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45歳社長、転生先でハズレスキル「綻びの目」を武器に没落領地を再建する  作者: アカメノコバチ
第20章 王立学院五年 三学期

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第544話 卒業舞踏会

お手すきの際に是非!

《剣聖》になった弟に家を追い出された俺のスキルは《会員》でした

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 卒業式が終わってからしばらくして、俺は学院内に用意された部屋で着替えていた。


「……これでいいのかな」


 鏡を見る。


 母上が用意してくれた正装は、昨日仕立て屋に直してもらったおかげで体にぴったり合っている。


 普段の制服とは全然違う。


 こういう服を着ることには、まだ慣れない。


「昨日まで何も用意してなかったんだよな……」


 思い出すだけで恥ずかしい。


 俺の行動や発言で、婚約者であるミラに恥をかかせることになる。


「気をつけないとな」


 部屋を出て、大広間へ向かう。


 さっきまで卒業式が行われていた場所とは思えないほど、雰囲気が変わっていた。


 椅子の多くは片付けられ、中央には広い空間が作られている。


 壁際には料理や飲み物が並び、楽団の人たちが楽器を準備していた。


 参加しているのは卒業生だけじゃない。


 保護者や先生たち、来賓もいる。


 国王と王妃の姿もあった。


「リオン」


「母上」


 父上と母上がやってきた。


 母上が俺を上から下まで見る。


「うん。よく似合ってるわ」


「ありがとうございます」


 父上も頷いた。


「これなら問題ないな」


「昨日はすみませんでした」


「私に謝ることではない」


「はい」


 分かっている。


 ミラにもちゃんと謝らないと。


「それにしても、ミラさんはまだみたいね」


「そうですね」


「楽しみね」


「何がですか?」


「見れば分かるわ」


 母上が意味ありげに笑った。


 何だろう。


 ◇


 しばらくすると、会場の入口が少し騒がしくなった。


 何人かがそちらを見る。


 俺も振り返った。


「……あ」


 ミラだ。


 婚約の時に着ていたものとも違うドレスだった。


 派手すぎない色合いだけど、細かな装飾が施されていて、舞踏会の灯りを受けると柔らかく輝く。


 髪もいつもとは違う形にまとめられていた。


 思わず見てしまう。


 ミラも俺に気づき、こっちへ歩いてきた。


「リオン」


「……うん」


「何、その反応」


「いや、その……」


「変?」


「違うよ」


 慌てて首を横に振る。


「すごく似合ってる」


 ミラの頬が少し赤くなった。


「ありがとう」


「婚約の時とは違うドレスなんだね」


「当たり前でしょ。今日は卒業舞踏会なんだから」


 ミラが笑う。


「あ、それと昨日はごめん」


「何が?」


「舞踏会の服。何も考えてなくて」


「ああ」


「父上にも叱られたよ」


「なんて?」


「俺だけならともかく、ミラに恥をかかせることになるって」


 ミラが少し驚いた顔をした。


「そこまで言われたの?」


「うん。でも、その通りだと思う」


「もういいよ。ちゃんと用意できたんだから」


「ありがとう」


「その代わり」


「何?」


「今日は恥かかせないでね」


「ダンス?」


 ミラが笑う。


「それも」


「……それも?」


「ほら、行こう」


 意味を聞く前に歩き出してしまった。


 その時、ミラの左手が目に入る。


「あれ?」


「何?」


「その指輪」


 婚約指輪だ。


 俺が贈ったダイヤモンドが輝いている。


「今日つけてきたんだ」


「うん。せっかくだから」


 ミラが嬉しそうに左手を見る。


 その時だった。


「あら?」


 近くにいた女性が足を止めた。


「その指輪……」


「まあ、綺麗」


「何という宝石ですの?」


 一人が気づくと、次々と人が集まってくる。


「ミラ」


「何?」


「なんか大変なことになってない?」


「私もそう思う」


 ハーウェイ侯爵夫人もやってきた。


「やっぱり目立つわね」


「お母様」


「この石は何というのです?」


 貴族夫人の一人が尋ねる。


「ダイヤモンドです」


