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45歳社長、転生先でハズレスキル「綻びの目」を武器に没落領地を再建する  作者: アカメノコバチ
第21章 リオン・ハル男爵

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第560話 少しずつ

お手すきの際に是非!

《剣聖》になった弟に家を追い出された俺のスキルは《会員》でした

(https://ncode.syosetu.com/n6087ms/)からご覧いただけます。

 ミラが来てから、少しずつ周りが変わり始めた。


 最初は屋敷だった。


「これはこっちでいい?」


「はい、ミラ様」


 廊下から声が聞こえる。


 覗いてみると、ミラと侍女が荷物を整理していた。


「何してるの?」


「荷物の整理」


「ミラも?」


「うん」


「侍女に任せればいいじゃない」


「一緒にやってるだけだよ」


 ミラが小さな箱を棚へ置く。


 そこへケーラがやってきた。


「ミラ様。そちらは私が」


「大丈夫です。これは自分たちでやるので」


「ですが――」


「ケーラさんは、今まで通りリオンのことをお願いします」


「……承知しました」


 最初こそ、ケーラは何かにつけてミラの世話をしようとしていた。


 侯爵令嬢。


 しかも、この屋敷の主人である俺の婚約者だ。


 当然なのかもしれない。


 でも、ミラは自分の身の回りのことを侍女に任せ、ケーラへ仕事を増やそうとはしなかった。


 何日か経つ頃には、ケーラも少しずつ分かってきたようだ。


「ミラ様。お湯はこちらに用意してあります」


「ありがとうございます」


「お食事は男爵様と同じものでよろしいでしょうか?」


「もちろん」


「承知しました」


 最近、ケーラの表情が少し柔らかくなった気がする。


 ◇


 政務所でも同じだった。


 ミラは何かを決めるわけじゃない。


 書類に署名することもない。


 俺の代わりに命令することもない。


 ただ、話を聞いていた。


「ミラ様。少しよろしいでしょうか」


「はい」


 午前中。


 一人の文官がミラへ声を掛けた。


 数日前まで、俺がやり方を変えると言うたびに不満そうな顔をしていた男だ。


「新しい集計方法についてなのですが」


「何か心配なことがありますか?」


「一つございまして……」


「聞かせてもらえますか?」


「はい」


 文官が資料を広げる。


「今までは専任の者がおりましたので、各村から集まった数字をその日のうちにまとめられました。

 しかし、その者が退職したため、現在は別の業務を行う者が兼任しております」


「それだと大変ですね」


「はい。このままですと、月末に作業が集中するかと」


「なるほど……」


 ミラが資料を見る。


「それ、男爵様にも相談しましたか?」


「いえ。以前の方法へ戻していただくのは難しいかと思いまして」


「前の方法に戻すんじゃなくて、別のやり方を考えてもらうのはどうですか?」


「別の方法、ですか?」


「はい。今困っていることを、そのまま伝えてみたらいいと思います」


「……分かりました」


 その後、文官は俺のところへ来た。


「男爵様。少しご相談がございます」


「何?」


 話を聞く。


 確かに問題があった。


 人を減らしたことで、一部の仕事に負担が偏っている。


「じゃあ、この集計自体を月末にまとめてやる必要があるのか調べよう」


「え?」


「途中まで各村でまとめてもらうこともできるかもしれないし、提出日を分けてもいい」


「よろしいのでしょうか?」


「今のやり方で問題があるなら変えないと」


「……承知しました」


 文官が頭を下げる。


 戻っていく背中を見る。


「リオン」


「何?」


「ちゃんと話が聞けて偉いね」


「そりゃそうだよ」


「前のやり方が嫌だから変えてるわけじゃないもんね」


「うん。今の人数でちゃんと仕事ができるようにしたいだけだから」


「そっか」


 ミラが笑う。


 そういうことが何度か続いた。


 最初は侯爵令嬢というだけで緊張していた文官たちも、少しずつミラへ話しかけるようになった。


「ミラ様、少しよろしいでしょうか」


「昨日の件なのですが」


「一度お聞きいただきたいことが……」


 ミラは全部聞く。


 でも、何でも同意するわけじゃない。


「それって、今までそうだったから、以外にも理由はありますか?」


「……ございません」


「だったら、一度新しいやり方で試してみてもいいと思います」


 必要なら俺やローレンへつなぐ。


 それだけだ。


「すごいな」


 少し離れたところから見ていて、思わず口に出た。


「何がでしょうか?」


 ローレンが聞く。


「もうみんなミラに相談してる」


「ミラ様は、まず最後まで話を聞かれますから」


「俺も聞いてるつもりなんだけどな」


「男爵の場合、途中で問題点がお分かりになると、すぐ解決策のお話へ移られますので」


「……そう?」


「はい」


 即答された。


「最近、みんな俺に遠慮なくなってきたよね」


「良いことではないでしょうか」


「そうかな」


「何も言われなくなるよりは良いのではないかと」


