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45歳社長、転生先でハズレスキル「綻びの目」を武器に没落領地を再建する  作者: アカメノコバチ
第21章 リオン・ハル男爵

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第553話 削るべきもの

お手すきの際に是非!

《剣聖》になった弟に家を追い出された俺のスキルは《会員》でした

(https://ncode.syosetu.com/n6087ms/)からご覧いただけます。

「だから、領主として不法行為は認めない」


 イレーナの目をまっすぐ見る。


 しばらく、イレーナは何も言わなかった。


 やがて口元だけで笑う。


「不法行為ってのは?」


「脅して金を取り立てること。暴力を使うこと。勝手に人を罰すること。

 正式な権限もないのに誰かを裁くこと」


「ずいぶんはっきり言うようになったな」


「俺が領主になったからね」


「じゃあ、私たちを捕まえるのか?」


「過去のことは調べる」


「ほう」


「イレーナたちが何をしてきたのか。その中にどんな不法行為があったのか。

 誰が被害を受けて、逆に誰が助かったのか。全部確認してから判断する」


「随分悠長だな」


「何も知らないまま決める方がおかしいだろ」


「ふっ」


 イレーナが小さく笑う。


「でも、今日からは別だ」


「別?」


「今言ったようなことは、もうやめて。

 少なくとも俺が領主になった以上、暴力で取り立てたり、勝手に人を罰したりするのは認めない」


「嫌だと言ったら?」


「その時は領主として止める」


 イレーナの笑みが消えた。


「坊やに?」


「うん」


「私を止められるのか?」


 以前戦った時のことを思い出す。


 俺もエドガーも、イレーナにはまるで歯が立たなかった。


 でも、今話しているのは一対一の戦いじゃない。


「俺一人でイレーナに勝てるかって話じゃないよ」


「じゃあ何だ?」


「ここをどう統治するかって話」


 イレーナを見る。


「前に来た時の俺は、ただの視察だった。でも今はここの領主だ。今日からは見逃さない」


「……言うようになったな、坊や」


「坊やはそろそろやめてほしいんだけど」


「それは……。いずれだな」


 イレーナが少し笑った。


「ただ、一つ覚えておけ」


「何?」


「私たちがやらなくなれば、困る奴が出る」


「分かってる」


「本当にわかってるか?」


「だから、必要な仕事なら正式に頼むよ」


 イレーナが眉を上げる。


「道を直す。水路を直す。荷物を運ぶ。農具を貸す。仕事を紹介する。

 この領地に必要なことなら、ちゃんとした仕事として頼めばいい」


「金もないのに?」


「……そこは今から考える」


 イレーナが声を上げて笑った。


「やっぱり面白いな、坊や」


「笑い事じゃないんだけど」


「なら、やってみろ」


「何を?」


「私たちがやってきたことを、領主としてだ」


 そう言い残し、イレーナは村の奥へ歩いていった。


 その背中を見送る。


 簡単じゃない。


 イレーナたちのやり方に問題があるのは間違いない。


 でも、彼女たちがいなくなれば困る人がいるのも事実だ。


 禁止するだけじゃ駄目だ。


 代わりになる仕組みを作らないといけない。


「……またやることが増えたな」


「ピー」


「帰ろうか」


「ピー!」


 ◇


 領都へ戻った頃には、もう夕方だった。


 四時間近く歩いて村へ行き、帰りも同じだけ歩いた。


 さすがに足が重い。


「疲れた……」


「ですから、馬にお乗りくださいと申し上げたのですが」


 アストンが言う。


「でも、アストンも結局ずっと歩いてたよね」


「男爵様が歩かれるからです」


「それはごめん」


「謝られることではございません」


 西部政務所へ入る。


 まだ執務室に明かりがついていた。


「あれ?」


 中を覗くと、ローレンが机に向かっている。


「ローレン、まだ仕事してたの?」


「はい。男爵からいただいた指示を整理しておりました」


