、採掘権はリオン領に残す。
外部から金だけでなく、人や技術も出してもらう。
その代わり、二十年間、売上の一部を配当する。
さらに、資源や加工品を優先して購入できるようにする。
昨日ヴィクトルたちと計算した事業価値についても簡単に説明した。
「普通に進んだ場合で、今の価値にすると金貨五十七万枚くらいになると見てる」
「……」
エドガーが止まった。
セレナも止まる。
「いくら?」
「五十七万枚」
「聞き間違いじゃなかった」
「うん」
セレナが俺を見る。
「リオン」
「何?」
「それ、男爵領でやる事業の数字じゃないと思うんだけど」
「俺もそう思う」
「どうしてそんなに普通なのよ」
「昨日いっぱい驚いたから」
「俺はまだ慣れてないけどな」
ヴィクトルが言った。
エドガーはしばらく契約案と三つの資源を見比べていた。
「リオン」
「何?」
「これは早く父上に話した方がいい」
「うん。だから近いうちに――」
「近いうちじゃない」
「え?」
「今日、王都に使いを出すよ」
「今日?」
「ああ」
「そんなに急がなくても」
「急いだ方がいい」
エドガーの表情は真剣だった。
「鉱山を正式に開くなら、どのみち王宮との話が必要なんだ。それに共鳴石まである」
「ああ」
「これが本当に実用化できるなら、リオン領だけの話じゃない。王国全体に関わる」
「うん」
「父上と宰相に、リオンから鉱山に関する報告と提案があるって伝えるよ」
「お願いしていい?」
「もちろん」
「ありがとう」
「いいんだ」
エドガーが笑う。
「そっちが上手くいけば、東側にもいい影響がある。僕にとっても他人事じゃないよ」
「そっか」
そう言われると、少し気が楽になった。
「王宮の方は僕が話を通しておく。リオンは王都へ来られる日を決めるんだ」
「分かった」
◇
「あ」
セレナが声を上げた。
「どうしたの?」
「父からの手紙」
「ああ」
「まだ読んでなかったでしょ?」
「うん」
話が大きくなって、完全に忘れていた。
セレナから渡された手紙を開く。
内容は短かった。
『新しい領地の状況については聞いている。
必要なら金を出す。
人も出す。
困っているなら遠慮せず連絡してほしい。』
「……」
「何て?」
「金も人も必要なら出すって」
「そう」
「困ったら言ってくれって」
「父らしいでしょ?」
「うん」
少し笑ってしまう。
「何?」
「最近、みんな同じことを言うなと思って」
「同じ?」
「困ったら言えって」
国王陛下も。
ヴァレスト公爵も。
ミラもナディアも。
ヴィクトルも。
アストンやケーラたちもそうだ。
一人で何とかしようとすると、誰かに止められる。
「セレナ」
「何?」
「ヴァレスト公爵に会う時間、作れないかな?」
「父に?」
「うん」
「支援をお願いするの?」
「違うよ」
机の上の契約案を指した。
「出資をお願いしたい」
「……さっきの鉱山?」
「うん」
セレナが契約案を見る。
「父なら興味を持つと思うわ」
「本当?」
「金だけ渡して終わりより、こっちの方が好きそう」
「そっか」
「それに、父はまだしばらく王都にいるはずよ」
「王都に?」
「ええ。王宮にも用事があるから。早く行けば会えると思う」
「じゃあ、すぐ手紙を書くよ」
「それなら」
エドガーが言った。
「僕が王都へ出す使者に持たせよう」
「いいの?」
「どうせ今から出すんだ。別に送るより早い」
「助かる」
「私からも一筆添えるわ」
セレナが言う。
「リオンから大事な話があるって書いておけば、父も予定を空けると思う」
「ありがとう」
これでヴァレスト公爵とも話せる。
となると。
「ミラ」
「うん。父上にも話に行きたいんでしょ?」
「まだ言ってないのに」
「分かるよ、そのくらい」
「そっか」
ミラがお茶を飲む。
「それに、私も一度帰らないとね」
「え?」
「リオン」
「何?」
「私、急にここへ来たんだよ?」
「あ」
「そのままずっといるんだけど」
「あ……」
「今さら気づいた?」
「ごめん」
「別にいいけど」
ミラが笑う。
「だから、一度一緒に行こう」
「うん」
王宮。
ヴァレスト公爵。
ハーウェイ侯爵。
昨日までどうやって話を持っていくか考えていた相手と、次々に会えることになっていく。
「昨日まで」
ヴィクトルが口を開いた。
「どうやって金を集めるかって話してたのにな」
「うん」
「もう王家と公爵家と侯爵家への話が動いてるぞ」
「早いね」
「お前が言うな」
「なんで?」
「普通は王や公爵とこんな簡単に話す段取りなんてつかないからだ」
「ああ」
そう言われればそうだ。
「それに」
ナディアが微笑む。
「ベイルン家にも、ガイルさんが来られたらお話できますね」
「……あ」
「また増えたな」
ヴィクトルが笑う。
「本当だね」
机の上を見る。
『南部鉱山共同出資契約』
昨日まで、紙の上にしかなかった計画だ。
金がない。
人もいない。
だから、どうやって集めるかを考えた。
そのためには、話を聞いてくれる相手が必要になる。
そして今、その相手が少しずつ見えてきた。
「……なんとかなるかもしれないな」
「何が?」
ミラが聞いた。
「この領」
「今さら?」
「うん」
ミラが笑った。
昨日まで紙の上にしかなかった計画が、少しずつ動き始めていた。
最後まで読んでいただきありがとうございます。
季節の変わり目ですので、読者の皆様におかれましては、くれぐれもご自愛ください。




