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45歳社長、転生先でハズレスキル「綻びの目」を武器に没落領地を再建する  作者: アカメノコバチ
第21章 リオン・ハル男爵

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第554話 一週間の面談

お手すきの際に是非!

《剣聖》になった弟に家を追い出された俺のスキルは《会員》でした

(https://ncode.syosetu.com/n6087ms/)からご覧いただけます。

 朝。


「男爵様」


「……ん?」


 顔を上げると、政務室の入口にケーラが立っていた。


「おはよう」


「おはようございます。……まさか、昨夜からずっとこちらに?」


「ずっとじゃないよ。途中で少し寝たから」


「どちらで?」


「ここ」


 机を指差す。


 ケーラが黙った。


「……それは睡眠とは言わないのではないでしょうか」


「一応、目は閉じてたよ」


「ピー……」


 足元で寝ていたピコが伸びをする。


「ピコはちゃんと寝てたみたいだね」


「ピー!」


 ケーラが小さくため息をついた。


「朝食をお持ちいたします。それから、せめてお顔を洗ってください。

 本日から面談なのでしょう?」


「あ」


 そうだった。


 もうすぐ最初の面談が始まる。


「分かった。顔を洗ってくるよ」


「お願いいたします」


 ◇


 最初に政務室へ入ってきたのは、西部政務所で帳簿を担当している男だった。


 三十代半ば。


 名前はエルドン。


「失礼いたします」


「座って」


「はい」


 向かいの椅子を勧める。


 かなり緊張しているようだ。


 新しい領主と一対一で三十分。


 しかも、領地の財政状況が悪いことは政務所内でも知られ始めている。


「そんなに緊張しなくていいよ。まず、普段どんな仕事をしてるのか教えて」


「主に各役場から届く税の報告をまとめております。

 それと、滞納税の記録、納付状況の確認、月末の集計です」


「何年くらいやってる?」


「七年になります」


「じゃあ、この辺りの税についてはかなり詳しいね」


「いえ、そのようなことは……」


「仕事してて、無駄だと思うことはある?」


 エルドンが一瞬黙った。


「何でもいいよ。俺に気を遣わなくていいから」


「……では、一つだけ」


「うん」


「同じ数字を、何度も書いております」


「同じ数字?」


「はい。各役場から届いた税額をこちらの帳簿へ写します。

 それを月ごとの帳簿へ書き直し、さらに上へ提出する資料にも書き直しております」


「三回?」


「項目によっては四回です」


「……それ、全部必要?」


「以前からそうなっておりますので」


 またそれか。


 前からやっている。


 決まりだから続けている。


「エルドン自身はどう思う?」


「私ですか?」


「うん。俺が聞きたいのはそこ」


 しばらく考えてから、エルドンが口を開いた。


「一つにまとめられると思います。

 ただ、各役場で帳簿の書き方が異なりますので、先に形式を揃える必要があります」


「なるほど」


 紙に書き留める。


 いい意見だ。


「じゃあ次。この領地が今どういう状態か、どこまで知ってる?」


 エルドンの表情が少し硬くなった。


「税収が減っております」


「それだけじゃない」


 俺は隠さず話した。


 今のままなら、使える現金は二か月ほどでなくなること。


 無駄な支出を減らしても、農村の税負担を軽くすれば資金繰りは再び厳しくなること。


 そして、今いる人全員を今の仕事のまま雇い続けることは難しいこと。


 エルドンは黙って聞いていた。


「だから聞きたい」


「何でしょうか?」


「エルドンが俺なら、何を変える?」


「……私が、男爵でしたら?」


「うん。七年間ここで働いてきた立場から、変えた方がいいと思うことを教えて」


 しばらくして、エルドンが口を開いた。


「滞納税の管理を変えます」


「どうして?」


「今は、回収できる見込みのない税もすべて同じように残しております。

 すでに亡くなった者や、領外へ出た者まで」


「うん」


「回収できるものと、できないものを分けるべきかと。

 それだけでも、役人が確認へ出向く回数を減らせます」


