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45歳社長、転生先でハズレスキル「綻びの目」を武器に没落領地を再建する  作者: アカメノコバチ
第21章 リオン・ハル男爵

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第546話 数字が示すもの

お手すきの際に是非!

《剣聖》になった弟に家を追い出された俺のスキルは《会員》でした

(https://ncode.syosetu.com/n6087ms/)からご覧いただけます。

 翌朝、俺は寮監のところへ向かった。


「退寮の日を延ばしたい?」


「はい」


 本来なら、卒業した以上はそう長く寮に残れない。


「一週間後に王宮で用事がありまして。その翌日まで、ここに置いてもらえないでしょうか?」


「その件なら、学院からも聞いています」


「もう聞いてるんですか?」


「王宮から連絡があったそうです。学院側とも話はついていますので、使って構いません」


「ありがとうございます」


 助かった。


 すぐに領地へ向かうわけではないが、今のうちに調べておきたいことが山ほどある。


 何より、昨日渡された資料だ。


 部屋へ戻ると、机の上には分厚い資料が積んである。


「さて」


「ピー」


 ピコがこちらを見る。


「今日はこれを読むよ」


「ピー?」


「たぶん、一日かかる」


 いや。


 昨日少し見た量を考えると、一日で終わるか?


「……何日かかるかな」


「ピー」


 ピコは興味がなさそうだった。


 椅子に座り、最初の資料を開く。


 ◇


 昨日、王宮で見せられた資料は概要だけだった。


 手元に渡されたものには、さらに細かい情報が載っている。


 以前、旧グレイヴ領を視察したあと、王宮の政務官たちが改めて各地へ入った。


 そこで人口や農地、税収、家畜、道路などを調べ直したらしい。


 最初に人口を見る。


「……やっぱり少ないな」


 旧グレイヴ領西部の人口は、王宮に残っていた古い記録より明らかに減っていた。


 ただ、問題はそれだけじゃない。


 年齢別の数字を見る。


「働ける年代が少なすぎる」


 子供が少ない。


 若者も少ない。


 特に働き盛りの世代が大きく減っている。


 政務官の報告には、理由まで書かれていた。


 仕事を求めて王都へ出た者。


 東部の町へ移った者。


 他領へ移住した者。


 徴税に耐えられず土地を捨てた者。


 彼らのほとんどは帰ってきていない。


「人が減っただけじゃないのか」


 必要な人から抜けている。


 次に農地。


 帳簿上では農地になっていても、実際には耕作されていない土地がかなりある。


 理由を見る。


 働き手不足。


 水路の破損。


 農具不足。


 家畜不足。


「……全部つながってるな」


 農地が使えないから収穫が減る。


 収穫が減るから収入も減る。


 収入が減るから、農具も家畜も買えない。


 人はさらに出ていく。


 次は家畜。


「こっちもか」


 農耕に使う馬や牛が減っている。


 生活が苦しくなった時に売った家も多いらしい。


 当然、家畜が減れば農作業にも影響する。


 税収を見る。


「……ひどいな」


 五年前と比べて大きく落ちている。


 税を納めたくても納められない家が増え、徴収できない分を残った領民へ負担させる。


 それでさらに生活が苦しくなり、また人が逃げる。


「最悪の循環じゃないか」


 道路の資料を開く。


 主要な道は王宮が最低限の補修をしている。


 ただ、村と村をつなぐ道になると話が違う。


 壊れた橋。


 雨が降ると通れなくなる道。


 荷車が通れない場所。


 長期間、補修されていない区間。


 商人が来ない。


 物が入らない。


 売るものがあっても運べない。


 だから商売が育たない。


「これ……」


 紙を机に置く。


 前世の会社に置き換えて考えてみる。


 売上が落ち続けている。


 人が辞めていく。


 新しい人も入ってこない。


 設備は壊れている。


 物流も悪い。


 生産量も下がっている。


 しかも、立て直すために使える金もない。


「……会社だったら、とっくに倒産してるぞ」


 倒産寸前じゃない。


