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45歳社長、転生先でハズレスキル「綻びの目」を武器に没落領地を再建する  作者: アカメノコバチ
第20章 王立学院五年 三学期

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第539話 ダンス特訓

新連載スタート!

《剣聖》になった弟に家を追い出された俺のスキルは《会員》でした

(https://ncode.syosetu.com/n6087ms/)からご覧いただけます。

お手すきの際に是非!

 昼食を終えたあと、そのまま帰れると思っていた。


 甘かった。


「リオン、こっち」


「本当に今日やるの?」


「今日からって言ったでしょ」


 ミラに連れられて向かったのは、学院の空いている広間だった。


 少し後ろでは、ガイルもナディアに連れてこられている。


「今日は試験が終わった日だぞ。少しくらい休んでもいいだろ?」


「卒業式まで五日しかありません」


「五日もあるじゃないか」


「五日しかありません」


「同じだろ?」


「違います」


 どう違うのかは分からないけど、ナディアに言い切られるとガイルもそれ以上反論できないらしい。


 広間にはクラウス、エドガー、ヴィクトル、セレナも来ていた。


 フィーネも一緒だったけど、ダンスは初めてらしく、今日は見るだけだという。


「なんでみんないるの?」


「面白そうだから」


 ヴィクトルが即答した。


「見世物じゃないよ」


「リオンとガイルが初めて踊るんだろ? 見ない方がもったいない」


「帰っていいよ」


「嫌だ」


 楽しむ気満々だ。


 クラウスが広間の中央へ出た。


「始める前に確認するが、二人とも舞踏会の作法は知っているのか?」


「作法?」


 俺とガイルの声が重なった。


 クラウスが頭を抱える。


「そこからか」


「踊れればいいんじゃないの?」


 俺が聞くと、今度はヴィクトルが笑った。


「リオンらしいな」


「何が?」


「舞踏会は踊るだけじゃない。挨拶もあるし、誰に先に声をかけるかもある。

 相手への礼儀だって必要だ」


「挨拶ならできるよ」


「本当に?」


「できるよ」


 ヴィクトルがクラウスを見る。


「こいつ、国王陛下にも公爵にも普通に言いたいこと言うからな」


「必要なことを話してるだけだよ」


「それを普通は少しくらい遠慮するんだよ」


「そうなの?」


「ほら、そこからだ」


 ヴィクトルだけじゃなく、ミラまで笑っている。


「リオンはずっとそうだよ。相手が誰でもあまり変わらないもん」


「駄目なの?」


「悪いとは言ってないよ。でも、舞踏会では最低限の作法くらい覚えておこうね」


「……ダンスだけじゃなかったのか」


 思っていたより大変そうだ。


 横を見ると、ガイルも難しい顔をしていた。


「クラウス、どのくらい覚えるんだ?」


「まず相手への礼。踊りを申し込む時の言葉。手の取り方。

 踊り終わったあとの礼。それから相手を置いて勝手に離れないこと」


「多くないか?」


「基本だけだ」


「これで?」


「それから、周囲にも気を配る。当然だが、ほかの組にぶつかるな」


「踊りながらそこまで見るの?」


「見る」


 まずい。


 足の動かし方すら知らないのに、覚えることがどんどん増えていく。


「じゃあ、まず僕とセレナで見本を見せる」


 エドガーがセレナの前へ立った。


「セレナ、お願いできるか?」


「ええ」


 エドガーが姿勢を正して礼をする。


「一曲、お相手いただけますか?」


 セレナも軽く礼を返した。


「喜んで」


 エドガーが手を差し出し、セレナがその手を取る。


「まずここまでだ」


 クラウスが一旦、止める。


「まだ何もしてないよ?」


「だから作法からだと言っているだろう」


 クラウスが呆れた顔をする。


 そのままエドガーとセレナは二人で向き合った。


 思っていたより距離が近い。


「近いな」


 ガイルが俺と同じことを思ったらしい。


「そういうものです」


 ナディアが答える。


「俺もナディアとこの距離になるのか?」


「私が教えるのですから、当然です」


「……そうか」


 急にガイルが静かになった。


 よく見ると少し顔が赤い。


「では動くぞ。最初は細かいことを考えず、拍子を覚えろ」


 クラウスが声で拍子を取りながら、エドガーとセレナがゆっくり動き始めた。


「一、二、三。一、二、三」


 二人とも自然に合わせている。


 前へ進み、下がり、向きを変える。


 思っていたより単純に見える。


「これならできそうだな」


 ガイルが言った。


「俺もそう思う」


 エドガーとセレナが同時にこちらを見る。


「やってみれば分かるわ」