「ありがとう。すごく参考になった」


「いえ」


「最後にもう一つ」


 エルドンを見る。


「この一週間で全員と話したあと、人員配置を見直すつもりなんだ」


 エルドンの表情が変わる。


「今の人数を、そのまま維持するのは難しい。でも、いきなり誰かを追い出すつもりはない。

 別の仕事に回せる人は回す。

 それでも人数が多ければ、通常より多めの退職金を用意して、希望する人に辞めてもらうことも考えてる」


「希望する者だけ、ですか?」


「そのつもり。まだ正式決定じゃないけど、後から突然言うのは嫌だから先に話しておこうと思って」


「承知しました」


「今日はこれで。ありがとう」


「失礼いたします」


 扉が閉まる。


 俺は面談用の紙に書き込んだ。


 エルドン。


 税務七年。


 業務改善案あり。


 滞納税の実態を理解している。


 残したいな。


 一人目から思っていた以上の収穫だった。


 ◇


 次。


 その次。


 さらに次。


 一人三十分。


 屋敷の使用人。


 西部政務所の役人。


 各役場で働く人。


 今どんな仕事をしているのか。


 領地の現状をどう見ているのか。


 自分だったら何を変えるのか。


 同じことを聞いていく。


「私は命じられた仕事をしておりますので、領地全体のことまでは……」


 そう答える人もいた。


「各役場から同じ内容の報告を二か所へ出しています。片方はいらないと思います」


 具体的な無駄を指摘する人もいる。


 屋敷で買い出しを担当している女性、マルタは少し変わっていた。


「ここ半年ほど、野菜や小麦の値段を記録しております」


「なんで?」


「仕入れ値が上がり続けていましたので。料理長に説明するために始めました」


「その記録、残ってる?」


「はい」


「あとで見せてもらえる?」


「もちろんです」


 面談用の紙に印をつける。


 マルタ。


 物価の記録。


 数字に強い。


 残したいな。


 別の役人、ラルフは近隣の村ごとに水路の壊れやすい場所を把握していた。


「毎年、同じところが壊れるんです」


「じゃあ、毎年そこを直してるの?」


「はい」


「根本的に直す話は?」


「予算がついたことはありません」


「どこを直せばいいか分かる?」


「三か所ほどは」


 ラルフか。


 農村と水路に詳しい。


 彼も残したいな。


 面談を続けるほど分かってきた。


 書類に書かれた役職だけでは、その人が何をできるのか分からない。


 今の仕事とはまったく関係のない知識や経験を持っている人もいる。


 逆に、長く同じ仕事をしているのに、自分の仕事が何のためにあるのか答えられない人もいた。


 ◇


 二日目。


 朝早く政務所を出て、領都に近い村を回った。


 道。


 畑。


 水路。


 空き家。


 村人からも話を聞く。


 昼過ぎに戻る。


 午後から面談。


 夜まで続ける。


 三日目も同じだった。


 朝は別の村。


 午後から面談。


 夜はローレンと、その日に分かったことを整理する。


「今日で何人?」


「三十二人です」


「まだ三十二人か」


「男爵が一人三十分とお決めになりましたので」


「そうだった」


「短くなさいますか?」


「いや。このままでいい」


 三十分でも足りない人がいる。


 長くここで働いてきた人から話を聞くのに、五分や十分では何も分からない。


「明日もこのままでお願い」


「承知しました」


 ◇


 三日目の夜。


 面談を終え、次の資料を読んでいると扉が開いた。


「失礼いたします」


 ケーラだった。


 食事を載せた盆を持っている。


「あれ?」


「夕食をお持ちしました」


「屋敷で食べるよ?」


「昨日もそうおっしゃいました」


「……」


「一昨日もです」


「そうだっけ?」


「はい」


 机の端に盆が置かれる。


 パン。


 スープ。


 少量の肉と野菜。


「屋敷へお戻りにならないと思いましたので、こちらへお持ちしました」


「そこまで信用ない?」


「二日続けてお戻りにならなかった方に言われましても」


「……ごめん」


「謝っていただきたいわけではございません。まずお召し上がりください」


「分かった。ありがとう」


「ピー!」