「まぁ、それはそうだけど」


 ◇


 数日後。


 ミラと領都へ出た。


「ここが市場なんだね」


「うん。この辺りでは一番大きいよ」


「でも……」


 ミラが周囲を見る。


 並んでいる品物は決して多くない。


 人通りもまばらだ。


「思ってたより静かだね」


「領地全体が弱ってるからね」


「そっか……」


 市場を歩く。


「男爵様」


 一人の女性に声を掛けられた。


 野菜を並べている店の主人だ。


「こんにちは」


「こんにちは」


 女性が俺の隣にいるミラを見る。


「あの……そちらの方は?」


 紹介しようとしたが、ミラが先に軽く頭を下げた。


「はじめまして。ミラ・ハーウェイです」


「ハーウェイ……」


 女性が目を見開く。


「南の侯爵様の?」


「はい。娘です」


「そ、それは失礼いたしました!」


「大丈夫です。今日は領都を見せてもらっているだけですから」


 ミラが笑う。


 女性の緊張が少しだけ和らいだ。


 ミラは店先を見る。


「この野菜は、この辺りで採れたものですか?」


「はい。近くの村から仕入れております」


「最近はどうですか?」


「どう、と申しますと?」


「売れ行きとか」


「ああ……」


 女性が少し困った顔をする。


「正直、良くはありません」


「そうなんですね」


「町へ買い物に来る方自体が減っておりますので」


「困っていることってありますか?」


「そうですね……」


 最初は言いにくそうにしていた。


 でも、少しずつ話し始める。


「荷車で来る道が傷んでおりまして。雨の後などは、かなり時間が掛かるんです」


「道ですか」


「はい」


 ミラが俺を見る。


 でも、すぐには何も言わなかった。


 女性へ向き直る。


「そのこと、男爵様にも聞いていただいていいですか?」


「もちろんです」


「リ――」


 一瞬こちらを見てから、ミラが言い直す。


「男爵様」


「何?」


「今の話、覚えておいてね」


「もちろん」


 女性が少し驚いた顔をしたあと、笑った。


 その後もいくつかの店を回った。


「この辺りは夜になると暗くて」


「最近は仕入れ値が上がってしまって」


「村から町へ来る人が減りました」


 ミラは一つずつ聞く。


 そして、


「直します」


 とは言わない。


「政務所にも伝えていいですか?」


「男爵様にも相談してみます」


 それだけだった。


 それでも、帰る頃には最初より声を掛けてくる人が増えていた。


「ミラ様」


「今日はありがとうございました」


「またいらしてください」


 市場を出たところで振り返る。


「すごいね」


「何が?」


「もう名前覚えられてる」


「リオンが紹介したからでしょ」


「それだけじゃないと思うけどな」


「そう?」


「うん」


 ◇


 そんな日が何日か続いた。


 屋敷ではケーラ。


 政務所では文官たち。


 領都へ出れば、商人や住民。


 少しずつ、ミラへ話しかける人が増えていった。


 ミラが大きなことをしたわけじゃない。


 新しい制度を作ったわけでもない。


 金を配ったわけでもない。


 ただ、話を聞く。


 困っていることがあれば俺やローレンへ伝える。


 自分に分からないことなら、分からないと言う。


 それだけだ。


 でも。


「ミラ様なら、まず聞いてくださる」


 そんな声を聞くようになった。


 俺は、どうしても先に問題を見る。


 どこに無駄があるのか。


 何を変えるべきか。


 どうすれば早くなるのか。


 でも、ミラは少し違う。


 その仕事をしている人。


 そこに住んでいる人。


 まず、その人を見る。


 俺にはないところだ。


 ◇


「リオン」


「何?」


 政務所。


 机の上に地図を広げていた。


 ミラが横から覗き込む。


「また山見てる」


「分かる?」


「何回も見てるから」


 俺の指の先。


 レイ湿原。


 その南に連なるノア山脈。


 さらに山の向こうには、ハーウェイ領がある。


「まだ気になってるんでしょ?」


「うん」


「ノア山脈」


「そう」


 ミラも地図を見る。


「ハーウェイ領側でも、昔何度か調べてるよ」


「やっぱり?」


「うん。全部じゃないけど、いくつかの山には人を入れたって聞いてる」


「何か見つかった?」


「特には」


「鉱石も?」


「鉱山にできるようなものは見つからなかったって」


「そっか」


 少し残念だ。


「でも、全部調べたわけじゃないよ」


「だよね」


「こんなに広いんだから」


 地図の上だけでも、山脈は長く続いている。


 ハーウェイ領側で何も見つからなかった。


 だからといって、こちらにも何もないとは限らない。


「行きたいんでしょ?」


「山に?」


「うん」


「……行きたい」


「じゃあ行ってくれば?」


「でも、政務所もまだ――」


「また?」


「え?」


 ミラが俺を見る。


「一人で全部やろうとしてる」


「いや、そういうわけじゃ――」


「本当?」


「……」


「ローレンさんもいるし、私もできることは手伝うよ」


