第536話 最後の期末試験
翌朝、王立学院で受ける最後の期末試験が始まった。
一日目は共通科目の筆記試験。
教室へ入ると、いつもより静かだった。
さすがに最後の試験だからか、みんな少し緊張している。
俺も自分の席に座り、机の上に筆記用具だけを置いた。
「それでは、始めてください」
アデライン先生の声で、一斉に問題用紙をめくる。
最初の数問は問題ない。そのまま順番に解いていく。
「……あ」
途中で見覚えのある内容が出てきた。
地方貴族が税率を変更する場合の条件。
少し前まで何度か間違えて、ミラと一緒に確認したところだ。
今なら分かる。
迷わず答えを書く。
そのあとも、歴史や法制度でミラと一緒に勉強したところがいくつか出てきた。
付き合ってもらってよかった。
もちろん、全部が簡単だったわけじゃない。
少し迷う問題もあったけど、覚えている知識を整理しながら一つずつ答えていった。
◇
試験が終わる頃には、かなり疲れていた。
「終わった……」
教室を出ると、すぐ近くにミラが来た。
「どうだった?」
「たぶん大丈夫」
「本当?」
「ミラと勉強したところ、結構出たよ」
「よかった!」
ミラが嬉しそうに笑う。
「じゃあ、教えた甲斐があったね」
「本当に助かった」
「明日もあるんだから、今日は早く休んだ方がいいよ」
「うん」
そこへ少し離れた場所からガイルが歩いてきた。
顔が暗い。
「どうしたの?」
「聞くな」
「そんなに?」
「聞くな!」
その後ろからナディアが来る。
「ガイルさん、昨日確認したところはできましたよね?」
「そこはできた!」
「では大丈夫です」
「それ以外が問題なんだ!」
「明日の試験もありますから、今日も勉強しますよ」
「今日も!?」
「当然です」
昨日まで王都武闘大会三位だった人とは思えない。
思わず笑ってしまった。
◇
二日目。
午前は応用試験、午後は実技試験だった。
一日目より考えなければならない問題が多く、簡単ではなかった。
実技も完璧にできたとは思わない。
それでも、今まで学んできたことを使って、一つずつ取り組んだ。
結果がどうなるかは分からないけど、今の俺にできることは全部やったと思う。
午後の実技試験を終えて教室を出る。
これで二日目まで終了した。
残るのは明日の研究コースの発表だけだ。
少し緊張はある。
でも、それ以上に楽しみだった。
◇
放課後、研究室へ向かった。
中へ入ると、すでにルッツが来ていた。
「お疲れさまです」
「ルッツさん。もう来てたんですね」
「ええ。先生から許可をいただいたので、先に場所を確認していました」
研究室を見る。
いつもと違うのは、隣の教室との壁に二か所、印がつけられていることだ。
学院から許可をもらった、配管を通す位置。
「ここでいいんですよね?」
「はい。往きと戻りで二本です」
「では、始めましょう」
「お願いします」
まずは隣の教室へ移動する。
暖炉の前には、ルッツが工房から運んできた部品が並んでいた。
暖炉の熱で水を温め、そこから配管へ流す。
試験が終われば元に戻せるよう、必要な部分だけ手を加えていく。
「そこ、押さえてもらえますか?」
「はい」
言われた場所を固定する。
ルッツが金具を締めた。
「もう少し右ですね」
「このくらい?」
「そこで大丈夫です」
暖炉側の準備ができたら、今度は壁だ。
印をつけた位置を確認し、ルッツが工具を使う。
俺も横で手伝いながら作業を進めた。
やがて、隣の教室と研究室をつなぐ二つの穴が開く。
「通しますよ」
「はい」
一本目の管を通す。
続いて二本目。
隣の教室から伸びた配管が、壁を越えて研究室へ姿を現した。
「おお……」
分かっていたことなのに、実際に見ると少し嬉しい。
研究室側へ戻り、今度は放熱部分を取り付ける。
「右側、少し高くないですか?」
「少し下げましょう」
「お願いします」
位置を調整して固定する。
もう片方も同じように取り付けた。
何度か隣の教室と研究室を行き来しながら、接合部分を一つずつ確認していく。
最後に水を入れる。
「漏れてませんか?」
「こっちは大丈夫です」
「こちらも問題ありません」
今日は火を入れない。
本当に動かすのは明日の試験だ。
研究室へ戻り、完成した装置を見る。
壁を隔てた隣の教室から二本の管が伸び、その先には二つの放熱部分がある。
工房で何度も作ってきた装置とは、規模がまるで違う。
「ここまで来ましたね」
ルッツが言った。
「はい」
最初は、温めた水を管の中で循環させるだけでもうまくいかなかった。
それが今は、実際の二つの教室を使って試せるところまで来た。
「明日は隣の暖炉で水を温めて、ここまで送るんですよね」
「はい」
「本当に暖まるといいですね」
「そこは少し不安です」
「不安なんですか?」
「工房では成功しましたけど、今度は壁を隔ててますから。配管も長いし、研究室も広いです」
条件はかなり違う。
明日になってみないと、本当にうまくいくかは分からない。
それでも、目の前の装置を見ていると、不安より早く試したいという気持ちの方が大きかった。
「楽しそうですね」
ルッツが笑う。
「そう見えます?」
「ええ」
言われてみれば、そうなのかもしれない。
明日、この装置に火を入れたらどうなるのか。
自分でも早く見てみたい。
「ルッツさん、明日はよろしくお願いします」
「もちろんです」
もう一度、研究室を見回す。
準備はできた。
明日は、今まで積み重ねてきた研究を実際の教室で試す。
発表が楽しみだ。
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