 食事を見たピコが飛び起きる。


「ピコの分もございます」


「ピー!」


「やっぱりピコには甘いよね」


「少しくらいでしたら」


 食事を終えたあとも仕事を続けた。


 その日の夜は、政務室のソファーで寝た。


 ◇


 四日目。


 朝から近くの農村を視察。


 午後から面談。


 五日目。


 また別の場所を見る。


 戻ったら面談。


 面談では、人員整理の可能性についても全員に同じことを話した。


「まだ決まってない。でも、希望退職を募ることになっても無理に辞めてもらうつもりはない」


「退職金は?」


「通常より多くするつもり」


「残ることもできますか?」


「もちろん。ただ、今とは別の仕事をお願いする可能性はある」


 領地に金がないことも隠さなかった。


 今の体制をそのまま維持できないことも。


 屋敷の使用人も例外にはしないことも。


 その日の夜。


 政務室へ戻ると、見覚えのないものが置いてあった。


「……何これ?」


「寝台です」


 アストンが答える。


「それは見れば分かるよ」


「男爵様が屋敷へお戻りになりませんので」


「今日は戻るかもしれないよ?」


「昨日も同じことをおっしゃっていました」


「……」


 アストンまでケーラみたいなことを言うようになった。


「机やソファーで眠られるよりは、こちらの方がよろしいかと」


「わざわざ運んでくれたの?」


「はい」


「ありがとう」


 その横からケーラが入ってくる。


 食事と着替えを持っていた。


「着替えまで?」


「必要になると思いましたので」


「……完全にここで寝る前提になってない?」


「男爵様が屋敷へお戻りになれば不要になります」


「ごもっともです」


 それから、ケーラが夕食と着替えを持ってくるのが日課になった。


 アストンが用意した寝台も、そのまま政務室に置かれた。


 ピコはいつの間にかソファーを自分の寝床にしている。


「ピー」


「ここ、俺の政務室なんだけどな」


「ピー?」


「いや、いいけど」


 ◇


 六日目。


 面談も終盤に入った。


 若い役人の中に、領内を通る商人の荷車について詳しい男がいた。


「どうしてそんなに知ってるの?」


「政務所の前を通りますから。休憩している商人に、どこから来てどこへ行くのか聞いていただけです」


「それ、覚えてるの?」


「大体は」


「どの道が一番使われてる?」


 すぐに答えが返ってきた。


「雨のあとに避けられる道は?」


 これもすぐだった。


 この人も使える。


 人材そのものがいないわけじゃない。


 今まで、その能力を使う場所がなかっただけなのかもしれない。


 夜中まで面談記録を整理した。


「……眠い」


「ピー」


「今日はちゃんと寝るよ」


「ピー」


 そう言って、あと一枚だけ資料を開いた。


 ◇


 目を開けた。


「……?」


 頬に紙の感触がある。


 机だった。


「また机で寝た……」


 すぐ横には、アストンが運んできたベッドがある。


「何のために置いてあるんだろ」


「ピー」


 ソファーの上からピコがこちらを見ている。


「ピコ、見なかったことにして」


「ピー!」


 ◇


 七日目。


 最後の一人が政務室を出ていった。


 扉が閉まる。


「……終わった」


 椅子に深くもたれる。


 一週間。


 全員と話した。


 一人三十分。


 長かった。


 でも、やってよかった。


 机の上には、一人ずつまとめた記録が並んでいる。


 今の仕事。


 できること。


 本人が考える問題点。


 別の仕事へ回せそうか。


 そして、残ってほしい人。


「お疲れ様でした」


 ローレンが言う。


「ローレンもね」


「私は通常業務の範囲ですので」


「面談の予定を全部組んだのもローレンでしょ」


「それも仕事です」


「じゃあ、ありがとう」


 俺は面談記録を見ながら話し始めた。


「屋敷専属の使用人は、最終的にゼロにしたい」


「全員、ですか?」


「屋敷専属ではね。辞めてもらうって意味じゃない」


 何枚かの紙をローレンへ渡す。


「この人は物資の調達に向いてる。この人は政務所。この人は村の支援に回せそう」


「なるほど」


「屋敷だけのために二十八人を抱えるのをやめたいんだ」