 もう倒産している。


 そんな状態だ。


 しかも会社なら、最悪の場合は事業を畳める。


 領地は違う。


 採算が悪いから村を閉鎖します。


 人が多すぎるから領民を減らします。


 そんなことはできない。


 そこには人が暮らしている。


「これは……思ってたよりきついな」


 昨日、国王が言っていた。


 王宮が救えなかった人たちを何とかしてもらいたい。


 ようやく、その言葉の意味が少し分かってきた。


 ◇


 翌日も資料を読んだ。


 今度は村ごとの報告だ。


 同じ西部でも状況はかなり違う。


 比較的まだ農業が成り立っている村。


 人口の半分近くが高齢者になっている村。


 空き家が増え続けている村。


 近くの水路が壊れたままの村。


 商人がほとんど来なくなった村。


「こっちを直せば終わり、じゃないな」


 一つの問題を解決すれば全部よくなる状態じゃない。


 道路。


 農業。


 雇用。


 人口。


 教育。


 商業。


 全部が絡み合っている。


 紙を一枚取り、自分なりに整理する。


 重税と物価高で働き手がハル領を含め他領へ出ていく。


 働ける人口が減る。


 生産量が落ちる。


 税収が減る。


 道路や水路を直せなくなる。


 商人が来なくなる。


 仕事が減る。


 さらに人が出ていく。


「完全に悪循環だ」


「ピー」


「そうだよね」


「ピー?」


「いや、ピコは分かってないか」


 ピコが俺の足元まで来る。


「遊ぶ?」


「ピー!」


「ごめん。あとちょっとだけ」


「ピー……」


「本当にあとちょっとだから」


 そう言って、また資料へ戻る。


 次に顔を上げた時には、かなり時間が経っていた。


「……あれ?」


 ピコを見る。


 ベッドで寝ている。


「ごめん」


 ◇


 資料を受け取って三日目。


 朝から、また机に向かっていた。


 今日は行政組織を見る。


 これもひどい。


 人が足りない。


 経験のある役人も少ない。


 旧グレイヴ家に近かった者は調査対象になり、すでに職を離れた者もいる。


 現在は王宮から派遣された政務官が補っているが、それも暫定的なものだ。


「領主になったら、人も集めないといけないのか」


 やることが一つ増えた。


 資料の端に書き込む。


 人材。


 財政。


 道路。


 農業。


 商業。


 教育。


「多いな……」


 でも、順番を決めないといけない。


 全部を同時にはできない。


 何から手をつける?


 今、一番止血しないといけない場所はどこだ?


 前世でも会社の経営状態が悪い時ほど、全部に手を出すのは危険だった。


 資金を調達するにも、出資したい人がいるような状態ではなさそうだ。


 仕事ができる人も限られてそう。


 優先順位を間違えれば、良くするどころかさらに悪くなる。


「まず人口流出を止める? でも仕事がなければ止まらない。仕事を作るには道路も必要で……」


「ピー」


「うん」


 ページをめくる。


「農業を先に立て直すとしても、働き手が――」


「ピー」


「あとでね」


「ピー……」


 しばらくすると、ピコは諦めたらしい。


 ベッドの上で丸くなった。


 俺はそのことにも気づかず、資料を読み続けた。


 どれくらい経っただろう。


 扉が叩かれた。


「はい」


「ハル君、いますか?」


 寮監の声だ。


 扉を開ける。


「どうしました?」


「ミラ・ハーウェイ様がお見えです」


「ミラが?」


「玄関でお待ちです」


「分かりました。すぐ行きます」


 机へ戻り、資料を閉じる。


 窓を見る。


「……え?」


 外が暗い。


「もうこんな時間なのか」


 朝から読み始めたはずなのに。


「ピコ、行くよ」


「ピー?」


 ベッドで寝ていたピコが顔を上げる。


「ミラが来たって」


「ピー!」


 急に元気になった。


「我慢させてごめんね」


 ピコと一緒に玄関へ向かった。


 ◇


「リオン」


「ミラ。どうしたの?」


「ご飯に行こう」


「え?」


 いきなりだった。


「今日も朝からずっと資料見てたでしょ?」


「うん」


「ご飯、食べてないでしょ?」


「朝は食べ……てないな」


 何を食べた?


