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45歳社長、転生先でハズレスキル「綻びの目」を武器に没落領地を再建する  作者: アカメノコバチ
第21章 リオン・ハル男爵

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第561話 二つの石

お手すきの際に是非!

《剣聖》になった弟に家を追い出された俺のスキルは《会員》でした

(https://ncode.syosetu.com/n6087ms/)からご覧いただけます。

 馬を進める。


「うわ……」


 前を歩いていた馬の脚が、ずぶりと沈んだ。


 慌てて手綱を引く。


「こっちは駄目だな」


「少し西へ回りましょう」


「うん」


 レイ湿地。


 遠くから見ると、一面の草原にも見える。


 でも、実際に入ってみると全然違う。


 地面が固いところもあれば、馬の脚が簡単に沈むところもある。


 水が溜まっている場所も多い。


 少し進んでは足元を確かめる。


 危なそうなら戻って、別の場所を探す。


「思ったより進まないね」


「馬の脚を傷めるわけにはいきませんので」


「そうだね」


 ピコは俺の肩の上だ。


「ピー!」


「ピコは楽でいいよね」


「ピー!」


 返事だけはいい。


 それにしても、これでは人や荷物を運ぶのは大変だ。


 将来、この湿地を開発するなら道も必要になる。


 そんなことを考えながら進む。


 しばらくすると、ようやく地面が固くなってきた。


 顔を上げる。


 さっきまで遠くにあった山が、かなり近い。


「もう少しですね」


「うん」


 ノア山脈。


 今日はその手前にある山から調べる。


 さらに進み、木々が増えてきたところで馬を止めた。


「ここからは歩こうか」


「その方がよろしいでしょう」


 二頭の馬を木につなぐ。


「ピコ、行くよ」


「ピー!」


 俺とアストンは山へ入った。


 ◇


 人が入った形跡はほとんどなかった。


 道もない。


 枝を避けながら進む。


「本当に手つかずなんだな」


「そのようですね」


「ハーウェイ領側はいくつか調査したことがあるみたいだけど」


「こちら側までは来ていないのでしょう」


「だろうね」


 ノア山脈は広い。


 反対側から調べたからといって、全部を見られるはずもない。


 足元を見る。


 石。


 土。


 岩。


 今のところ、特に変わったものはない。


「そう簡単には見つからないか」


「まだ入ったばかりです」


「そうだね」


 しばらく歩く。


 その時だった。


「ん?」


 岩肌の一部に、薄く青白いものが見えた。


 近づく。


「アストン」


「はい」


「これ、何だろう」


 岩の隙間から半透明の結晶がいくつも出ている。


 大きいものは手のひらほど。


 小さいものなら指くらいだ。


「魔石でしょうか」


「かな?」


 一本へ手を伸ばす。


 指先が触れた。


 ふわっ。


「……あ」


 結晶が薄く光った。


 青白い光。


 でも、すぐに消える。


「光りましたね」


「うん」


 もう一度、指で軽く触れる。


 また光った。


「魔石みたいだね」


「しかし……」


 アストンが結晶を見る。


「かなり弱い光です」


「そうだね」


「これでは灯りにもならないかと」


「うん」


 青輝石とは全然違う。


 暗闇を照らせるような光じゃない。


「何に使うんだろう」


 結晶の根元を持つ。


「ちょっと取ってみるか」


 力を入れる。


 思ったより固い。


「んっ……」


 さらに力を加えた。


 パキッ。


「あ」


 途中から割れた。


 小さな破片が地面へ落ちる。


「割れちゃった」


 手元には半分ほど残っている。


 表面についた土を指で払う。


 ふわっ。


 手の中の結晶が光った。


 その瞬間。


「……ん?」


 足元を見る。


 地面に落ちた破片も光っていた。


「今……」


「はい」


 アストンも見ていたらしい。


「落ちた方も光りましたね」


「だよね」


 しゃがんで拾う。


 光はもう消えている。


 右手に大きい方。


 左手に小さい方。


 右手の結晶へ、指先で軽く触れる。


 ふわっ。


 二つとも光った。


「……」


 もう一度。


 今度は左。


 やっぱり二つとも光る。


「なんで?」


 綻びの目を使う。


 視界に文字が浮かんだ。


《結晶:破断》

《反応経路:維持》

《光反応:同期》


「反応経路……」


「男爵様?」


「割れてるのに、つながったままみたいだ」


「つながっている?」


「たぶん」


 でも、同じような結晶なら全部反応するのか?


