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45歳社長、転生先でハズレスキル「綻びの目」を武器に没落領地を再建する  作者: アカメノコバチ
第21章 リオン・ハル男爵

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第566話 山の名前

お手すきの際に是非!

《剣聖》になった弟に家を追い出された俺のスキルは《会員》でした

(https://ncode.syosetu.com/n6087ms/)からご覧いただけます。

 翌朝。


「リオン様」


「何?」


 朝食を終えたところで、ルッツに呼び止められた。


「昨日の石なのですが」


「共鳴石?」


「はい。それと硬化石もです」


 ルッツの手には、昨日渡した共鳴石がある。


「できれば、もう少し持ってきていただけないでしょうか」


「どれくらい?」


「できるだけ多く」


「そんなに?」


「はい」


 返事が早い。


「硬化石は配合を変えて何度も試したいです。

 共鳴石も、どこまで加工できるのか確認したくて」


「そっか」


「共鳴石は、大きなものもいくつかあると助かります」


「割ってないやつ?」


「はい。色々と試したいことがあります」


「分かった」


 ちょうど、最初に共鳴石と硬化石を見つけた山も、もう少し調べたいと思っていた。


「じゃあ、今日は採ってくるよ」


「お願いします」


 ルッツの顔が少し嬉しそうになる。


「そんなに楽しみ?」


「はい」


「まだ朝だよ?」


「ですから、一日使えます」


「……そっか」


 やっぱり、この人はここに来て正解だったと思う。


 ◇


 裏庭。


 俺とアストン、テオ。


 三頭の馬。


 ピコはいつものように頭の上だ。


「ピー!」


「今日は大丈夫そうだね」


 テオを見る。


「何がでしょうか」


「転移」


「昨日よりは」


「慣れた?」


「慣れてはおりません」


「男爵様、そんなすぐに慣れるものではございません」


 アストンまで言う。


「二人とも同じこと言うね」


「ピー!」


 ピコだけは完全に慣れていた。


「じゃあ行こう」


 魔力を流す。


 一瞬で景色が変わった。


 馬に乗り、共鳴石と硬化石を見つけた山へ向かう。


 しばらく進んだところで、ふと思った。


「そういえば」


「どうされました?」


「この山って名前ないよね?」


 アストンが少し考える。


「少なくとも、私が確認した地図には記載されておりませんでした」


「やっぱり」


 ノア山脈には、大小いくつもの山が連なっている。


 そのすべてに名前が付いているわけではないらしい。


「毎回『共鳴石を見つけた山』って呼ぶのも面倒だよね」


「確かに」


「じゃあ、決めちゃおうか」


「山の名前をですか?」


「うん」


 どうするかな。


 こっちはノア山脈、こっちがレイ湿地か……。


「決めた!こっちはビダン山」


「ビダン山……」


「それで、昨日行ったあっちの山はアーシタ山」


 アストンが俺を見る。


「何か由来があるのでしょうか?」


「由来?」


「はい」


「……」


 ノア。


 レイ。


 ときたら、これしかないだろう。


 まあ、この世界で説明しても絶対に通じないけど。


「なんとなく」


「なんとなく、ですか」


「響きがいいかなって」


 テオを見る。


「どう?」


「私に聞かれましても……」


「ピー!」


「ピコは気に入ったみたい」


「そうなのでしょうか」


 これでいい。


 共鳴石と硬化石がある方がビダン山。


 銅らしい鉱石が見つかった方がアーシタ山。


 呼びやすくなった。


 ◇


 ビダン山へ入り、馬を安全な場所につなぐ。


「今日はどれくらいの量が採れるか確認したい」


「共鳴石と硬化石の?」


「うん」


 前回は、たまたま地表近くで見つけた。


 少ししかないのか。


 掘ればもっと出てくるのか。


 まだ分からない。


「ルッツさんの実験に使う分も欲しいしね」


「承知しました」


 亜空間収納から道具を出す。


 テオがじっと見る。


「もう驚かない?」


「驚いておりますが、毎回口に出すのはやめました」


「成長したね」


「そういう問題ではない気がします」


