第547話 久しぶりの冒険者
お手すきの際に是非!
《剣聖》になった弟に家を追い出された俺のスキルは《会員》でした
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数日後。
俺は王都の冒険者ギルドでミラを待っていた。
「リオン、お待たせ」
「おお」
振り返る。
学院の制服でも、普段の貴族らしい服でもない。
動きやすい服に軽い防具。
ちゃんと冒険者らしい格好だ。
「どう?」
「似合ってるよ」
「本当?」
「うん。ちゃんと冒険者に見える」
「ちゃんとって何?」
ミラの少し後ろには二人の護衛がいる。
さすがに侯爵令嬢を完全に一人で行動させるわけにはいかないらしい。
「じゃあ、まず登録だね」
「うん」
「ピー!」
ピコも今日は朝から機嫌がいい。
◇
ミラの冒険者登録はすぐに終わった。
「G級かあ」
「最初はみんなG級だから」
「リオンは?」
「今はB級」
「ずいぶん離れてるね」
「俺も最初はG級だったよ」
掲示板へ向かう。
今日は俺のランクに合わせるつもりはない。
ミラの初仕事だ。
「これなんてどう?」
王都南西の森、その入口近くにある農場から出された依頼だった。
森から出てくる魔物が畑を荒らしているらしい。
「これならよさそうだね」
「じゃあ、これにする」
俺がB級だからすんなりと依頼を受けることが出来た。
受付で手続きを済ませ、俺たちは王都を出た。
◇
街道を南西へ進む。
護衛の二人は、俺たちから少し離れたところを歩いている。
何かあればすぐ来られるけど、普通に話している声までは聞こえないくらいの距離だ。
「ピー!」
ピコは俺たちの前を楽しそうに跳ねている。
「元気だね」
「ここ何日か、ずっと部屋だったからじゃない?」
「……そうかも」
「ピコも気分転換だね」
「ピー!」
しばらく歩いていると、ミラがこちらを見る。
「ねえ、リオン」
「何?」
「前から聞きたかったんだけど、《縮地》ってどうなってるの?」
「ああ」
魔法について何でも広めていいわけではないけど、ミラなら問題ないだろう。
「《縮地》は、一つの魔法じゃないんだ」
「え?」
「身体強化と浮遊魔法と風魔法を組み合わせてる」
ミラが黙った。
「……三つ?」
「うん。身体を強化して、浮遊魔法で動きを軽くして、風で一気に押す感じ」
「それを同時に使ってるの?」
「うん」
ミラが呆れたように笑う。
「じゃあ、セレナとの代表決定戦で使ったのは?」
「どれ?」
「炎が消えたら、いきなりセレナの後ろにいたでしょ。あれも《縮地》?」
「あれは違うよ」
「じゃあ何?」
「転移魔法」
ミラの足が止まった。
「……転移?」
「うん」
「瞬間的に移動できるってこと?」
「うん、色々と条件はあるけど」
俺も足を止める。
「自分の魔力を込めた小石を投げて、その魔力を目印にして転移したんだ」
「ちょっと待って」
「うん」
「身体強化、浮遊、風、それに転移?」
「そうだね」
ミラが俺をじっと見る。
「リオンって、もうアルスレイン王国で一番強いんじゃない?」
「それはないよ」
「即答なんだ」
「旧グレイヴ領西部に、とんでもなく強い人がいるからね」
「誰?」
「イレーナって人」
あの時のことを思い出す。
「俺もエドガーも、まったく歯が立たなかった」
「……リオンもエドガーも?」
「うん」
「本当に?」
ミラが信じられないという顔をする。
「俺が動こうとする前から、何をするか分かってるみたいに動くんだ。
フェイントもほとんど意味がなかった」
「そんなことできるの?」
「分からない。スキルなのかもしれないけど、本人から聞いたわけじゃないから」
未来でも見えているんじゃないかと思ったくらいだ。
「そんな人が西部にいるんだ……」
「ピー!」
ピコだけは何の話にも興味がないらしく、楽しそうに先へ進んでいる。
「置いていかれるよ」
「ピー!」
◇
昼過ぎ、依頼のあった農場へ着いた。
「冒険者さんですか?」
「はい。魔物討伐の依頼を受けてきました」
農場主から詳しく話を聞く。
「ここ最近、森から灰色のネズミみたいな魔物が来るんです。
畑へ入って、作物を食い荒らしてしまって」
「何匹くらいですか?」
「最初は一匹だと思っていたんですが、被害を見るともっといるかもしれません」
「分かりました」
森に近い畑の端で待つことにする。
しばらくすると、草むらが揺れた。
「来た」
姿を現したのは灰色鼠だった。
「一匹?」
そう思った直後、別の場所からも草が揺れる。
「……結構いるね」
「うん」
次々と出てきた。
十匹近い。
少し離れていた護衛たちが距離を詰める。
「ミラ様」
「大丈夫です」
「ですが――」
「危なくなったらお願いします」
護衛たちは一度俺を見る。
俺が頷くと、それ以上近づいてこなかった。
「ミラはここで待ってて」
「嫌」
「え?」
「私も戦うよ」
「今日が初めての依頼だよ?」
「だから戦うんでしょ?」
確かに。
「危なかったら下がってね」
「リオンも油断しないでね」
「はい」
灰色鼠が向かってくる。
俺が前へ出て一匹を斬る。
横ではミラがすぐに魔法を放った。
一匹。
続けてもう一匹。
動きにも無駄がない。
「……強いな」
学院でも実技は上位だった。
分かっていたけど、実際の魔物を相手にしても落ち着いている。
これだけ強かったら、王都で襲われても普通の相手なら自分で何とかできるんじゃないか?