「食べてないかも」


「やっぱり」


「どうして分かったの?」


「リオンだから」


 ミラは当然という顔をしている。


「あれからずっと資料読んでたでしょ?」


「うん」


「今日もそうなると思った」


「……正解です」


「ピー」


 ピコまで頷く。


「ピコまでそっちなの?」


「ピー!」


 完全にミラの味方だった。


「だから、ご飯に行こう」


「うん。行こうか」


 資料は気になる。


 でも、さすがに腹が減った。


 寮を出て、学院近くの店へ向かった。


 ◇


「おいしい……」


「そんなに?」


「今日初めてちゃんと食べ物を見た気がする」


「昨日は?」


「なんか食べた気がする」


「本当?」


「そこは本当」


 ミラが疑わしそうに見る。


 俺はパンを食べる。


 普通のパンなのに、妙においしい。


 ピコも用意してもらった食事を夢中で食べている。


「ピー!」


「ピコもお腹減ってた?」


「ピー」


「ごめん」


 俺に付き合って、ここの所ずっと部屋にいた。


 もう少し遊んであげよう。


「資料、そんなに大変なの?」


 ミラが聞く。


「詳しい数字は言えないけど、思ってたより悪い」


「そうなんだ」


「以前視察した時も厳しいとは思ったけど、政務官がその後に詳しく調べた資料を見ると、もっといろんな問題が出てきた」


「大丈夫?」


「大丈夫とは言えないかな」


「リオンが?」


「領地が」


「ああ」


 ミラが少し笑う。


「俺は大丈夫」


「ご飯を食べるのを忘れてたのに?」


「……そこは反省してます」


 スープを飲む。


 少し落ち着いた。


「そういえばミラは、いつまで王都にいるの?」


「あと一週間くらいかな」


「そうなんだ」


「卒業したからすぐ領地へ戻ってもいいんだけど、父上達もたちもしばらく王都にいるし、今は王都のハーウェイ侯爵邸にいるの」


「じゃあ、俺の叙爵の頃まではいる?」


「うん。実はリオンの叙爵には父上と参列みたい」


「そっか」


 なんとなく安心した。


「リオンは?」


「俺は叙爵の次の日まで寮にいさせてもらえることになった」


「よかったね」


「うん。今移動するより、資料を整理したかったから」


「やっぱり資料なんだ」


「大事だからね」


「分かってるけど」


 ミラが少し考える。


「リオン、お願いがあるんだけど」


「何?」


「今度、私を冒険者の仕事に連れていって」


「え?」


 予想していなかった。


「冒険者?」


「うん」


「急にどうしたの?」


「急じゃないよ」


「そう?」


「このままだと、リオンずっと寮の部屋に籠もって資料読むでしょ?」


「……否定できない」


「だから、たまには外に出た方がいいと思って」


「俺の気分転換?」


「うん」


 やっぱりそうだった。


「危ない依頼じゃなくていいの。王都の近くでできるものとか」


「いいよ」


「本当?」


「うん。俺も最近、冒険者の仕事してなかったし」


 そういえば、いつからまともに冒険者らしいことをしていないんだろう。


「ミラと一緒に洞窟いったのは、あの時以来かな」


「懐かしいね」


「あの時はクラウスもいたけど」


「大変だったよね」


「大変どころじゃなかったよ。帰れないかと思った」


 学院の実習で入った洞窟。


 クラウスとミラと三人で奥へ進み、予定とは違う場所へ落ちた。


 ミラが光を抑えながら進み、戦ったら勝てない魔物から三人で隠れた。


 最後には外へ戻れたけど、もう一度やりたい経験ではない。


「あの時、リオン怪我もしてたよね」


「ミラに包帯巻いてもらった」


「覚えてたんだ」


「それくらい覚えてるよ」


「ふふっ」


「今回は普通の依頼にしよう」


「もちろん」


「洞窟は?」


「しばらくいいかな」


「俺も」


 久しぶりに、領地とは関係ないことで笑った気がした。


 ◇


 食事を終えて店を出る。


 ピコはお腹がいっぱいになったのか、俺の腕の中で満足そうにしている。


「ピー」


「眠い?」


「ピー……」


「さっきまで寝てたじゃん」


 ミラが笑う。


「ピコもリオンに付き合って疲れたんじゃない?」


「何もしてないよ?」


「退屈するのも疲れるんだよ」


「そうなの?」


