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45歳社長、転生先でハズレスキル「綻びの目」を武器に没落領地を再建する  作者: アカメノコバチ
第21章 リオン・ハル男爵

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第548話 男爵叙爵

お手すきの際に是非!

《剣聖》になった弟に家を追い出された俺のスキルは《会員》でした

(https://ncode.syosetu.com/n6087ms/)からご覧いただけます。

 それから数日が過ぎた。


 昼は旧グレイヴ領西部の資料を読み、夜はミラと食事をする。


 資料ばかり見ているとピコに邪魔され、仕方なく遊ぶこともあった。


「ピー!」


「分かったって。ピコも心配してくれてるんでしょ?」


「ピー!」


 父上と母上も、まだ王都に残っている。


 俺の叙爵が決まったため、滞在を延ばしていた。


 だから二人の泊まっている宿にも何度か顔を出した。


「ちゃんと食べてる?」


「食べてます」


「本当に?」


「最近はミラと毎日一緒に食べてるので」


 そう答えると、母上はなぜか少し嬉しそうだった。


 父上とは、旧グレイヴ領西部について話すこともあった。


「資料は読んだか?」


「はい。思ってた以上に厳しいです」


「そうか」


「父上なら、最初に何をします?」


 父上はしばらく黙った。


「それを決めるのはお前だ」


「……ですよね」


「ただし、一人で全部やろうとするな」


「はい」


 また同じことを言われた。


 学院を卒業する前から、何度も言われていることだ。


 一人で全部抱え込まない。


 分かっている。


 分かっているつもりだけど、資料を読めば読むほど、誰に何を頼むのかまで考えなければならない状態だった。


 そんな毎日を過ごしているうちに、一週間はあっという間に過ぎた。


 そして今日、俺は男爵になる。


 ◇


「少し曲がってるわ」


「どこが?」


「じっとしてなさい」


 朝から母上が俺の礼装を直している。


「昨日も確認しましたよね?」


「大人しくしなさい。大事な日なのですから」


「そういうものですか?」


「そういうものよ」


「エマ。もう十分だろう」


 父上が横から言う。


「今日くらい、好きにさせてください」


「……そうか」


 あっさり引いた。


 どうやら今日だけは、母上の好きにさせるらしい。


「はい。これでいいわ」


 母上が一歩下がり、俺を見る。


「立派になったわね」


「まだ男爵になってませんよ」


「あと少しでしょう?」


「そうですけど」


 母上の目が少し潤んでいる。


「泣かないでくださいね」


「泣いてないわよ」


「卒業式でも聞きました」


「今日は違います」


 何が違うんだろう。


 父上が立ち上がる。


「行くぞ」


「はい」


 俺も扉へ向かおうとすると、父上に呼び止められた。


「リオン」


「何ですか?」


「今日から、お前は領主だ」


 足が止まる。


「……はい」


「ハル領とは違う。お前が最後に決めることになる」


「分かっています」


「ならいい」


 父上はそれ以上何も言わなかった。


 でも、その言葉が一番緊張した。


 ◇


 王宮へ着く。


 今日案内されたのは、いつもの会議室ではない。


 謁見の間だ。


 大きな扉が開く。


 正面には国王陛下と王妃陛下。


 その近くにはエドガーと宰相がいる。


 参列席には王宮の高官や貴族たちが並び、その中に父上と母上、ハーウェイ侯爵夫妻とミラ、ヴァレスト公爵とセレナの姿も見えた。


 急に喉が乾く。


 卒業式で大勢の前に立ったばかりなのに、今日は全然違う。


「リオン・ハル殿。前へ」


 儀典官に呼ばれる。


 ゆっくり歩き、国王陛下の前で片膝をつく。


 宰相が文書を開いた。


「リオン・ハル」


「はい」


「ハル領の再建と発展に寄与し、王国に多くの利益をもたらしたその働き、ならびにこれまでの功績を王国は認める」


 謁見の間に宰相の声が響く。


「また、旧グレイヴ領西部を預かり、そこに暮らす民の生活を立て直す者として、その責務を任せるに足る人物であると認める」


 責務。


 その言葉だけが、妙に重く聞こえた。


 宰相が下がる。


 国王陛下が俺を見る。


「リオン・ハル」


「はい」


「本日をもって、お前をアルスレイン王国男爵に叙する」


「謹んでお受けいたします」


「併せて、旧グレイヴ領西部をお前の領地として与える」


 分かっていたことなのに、改めて言葉にされると胸が苦しくなるほど緊張する。


「リオン・ハル。王国の法を守り、領地とそこに暮らす民を預かる者として、その責務を果たすことを誓うか」


 頭に浮かんだのは資料だった。


 減り続けた人口。


 荒れた農地。


 壊れた道路。


 働き手のいない村。


 でも、その数字の向こうには人がいる。


「誓います」


 今度は迷わなかった。


 官吏が前へ出る。


 爵位を記した文書。


 領地を正式に与える文書。


 そして、新しい印章。


 一つずつ受け取った。


 最後に手のひらへ乗った印章を見る。


 小さい。