「でもミラは来たばっかりだし」


「だから決めるのはリオンだよ」


「うん」


「私は話を聞いたり、みんなに説明したりするだけ」


 昨日と同じだ。


 ミラが領主になるわけじゃない。


 俺の代わりに何かを決めるわけでもない。


「それに、必要なら戻って来られるんでしょ?」


「転移魔法で?」


「うん」


 そうか。


 ミラは転移魔法のことを知っている。


 ただ、今どこまで使えるのかまでは話していなかった。


「レイ湿原までは、転移するための目印を残してあるんだ」


「じゃあ、すぐ戻れるの?」


「うん。前よりかなり安定して使えるようになったから」


「だったら、なおさら行ってくればいいじゃない」


「……そうだね」


「リオン」


「何?」


「まだまだやりたいこと、たくさんあるんでしょ?」


「うん」


「だったらやってきなよ」


「分かった。ありがとう」


 地図を見る。


「何か見つかるといいね」


 ミラが笑う。


「行ってらっしゃい」


「うん。行ってくる」


 ◇


 屋敷の裏庭。


 まずは俺とアストン。


 肩にはピコ。


「ピー!」


「じゃあ行こうか」


「承知しました」


 アストンが俺の肩を掴む。


「アストン」


「はい」


「もう転移、慣れた?」


「慣れておりません」


「即答だね」


「慣れる必要があるのでしょうか」


「これから結構使うと思うよ」


「……」


「何、その顔」


「努力いたします」


「努力で慣れるものなのかな」


「それは私にも分かりません」


「ピー!」


「ピコは慣れてるよね」


「ピー!」


 目を閉じる。


 レイ湿原。


 古い小屋に残した魔力印を探す。


「行くよ」


「はい」


 魔力を流す。


 次の瞬間、景色が変わった。


 古い小屋の中。


「……」


「どう?」


「やはり慣れません」


「まぁ、徐々にだね」


 外へ出る。


 今日は、このまま帰らない。


 馬を二頭連れてくる必要がある。


「問題はここだな」


「小屋の中でしょうか?」


「うん。馬をここに転移させるのはやめた方がいいよね」


「強くお勧めいたします」


「だよね」


 自室の時と同じことになりかねない。


 小屋から少し離れる。


 湿地の中でも地面が固く、馬が二頭いても余裕のある場所を探した。


「この辺かな」


「問題ないかと」


 振り返る。


 小屋は少し離れている。


 これなら馬が突然暴れても、建物を壊すことはない。


「先に前の印を消しておこう」


 小屋へ戻る。


 床に残していた魔力へ意識を集中させる。


 残っている魔力を少しずつ散らした。


 しばらくすると、転移先として感じていた感覚が消える。


「よし」


「消されたのですか?」


「うん。近くに二つあってもややこしいからね」


 もう一度、外へ出る。


 さっき選んだ場所に立つ。


 魔力を集中させる。


 新しい魔力印を残した。


「これでいい」


「では、一度戻られるのですね」


「うん」


「また転移を」


「帰りもあるからね」


「……承知しました」


「まだ二回あるよ」


「数えないでいただけますか」


 ◇


 屋敷へ戻る。


 用意していた二頭の馬を裏庭へ連れてきた。


「今度こそ行こう」


「はい」


 右手で一頭。


 左手でもう一頭へ触れる。


 ピコは肩。


 アストンが俺の腕を掴む。


「さっきより強くない?」


「念のためです」


「そう」


 新しく残した魔力印を探す。


 すぐに見つかった。


「行くよ」


「はい」


「ピー!」


 魔力を流す。


 景色が変わる。


 少し離れたところに古い小屋。


 足元はしっかりした地面。


 二頭の馬もいる。


「成功」


「はい」


 アストンが馬を確認する。


 二頭とも少し落ち着かないが、自室へ転移した時ほどではない。


「最初からこうすればよかったな」


「本当にそう思います」


 馬に乗り、顔を上げる。


 湿原の向こうにはノア山脈が連なっている。


「アストン」


「はい」


「この山に何かあるといいね」


「何もない可能性もございます」


「なければないで諦めるよ」


 何もなければ、それが分かるだけでもいい。


 でも、もし何かあれば、今のこの領地にとって大きな意味を持つかもしれない。


「行こう」


「はい」


「ピー!」



最後まで読んでいただきありがとうございます。

ここからリオンの本領発揮!と、なるかどうか。

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― 新着の感想 ―
ミラ、やさしいなぁ。
ナイナイづくしの貧乏領地からどうやってお金になる物を生み出すのか、こればかりはリオン次第になるかと思うし、流れからいっても湿地はお米とか農業に関係するものになりそうだし、山は何かしら鉱石や後は温泉が出…
優秀な副社長ですね。下からの意見を吸い上げた上で篩にかけてトップに繋ぎ、下にはトップの思いを伝わるように話せる。前世にこういう方がいなかったのでしょうね。
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