 セレナが笑った。


 ◇


「じゃあ、リオンからね」


 ミラと向かい合う。


「まずは?」


「え?」


「さっき習ったでしょ」


「あ」


 もう忘れていた。


 一度姿勢を正し、ミラに礼をする。


「お、お嬢様。一曲、踊ってもらえますか?」


 横でヴィクトルが口を押さえて笑いをこらえている。


「はい。喜んで」


 ミラが嬉しそうに笑った。


 なんだか恥ずかしい。


 手を差し出すと、ミラの手が重なる。


 もう片方の手を言われた位置へ添える。


「……近いね」


「今さら?」


 ミラが笑う。


 婚約しているとはいえ、こうやって正面から近い距離で向き合うことはあまりない。


「じゃあ行くよ。一、二、三」


「右から?」


「うん」


 右足を動かす。


「次は左」


「左」


「それから揃える」


「揃える」


 ここまではできた。


「次は私が前に出るから、リオンは下がって」


「右?」


「左」


「え?」


「今度は反対」


「ちょっと待って」


「まだ始まったばかりだよ?」


 頭の中で整理する。


 右、左、揃える。


 次は左、右、揃える。


「じゃあ、もう一回ね」


「うん」


「一、二、三」


 右。


 左。


 揃える。


 次は左。


 右。


「……あれ?」


「リオン?」


「今どっち?」


「右」


「さっきも右じゃなかった?」


「動きが変わったから」


「変わった?」


 考えている間にミラが動く。


 俺だけ止まった。


「リオン、動いて」


「あ、ごめん」


 もう一度やり直す。


 今度は考えすぎないよう、とにかく足を動かした。


「一、二――痛っ」


「あ!」


 ミラの足を踏んだ。


「ごめん!」


「だ、大丈夫」


「本当に?」


「少し痛かっただけ」


「だから言っただろう」


 クラウスの声が飛んでくる。


「婚約者の足を踏むな」


「わざとじゃないよ!」


 ヴィクトルが笑っている。


「まさかこんなに早く踏むとは思わなかった」


「ヴィクトル」


「何?」


「あとで覚えてろ」


「武闘大会は優勝したのに、ダンスには負けるんだな」


「関係ないだろ!」


 余計に笑われた。


 ◇


「では、私たちもやりましょう」


 ナディアがガイルの前へ立つ。


「お、おう」


「まず礼です」


「分かってる」


 ガイルが姿勢を正し、大きく頭を下げた。


「ナディア! 踊ってくれ!」


 広間に声が響いた。


 全員が黙る。


「……ガイルさん」


「なんだ?」


「決闘を申し込んでいるのではありません」


「普通に誘っただけだぞ?」


「もう少し静かにお願いします」


「分かった」


 やり直す。


 今度は少し声を落とした。


「ナディア。踊ってくれ」


「さっきよりはいいでしょう」


 ナディアが手を重ねる。


 するとガイルが足を開き、少し腰を落とした。


「ガイルさん」


「なんだ?」


「なぜ構えているんですか?」


「構えてないぞ」


「どう見ても戦う前の姿勢です」


「これが一番動きやすいんだ」


「ダンスで急に飛び出す必要はありません。普通に立ってください」


「難しいな」


「まだ一歩も踊っていませんよ」


 俺よりひどいかもしれない。


 ナディアがもう一度位置を直す。


「では手を」


 ガイルがナディアの手を握った。


「痛いです」


「え?」


「力を入れすぎです」


「あ、ごめん」


「剣を握っているのではありませんから、もっと優しくしてください」


 ガイルが慎重に握り直す。


「これでいいか?」


「はい。では、一、二、三」


 二人が動く。


 次の瞬間、ナディアの身体が大きく引かれた。


「ガイルさん!」


「なんだ?」


「引っ張らないでください!」


「俺が動かした方が早いだろ?」


「私を荷物のように運ばないでください!」


 思わず笑ってしまった。


 ガイルがこちらを見る。


「笑うな!」


「だって」


「お前もミラの足を踏んだだろ!」


「それはもう終わった話だよ」


「さっきだろ!」


「二人とも集中してください!」


 ミラとナディアから同時に怒られた。


「はい」


 俺とガイルは小さくなる。


 ◇


 それから何度も繰り返した。


 ミラが拍子を数え、俺が合わせる。


 最初の数歩はできる。でも、下がったり向きを変えたりすると、すぐにどちらの足を動かせばいいのか分からなくなる。


「また足を見てる」


「見ないと踏みそうだから」


「見てても踏んだよ」


「それを言われると何も言えない」


 隣ではガイルも苦戦している。


「ガイルさん、速いです!」


「ゆっくりだと動きにくい!」


「私に合わせてください!」