 机の上には書類が何冊も積まれていた。


「かなり頼んじゃったからね。ありがとう」


「これが私の仕事ですので」


 俺は後ろを振り返る。


「アストン、ケーラ。二人はもう屋敷に戻っていいよ」


「男爵様は?」


 ケーラが聞く。


「俺はもう少しここにいる」


「夕食はいかがなさいますか?」


「あとで戻って食べるよ」


 ケーラがじっと俺を見る。


「……必ずお戻りください」


「努力するよ」


「承知しました。では、お先に失礼いたします」


「ありがとう。二人とも今日はお疲れ様」


「失礼いたします」


 アストンとケーラが政務所を出ていく。


「ピー」


 ピコは動かない。


「ピコは残るの?」


「ピー!」


「じゃあ一緒にいようか」


 ピコがソファーへ跳び乗った。


 俺はローレンの向かいに座る。


 ◇


「今日、あの村を見てきた」


「いかがでしたか?」


「思ってた以上に厳しかったよ」


 村で見たことを順番に話す。


 税を払うために牛を売った家。


 農具が足りない農家。


 何年も残っている未納税。


 亡くなった人や、すでに領外へ出た人の税まで帳簿に残っていたこと。


 そして、この村から得ている税収より、食料支援で出している金の方が多いこと。


「それで、今年の税は全部免除することにした」


 ローレンが顔を上げる。


「あの村の税を、ですか?」


「うん。過去の未納分もなくす」


「……そこまでなさるのですね」


「取った方が、この先もっと貧しくなるからね」


 鞄から資料を取り出す。


「それで気になったんだけど、他の農村は?」


「他の村ですか?」


「あの村だけが特別なのか知りたい」


「少々お待ちください」


 ローレンが棚から何冊かの資料を持ってきた。


 二人で確認していく。


 一つ目の村。


 税収低下。


 滞納増加。


 食料支援増加。


 二つ目。


 同じ。


 三つ目も似ている。


「……ここも?」


「はい」


 四つ目。


 五つ目。


 程度の差はある。


 でも、農村のほとんどで同じような兆候が出ていた。


 税を払えない。


 それでも取り立てる。


 農具や家畜を手放す。


 生産が落ちる。


 さらに税を払えなくなる。


 食料支援が必要になる。


 そして、働ける人間が領外へ出ていく。


「……あの村だけじゃないんだ」


「残念ながら、そのようです」


 資料をめくる。


 農村部からの税収は、この領地の収入の中でもかなり大きい。


 でも、その税を維持しようとすれば、農村そのものがさらに弱っていく。


「同じ状態の村から、今年も今まで通り税を取るのは無理だな」


「かなりの減収になります」


「分かってる。でも、ここで取り続けたら来年はもっと減る」


 目の前の税収を守るために、来年の税収を壊す。


 そんなことを続けても意味がない。


 窓の外を見る。


 いつの間にか真っ暗になっていた。


「あれ?」


「どうかなさいましたか?」


「もう夜?」


「七時を過ぎております」


「そんな時間か」


 卓上の蝋燭に火をつける。


 暖かな光が机の上を照らした。


 ソファーを見る。


 ピコが丸くなって眠っている。


「……」


「ピコも寝ちゃったか」


 俺はローレンを見る。


「ローレン、今日はもう帰っていいよ」


「しかし、男爵は?」


「もう少しだけ数字を確認する」


「でしたら私も残ります」


「明日も頼むことがたくさんあるから、今日は休んで」


 ローレンが少し迷ったあと、頭を下げた。


「では、お先に失礼いたします」


「お疲れ様。今日はありがとう」


「男爵も、あまり遅くなられませんように」


「うん」


 ローレンが帰った。


 政務所が静かになる。


 ◇


 昨日作ったキャッシュフローをもう一度広げる。


 昨日の計算では、無駄な支出を減らせれば三か月。


 調度品の売却や契約の整理まで進めば、四か月ほどまで延ばせる可能性があった。


 でも、それは今の税収が入ってくる前提だ。


 今日見たような農村の税を免除したらどうなる?


