↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
45歳社長、転生先でハズレスキル「綻びの目」を武器に没落領地を再建する  作者: アカメノコバチ
第21章 リオン・ハル男爵

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
586/680

第563話 一人じゃない

お手すきの際に是非!

《剣聖》になった弟に家を追い出された俺のスキルは《会員》でした

(https://ncode.syosetu.com/n6087ms/)からご覧いただけます。

「なんでみんな来たの?」


 思わず聞いてしまった。


 父上には、騎士を二人お願いした。


 だからノルとテオは分かる。


 でも、ミアとアーロンまでいるとは思っていなかった。


「その前に」


 ノルが俺の後ろを見る。


「あ」


 振り返ると、ミラがいた。


 四人が姿勢を正す。


「ミラ様」


「ノルさん、お久しぶりです」


 ノルが頭を下げ、ミアも続く。


「ミラ様、お久しぶりです」


「ミアさんも久しぶり」


 テオとアーロンも、それぞれミラへ挨拶する。


「ミラ・ハーウェイです。しばらくこちらに滞在しています」


「伺っております」


 ノルが答える。


 ミラが俺を見る。


「リオン」


「何?」


「みんなが来た理由、聞かなくていいの?」


「あ、そうだった」


「相変わらずですな」


 ノルが笑う。


「何が?」


「いえ、何でもございません」


「気になるな……」


 ◇


 全員で屋敷へ入った。


 応接室へ移ると、ノルが一通の手紙を差し出した。


「旦那様からお預かりしております」


「父上から?」


「はい」


 封を開く。


 間違いなく父上の字だ。


『リオンへ。


 頼まれていた騎士については、ノルとテオを半年間そちらへ派遣することにした。


 二人とも了承している。


 現地の状況を一番知っているのはお前だ。


 具体的な役割については、二人と相談して決めなさい。


 それから、ミアとアーロンについて。


 二人から、そちらで働きたいと申し出があった。


 本人たちとも話をしたが、一時の思いつきではないようだ。


 受け入れるのであれば、役割や処遇についてはお前に任せる。


 領主として、二人とよく話して決めなさい』


 そこで手紙から顔を上げた。


「ミア」


「はい」


「本当にこっちで働くの?」


「はい」


「アーロンも?」


「そのつもりです」


「でも、ハル領の仕事は?」


「引き継ぎは済ませてきました」


 アーロンが答える。


「いつの間に……」


「リオン様がこちらの領地を任されると決まった頃から、少しずつ準備しておりましたので」


「そんな前から?」


「はい。こちらの領の状況はハル領でも共有されています」


 ミアが俺を見る。


「私は、こちらでもリオン様のお側で働きたいです」


「……」


「駄目でしょうか?」


「まさか」


 すぐに答えた。


「すごく助かるよ」


 ミアの表情が明るくなる。


「ありがとうございます」


「アーロンも」


「はい」


「来てくれてありがとう」


「まだ来ただけですよ」


「それでも助かる」


 手紙には続きがあった。


『それと、今そちらで必要になりそうなものも持たせた。


 領都の紙工房で作っている安価な紙を、まとまった量積んである。


 上等な紙ほど質は良くないが、政務や記録に使うには問題ない。


 農具や工具についても在庫を確認させている。


 こちらから回せるものは後便で送るつもりだ。


 何でもハル領に頼れという意味ではない。


 ただ、立て直しの最初だからこそ必要なものもあるだろう。


 使えるものは使いなさい。


 その上で、自分の領地を作っていけばいい。


 ガルド』


「……父上」


 思わず声が漏れた。


「紙、本当にあるの?」


「ございます」


 ミアが答える。


「馬車にかなり積んであります」


「かなり?」


「はい」


 昨日まで、不要になった書類の裏を使って共鳴石の信号表まで作っていた。


 紙は政務所でも大量に使う。


 安いものでも、まとまった量が手に入るのはありがたい。


「それと、リオン様」


 アーロンが言う。


「私からも一つ」


「何?」


「種芋を持ってきました」


「種芋?」


「はい」


「どのくらい?」


「こちらも、かなりあります」


「本当に?」


 思わず身を乗り出す。


「ハル領で確保していたものの中から、こちらへ回せる分を持ってまいりました」


「アーロン」


「はい」


「ありがとう」


「まだ植えてもいませんよ」