少し離れた護衛を見る。
二人とも落ち着いて見ている。
……護衛の人たちも同じ判断みたいだな。
「リオン!」
「え?」
灰色鼠が一匹飛びかかってくる。
剣で払う。
「戦ってる時によそ見しないで」
「ごめん」
数分後。
最後の一匹が倒れた。
「終わったね」
「うん」
ミラが少し嬉しそうだ。
「初依頼はどうだった?」
「楽しかった」
「それならよかった」
討伐証明になる部位を回収する。
いくつか回収したところで。
「ピー!」
「ピコ、これはギルドに持っていくから――」
ぱくっ。
「あ」
次も飲み込む。
「ピコ?」
「ピー!」
「全部飲み込んじゃったね」
「ピー」
これだけの灰色鼠はどうやって処理してるんだろう。
考えても結論が出ないから、まぁ良しとしよう。
農場主へ討伐を報告すると、何度も頭を下げられた。
「これで畑を守れます。本当にありがとうございます」
「また被害が出たら、すぐギルドへ連絡してください」
「はい」
◇
帰る頃には日が落ち始めていた。
「暗くなってきたね」
「明るくするよ」
ミラが光魔法を使う。
柔らかな光が街道を照らした。
「懐かしいな」
「何が?」
「洞窟でも、こうやってミラに照らしてもらったなって」
「あの時は、もっと暗かったけどね」
「それに迷子だった」
「迷子じゃなくて、落ちたんでしょ」
「似たようなものだよ」
「違うよ」
二人で笑う。
少し後ろには護衛たちがいる。
「今日は楽しかった?」
ミラが聞く。
「うん。来てよかった」
「それなら良かった」
「資料ばっかり読んでたから、いい気分転換になったよ」
「じゃあ成功だね」
「最初からそれが目的だった?」
「もちろん」
「やっぱり」
「また行こうね」
「うん」
「ピー!」
ピコも賛成らしい。
◇
王都へ戻り、冒険者ギルドで依頼完了の手続きと討伐証明を提出する。
受付の女性から報酬をもらう。
報酬はミラと二人で分ける。
「初めての報酬だね」
「うん」
ミラが嬉しそうに受け取った。
「じゃあ帰ろうか」
「その前に、ご飯食べようよ」
ミラがギルドの食堂を見る。
「ここで?」
「うん」
すると護衛の一人が近づいてきた。
「ミラ様。さすがに侯爵家のご令嬢がこちらで食事をされるのは……」
「今日は冒険者として来ています」
「ですが」
「それに」
ミラが俺を見る。
「リオンと毎日夜ご飯を食べる約束をしてるから」
「ああ、そうだったね」
護衛は困った顔をする。
「ここで食べてもいい?」
「俺はいいよ」
「決まり」
護衛は何か言いたそうだったが、最後には諦めた。
俺たちはそのままギルドの食堂で夕食を摂った。
◇
食事を終え、ミラをハーウェイ侯爵邸まで送る。
「今日はありがとう」
「こっちこそ。連れ出してくれてありがとう」
「また行こうね」
「うん。次も安全な依頼で」
「洞窟は?」
「しばらくいいです」
「私も」
ミラが笑う。
「じゃあ、また明日ね」
「また明日」
「ピー!」
ミラが屋敷へ入るのを見届け、寮へ向かう。
歩きながら、今日の農場のことを思い出した。
報告書なら、たぶん一行で終わる。
魔物による農作物被害。
でも、その一行の向こうには、作物を荒らされて困っている人がいた。
旧グレイヴ領西部の資料も同じだ。
人口。
税収。
農地。
道路。
数字だけを見て、分かったつもりになっちゃいけない。
国王が言っていた言葉を思い出す。
数字と報告書しか見えなくなる。
「やっぱり、もう一度ちゃんと現地を見ないとな」
「ピー」
叙爵まで、あと少し。
俺はピコを抱き直し、寮へ向かった。
最後まで読んで頂きありがとうございます。
諸事情によりミラのスキルは「聖光」から「光聖」に変更しました。
今回は久しぶりの冒険者回なのに久しぶりな気がしないのは何でだろう…。