 隣に生えている別の結晶を一本取る。


 そちらへ触れる。


 ふわっ。


 新しく取った結晶だけが光った。


 最初の二つは光らない。


「……違う」


「何がでしょう?」


「別の結晶には反応しない」


 最初の破片へ触れる。


 二つだけが光る。


 新しく取った結晶は光らない。


「同じ一つの結晶だったものだけ?」


「そのように見えます」


 面白い。


「アストン」


「はい」


「これ持って」


 小さい方の破片を渡す。


「何をするのでしょうか」


「ちょっと離れてみて」


「離れる?」


「うん。まずあの木まで」


「承知しました」


 アストンが歩いていく。


 十歩ほど。


「そこでいいよ!」


「はい!」


 手元の結晶へ触れる。


 ふわっ。


「そっちは?」


「光りました!」


「もう少し離れてみて!」


 さらに進んでもらう。


 二十歩。


 三十歩。


 木々の間に、アストンの姿が小さくなっていく。


「そこで!」


 もう一度触れる。


「どう?」


「光っております!」


「……」


 距離は関係ないのか?


「今度はそっちを触ってみて!」


「承知しました!」


 待つ。


 ふわっ。


 俺の手元の結晶が光った。


「……すごいな」


 アストンが戻ってくる。


「何か分かったのでしょうか?」


「少なくとも、あの距離でも反応する」


「はい」


 アストンが手の中の破片を見る。


「ですが、何に使うのでしょう」


「……」


 離れていても。


 片方への刺激が、もう片方に伝わる。


 しかも別の結晶には伝わらない。


 短く。


 長く。


 もし、この光に意味を持たせることができたら――。


「……これ、すごいことになるかもしれない」


「この石が、ですか?」


「うん」


「失礼ながら、灯りとして使うには弱すぎるように思いますが」


「普通はそう思うよね」


「違うのでしょうか」


「たぶんね」


「何に使うのですか?」


「まだ秘密」


「……承知しました」


 何か分かってない顔だ。


 俺だってまだ分からないことばかりだ。


 どこまで離れても反応するのか。


 何度使っても大丈夫なのか。


 大きさで反応に違いはあるのか。


 調べないといけないことはいくらでもある。


「共鳴してるみたいだな」


「共鳴、ですか」


「うん。とりあえず共鳴石って呼ぼうか」


「承知しました」


 同じ場所から、形のいい結晶を五つほど採った。


「結構重いですね」


「そうだね」


「馬まで運びましょうか」


「いや、大丈夫」


「ですが――」


 結晶へ手を伸ばす。


 亜空間収納を開く。


 五つの結晶が消えた。


「……」


 アストンが固まる。


「どうしたの?」


「男爵様」


「何?」


「今のは……スキルでしょうか?」


「ああ、これ?」


「はい」


「違うよ。魔法」


「魔法……ですか」


「亜空間収納っていうんだ」


 アストンが、石の消えた場所を見る。


「そのような魔法が……」


「驚いた?」


「はい」


 素直だ。


「でも、アストンには話してもいいと思ってるから」


「私に、ですか?」


「うん」


 アストンを見る。


「信用してるから」


「……」


 一瞬だけ黙ったあと、アストンが頭を下げた。


「ありがとうございます」


「でも、まだ他の人には秘密ね」


「もちろんです」