「ダイヤモンド?」


 ミラが手を少し動かすと、石が細かく光る。


「こんなに輝く宝石があるのね」


「とても綺麗ですわ」


「角度によって光り方が変わりますのね」


 母上まで加わった。


「本当に綺麗ね。こういう場所だと余計に目立つわ」


 気づけば、ミラの周りには女性たちが集まっていた。


「リオン」


 ヴィクトルがやってくる。


「何?」


「お前、とんでもないもの持ち込んだな」


「ダイヤモンド?」


「そうだよ。見ろ」


 完全に商人の顔だ。


「これ、絶対売れる」


「そんなに?」


「これ見て分からないのか?」


 分からなくはない。


 女性たちの視線が指輪に集中している。


「ただ、アルスレイン王国にはダイヤモンドが取れる鉱山はないはずだ」


「ないんだ」


「ああ。少なくとも俺は聞いたことがない」


「じゃあ難しいね」


「逆だ」


「逆?」


「希少だから価値が出る。問題は安定した仕入れルートを作れるかどうかだ」


 ヴィクトルの目が輝く。


「それさえできれば、アルスレイン王国で爆発的に流行る可能性がある」


「もう商売のこと考えてるんだ」


「当然だろ」


 さすがヴィクトルだ。


「それに、ほら」


 ヴィクトルが視線を向ける。


 セレナだった。


「……あれ?」


 セレナの左手にも、透明な石のついた指輪がある。


「セレナ」


「何?」


「その指輪、ダイヤモンド?」


「そうよ」


「なんで持ってるの?」


 答えたのは隣にいたエドガーだった。


「僕が用意したんだ」


「エドガーが?」


「ああ。以前、リオンからダイヤモンドの話を聞いただろう? 気になって調べたんだ」


「手に入ったんだね?」


「かなり苦労したけどね」


 セレナが指輪を見る。


「実物を見るまでは、そこまで気にしていなかったんだけど」


「綺麗でしょ?」


「ええ。ありがとう、エドガー」


 ヴィクトルがすぐにエドガーを見る。


「殿下。仕入れ先は?」


「教えないよ」


「ですよね」


「ヴィクトル、早いよ」


「商売は早さが大事なんだ」


 ヴィクトルがミラとセレナの指輪を交互に見る。


「これは調べる価値がある」


 もう頭の中では商売が始まっているらしい。


 ◇


 やがて学院長が前へ出た。


「それでは、卒業祝賀舞踏会を始めます」


 短い挨拶のあと、国王も前へ出る。


「今宵の主役は卒業生たちだ。今日まで共に学んだ仲間、そして支えてくれた家族や教師たちと、存分に楽しんでほしい」


 それだけだった。


 楽団が演奏を始める。


 来た。


 四日間の練習の成果を試す時だ。


「リオン」


「何?」


「なんでそんなに真剣な顔してるの?」


「緊張してる」


「舞踏会で?」


「ダンスで」


 ミラが笑う。


「昨日はちゃんと踊れてたでしょ?」


「今日は人が多いから」


「大丈夫」


 ミラが俺を見る。


 あ、待ってる。


 練習した通りに姿勢を整え、ミラの前に立つ。


 手を差し出した。


「ミラ。踊っていただけますか?」


 一瞬、目を丸くしたあと、ミラが笑った。


「もちろん」


 手を取る。


 ◇


 一、二、三。


 一、二、三。


 頭の中で数えながら足を動かす。


「リオン」


「何?」


「もしかして数えてる?」


「声には出してないよ」


「顔に出てる」


「そんなに?」


「うん」


 恥ずかしい。


 でも、ちゃんと踊れている。


 ミラの足も踏んでいない。


 周囲を見る余裕も少しだけある。


「上手くなったね」


「四日も練習したからね」


「最初は私の足を踏んでたのに」


「それは忘れて」


「ガイルとぶつかってたし」


「それも忘れて」


 ミラが笑う。


「でも、本当に大丈夫そう」


「よかった」


 少し安心した。


 その時、大きな人影が近づいてくる。


 ガイルだ。


 ナディアと踊っている。


 俺とガイルの目が合った。


 以前なら、このままぶつかっていた。


 でも今日は違う。


 俺が少し進路を変える。


 ほぼ同時に、ガイルも動いた。


 綺麗にすれ違う。


 一瞬だけ目が合った。


 ガイルが小さく頷く。


 俺も頷いた。


 やった。


「何してるの?」


「いや、何でもない」


 ミラは呆れたように笑った。


 ◇


 一曲目が終わった。


「よし!」


 ガイルが拳を握る。