「ナディアが速く動けば――」


「二人で踊るんです!」


 壁際ではヴィクトルが笑い続けている。


「武闘大会三位が、歩く速さで怒られてる」


「歩いてるだけじゃない!」


「見てると歩いてるようにしか見えないぞ」


「剣ならもっと動ける!」


「舞踏会で何と戦うんだ?」


 エドガーの指摘にガイルが黙った。


 少し休憩することになった。


 俺は壁際に座り、さっきまでの足の動きを思い返す。


「右、左、揃える。それから……」


「何してるの?」


 ミラが隣へ来た。


「順番を覚えようと思って」


「まだやってたの?」


「床に目印をつけたら分かりやすいと思うんだよね。ここに右足、その次はここに左足って」


「リオン」


「何?」


「そんなに難しく考えなくていいよ」


「でも、順番が分かればできると思う」


「私も動くんだよ?」


「……そうだった」


 自分の足だけ覚えても駄目なのか。


「それに舞踏会では、周りにも人がいるんだから」


「余計に難しくなった」


 ミラが笑う。


「足だけ見ないで、相手も見ないと」


「ミラを?」


「うん。二人で踊るんだから」


 ミラが立ち上がり、俺に手を差し出す。


「もう一回やろう」


「分かった」


 その手を取って立ち上がる。


「今度は足ばかり見ないでね」


「うん」


 向き合う。


 やっぱり近い。


「一、二、三」


 ミラを見ながら動く。


「一、二……」


 足が止まった。


「リオン?」


「……どっちだっけ?」


「さっきより悪くなってるよ!」


「ミラを見ろって言ったじゃん」


「見ながら踊るの!」


「それが難しいんだよ」


「なんで!?」


 ヴィクトルがとうとう声を出して笑った。


「リオン、研究より苦戦してないか?」


「してない」


「してるだろ」


「まだ初日だから」


「研究で失敗した時も同じこと言ってそうだな」


 否定できなかった。


 ◇


 かなり練習した。


 最後にもう一度、最初からやってみることになった。


「一、二、三」


 ミラに合わせて動く。


 最初はなんとかいける。


 次も大丈夫。


 でも、向きが変わったところで足が止まった。


「……あれ?」


「リオン?」


 また分からなくなった。


 隣ではガイルが先へ進みすぎている。


「ガイルさん、待ってください!」


「遅いぞ!」


「だから私に合わせてください!」


「分かった!」


 ガイルが急に止まり、ナディアとぶつかった。


「痛っ」


「ご、ごめん!」


 結局、二組とも最後まで踊れなかった。


 ミラとナディアが顔を見合わせる。


「……これは」


「かなり大変ですね」


「そんなに?」


 俺が聞く。


「俺は最初よりうまくなったぞ」


 ガイルも自信満々だ。


 ナディアが首を振った。


「最初よりは、です」


「なら上達してるじゃないか」


「卒業式で踊れる状態には程遠いです」


「あと五日あるぞ」


「もう五日しかありません」


「またそれか!」


 ミラが俺を見る。


「リオンも明日またやるよ」


「明日も?」


「もちろん」


「試験結果もまだ出てないのに?」


「結果とダンスは関係ないでしょ」


「そうだけど」


「じゃあ決まりね」


 逃げられそうにない。


 ナディアもガイルへ笑顔を向ける。


「ガイルさんも、明日また頑張りましょう」


「休みは?」


「ありません」


「ナディア!」


 ガイルの声が広間に響く。


 その二人を見ていると、昨日のことを思い出した。


 卒業後、ナディアはしばらく王都に残る。でも、いずれセルヴァン王国へ帰らなければならない。


 今はこうして当たり前のように隣にいる二人だけど、それがずっと続くわけじゃない。


 やっぱり何か方法はないのかな。


「リオン」


「何?」


「ぼーっとしてないで帰るよ」


「あ、うん」


 ミラについて広間を出る。


 最後の試験は終わったのに、今度はダンスと舞踏会の作法を覚えなければならなくなった。


 しかも初日の成果は、二人ともほとんどなしだ。


 卒業式まで、あと四日。



最後まで読んでいただきありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
リオンとガイルはもう少し真面目に取り組むべきでは。それぞれのパートナーに失礼やわ。特にガイルは最後の思い出になるかもしれないのに。真面目にやれ!
やっぱりガイルは好かないな...自分勝手すぎる 正直今のガイルは初期のガレス以下、とまでは言わないけれどそれくらいに酷い
リア充は独りで盆踊りでも踊ってろ! 悔しくなんてないやい…
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