「持ってきてくれただけでも助かるよ」


 紙。


 種芋。


 さらに後から農具や工具も来る。


 金貨をもらったわけじゃない。


 でも、今の俺たちが金を出して買わなければならなかったものばかりだ。


「父上にもちゃんとお礼を書かないとな」


「それがよろしいでしょうな」


 ノルが珍しく笑った。


 ◇


「じゃあ、みんなにはこれから――」


 何を頼むか説明しようとした。


 ところが。


「その前に、騎士団を見せていただけますかな?」


 ノルが言った。


「え?」


「人数、技量、現在の訓練内容。その辺りを確認したいです」


「あ、うん」


「半年しかおりませんので、私が帰った後にも続けられる形にしたいと思っております」


「それは助かる」


「テオ」


「はい」


「おまえは若い者を頼む」


「そのつもりです」


 今度はテオが俺を見る。


「リオン様。若い騎士たちの普段の訓練に、私も一緒に入ってよろしいでしょうか?」


「もちろん」


「ありがとうございます」


「じゃあ、アーロンは――」


「まず村を回らせていただけますか?」


「村?」


「はい」


 また先に言われた。


「農地を見るの?」


「それもありますが、その前に詳しく話を聞きたいです」


「どんな?」


「今作っている作物。種の確保方法。肥料に何を使っているか。家畜の数。それと、普段捨てているものです」


「捨てているもの?」


「刈った草、落ち葉、藁、台所から出る植物くずなどです」


「ああ」


 すぐに分かった。


「堆肥?」


「はい」


 アーロンが頷く。


「こちらは家畜が少ないと聞いています。糞だけで十分な量を作るのは難しいでしょう」


「うん」


「ですから、各村で何が手に入るのかを先に確認したいと思います」


「なるほど」


「持ってきた種芋についても、一か所へ全部植えるつもりはありません。

 いくつかの場所へ分けて、まず小さく試します」


「その方がいいね」


「では、そうします」


 俺、まだ何も頼んでないんだけど。


「ミアは?」


「私はリオン様のお側に戻ります」


「前みたいに?」


「はい。ただ、以前よりリオン様のお仕事が増えております。

 身の回りだけではなく、予定や書類の整理もお手伝いしたいです」


「それならケーラと仕事が重ならない?」


「そのことは、先ほどケーラさんともお話ししました」


「もう?」


「はい」


 早い。


 ケーラが一歩前へ出る。


「私は屋敷全体の管理、来客、書簡、それから政務所など外部との連絡を担当いたします」


 ミアが続ける。


「外から来るものはケーラさん。リオン様のお手元に来たものは私が整理します」


「なるほど」


 分かりやすい。


 ケーラが屋敷と外をつなぐ。


 ミアが俺の仕事を直接支える。


「それでお願いしていい?」


「はい」


「承知いたしました」


 全員を見る。


「……なんか」


「何ですか?」


 ミアが聞く。


「俺が仕事を頼む前に、みんな決めちゃったね」


「そのために来ましたから」


 アーロンが当たり前のように答える。


「そうですな」


 ノルも頷いた。


 横を見ると、ミラが笑っている。


「リオン」


「何?」


「よかったね」


「うん」


 俺も笑った。


「本当に」


 ◇


 それから数日。


 屋敷の中から、少しずつ変わった。


「リオン様。本日中に確認が必要なのはこちらです」


 朝。


 ミアが机の上へ書類を置く。


「こっちは?」


「明日で問題ありません」


「これは?」


「ローレンさんからです。午後に確認したいとのことです」


「分かった」


 以前なら届いた書類を一つずつ開き、自分で優先順位を考えていた。


 今は、俺の机へ来る前に整理されている。


 そこへケーラが入ってきた。


「男爵様。午後、政務所から二名いらっしゃいます。それから南の村から返事が届きました」


「ありがとう」


「書簡はミアさんへお渡ししてあります」


「分かった」


 俺の前にある仕事の量が減ったわけじゃない。


 でも、気持ちはだいぶ楽になった気がする。


 ◇


「もう一度」


「はい!」


 騎士団の訓練場にも、大きな声が響くようになった。


 ノルが来てから、訓練の内容が明らかに変わった。


 走る。


 剣を振る。


 隊列を組む。


 疲れたところでもう一度動かせる。


 一方、若い騎士たちはテオが重点的に見ていた。


「足を止めるな」


「はい!」


「剣だけ見るんじゃない。相手全体を見ろ」


「はい!」


 テオ自身がまだ若いからなのか、若手たちはノルよりも質問しやすそうだ。


「どう?」


 隣で訓練を見ていたアストンに聞く。


