第533話 祝勝会
新連載スタート!
《剣聖》になった弟に家を追い出された俺のスキルは《会員》でした
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表彰式が終わる頃には、観客席もかなり空いていた。
ミスリルの剣を抱えて会場の外へ出る。
「リオン!」
名前を呼ばれた。
見ると、少し離れたところにミラたちが集まっていた。
フィーネ。
ナディア。
レティシア。
クラウス。
オスカー。
ガイル。
ヴィクトルもいる。
「お待たせ」
そちらへ歩いていく。
その瞬間。
「リオン!」
「え?」
ミラが駆けてきた。
そのまま、ぎゅっと抱きつかれる。
「……え?」
一瞬、何が起きたのか分からない。
「ミ、ミラ?」
「本当に心配したんだから!」
顔は見えない。
胸元に額を押しつけたまま、ミラが言う。
「ガイルとの試合も、決勝も……何回も大怪我したかと思った」
「ごめん」
「だから謝らなくていいって言ったでしょ」
「そうだった」
「でも……」
ミラの腕に少し力が入る。
「本当におめでとう」
「……ありがとう」
何だろう。
試合であれだけ攻撃を受けても平気だったのに、今の方が妙に緊張する。
「ゴホン!」
大きな咳払い。
クラウスだ。
「……何?」
「いや、別に」
そう言いながら、明らかにこっちを見ている。
オスカーも笑いをこらえているし、レティシアは完全に面白がっていた。
フィーネは少し困ったように笑っている。
ナディアまで口元に手を当てている。
そして、ヴィクトル。
「……」
ものすごくニヤニヤしてる。
「ヴィクトル。何?その顔」
「いやあ。別に?」
「絶対何かあるでしょ」
「優勝すると大変だなって思っただけ」
「何が言いたいんだよ?」
「さあな」
ミラがようやく離れる。
顔が少し赤い。
「もう! ヴィクトル!」
「俺、何も言ってないけど?」
余計にニヤニヤしている。
こういう時のヴィクトルは本当に面倒くさい。
「それより!」
ガイルが割って入ってきた。
「リオン! もう一回言うぞ!」
「何?」
「優勝おめでとう!」
「ありがとう」
「悔しいけどな!」
「どっちなの?」
「両方だ!」
相変わらず分かりやすい。
「それならさ」
オスカーが手を叩いた。
「せっかくだし、祝勝会やろうぜ」
「祝勝会?」
「リオンの優勝と、ガイルの三位だ」
「俺もか!」
「学院代表二人が一位と三位だぞ。十分祝う理由になるだろ」
「いいな!」
ガイルが即答した。
「肉食おう!」
「何で最初から肉って決まってるの?」
「祝いなら肉だろ!」
「ガイルらしいね」
ミラが笑う。
俺も賛成だ。
「じゃあ、どこ行く?」
「それなんだけどな」
ヴィクトルが周囲を見る。
「たぶん今から店を探すの、かなり厳しいぞ」
「何で?」
「大会帰りの客を見てみろよ」
言われて周囲を見る。
会場から出てきた大量の観客が、王都の中心部へ向かっている。
「今日は王都中の飲食店が混む日だぞ」
「なるほど」
確かに。
俺たちも店を探して歩いてみた。
でも。
「申し訳ありません。本日は満席でして」
一軒目。
「今日はもう席がありません」
二軒目。
「予約のお客様だけでいっぱいです」
三軒目。
「……駄目だな」
ヴィクトルが頭をかく。
「この人数で入れる店なんて、今からじゃ無理だぞ」
「肉……」
ガイルが残念そうな顔をしている。
「別の日でもいいんじゃないでしょうか?」
フィーネが言う。
「せっかくなら今日やりたいけどな」
クラウスも周囲を見る。
その時。
「それでしたら」
ナディアが口を開いた。
「セルヴァン王国大使館はいかがでしょうか?」
「大使館?」
俺が聞き返す。
「はい。ここからそれほど遠くありません」
「でも、急に行って大丈夫なの?」
ミラが尋ねる。
「問題ないと思います」
ナディアが微笑む。
「ガイルさんもリオンさんも、本当に頑張りましたから。
今日は私にもお祝いさせてください」
「いいの?」
「もちろんです」
「肉あるか?」
ガイル。
「ガイルさん」
「何だ?」
「大使館へ行って最初に聞くことではありません」
「でもお祝いなら肉だろ?」
ナディアが少し呆れたように笑った。
◇
セルヴァン王国大使館。
王都の中心部から少し離れた場所に、大きな石造りの建物があった。
門の前まで来る。
警備をしていた兵士がナディアを見る。