「承知しました」


「政務所も、今の半分くらいまで減らせると思う」


 ローレンの表情が少し硬くなる。


「かなり大きな削減になります」


「分かってる。でも、このままじゃ給金そのものが払えなくなる」


 各役場については、一律には減らさない。


 一週間話して分かった。


 人が余っているところもあれば、逆に足りないところもある。


 役場ごとに見直した方がいい。


「まず配置転換。それでも余る分について、希望退職を募ろう」


「募集期間はいかがいたしますか?」


「一週間」


「退職金は?」


「通常より多くする」


 現金は厳しい。


 それでも、そこまで削るつもりはなかった。


「辞めたあと、次の仕事を探すまで困らないくらいは渡したい。屋敷の調度品を売った金もそっちに回そう」


「承知しました」


「全員に正式に知らせて。応募するかどうかは本人に任せる」


「はい」


 一つ進んだ。


 そう思った。


 ◇


 三日後。


「男爵」


「何?」


 ローレンが数枚の紙を持って政務室へ入ってきた。


「希望退職の途中経過です」


「もう出てるんだ」


「はい。まだ募集期間は残っておりますが、一度ご覧になった方がよろしいかと」


 受け取る。


 思ったより多い。


 最初の名前を見る。


「……エルドン」


 最初に面談した税務担当。


 七年間働き、業務の重複も滞納税の問題も理解していた。


 次。


「マルタも?」


 買い出しのたびに物価を記録していた屋敷の使用人。


 さらにめくる。


「ラルフもか……」


 村の水路に詳しかった古参役人。


 その次も、さらにその次も。


 面談記録に「残したい」と書いた名前が次々と出てくる。


「……やっぱり、こうなるか」


 分かっていた。


 前世でも見たことがある。


 希望退職で真っ先に手を挙げるのは、辞めても次へ行ける人間だ。


 経験がある。


 能力がある。


 他でも働ける。


 そういう人ほど、退職金が上乗せされる今を機会だと考える。


 反対に、ここを辞めたら次の仕事が見つかるか不安な人ほど残る。


「俺が残ってほしいと思ってた人が、かなり入ってるね」


「そのようですね」


 紙を机に置く。


 分かっていたことだ。


 でも、実際に名前を見ると重い。


「それに、俺にも原因がある」


「男爵に、ですか?」


「うん」


 この一週間、みんなに何を話した?


 金がない。


 支出を削る。


 人員を減らす。


 配置転換する。


 希望退職を考えている。


 そんな話ばかりだ。


「俺、この領地がこれからどう良くなるのか、まだ何も見せてないんだよ」


「……」


「ここに残れば、こういう未来があるって言えてない」


 優秀な人ほど先を見る。


 この領地に残る意味があるのか。


 数年後、ここはどうなっているのか。


 自分にはどんな仕事があるのか。


 今の俺は、まだそれに答えられていない。


 退職金は多くもらえる。


 領地の先行きは見えない。


 それなら、動ける人間が今出ていこうとするのは当然だ。


「先に辞めるのは、辞められる人なんだよな……」


 もう一度、希望退職者の名前を見る。


 人件費は減る。


 でも、再建に必要な人までいなくなる。


 削るだけじゃ駄目だ。


 ここに残りたいと思える理由を作らないといけない。


 俺はまだ、この領地に希望のある未来を見せられていなかった。



最後まで読んでいただきありがとうございます。

ファンタジーを期待されている読者様には申し訳ない話が続いています……。

ただ、この話は「再建」の気持ちよさを味わっていただく為の大事なプロセスだと考えています。

引き続きお付き合い頂けると幸いです。

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― 新着の感想 ―
やばい、、、 ミラ成分が、圧倒的に足りない。 誰か、ミラを召喚してください。
このままでは2度目の過労死一直線。 早く右腕となる人物を、、、
このまま何もせず優秀な人達を放逐しちゃうのはかなりの痛手かと…。残る人達をどう使える様にするのか、リオンがどんな風にしていいくのか?ワクワクしますね♪
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