 でも、ものすごく重く感じた。


 これを使えば、俺の名で命令が出る。


 金を使うことも、人を動かすこともできる。


 そして、その結果に責任を持つのも俺だ。


「リオン」


「はい」


「以前も言ったな。爵位を与えるということは、ただ褒美を与えるという意味ではない」


「はい」


「王宮が救えなかった者たちを、お前に託す」


 国王陛下と目が合う。


「頼んだぞ」


「……承知しました」


 国王陛下が頷く。


「立て。リオン・ハル男爵」


 立ち上がった。


 リオン・ハル男爵。


 まだ、自分の名前じゃないみたいだ。


 一週間前まで学院生だった。


 昨日までだって、ただ叙爵の日を待っていた。


 でも今は違う。


 俺は本当に男爵になったんだ。


 そして、旧グレイヴ領西部の領主になった。


 ◇


 叙爵式のあと、王宮で小さな昼食会が開かれた。


 王家が俺の叙爵を祝うために用意してくれたものだ。


 参加しているのも、国王陛下たちや両親、ハーウェイ侯爵家、ヴァレスト公爵家など関係の深い人たちだけだった。


「リオン男爵」


「……やめてよ」


 早速ミラが面白そうに呼んでくる。


「どうして? 本当に男爵でしょ?」


「まだ慣れないんだよ」


「では、ハル男爵。今後ともよろしく」


 今度はエドガーだ。


「エドガーまでやめてよ」


「公式には間違ってないよ」


 二人とも完全に楽しんでいる。


 母上を見ると、やっぱり目元を拭いていた。


「母上、泣いてますよね?」


「今日はいいのです」


 もう何も言わないことにした。


 父上を見る。


「父上」


「何だ?」


「……ありがとうございます」


 自分でも、何に対するお礼なのかよく分からない。


 それでも言いたかった。


 父上は少しだけ頷く。


「おめでとう」


「はい」


 それだけで十分だった。


 ◇


 昼食会が終わる頃には、緊張もだいぶ取れていた。


「改めて、おめでとう」


 ハーウェイ侯爵から声をかけられる。


「ありがとうございます」


「これから大変になるだろうが、困ったことがあれば相談するといい」


「はい。その時はよろしくお願いします」


 旧グレイヴ領西部の南にはハーウェイ領がある。


 これからは父上だけじゃなく、ハーウェイ侯爵に相談することも増えるかもしれない。


「リオン男爵」


 今度はヴァレスト公爵だった。


「叙爵、おめでとう」


「ありがとうございます」


「領地を持てば、学院にいた頃とは違う苦労も増えるだろう。

 だが、君なら面白い領地にするのではないかと期待しているよ」


「頑張ります」


 セレナとも少し話し、エドガーからも改めて祝われた。


「東と西、お互い大変になりそうだね」


「エドガーの方もね」


「ああ。また情報交換しよう」


「うん」


 父上と母上も、ハーウェイ侯爵夫妻や他の参列者に挨拶をしている。


 しばらくして、皆それぞれ王宮を出ることになった。


 父上と母上は宿へ戻り、ハーウェイ侯爵夫妻も侯爵邸へ向かう。


 ヴァレスト公爵とセレナ、エドガーともここで別れた。


「じゃあな、ハル男爵」


「だからそれやめてって」


 エドガーが笑いながら去っていく。


 俺も王宮を出る。


 手元には爵位の証書と領地の文書。


 そして男爵家の印章。


「リオン」


 声をかけられて振り返る。


 ミラが立っていた。


「改めて、おめでとう」


「ありがとう」


「今日はちゃんと喜んでいい日だからね」


「うん」


 そうだ。


 今日くらいは素直に喜んでいい。


 男爵になった。


 自分の領地を持った。


 ずっと目指していたわけじゃない。


 それでも、ここまで来たことが嬉しくないわけがない。


 でも明日からは違う。


 旧グレイヴ領西部。


 王宮が立て直せなかった土地。


 そこに暮らす人たちを、今度は俺が預かる。


「よし」


「何?」


「明日から頑張ろうと思って」


「今日も十分頑張ったでしょ」


「そうだけどさ」


 ミラが笑い、俺も笑った。


 学院生は、もう終わった。


 今日から俺は、領主だ。


 没落領地を再建するぞ。



今回も最後まで読んで頂きありがとうございます。

ヴァレスト公爵はリオンの人生を変えた存在と言えると思います。

本当はもっと登場してもらいたいのですが、登場機会を作れず。


作者的にはヴァレスト公爵(リオン同様、2回飛び級&首席入学・卒業)の半生を書きたいのですが、しばらく書けなさそうです。

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― 新着の感想 ―
気になったから封建制をAIに聞いてみた 親存命時は男爵で男爵領 親没後時は子爵になり、子爵領と男爵領を掛け持ち ファンタジーじゃ無い中世ではこの掛け持ちが当然だったそうな むしろ、なろうとかの創作の方…
リオンがグレイヴ領の新領主ってことは、ハル領の後継はどうなるのか、、、領主になるって話がでてから数十話経ちますが気になって仕方ないです笑
もうハル家からは独立しましたのでグレイブを名乗ないと… それか違う村か町の地名を名乗るしかないでしょ。
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