「ピー」


 そうらしい。


「リオン」


「何?」


「うちまで送ってって」


「え?」


 思わずミラを見る。


 ミラはSクラスでも実技は上位だった。


 普通の相手に襲われたくらいなら、自分でどうにかできるんじゃ――。


「……うん。送るよ」


 少し間が空いた。


 ミラがじっと俺を見る。


「今、私なら一人で帰れるだろって思ったでしょ?」


「えっ?」


「やっぱり」


「なんで分かるの?」


「一回考えてから返事したから」


「そこまで分かる?」


「リオンのことは結構分かるよ」


「……そうですか」


「それに、実技が得意でも送ってほしい時はあるの」


「あ」


 そういうことか。


「ごめん」


「わかればよろしい」


 ミラが少し得意そうに歩き出す。


 俺もその隣を歩く。


 ◇


 夜の王都を歩く。


 卒業したせいか、昨日までとは景色が少し違って見える。


「この後、寮に戻ったらまた資料読むんでしょ?」


「うん」


「明日も?」


「たぶん一日読む」


「やっぱり」


「今のうちに、できるだけ色んなことを頭に入れておきたいんだ」


「それはいいけど、ご飯はちゃんと食べるんだよ?」


「はい」


「本当に?」


「……努力します」


「そこは『食べる』って言って」


「食べます」


「よろしい」


 歩きながら考える。


 今日みたいなことは、また起きそうだ。


 研究をしている時もそうだった。


 資料を読んだり、何かを考え始めると、時間を忘れる。


「ミラ」


「何?」


「お願いしてもいい?」


「うん。私にできることなら」


「俺、一人でいると資料読んだりするのに夢中になって、時間忘れちゃうみたいだからさ」


「みたい?」


「……忘れます」


「うん」


「ミラが王都にいる間、良かったら毎日一緒に夜ご飯食べない?」


 ミラが足を止めた。


「毎日?」


「嫌だった?」


「ううん」


 ミラが笑う。


「いいよ」


「本当?」


「うん。私も一緒に食べたい」


「じゃあ決まり」


「その代わり、夕方になってもリオンが来なかったら迎えに行くからね」


「それはちょっと恥ずかしいな」


「じゃあ時間を忘れないでね」


「頑張ります」


「ピー」


「ピコも一緒に来る?」


「ピー!」


「決まりだね」


 なんだか急に、これからの一週間が少し楽しみになった。


 ◇


 王都のハーウェイ侯爵邸へ着く。


 立派な門の前で、ミラが振り返った。


「送ってくれてありがとう」


「うん」


「じゃあ、また明日ね」


「また明日」


「ピコもまたね」


「ピー!」


 ピコが俺の腕の中から鳴く。


 ミラが屋敷へ入っていくのを見届けてから、寮へ向かって歩き出した。


 資料の内容は変わっていない。


 人口が増えたわけでも、税収が戻ったわけでも、壊れた道路が直ったわけでもない。


 それでも、さっきまでより気持ちは軽かった。


「ミラのおかげかな」


「ピー」


「ピコも?」


「ピー!」


「はいはい。ピコもね」


 明日も資料を読む。


 やることは山ほどある。


 でも、ずっと机に向かって悩んでいるだけじゃ何も変わらない。


 俺は少し歩く速度を上げた。


「よし! 頑張るぞ!」


「ピー!」


 夜の王都に、ピコの元気な声が響いた。



今回も最後まで読んで頂きありがとうございます。

リオンの前世にミラみたいな人がいたら、どういう人生になっていたんだろうと思います。

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― 新着の感想 ―
リオン、婚約者を送って行くなんて当たり前の事を思いつかないとは… しっかりしろ!
えぇー、人もお金も援助なしでリオンに丸投げなの? さすがにそれはないんじゃない? 王宮?国王?は無能すぎない? ここでこそお金と人を出して、目処がたつなり軌道にのるなりするところまで協力しないとダメな…
リオンはミラがいなかったらワーカホリックまっしぐらなんでは?wそれにしもナイナイづくしで、これをどうしろと??って思うけどねぇ…。王都で貧困にあえいでいる人達(東地区とか)を連れてくる?
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