「ノル殿ですか?」


「うん」


「見事です」


「やっぱり?」


「動きに一切の無駄がありません」


「訓練のやり方も?」


「はい」


 アストンが騎士たちを見る。


「厳しくはありますが、理にかなっています」


「例えば?」


「疲労した後に隊列訓練を入れています」


「実戦じゃ元気な状態で戦えるとは限らないから?」


「その通りです」


 さらにノルは、一人一人の様子を見ながら負荷を変えている。


 ただ全員を限界まで走らせているわけじゃない。


「教えるのもうまいんだね」


「はい」


 アストンがノルを見る。


「非常に優れた騎士だと思います」


「そっか」


 半年。


 その間に、この騎士団がどこまで変わるのか。


 少し楽しみになった。


 ◇


 アーロンも村々を回り始めた。


「牛はいないんですね?」


「はい。山羊が三頭と、鶏が十羽ほどです」


「刈った草は?」


「畑の端へ捨てています」


「落ち葉はどうしていますか?」


「燃やすことが多いですね」


「藁は?」


「冬にも使いますので、あまり余りません」


 一軒ずつ。


 一つずつ。


 聞いていく。


 すぐに収穫量が増えるわけじゃない。


 イモだって、植えた翌日に採れるわけじゃない。


 それでも村の一角には、少しずつ変化が出始めた。


「ここへ集めてください」


 刈った草。


 落ち葉。


 台所から出た植物くず。


 今まで捨てたり燃やしたりしていたものが、一か所へ集まり始める。


「これが肥料になるんですか?」


 村人が聞く。


「すぐにはなりません」


 アーロンが答える。


「水分を見ながら混ぜて、時間を掛けます。まずは小さく試します」


「分かりました」


 まだ成果じゃない。


 でも、今まで捨てていたものを使おうとする動きが始まった。


 持ってきた種芋も、すぐ全部は使わない。


 状態を確認し、保存場所を分け、どの村でどれだけ試すのかを決めていく。


「ずいぶん慎重だね」


 俺が言うと、アーロンが笑った。


「農業は急いだからといって、早く育ってはくれませんので」


「確かに」


「全部まとめて失敗する方が怖いです」


「うん。そのやり方でお願い」


「承知しました」


 ◇


 政務所でも、少しずつ空気が変わっていた。


「男爵様」


「何?」


 以前、俺が仕事のやり方を変えるたびに反対していた年配の文官が、資料を持ってきた。


「こちらについて、ご相談してもよろしいでしょうか」


「もちろん」


「現在は二人で確認しておりますが、この書類については一人でも問題ないのではないかと思いまして」


「理由は?」


「金額を扱う書類ではありません。それに、提出後に別の台帳でも確認できます」


「なるほど」


 以前なら、


『これまでは三人で確認しておりました』


 と言っていた人だ。


 その人が今は、自分から仕事を減らせる場所を探している。


「ローレンはどう思う?」


「私も問題ないかと」


「じゃあ、試してみよう」


「承知しました」


 文官が戻っていく。


 隣を見るとミラがいる。


「何?」


「いや」


「私、何も言ってないよ?」


「分かってる」


 今日は何も言っていない。


 でも、ここ数日ずっと文官たちの話を聞いていた。


 俺が何をしたいのか。


 今までの仕事を全部否定したいわけじゃないこと。


 必要なものは残すこと。


 それが少しずつ伝わってきたんだと思う。


 以前より、向こうから相談してくる人が増えた。


 俺が一つずつ問題を探さなくても、現場から上がってくるようになった。


 これも大きな変化だ。


 ◇


 そして、金。


 売却を頼んでいた屋敷の調度品は、思っていた以上の値段で売れた。


「こんなに?」


「旧グレイヴ伯爵家で使われていたものですから」


 ローレンが答える。


「状態の良いものには、かなり値がついたようです」


「助かるな……」


 本当にありがたい。


 でも、一覧を見ていると見覚えのない項目があった。


「ミラ」


「何?」


「これ何?」


「どれ?」


「このドレス」


「ああ。それ?」


「それ? じゃないよ」


 売却予定の中に、女性用のドレスが何着も入っている。


「私のだよ」


「それは分かるよ。なんで売るの?」


「そんなに着ないから」


「いやいや」


「必要な分は残してあるよ」


「でも、ほとんどじゃない?」


「うん」


「駄目だよ」


「なんで?」


「ミラの物でしょ?」


「だから、私が売るって決めたんだけど」


「そういう問題じゃなくて」


「じゃあ、どういう問題?」


「侯爵令嬢なんだから、必要になる時だってあるでしょ」