「完璧だった!」


「完璧ではありません」


 ナディアが即答する。


「でも踊れただろ?」


「はい。それは認めます」


「よし!」


「そこで満足しないでください」


 いつも通りだ。


 その横ではフィーネが普通に踊っていた。


 しかも、やっぱり上手い。


 ガイルも気づく。


「……納得できない」


「まだ言ってるの?」


「だって昨日始めたばっかりだぞ」


「もう諦めようよ」


「お前は悔しくないのか?」


「悔しいけど、もういい」


 フィーネがこちらを見る。


「何の話ですか?」


「何でもない」


 俺とガイルの声が重なった。


 ◇


 少し休んでいると、アデライン先生が声をかけてきた。


「きちんと踊れていましたね」


「かなり練習しました」


「知っています」


「見てたんですか?」


「何度か」


「最初は酷かったですよね」


「ええ」


 先生が少し笑った。


 クラリッサ先生もこちらを見る。


「まだ足元を気にしすぎていますけどね」


「先生にも分かるんですか?」


「見れば分かります」


「研究じゃなくても分析するんですね」


「観察することは大切ですから」


 ベルンハルト先生にも、


「舞踏会でまで難しい顔をするな」


 と言われた。


 ローヴェン先生は、


「今日は楽しめ。それでいい」


 とだけ言った。


 卒業したばかりなのに、まだ先生たちに教えられている気がする。


 ◇


 次の曲では、保護者たちも踊り始めた。


「あ」


 ミラが指差す。


 ハーウェイ侯爵と侯爵夫人だ。


 動きに迷いがない。


 周囲を見ながら、自然に踊っている。


「……全然違う」


「何が?」


「俺たちと」


「お父様とお母様は、こういう場に何度も出てるから」


「比べる相手を間違えたかな」


「かなりね」


 そこへ母上が父上を見る。


「エマ」


「何ですか?」


「私たちも踊らないか?」


「私は――」


「一曲だけいいだろう」


 母上が少し黙った。


「……はい」


「父上も踊るんだ」


 母上が笑う。


「あなたよりずっと上手よ」


「本当に?」


 踊り始める。


「……本当だ」


 父上、普通に上手い。


「リオン、負けてるね」


「父上にダンスで負けるとは思わなかった」


「何を競ってるの?」


 確かに。


 でも父上が元気に踊っている姿を見ると安心する。


 ◇


 少し離れたところでは、ガイルとナディアがまた踊っている。


 ベイルン家の家族も見ていた。


 特にガイルの姉は、弟をじっと見ている。


「……ちゃんと踊れている」


 少し驚いているようだ。


 母親が笑う。


「随分練習したみたいよ」


「そうですか」


 姉の視線がナディアへ移る。


 ナディアは自然にガイルに合わせている。


 ガイルも楽しそうだ。


「……なるほど」


「何が?」


「いえ。何でもありません」


 姉はそれ以上何も言わなかった。


 ◇


 しばらくして、国王と王妃が退出することになった。


「私はここで失礼する。あとは若者たちで楽しむといい」


 二人を見送り、高位の来賓たちも次第に歓談中心になる。


 会場の空気が少し柔らかくなった。


 料理の並ぶところへ行くと、いつものメンバーが集まっていた。


「これで本当に終わりか」


 ガイルが言った。


「卒業証書もらって、舞踏会まで来て、今気づいたのか?」


 ヴィクトルが呆れる。


「さっきまではまだ学院の行事だっただろ」


「今も学院の行事だぞ」


「あ」


 みんなが笑った。


 ナディアが会場を見回す。


「でも、明日からはこうして毎日会うこともありませんね」


 少しだけ静かになった。


「そうだね」


 ミラが言う。


 エドガーは王宮。


 ナディアは大使館。


 フィーネも王宮。


 ヴィクトルは商会。


 ガイルやクラウスにも、それぞれ進む道がある。


 俺も王都にずっといるわけじゃない。


「またみんなで集まろうよ」


 ミラが言った。


「全員の予定を合わせるのは大変そうだな」


 ヴィクトルが答える。


「僕が一番難しいかもしれないね」


 エドガーが苦笑する。


「王子なんだから何とかしろ」


「王子だから難しいんだよ」


 また笑いが起きる。


「だったら、集まれる時に集まればいいよ」


 俺が言う。


 ガイルがすぐに反応した。