 三人で採掘を始める。


 まずは、前回共鳴石を見つけた場所。


 周囲の土と岩を慎重に取り除いていく。


 しばらくして。


「リオン様」


「何?」


「こちらに」


 テオが指した先を見る。


 岩の間から、青白い結晶が顔を出していた。


「あった」


 前回と同じ共鳴石だ。


「割らないように採ろう」


「はい」


 周囲から少しずつ岩を削る。


 しばらくして、拳より大きな結晶が外れた。


「大きいね」


「これも共鳴石でしょうか?」


「確認してみよう」


 端の小さな部分だけを割る。


 片方に触れる。


 ふわっ。


 二つとも光った。


「間違いないね」


 大きい方はそのまま亜空間収納へ入れる。


 さらに周囲を掘ると、また見つかった。


「こっちにもあります」


「本当?」


 一つだけじゃない。


 その奥にも。


 少し離れたところにも。


 岩の中に、いくつもの共鳴石が存在していた。


「思ったよりあるな」


「はい」


 午前中だけで、大小かなりの数を採ることができた。


 硬化石はもっと多かった。


 前回見つけた灰色の岩と同じものが、周囲の岩盤にも続いている。


 少し砕いて粉にし、土と水を混ぜて確認する。


 やはり時間が経つと固くなった。


「こっちも間違いなさそう」


「かなりございますね」


「うん」


 露出している部分だけでも相当ある。


 今日は実験に必要な分だけ採り、亜空間収納へ入れていく。


「これくらいでいいかな」


「かなりの量ですが」


「ルッツさんなら使いそうでしょ?」


「……否定できません」


 ◇


「男爵様」


 アストンの手が剣へ伸びた。


「来た?」


「はい」


 茂みの向こうから大きな魔物が姿を現す。


「ガルムベアだ」


「ピー!」


「今日は食べるの待ってね」


「ピー……」


 戦う前から残念そうにされても困る。


 ガルムベアが吠えた。


「私が」


「お願い」


 アストンが前へ出る。


 昨日のアーシタ山では、午前中だけで何度も魔物が出た。


 しかも、どれもかなり手強かった。


 それに比べると、ビダン山では遭遇する数も少ない。


 ガルムベアも危険な魔物だけど、アストンの相手にはならなかった。


 何度か剣を交えただけで倒れる。


「終わりました」


「ありがとう」


「ピー!」


「待って」


「ピー……」


 昨日から、魔物の素材が気になっている。


 食べられる前に亜空間収納へ入れた。


「あとで、これも売れるか調べよう」


「この辺りの魔物であれば、素材を集めるのもそれほど難しくなさそうですね」


「そうだね」


 アーシタ山とはかなり違う。


 同じノア山脈でも、場所によって危険度が違うらしい。


 山を下りる。


 その先に見えるのは、レイ湿原。


 ビダン山やアーシタ山と湿地の間には、比較的乾いた土地が広がっている。


「……この辺、使えそうだな」


「何にでしょうか?」


 アストンが聞く。


「人が集まる場所」


「人が?」


「うん」


 共鳴石。


 硬化石。


 アーシタ山の鉱石が本当に銅なら、そこでも採掘する人が必要になる。


 さらに、アーシタ山には強い魔物も多い。


「いずれ冒険者も呼びたい」


「冒険者ギルドを誘致されるのですか?」


「できればね」


 山の中に町を作る必要はない。


 危険だし、土地も使いにくい。


 でも、山とレイ湿原の間なら話は別だ。


 比較的平らで、山にも湿地にも行きやすい。


「この辺に拠点を作れたらいいよね」


「採掘のための拠点ですか?」


「それだけじゃないよ」


 冒険者ギルド。


 宿。


 食堂。


 道具を売る店。


 鍛冶場。


 倉庫。


 採掘する人たちの家。


 それに、レイ湿原で米を作るようになれば、農業に関わる人も増える。


「山で働く人と、湿地で働く人の両方が使える場所にしたい」


「なるほど」


 テオが周囲を見る。


「人が増えれば、商人も来そうですね」


「そう。それで店が増える」


「そこまでいけば、町になりますね」


「だよね」


 まだ何もない。


 草と土があるだけだ。


 まともな道すらない。


 でも、ハル領の西の森を思い出す。


 あそこも最初は何もなかった。


 少しずつ人が集まり、仕事が生まれ、景色が変わっていった。