次の瞬間、姿勢が変わった。
「ナディア殿下!」
「今日は友人たちを連れてきました」
「承知いたしました。どうぞお入りください」
門がすぐに開く。
中へ入ると、職員らしい人たちも次々に姿勢を正した。
「ナディア殿下、お帰りなさいませ」
「今日は学院の友人たちを連れてきました」
「承知いたしました」
普段、学院で一緒にいるナディアとは少し違う。
当たり前だけど、本当に王女なんだな。
案内されたのは、大きな応接室だった。
長いテーブル。
人数分の椅子。
「急なお願いですみません」
ナディアが大使館の職員へ声をかける。
「友人が王都武闘大会で優勝と三位になりましたので、簡単なお祝いの席を用意していただけますか?」
「もちろんでございます」
職員が一礼する。
「すぐに準備いたします」
「ありがとうございます」
職員たちが動き始める。
ナディアは別の職員にも声をかけた。
「それと、もしまだ王宮にいらっしゃるようでしたら、エドガー殿下とセレナさんにもお声がけをお願いできますか?」
「かしこまりました」
「無理でしたら構いませんので」
「承知いたしました」
職員が部屋を出ていく。
「エドガーたちも来るの?」
俺が聞く。
「せっかくですから。お二人ともずっと応援していましたし」
「そうだね」
「やっぱり王女だな」
ヴィクトルが小声で言った。
「普段から王女でしょ」
俺も小声で返す。
「いや、そうなんだけどさ。学院だと普通に一緒に飯食ってるから忘れるだろ」
「分かる」
「聞こえてますよ」
ナディア。
「すみません」
「まったく」
そう言いながら笑っている。
しばらくすると、料理が次々と運ばれてきた。
焼いた肉。
魚料理。
野菜を煮込んだスープ。
色鮮やかな果物。
「肉!」
ガイルの目が輝いた。
「ガイルさん。まだ全員座ってません」
「待つ!」
本当に食べ物が絡むと子供みたいだ。
みんなが席についたところで、ナディアがグラスを持ち上げる。
「それでは、リオンさんの優勝とガイルさんの三位を祝って」
「乾杯!」
グラスが上がった。
「乾杯!」
俺も続く。
ガイルは乾杯が終わるなり肉へ手を伸ばした。
「うまい!」
「早いな」
「リオンも食え!」
「言われなくても食べるよ」
ようやく祝勝会が始まった。
◇
しばらくして。
応接室の扉が開いた。
「失礼いたします」
職員が入ってくる。
「エドガー殿下、セレナ様がお見えになりました」
「え?」
俺たちが入口を見る。
エドガーとセレナが入ってきた。
「遅くなったね」
エドガーが笑う。
「リオン、改めて優勝おめでとう」
「ありがとう」
「私からも。おめでとう、リオン」
セレナも笑っている。
「ありがとう」
ヴィクトルが二人を見た。
そして少し考える。
「……なあ」
「何だい?」
エドガーが聞く。
「王族が他国の大使館にこんな気軽に来てもいいのかよ?」
一瞬、部屋が静かになる。
「ヴィクトルさん!」
フィーネが慌てる。
「いや、だって気になるだろ!」
エドガーは怒るどころか笑った。
「その心配なら大丈夫だよ」
「そうなのか?」
「父上の許しは得てきた。それに、セルヴァン王国大使にもこちらへ伺うことは了承していただいている」
「ちゃんと許可を取ってるのか」
「もちろん。僕が勝手に他国の大使館へ遊びに来たら、それはそれで問題になるからね」
「やっぱり王子って大変だな」
「ヴィクトルが自由すぎるだけじゃない?」
みんなが笑う。
ナディアも二人へ席を勧めた。
「来てくださってありがとうございます」
「こちらこそ招いてくれてありがとう」
エドガーが座る。
「大会が終わったあと、リオンとガイルを祝えないのも寂しいからね」
「俺もか!」
ガイルが嬉しそうに反応する。
「もちろん。準決勝は見事だったよ」
「俺、負けたぞ?」
「負けても見事な試合はあるだろう?」
「そうなのか!」
「ガイルは単純ね」
セレナが呆れたように笑う。
「セレナも俺の試合すごいと思ったか?」
「ええ。剣を折ったところまでは格好良かったわ」
「そこまで?」
「そのあとリオンに負けたでしょう?」
「ぐっ」
「セレナ、それは今言わなくてもいいじゃないか」
エドガーが笑う。
「でも、私よりリオンを苦戦させたのは認めるわ」
俺も思わず笑ってしまった。
王族席にいた時とは全然違う。
いつものエドガーとセレナだ。
◇
改めて料理へ目を向ける。
豪華だ。
