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45歳社長、転生先でハズレスキル「綻びの目」を武器に没落領地を再建する  作者: アカメノコバチ
第20章 王立学院五年 三学期

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第534話 残り少ない学院生活

新連載スタート!

《剣聖》になった弟に家を追い出された俺のスキルは《会員》でした

(https://ncode.syosetu.com/n6087ms/)からご覧いただけます。

お手すきの際に是非!

 翌朝、王立学院の教室へ入った瞬間、いきなり大勢に囲まれた。


「リオン!」


「優勝おめでとう!」


「昨日の決勝、すごかったぞ!」


「ちょ、ちょっと待って」


「最後のあれ、何やったんだ?」


「ミスリルの剣は?」


「持ってきてないよ」


「見たかった!」


 昨日、会場であれだけ祝ってもらったのに、学院へ来てもこれか。


「ガイルも三位だったんだろ!」


「おう!」


 少し離れたところでは、ガイルも同じように囲まれている。


「準決勝すごかったぞ!」


「大剣で木剣折ったんだろ?」


「そうだ!」


 ガイルが胸を張る。


「でも優勝はリオンだけどな!」


「それは言うな!」


 教室中に笑いが起きた。


 何だか変な感じだ。昨日まで大会に向けて緊張していたのに、今日はもういつもの教室にいる。


「皆さん、席についてください」


 教室の入口からアデライン先生の声がした。


 みんなが慌てて席へ戻っていく。俺も自分の席へ座った。


 アデライン先生が教室を見回す。


「まずは、リオン・ハル君」


「はい」


「王都武闘大会、優勝おめでとうございます」


「ありがとうございます」


「そしてガイル・ベイルン君」


「はい!」


「三位、おめでとうございます」


「ありがとうございます!」


 ガイルの返事だけやたら大きい。


「王立学院の生徒が一位と三位。先生としても嬉しく思います」


 教室から拍手が起こる。


 俺とガイルは顔を見合わせた。ガイルが嬉しそうに笑っている。


「ただし、王都武闘大会は昨日で終わりました」


 アデライン先生の一言で、ガイルの笑顔が消えた。


「皆さんにとって、次に控えているのは三学期の期末試験です」


 ガイルが露骨に下を向く。


「この試験が、皆さんが王立学院で受ける最後の試験になります。」


 教室の空気が変わった。


「これまで学んできた内容で理解が不十分なところや、まだ確認できていないところがある人は、今のうちにしっかり準備してください」


 最後の試験。


 分かっていたことなのに、改めて言われると少しだけ寂しい気持ちがある。


「卒業まで、もうそれほど時間はありません。

やり残していることがある人は、試験だけでなく、今のうちに準備しておいてください」


 アデライン先生が教室を見渡したあと、ガイルを見る。


「特にガイル・ベイルン君」


「はい!」


「大会で三位になっても、試験には何の加点もありません」


「……はい」


 急に声が小さくなった。


 教室中から笑いが起きる。


「昨日ナディアにも同じこと言われてたよね?」


 隣からミラが小声で言った。


「うん」


「逃げられないね」


「そうだね」


「聞こえてるぞ!」


 ガイルの声で、また教室に笑いが起きた。


 ◇


 昼。


 いつものように食堂へ集まった。


 いつもの顔ぶれでテーブルを囲む。


「昨日食いすぎた」


 ヴィクトルが言った。


「お前、ずっと食ってたもんな」


 クラウスが笑う。


「違う。俺は働いてたんだよ」


「じゃがバター売ってただけだろ?」


「だけって言うな。大会が終わってからが一番忙しかったんだぞ」


「何で?」


 俺が聞くと、ヴィクトルが一瞬だけ黙った。


「……いや、別に」


「何?」


「知らなくていい」


 何だそれ。


 妙に楽しそうに食事を続けている。


「なあ」


 突然、ガイルが口を開いた。


「ん?」


 みんなが見る。


 ガイルはテーブルを囲む顔ぶれを順番に見た。


「こうやってみんなで飯食えるのも、あと何回なんだ?」


 一瞬、誰も答えなかった。


 ガイルがこんなことを言うとは思わなかった。


「どうしたの、急に?」


 ミラが聞く。


「いや、アデライン先生が卒業まで時間ないって言っただろ?」


「うん」


「卒業したら、毎日こうやって集まることもなくなるんだなって思って」


 確かにそうだ。


 学院へ来れば、みんないる。


 授業が終われば一緒に食事をしたり、話したりする。


 当たり前になっていたけど、それももうすぐ終わる。


「また集まればいいじゃない」


 ミラが言った。


「卒業したからって、もう会えなくなるわけじゃないんだから」


「そうだけどよ」


「毎日は難しいだろうけどな」