「じゃあ、もう少し行こうか」


「はい」


 ◇


 さらに山へ入る。


 共鳴石が他にもないか、周囲を見ながら歩く。


「さっきの場所だけじゃなければいいんだけどな」


「採れる量は重要なのですね」


「うん。一個だけ見つかっても商売にはならないから」


 その時。


「ピー!」


 肩のピコが鳴いた。


「どうした?」


「男爵様」


 アストンの声が変わる。


 前方。


 茂みが大きく揺れた。


「グルルルル……」


 姿を現したのは、大きなガルムベアだった。


「こんなところにもいるのか」


 剣へ手を伸ばす。


「男爵様」


「何?」


「私が」


「え?」


 アストンが前へ出た。


 ガルムベアが地面を蹴る。


 速い。


 巨体が一気に距離を詰める。


 アストンは動かない。


「ちょっと――」


 ガルムベアが前脚を振り上げる。


 その瞬間、アストンが半歩横へ動いた。


 前脚が空を切る。


 同時に剣を抜く。


「……速い」


 ガルムベアが振り返る。


 もう一度突っ込む。


 アストンは正面から受けない。


 横へかわす。


 さらに踏み込む。


 剣が走った。


「グオッ!」


 傷を負ったガルムベアが大きくよろめく。


 その巨体が岩壁へぶつかった。


 ドンッ!


 岩が崩れる。


 灰色の欠片と粉が地面へ落ちた。


 それでもガルムベアは倒れない。


「アストン!」


「問題ございません」


 再び前脚が振り下ろされる。


 アストンが懐へ入る。


「はっ!」


 一閃。


 ガルムベアの動きが止まった。


 そのまま地面へ倒れる。


「……強いね」


「リオン様ほどではございません」


「いや、かなり強いよ」


 普通に強い。


 護衛としては相当な腕なんじゃないか?


「どこで覚えたの?」


「騎士として必要な訓練を受けただけです」


「それだけ?」


「それと、以前」


「うん」


「王都武闘大会で三位になったことがございます」


「……三位?」


「はい」


「それ、初めて聞いたんだけど」


「お話しする機会がございませんでしたので」


「通りで強いわけだ」


「一位ではございません」


「三位でも十分だよ」


 何で今まで言わなかったんだ。


「ピー!」


 ピコもアストンを見る。


「ピコも驚いた?」


「ピー!」


「ありがとうございます」


 アストンが真面目に頭を下げた。


 ピコにまで丁寧だ。


 ◇


 そのあとも、しばらく周辺を調べた。


 岩肌を見る。


 地面を見る。


 さっきの共鳴石と同じものは見つからない。


「今日はこれだけかな」


「これが見つかっただけでも十分かと」


「まあね」


 そろそろ戻ろうか。


 そう思い、ガルムベアと戦った場所の近くまで戻ってきた時だった。


「……ん?」


 足が止まる。


「どうされました?」


「ここ」


 地面を見る。


「何かございますか?」


「さっき、もっとぬかるんでなかった?」


 ガルムベアが岩壁へぶつかった場所だ。


 そのすぐ下。


 さっきまで柔らかかったはずの地面が、妙に固くなっている。


「……確かに」


 アストンが靴で踏む。


「先ほどとは違いますね」


「だよね」


 俺も踏んでみる。


 硬い。


 石ほどじゃない。


 でも、明らかにさっきの泥とは違う。


「何で?」


 何か変わったことはあったか?