 ここもそうなるかもしれない。


 山と湿地の間に、人が集まる。


 そこから両方へ仕事に向かう。


「……楽しみだな」


「何がでしょうか?」


「ここに町ができるの」


 アストンとテオも、山と湿地の間に広がる土地を見る。


 今は何もない。


 でも俺には、少しだけ違う景色が見える気がした。


 ◇


 昼頃。


 魔力印まで戻り、三頭の馬と一緒に屋敷へ転移した。


「おかえり」


「ただいま」


 着替えて食堂へ行くと、ミラが待っていた。


「今日はどうだった?」


「かなりの量の硬化石と共鳴石が見つかったよ」


「本当?」


「うん。掘ったら思ったより出てきた」


「よかったね」


「これならルッツさんも実験できると思う」


「朝からずっと楽しみにしてたよ」


「もう何かやってた?」


「ずっと何かやってたよ?」


「やっぱり」


 二人で昼食を食べる。


「そういえば、山に名前を付けた」


「名前?」


「共鳴石と硬化石がある方がビダン山」


「ビダン山」


「昨日の方がアーシタ山」


「アーシタ山」


 ミラが少し考える。


「どうして?」


「なんとなく」


「両方とも?」


「うん」


「怪しい」


「何が?」


「絶対何かあるでしょ」


「ないよ」


 ノア、レイ、ビダン、アーシタ。


 説明しても分からない。


「まあ、いいけど」


「いい名前でしょ?」


「悪くはないと思うよ」


「よかった」


 ◇


 昼食を終え、ルッツのところへ行く。


「ルッツさん」


「はい」


「持ってきたよ」


「本当ですか?」


「うん」


 亜空間収納から共鳴石を出す。


 一つ。


 二つ。


 三つ。


 さらに並べる。


「……まだあるのですか?」


「あるよ」


 大小の共鳴石を机の上へ置いていく。


「これくらい」


「十分です」


「足りる?」


「十分すぎます」


 次は硬化石。


 こちらは机に載せきれないので、庭の端へまとめて出した。


「こっちも」


 ルッツが硬化石の山を見る。


「これなら何度でも試せます」


「でしょ?」


「配合もかなり細かく変えられます」


 もう実験のことを考えている。


「共鳴石は、どの原石から分けたものか分かるようにしてね」


「はい。混ざらないように印を付けます」


「お願い」


 昨日話した通信の仕組みを作るなら、管理は重要だ。


「テオ」


「はい」


「午後はルッツさんを手伝ってもらっていい?」


「承知しました」


「今日の午後だけで大丈夫。騎士団の方もあるから」


「はい」


 ルッツはすぐに共鳴石を一つ手に取った。


「まずは、この石が何に反応するのか調べてみます」


「人の手以外でも?」


「はい。木や金属を使っても反応するのか。それによって作れる仕組みが変わります」


「分かった。結果を教えて」


「はい」


「じゃあ、俺は政務所へ行ってくる」


「ピー!」


「ピコもこっち」


「ピー?」


 ルッツについていこうとしたピコを抱える。


「実験材料は食べちゃ駄目だからね」


「ピー……」


 ◇


 午後。


 政務所で書類を確認する。


「こちらは本日中にお願いします」


「うん」


 ミアから書類を受け取る。


 一枚確認して署名する。


「これは?」


「明日でも問題ありません」


「じゃあ後にしよう」


「はい」


 仕事のない領民にお願いする簡単な作業も、少しずつ増えていた。


 政務所の外では草刈り。


 倉庫では荷物の整理。


 屋敷でも今日は二人に掃除をお願いしているらしい。


 まだ小さな変化だ。


 でも、昨日仕事がなかった人が、今日は働いて収入を得ている。


 こういうことを積み重ねていけばいい。


「男爵様!」


 入口から声がした。


「何?」


 一人の文官が慌てて入ってくる。


「馬車が参りました」


「馬車?」


「はい。セルヴァン王国のものです」


「セルヴァン?」


 思わず立ち上がる。


「お?ナディアが米の専門家を連れてきてくれたかな?」


「それが……十台ほどなのですが……」


「十台?」


 何だそれ。


「リオン」


 ミラも立ち上がった。


「行こう」


「うん」


 政務所の外へ出る。


「……本当に十台ある」


 街道に馬車が並んでいる。


 先頭から後ろまで、ずっと続いていた。