 クラウスが続ける。


「領地へ戻る奴もいるし、仕事を始める奴もいる。貴族なら夜会もある。

学院とは場所も立場も変わるだろうけど、集まる機会はいくらでもあるだろ」


「そうですね」


 フィーネも頷いた。


「皆さんが王都に来る機会があれば食事したいです」


「私もです」


 ナディアが笑う。


「卒業したから終わり、というわけではありませんから」


「だったら」


 ヴィクトルが口元を上げた。


 嫌な顔だ。


「まず全員集まるのは、結婚式か?」


「結婚式?」


 ガイルが聞き返す。


 ヴィクトルの視線が動く。


 まずエドガー。


 次にセレナ。


 そして俺とミラ。


「……」


 何でこっちを見るんだ。


 ミラも気づいたらしい。


「ちょ、ちょっとヴィクトル!」


「俺、まだ何も言ってないぞ」


「顔が言ってる!」


「エドガーたちはともかく――」


「私たちはともかくって何よ」


 今度はセレナが反応した。


「だって婚約してるだろ?」


「それはそうだけど」


 エドガーは横で笑っている。


「ヴィクトルの言っていることも、そこまで間違ってはいないけどね」


「エドガーまで!」


 セレナがエドガーを見る。


 ヴィクトルはさらに楽しそうだ。


「で、次は――」


「こっち見なくていいよ」


 先に止めた。


「まだ何も言ってないだろ」


「言おうとしてたでしょ」


「リオン」


 ミラが呼ぶ。


「何?」


「私は別に……その……」


 顔が赤い。


「何?」


「何でもない!」


 それ以上聞くなという顔をされた。


 周りを見ると、みんな笑っている。


「もうこの話やめない?」


「賛成!」


 なぜかミラの返事だけ早かった。


 ◇


 午後の研究コース。


 机の上に、これまでの研究記録を並べる。


 卒業研究で進めてきたのは、一つの熱源から温水を送り、離れた場所を暖める仕組みだ。


 最初は水そのものがうまく循環しなかった。


 配管の太さ。


 曲がり方。


 高低差。


 放熱する部分の形。


 管の中に溜まる空気。


 温度が変わることで起きる膨張。


 接合部分への負担。


 一つ問題が見つかるたび、ルッツと直してきた。


 今では、かなり長い距離でも温水を送れるようになり、さらに二方向へ分けるところまで進んでいる。


 問題はその先だ。


 記録を見る。


【分岐後:水流に偏り】

【長時間運転:末端温度低下】


 二本へ分けた時、同じ量の水が流れない。


 片方には多く流れ、もう片方には少ない。当然、暖まり方も変わる。


「……」


 記録を何度か見直す。


 今までは、流れの弱い方をどうやって強くするかばかり考えていた。


 でも。


「こっちを抑えればいいのか?」


 流れすぎている方。


 そこへ少し抵抗を作れば、もう片方にも水が流れやすくなるかもしれない。


「何か思いつきましたか?」


 クラリッサ先生がこちらへ来た。


「はい。少し気になるところが」


 記録を見せる。


「分岐したあと、流れ方が違うんです」


「ええ」


「今までは、流れの弱い方をどうにかしようとしてました。

でも、流れすぎてる方を少し抑えたらどうかなって」


 紙に二本の管を描く。


 片方へ多く水が流れている。


「こちらを少し流れにくくする?」


「はい」


 クラリッサ先生が図を見る。


「試してみる価値はありそうですね」


「放課後、ルッツさんに相談してみます」


「やってみるといいでしょう。ただし、実験結果もきちんと記録してくださいね」


「はい」


「成功したことだけが研究ではありませんから」


「分かってます」


 むしろ失敗した記録の方が多い。


 でも、その記録があるから、次に何を試すかを考えられる。


 ◇


 放課後。


 いつもの工房へ行く。


「流れすぎる方を抑える?」


 ルッツが聞き返した。


「はい」


 机の上には、二方向へ分かれた配管が置いてある。


「片方に多く流れるなら、そこを少しだけ狭くしたら、もう片方にも流れやすくならないかなって」


「管そのものを細くするんですか?」


「それだと調整しにくいですよね」


「そうですね」


 ルッツが腕を組んで考える。


「なら、途中にこれを入れてみますか」


 薄い金属板を持ってきた。


「真ん中に穴を開けます」


「管より小さな穴?」


「はい。流れる量を少し抑えられるはずです」


「やってみましょう」


 すぐに加工を始める。


 小さな金属板を配管の途中へ入れ、熱源に火を入れた。


 温水が動き始める。


「まだ右が強いですね」


「もう少し穴を小さくしましょう」


 一度止め、別の金属板へ交換する。


 もう一度水を流した。


 しばらく待ってから、左右の放熱部分へ手を近づける。


「あ」


 さっきまで明らかに右側の方が熱かった。


 今はかなり近い。


「かなり揃いましたね」