 ガルムベアが岩へぶつかった。


 岩が崩れた。


 そして、足元には灰色の粉が広がっている。


「これ?」


 しゃがむ。


 綻びの目を使った。


《泥層:異常硬化》

《亀裂:微少》

《水分浸透:低》

《異物混入:灰色粒子》


「灰色の粒……」


「男爵様?」


「ちょっと待って」


 固まった地面を指で削る。


 中には灰色の細かな粒が混ざっていた。


 顔を上げる。


 崩れた岩壁。


 もう一度、綻びの目を使う。


《表層:破損》

《灰色粒子:飛散》


 それだけか。


 この石が何なのかは教えてくれない。


 でも、さっきまで泥だった。


 そこへこの石が砕けて落ちた。


 そのあと、地面が固まった。


「まさか……」


 岩壁から灰色の石を一つ取る。


「アストン、水持ってる?」


「はい」


 水筒を受け取る。


 近くの柔らかい土を集めた。


 灰色の石を剣の柄で砕く。


「何をされるのでしょうか」


「ちょっと実験」


 粉になった石を土へ混ぜる。


 水を加える。


 最初はただの泥だ。


「……泥ですね」


「うん」


 そのまま少し待つ。


 周辺を調べながら、時々様子を見る。


 しばらくして。


「そろそろかな」


 しゃがむ。


 指で触る。


「……固まってる」


「本当ですね」


 さっきより明らかに硬い。


 さらに水をかける。


 簡単には崩れない。


 綻びの目を使う。


《表面:硬化進行》

《亀裂:少》

《水分浸透:低》


「やっぱり」


「何か分かったのですか?」


「この石の粉だよ」


「この石が?」


「たぶん。土と水に混ぜると固くなる」


 アストンが固まった土を見る。


「それが何か役に立つのでしょうか?」


「役に立つよ」


 頭の中にいくつも浮かぶ。


 道路。


 建物。


 水路。


 橋。


 堤防。


 ここへ来るまで苦労したレイ湿地。


 使い方次第では、あそこの開発にも使えるかもしれない。


「これ、かなり使えるかも」


「そこまでですか?」


「うん」


 しかも、領内だけじゃない。


 道路を整備したい領地。


 水路を造りたい町。


 建物を造る場所。


 欲しがるところはあるはずだ。


 もちろん、まだ分からないことの方が多い。


 どれくらい混ぜればいいのか。


 固まるまでどれくらい掛かるのか。


 どれほどの強度になるのか。


 どのくらいの量が採れるのか。


「こっちは硬化石かな」


「硬化石、ですか」


「分かりやすいでしょ?」


「はい」


「これも持って帰ろう」


「承知しました」


 灰色の石をいくつか採る。


 そのまま亜空間収納へ入れた。


「便利ですね、その魔法」


「でしょ?」


「先ほどより、その価値は理解できます」


「そうなんだよ、わかってくれて嬉しいよ」


「荷物を持たずに済みますので」


「そうだね」


 ◇


 気づけば、森の中が暗くなり始めていた。


「男爵様。そろそろ戻った方がよろしいかと」


「そうだね」


 今日はまだ、この山の入口付近しか見ていない。


 それなのに共鳴石、硬化石の二種類が見つかった。


「アストン」


「はい」


「この山、当たりかもしれない」


「当たり、ですか?」


「うん。まだ少ししか調べてないのに二種類も見つかった」


「確かに」


 山を見上げる。


「もっと本格的に調べた方がいいな」


「人を入れますか?」


「うん。でも、その前に採れる量を確認しないと」


「量ですか」


「少ししか採れないなら商売にはならないからね」


 それだけじゃない。


 採掘のしやすさ。


 運び出す方法。


 魔物への対応。


 費用。


 全部考えないといけない。


 ここまで来るだけでも、湿地でかなり苦労した。


「道も必要になるな……」


「はい」


「今日は帰ろう」


「承知しました」


「ピー!」


 馬をつないでいた場所まで戻る。


「男爵様、このまま戻られますか?」


「その前に一つだけ」


「何でしょう」


 地面を見る。


 ここなら馬二頭を連れて転移してきても十分な広さがある。


 それに、今日調べた山の入口にも近い。


「次もここまで馬で来るの、大変だからね」


「……なるほど」


 魔力を集中させる。


 足元へ魔力印を残した。


「これで次からは、ここまで直接来られる」


「それは助かります」


「湿地を馬で抜けるだけでも結構大変だったからね」


 もう一度、山を見る。


 今日調べたのは、本当にごく一部だ。


 それでも、二つ見つかった。


 次は、もっと奥まで調べられる。


「この山には、まだ何かあるかもしれないな」


「はい」


「ピー!」



最後まで読んで頂きありがとうございます。

アストン、すっかりリオンのパートナーみたいになってますね。

読者からの評価が良くない王宮側ですが、彼を護衛につけてくれたのは好判断だったと思います。

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― 新着の感想 ―
三和土かな? あとはモールス信号を開発すれば
通信手段がこれでで出来たら楽になるよね~でもその道は中々すぐにとはいかなさそう。アストンを割と簡単に信用しちゃったけど、ちょっと無用心かなぁと私も思った。王家のひも付き監視役とか普通疑わない?それとも…
共鳴石はモールスなどの通信に使えるか…もう一つはセメントか…
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