「……」


 一つずつ数字を変える。


 税収を減らす。


 計算する。


 さらに別の村も減らす。


 計算し直す。


 農村部からの税収がほとんど入らなくなれば、当然結果も変わる。


「まずいな」


 もう一度やる。


 やっぱり同じだ。


「……二か月」


 せっかく四か月近くまで伸ばせると思ったのに、また二か月程度に戻る。


 税を取れば、もう少し時間は延びる。


 でも、その代わりに領民が牛や農具を売り、生産力がさらに落ちる。


 それじゃ駄目だ。


「もっと出ていく金を減らすしかないか」


 支出の内訳を見る。


 大きいのは人件費だ。


 屋敷。


 政務所。


 各地の役場。


「……ここまでやらないと駄目なのか」


 試しに数字を入れる。


 西部政務所の人員を半分程度まで減らす。


 各地の役場も、必要な人数を一から見直す。


 さらに屋敷専属の使用人をゼロにする。


 数字が大きく変わった。


「これなら……」


 かなり時間を伸ばせる。


 でも、数字だけを見て決めるつもりはない。


 明日から一週間、全員と話す。


 誰が必要なのか。


 誰を別の仕事へ回せるのか。


 今の仕事自体が本当に必要なのか。


 全部確認する。


「屋敷に二十八人は必要ない。でも、人を二十八人捨てていいわけじゃない」


 政務所も同じだ。


 半分まで減らせれば資金繰りはかなり改善する。


 だからといって、先に人数だけ決めてしまったら、必要な人まで失うかもしれない。


 配置転換できる人は別の仕事へ。


 それでも余るなら。


「……辞めたい人を募るしかないか」


 解雇はしたくない。


 通常より多めの金を渡して、自分から辞めたい人を募る。


 それなら、新しい生活を始めるための資金にもなる。


 でも、そこでまた問題が出る。


「その金をどこから出す?」


 今でも現金がない。


 人件費を減らすために、一度まとまった金を出す必要がある。


 簡単じゃない。


 まず、自分のところから削れるものを削ろう。


 銀食器。


 絵画。


 装飾品。


 使わない家具。


 全部売れるものは売る。


「屋敷そのものも売れないかな……」


 手を止める。


 俺一人で住むには大きすぎる。


 もっと小さな家へ移れば、維持費も下がる。


 売れればまとまった現金にもなる。


「でも、誰が買うんだ?」


 この領地で、あれだけの屋敷を買える人がいるのか。


 領外の商人なら?


 それとも貸す?


 何か別の施設に使う?


 紙に書き足す。


 屋敷――売却、賃貸、転用。


 その下に続ける。


 屋敷専属使用人――ゼロを目標。


 西部政務所――半数程度まで圧縮できるか確認。


 各役場――必要人数を再確認。


 配置転換。


 希望者への退職金。


 調度品売却。


 書けば書くほど、考えることが増えていく。


 ◇


「男爵様」


「うわっ!」


 突然声をかけられ、顔を上げた。


 入口にケーラが立っている。


「ケーラ?」


「まだいらしたのですか?」


「うん」


「もう十時を過ぎております」


「十時?」


 時計を見る。


 本当だ。


「夕食にもお戻りになりませんでしたので、様子を見に参りました」


「あ……ごめん」


 ケーラが机の上を見る。


 何枚もの紙に数字や文字がびっしり書かれている。


「本日は、もうお切り上げになってはいかがでしょうか」


「あと少し。きりのいいところまでやるよ」


「ですが、明日もお仕事がございます」


「分かってる」


 ケーラが少し困った顔をする。


「本当に、あと少しになさってください」


「うん」


「お約束いただけますか?」


「……できるだけ」


「男爵様」


「分かったって」


 ケーラが小さく息を吐いた。


「それでは、私は屋敷へ戻ります」


「ケーラ」


「はい?」


「遅くまでお疲れ様。わざわざ見に来てくれてありがとう」


 ケーラが少しだけ目を丸くした。


「男爵様こそ、お疲れの出ませんように」


「おやすみ」


「おやすみなさいませ」


 ケーラが帰っていった。


「さて……」


 きりのいいところまで、この計算だけ終わらせよう。


 それが終わったら帰る。


 俺は再び数字を見る。


 人件費。


 税収。


 食料支援。


 退職時に必要な金。


 屋敷。


 既存契約。


 ここを減らすとどうなる?


 こっちを残せばどうなる?


 でも、それだと二か月後の支払いが足りない。


「……」


 さらに紙を一枚取り出す。


 そして、また一枚。


 いつの間にか、ピコがソファーから降りて俺の足元で丸くなっていた。


 それでも手を止めなかった。


 ◇


 ふと、机の上が明るくなった。


「……ん?」


 蝋燭じゃない。


 窓を見る。


 空が白んでいた。


「え?」


 立ち上がって窓へ近づく。


 朝日が昇り始めている。


「……朝?」


「ピー……」


 足元で眠っていたピコが顔を上げた。


 机を見る。


 一晩で書き上げた数字と、何枚もの案。


「またやっちゃった……」


 前世でも同じだった。


 資金繰りが厳しくなると、答えが出るまで数字から離れられなくなる。


 でも、数字だけで決めるわけにはいかない。


「はぁ~。こんな時に寝なくても済むスキルとかあれば良いんだけどな」


 今日から一週間。


 屋敷。


 政務所。


 各役場。


 そこで働く全員と話す。


 誰を辞めさせるかを決めるためじゃない。


 誰に何を任せられるのかを知るために。


 まずは、人を見る。


 それから決めよう。



最後まで読んでいただきありがとうございます。

本編に書かれてはいませんが、アストンはリオンの警護のため政務所につきっきりでした。


作者自身、キャッシュロー計算書と一晩向き合った経験があります。

あの頃は色々と大変でした……。


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― 新着の感想 ―
これ、そもそも領主以前に国が軍を使って 鎮圧しないといけない事なんですけどね。 リオンが言うのは筋が違います。 あとイレーナ達から借りてる人がいる場合は 国とは関係ありませんから返済義務は借りた個…
流石にこれは王都に頼めよ案件 あと単に免除したら身売りとかで犠牲を払って納税した人が不満でるから、買い戻しとか補償もいる
時計を用いての具体的な時間の明言って今までありましたっけ、王国内での基準時間の設定と同じ精度の機械式時計が普及してはいると言うことなのかな
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