 ルッツも反対側を確認する。


「ええ」


《綻びの目》


 配管を見る。


【右側:循環安定】

【左側:循環安定】

【末端温度差:縮小】


「成功ですね」


「この長さなら、ですけど」


 ルッツが笑う。


「やっぱりそう言いますか」


「だって、実際に使うならもっと長いですよね」


「ええ」


 今の装置は工房の中で試しているだけだ。


 実際の建物なら配管はもっと長くなるし、暖める部屋も一つじゃない。


「次は少し大きくしましょう」


「どれくらいです?」


「実際の建物に近い距離まで伸ばして、二つの場所を同時に暖めてみたいです」


「また大仕事になりそうですね」


「お願いします」


「そこは即答なんですね」


「ルッツさんなら作れると思ってるので」


「……そう言われると断れませんね」


 ルッツが笑った。


 この研究成果は期末試験三日目の研究コースの試験で発表することになっている。


 期末試験までにどこまで進められるかは分からない。


 それでも、できるところまではやっておきたい。


 ◇


 工房を出たあと、学院の図書室へ向かった。


 自習スペースの向かい側にはミラが座っている。


 机の上に教科書とノートを広げた。


「じゃあ、次」


「うん」


 ミラが問題を読む。


「アルスレイン王国で地方貴族が独自に税率を変更する場合、まず確認する必要があるのは?」


「王国法で定められた上限。それを超える場合は王宮への申請が必要」


「正解」


「よし」


「じゃあ次。北部諸領と王都を結ぶ主要街道が整備された目的を二つ」


「軍の移動と物流の安定」


「それも正解」


 ミラが俺を見る。


「……リオン」


「何?」


「簡単だった?」


「何が?」


「ここ」


 ミラが教科書を指さす。


「これはわかる?」


「うん、これは――」


 ミラが指さしているのは税制の細かい部分だが、実際にハル領でやってたことだから覚えてる。


「リオン、この前ここ間違えてたよ?」


「そうだった?」


「そうだよ」


「今は勉強に集中できてるからだよ」


「それは分かるけど」


 ミラが感心したように俺を見る。


「集中すると、本当にすごいね」


「ミラが助けてくれてるからだよ」


「それでも覚えるの早いよ」


「そうかな?」


 税制以外にも飛び級した分、ちゃんと学べていない範囲がある。


 そこを一つずつ覚え直している。


 でも最近は、前より問題を解けるようになってきた気がする。


 勉強した分が結果に出るのは悪くない。


「じゃあ次お願い」


「休憩しなくていいの?」


「まだいける」


「分かった」


 ミラが次のページを開いた。


 その時。


「違います!」


 図書室の向こう側からナディアの声が聞こえた。


「そこは三年の時にもやりました!」


「覚えてない!」


 ガイルの声。


 思わずそちらを見る。


 少し離れた机には、何冊もの教科書が広げられている。


 その前でガイルが頭を抱えていた。


「ガイルさん。もう一度ここを読んでください」


「休憩しよう!」


「まだ始めて二十分ですよ」


「二十分もやった!」


「二十分しか、です」


「ナディア!」


「駄目です」


「試合より厳しくないか?」


「試合とは関係ありません」


 ミラが小さく笑った。


「昨日言った通りだね」


「明日からちゃんとやるって?」


「うん」


「ナディア、本当にやってるね」


「うん。ナディアもガイルも大変そうだな」


「どっちが大変そう?」


 ミラが聞く。


 少し考える。


「……ガイルかな」


「私はナディアだと思う」


「確かに」


 二人で笑う。


「ほら、リオンも続きやるよ」


「はい」


 もう一度教科書へ目を戻す。


 周りにも試験勉強をしている生徒がいる。


 こういう光景を見るのも、あとわずかなんだろう。


 卒業まで残り少ない。


 前世にも、もちろん学生だった時期はある。


 でも、あの頃のことを思い返しても、こんなふうに毎日何かに夢中になっていた記憶はない。


 友達と一緒に勉強して、大会に出て、研究をして、失敗したらまた考える。


誰かと競って、笑って、気づけば一日が終わっている。


 この世界に来て、もう一度学生として学ぶ機会を与えられた。


その時間も、もうすぐ終わる。


 だったら、試験も研究も、みんなと過ごす時間も最後まで大切にしたい。


あとになって、もっとやっておけばよかったと思わないように。


「リオン?」


 ミラがこちらを見る。


「どうしたの?」


「何でもない」


 教科書へ目を戻す。


「次の問題、お願い」


「うん」


 残り少ない学院生活を、最後まで悔いのないように過ごそう。



最後まで読んでいただきありがとうございます。

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