「その分は残してあるよ」


「でも――」


「リオン」


「何?」


 ミラが真っすぐ俺を見る。


「領のみんなが苦しいのに、私だけが何着もドレスを持って贅沢するのは嫌なの」


「……」


「ここで毎日夜会に出るわけじゃないし」


「それはそうだけど」


「着ないものを置いておくより、今使えるお金になった方がいいでしょ?」


「でもさ……」


「売るよ」


「……」


 頑なだ。


「本当にいいの?」


「うん」


「後悔しない?」


「しない」


「……分かった」


 結局、俺が折れた。


「ありがとう」


「こっちが言うことじゃない?」


「それでも」


 ミラが笑う。


「どういたしまして」


 ◇


 人を減らした。


 不要な支出も削った。


 調度品も売れた。


 ミラのドレスまで売ることになった。


 資金繰りがギリギリなのは変わらない。


 それでも、ここへ来たばかりの頃に比べれば少しだけ楽になった。


 ただし、安心できる状態じゃない。


 調度品を売れるのは一度だけ。


 ドレスだって同じだ。


 一時的に金が入っただけで、この領地が稼げるようになったわけじゃない。


「ここからだな」


 夜。


 執務室の机に紙を広げた。


 今後どうするのか。


 考えていることを一つずつ書いていく。


 書いては考える。


 数字を入れる。


 消す。


 もう一度書く。


 誰に話すのか。


 何を先に確認する必要があるのか。


 どれだけの金が必要になりそうなのか。


 しばらくして、手を止めた。


 まだ仮の計画だ。


 でも、これがうまくいけば資金繰りの問題は一気に変わるかもしれない。


 そのためには、まだ足りない。


 確認しなければならないことがある。


 ノア山脈。


 共鳴石。


 硬化石。


 どのくらいの量が採れるのか。


 ほかの山には何があるのか。


 そこが分からないまま、大きな話を進めることはできない。


「もう少し調べないとな」


 紙を畳んだ。


 ◇


 翌朝。


「アストン」


「はい」


「また山に行こう」


「承知しました」


「ピー!」


「ピコもね」


「ピー!」


 裏庭へ出る。


 今回も馬を二頭連れていく。


 山の入口には魔力印があるから、もう湿地を馬で抜ける必要はない。


「男爵様」


「何?」


「前回と同じ山を調べるのでしょうか?」


「いや」


「違うのですか?」


「うん」


 共鳴石と硬化石が見つかった山は、あとで本格的に調べる。


 採れる量。


 広がっている範囲。


 魔物。


 採掘方法。


 人を入れて調査する必要がある。


「今日は別の山に行く」


「別の山ですか」


「うん」


 ノア山脈は広い。


 一つの山だけで全部を判断することはできない。


「一つ目が当たりだったからね」


「二つ目も当たりとは限りません」


「分かってるよ」


「でしたらよろしいのですが」


「でも、調べないと分からないでしょ?」


「それはその通りです」


 アストンが俺の肩へ手を置く。


 以前なら政務所を離れていいのか、騎士団は大丈夫か。


 屋敷は?


 農業は?


 そんなことを全部考えていた。


 今は違う。


 政務所にはローレンとミラがいる。


 屋敷にはミアとケーラ。


 騎士団にはノルとテオ。


 農業にはアーロンがいる。


 だから、俺は俺にしかできないことをやればいい。


「行くよ」


「はい」


 魔力を流す。


 次の瞬間、ノア山脈の入口へ景色が変わった。


 前回調べた山が目の前にある。


 でも、今日はそこじゃない。


 少し離れた場所にある別の山へ目を向ける。


「次はあっち」


「承知しました」


 馬に乗る。


「行こう」


「はい」


「ピー!」


 馬を進めた。


 次の山には、何があるのか。


 それを確かめに行く。



最後まで読んでいただきありがとうございます。

前話のタイトルは「希望の光」でした。

リオンにとっての希望の光はミラであり、ケーラ、アストンであり、ノル達であり、変わりつつある文官たちなのではないでしょうか?

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
ミラ、素敵♪
リオンが今までつちかってきた人脈とかが助けになって来てますね~。出て行く人もいれば入って来る人達もいる(かなり有能)領地が賑わえば出て行った人達も帰って来るのでは?でも無能な人達はご遠慮したいね(元騎…
大まかでいいので国の地図が見たい。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。