 セルヴァン王国の紋章。


 周囲には護衛もいる。


 何事かと領民たちまで集まり始めていた。


「誰が来たんだろう」


 そう言った時。


 先頭の馬車の扉が開いた。


 一人の女性が降りてくる。


「……え?」


「ナディア?」


「リオンさん」


 ナディアが柔らかく笑った。


「ご無沙汰しています」


「ナディア!」


「ミラさんもご無沙汰しています」


「どうしてここに?」


「以前、お話しいただいた件です」


「以前?」


「リオンさんの手紙にあったレイ湿原のことです」


「あ」


「お米を作りたいとおっしゃっていましたよね」


「うん」


 もちろん覚えている。


 ナディアに、セルヴァンから米作りに詳しい人を呼べないか相談した。


「少し準備に時間が掛かってしまいました」


「いや、それはいいけど……」


 後ろを見る。


「これ、全部?」


「はい」


「十台あるよ?」


「必要なものを揃えたら、多くなってしまいました」


「必要なもの?」


 ナディアが後ろを振り返る。


「まず、稲作に詳しい者たちです」


 別の馬車から何人もの男女が降りてくる。


「こんなに?」


「稲を育てる者だけでは足りませんから」


「え?」


「水路や水量の管理に詳しい者も連れてきました」


「ああ」


 湿地を水田に変える。


 言われてみれば、稲の育て方だけ知っていても駄目だ。


「種籾と農具もあります」


 別の馬車を見る。


 農具や大きな袋が積まれていた。


「しばらく滞在してもらう予定ですので、生活に必要なものも持ってきています」


「しばらく?」


「はい。レイ湿原を確認して最初の準備ができるまでは」


「そこまでしてくれるの?」


「そのつもりで来ました」


 ナディアはいつもの落ち着いた声で言った。


「ありがとう」


「いえ」


 それだけ言うと、ナディアはもう一台の馬車を見る。


「それと、もう一つあります」


「まだあるの?」


「はい」


 馬車の荷台に掛けられた布をめくる。


 中には袋がびっしりと積まれていた。


「これ何?」


「お米です」


「米?」


「はい」


「これ全部?」


「はい。セルヴァン王国の南部で生産されているお米です。ほかの馬車にもあります」


「そんなに?」


 ナディアが小さく頷く。


「領民の皆さんに食べていただこうと思いまして」


「領民に?」


「はい」


 ナディアが米の袋を見る。


「これから育てるものが、どんな食べ物なのか分からないままでは、領民の皆様も頑張りにくいと思います」


「……なるほど」


「美味しいと思ってもらえれば、作りたいと思う方も増えるかもしれません」


 確かにそうだ。


 いくら俺が米を作りたいと言っても、領民は米そのものを知らない。


 まず食べてもらう。


 その方がずっと分かりやすい。


「種籾とは別だよね?」


「……。もちろんです。こちらは食べるために持ってきました」


「すごい量だね」


「できるだけ多くの方に食べていただきたかったので」


 十台の馬車。


 稲作に詳しい人たち。


 水の管理に詳しい人。


 種籾。


 農具。


 生活用品。


 そして大量の米。


 俺がお願いしたのは、米作りに詳しい人を紹介してほしいということだった。


 まさか、ここまで準備してくれるとは思っていなかった。


「ナディア」


「はい?」


「本当にありがとう」


「いえ」


 ナディアが少し笑う。


「お待たせしました」


 それから南の方へ視線を向ける。


「リオンさん」


「うん?」


「お米を作りましょう」


最後まで読んでいただきありがとうございます。

関係ない話ですが、自分はパンよりお米が好きです。

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― 新着の感想 ―
なんだ…女(山)か…
ナディアが来た!! 石が見つかった時にビィクトルにも手紙を書いているはず… これは皆集合パターン?
婚約済の第一王女が留学先を卒業して、そのまま他国にある大使館で働くだけでも有り得ない展開でしたが、その王女がボランティアで他国の一領主を助けるとは、どのような設定? 考えられるとしたら、セルヴァンはア…
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