さすが大使館。
でも。
「……ん?」
料理の一つで目が止まった。
白い。
丸みのある三角形。
いくつも皿の上に並んでいる。
見間違えるはずがない。
「これ……」
思わず手が止まった。
「どうしました?」
ナディアがこちらを見る。
「ナディア。これって――」
「ああ、アルスレイン王国ではあまり見かけませんよね?」
ナディアが白い料理を見る。
「おにぎりです」
「……おにぎり?」
聞き間違いじゃない。
おにぎり。
前世で何度食べたか分からない。
コンビニ。
弁当。
家でも食べた。
まさか、この世界で見るとは思わなかった。
「セルヴァン王国では、戦や大きな勝負に勝った際、お祝いとして振る舞われることがあるんです」
「これ、何で作ってるの?」
「米という穀物です」
米。
その言葉に反応する。
「米?」
「はい。セルヴァン王国の一部地域で作られています」
「へえ。そんな穀物があるのね」
セレナもおにぎりを見る。
「僕も初めて食べるな。これはどうやって食べるんだ?」
セレナが説明する。
「はい。少しお行儀が悪いのですが、セルヴァン王国では手で掴んで食べます」
「手づかみ?」
「はい。難しいようでしたらナイフとフォークでお召し上がりください」
「そうか。では一つ頂くとしよう」
エドガーが一つ手に取った。
「アルスレインでは、ほとんど見かけないものだよね?」
「はい。セルヴァン王国内でも、どこでも作れる作物ではありません」
ナディアが答える。
俺は目の前のおにぎりを見る。
この世界に米がある?
初めて知った。
「食べてもいい?」
「もちろんです。そのために用意した料理ですから」
一つ取る。
温かい。
手触りも記憶にあるものとよく似ている。
一口。
「……」
噛む。
米だ。
少し品種は違う気がする。
でも、間違いなく炊いた米。
「懐かしい……」
「懐かしい?」
セレナがすぐに反応した。
「あ」
まずい。
「何でもない」
「今、懐かしいって言ったわよね?」
「気のせいじゃない?」
「そんなわけ――」
「セレナ」
エドガーが苦笑する。
「今日は取り調べの日じゃないよ」
「別に取り調べてないわよ」
助かった。
もう一口食べる。
うまい。
パンも好きだ。
でも、久しぶりに食べる米は何か違う。
前世の記憶が一気に戻ってくる。
朝食。
弁当。
定食。
おにぎり。
米。
この世界にもあるんだ。
「ナディア」
「はい」
「この米って、セルヴァン王国のどの辺りで作ってるの?」
「主に――」
「リオン!」
大声。
「うわっ!」
横を見る。
ガイル。
肉を片手に持っている。
「何?」
「嬉しいけど悔しいぞ!」
「急に何の話?」
「大会だ!」
「まだ言ってるの?」
「当たり前だ!」
ガイルが肉を食べる。
「次に戦ったら俺が勝つ!」
「はいはい」
「何だその返事は!」
「今日はもう戦わないよ」
「また明日の朝から訓練しよう!」
ナディアが笑いながらガイルを見る。
「ガイルさん」
「何だ?」
「武闘大会も終わりましたし、次は最後の期末試験ですね」
「……」
ガイルの動きが止まった。
肉を持ったまま。
「ガイル?」
俺が呼ぶ。
「聞こえてる?」
「……聞こえてる」
急に声が小さい。
エドガーが吹き出しそうになっている。
セレナも笑いをこらえていた。
ナディアはにこやかなまま続ける。
「三位になったからといって、試験は免除されませんよ」
「……」
「明日からは勉強、ちゃんとやりますよ」
「えっ」
「私も一緒にやりますから」
「待ってくれ」
「何ですか?」
「今日は祝いの日だろ?」
「はい」
「じゃあ、その話は明日でいいだろ!」
「明日からやると言いました」
「そうだけど!」
みんなが笑う。
「ガイル、王都武闘大会より期末試験の方が怖そうだね」
エドガーが楽しそうに言う。
「当たり前だ! 試合なら戦えばいいけど、試験は戦っても点数上がらないだろ!」
「戦うなよ」
オスカーがすぐに突っ込む。
「そもそも試験に身体強化は使えないわよ」
セレナまで乗ってくる。
「知ってる!」
「ガイルさん」
ナディアが笑顔のまま呼ぶ。
「明日から頑張りましょうね」
「勘弁してくれー!」
大使館の応接室に、ガイルの大声が響いた。
最後まで読んでいただきありがとうございます。
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