「それ俺が昨日言ったぞ!」


「そうだっけ?」


「言った!」


 そういえば言っていた気もする。


 ◇


「リオン」


 ヴィクトルが再び俺を呼ぶ。


「何?」


「さっきのダイヤモンドの話だけど」


「まだ考えてたの?」


「当たり前だ」


 ヴィクトルがミラとセレナの周囲を見る。


 今も指輪について話している女性たちがいる。


「これだけ反応があるんだ。調べない理由がない」


「アルスレインじゃ取れないんだよね?」


「ああ。だから国外の交易路を調べる。どの国で採れるのか、誰が扱っているのか」


「もうそこまで?」


「みんなが欲しいって言い始めてから動いたら遅い」


 なるほど。


 前世の商売でもそうだった。


「何か協力できることがあったら言って」


「もちろん」


 ヴィクトルが笑う。


「リオンが持ち込んだんだからな」


「俺、商売にするつもりで持ってきたわけじゃないけど」


「そういうところから商売は生まれるんだよ」


 やっぱりヴィクトルは商人だ。


 ◇


 しばらくして、楽団の演奏が止まった。


「次が最後の曲となります」


 会場に声が響く。


「最後か」


 急に少し寂しくなった。


「リオン」


 ミラが俺を見る。


「踊る?」


「もちろん」


 今度は自然に手を差し出せた。


「踊っていただけますか?」


「はい」


 ミラが俺の手を取る。


 最後の曲が始まった。


 一、二、三。


「リオン」


「何?」


「また数えてる?」


「少しだけ」


「まだ数えてるんだ」


「念のため」


 ミラが笑う。


 でも、一曲目とは違う。


 周囲も見える。


 音も聞こえる。


 ミラの顔を見る余裕もある。


 しばらく踊っていると、ミラが小さく言った。


「卒業しちゃったね」


「うん」


「三年間、どうだった?」


 少し考える。


 会場を見る。


 エドガー。


 セレナ。


 ヴィクトル。


 ガイル。


 ナディア。


 フィーネ。


 クラウス。


 レティシア。


 他のクラスメイトたち。


 先生たち。


 父上と母上。


 そして、目の前のミラ。


「楽しかったよ」


 それで十分だった。


 ミラが笑う。


「私も」


 いつの間にか、頭の中で数えるのをやめていた。


 それでも、ちゃんと踊れていた。


 ◇


 最後の曲が終わった。


 大きな拍手が起こる。


 卒業舞踏会も終わりだ。


 みんなが少しずつ帰り始める。


 俺もミラたちと一緒に学院の外へ出た。


 夜の空気はまだ少し冷たい。


 正門を出る前に、足を止めた。


「リオン?」


「ちょっとだけ」


 振り返る。


 夜の王立学院。


 三年前、ここへ入学した。


 最初は、三年後の自分がどうなっているかなんて想像もできなかった。


 飛び級をした。


 研究をした。


 試験を受けた。


 失敗もした。


 友達ができた。


 ミラと婚約した。


 本当にいろいろあった。


 今日で、俺は王立学院の生徒ではなくなった。


 でも、ここで学んだことも、出会った人たちも、なくなるわけじゃない。


「……ありがとう」


「何?」


 ミラが聞く。


「王立学院に」


 ミラが学院を見る。


「うん」


 少しだけ笑った。


「私も」


 もう一度、学院を見る。


 ありがとう、王立学院。


 三年間、本当に楽しかった。



第29話から始まった王立学園編は今回で終了です。

ここまでお付き合い頂いた読者の皆様には感謝しています。

ありがとうございます。

次回からはタイトルにある『没落領地を再建する』の回収が始まります。

引き続きこちらの作品をご覧頂けると幸甚です。

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― 新着の感想 ―
そうか、没落領地を再建するんだよな~。“没落”した領地かぁ~。
没落領地をどう再建するのか今後を楽しみにしております。ダイヤモンドと銀の鉱山を見つけて領民たちに仕事を斡旋し、婚約指輪を流行らせて領地を再建する伏線を感じられます。
学院生活、終わってしまいましたね。 次は王宮でのエピソードで盛り上がるのでしょうが、リオンにとっての学院生最後のイベント、退寮エピソードは描かれるのかなぁ。
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