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45歳社長、転生先でハズレスキル「綻びの目」を武器に没落領地を再建する  作者: アカメノコバチ
第20章 王立学院五年 三学期

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第529話 リオン対ガイル

新連載スタート!

《剣聖》になった弟に家を追い出された俺のスキルは《会員》でした

(https://ncode.syosetu.com/n6087ms/)からご覧いただけます。

お手すきの際に是非!

「行くか!」


「うん」


 休憩が終わり、俺とガイルは一緒に選手用の待機場所を出た。


 何度も朝の訓練で戦ってきた相手と、こうして並んで試合場へ向かうのは少し変な感じがする。


 通路の先から、すでに観客たちの声が聞こえていた。


 俺たちが試合場へ出ると、その声が一気に大きくなる。


「来たぞ!」


「十五歳同士だ!」


「どっちが勝っても決勝だろ!」


「王立学院の生徒が決勝まで行くのか!」


 会場中から大きな歓声が降ってくる。


 隣のガイルを見る。


 いつもと同じ相手のはずなのに、今日は朝の訓練とは違う。


 勝った方だけが決勝へ進む。


「やっとだな!」


 ガイルが嬉しそうに笑った。


「朝は何度も戦ってるけどね」


「今日は勝った方が決勝だろ!」


「そうだね」


 本当に分かりやすい。


 二人で王族専用席へ向かって礼をして、それぞれの位置へ移動する。


 ガイルが大会用の大剣を構えた。


 俺も木剣を握る。


 その前に、ガイルを見る。


《綻びの目》


 視界の中、右太腿に異常が浮かんだ。


【右大腿部:筋肉損傷・軽度】


 やっぱり。


 さっきのグレゴールさんとの試合で、何度か太腿へ攻撃を受けていた。


 右脚か。


「両者、準備はいいな?」


「はい」


「いつでも!」


 審判が手を上げた。


「準決勝第一試合――始め!」


「行くぞ、リオン!」


 開始と同時にガイルが正面から来た。


 速い。


 大剣が横薙ぎに振られる。


 まともには受けられない。


《縮地》


 斜め後ろへ抜ける。


 でも。


「そこだ!」


 ガイルは大剣を止めず、そのまま身体を回転させた。


「えっ!」


 二撃目。


 広い。


 縮地で移動した先まで剣先が届く。


 もう一度《縮地》。


 さらに後ろへ抜けた。


 ブンッ!


 目の前を大剣が通過する。


「危なっ!」


「それくらい分かってるぞ!」


 そりゃそうだ。


 ガイルは何度も俺の《縮地》を見ている。


 突然消えたくらいで動きを止めてくれる相手じゃない。


 だったら、俺から行く。


 左へ踏み込み、木剣をガイルの肩へ振る。


 ガンッ!


 大剣で受けられた。


 すぐに離れながら、ガイルの左側へ小さな火球を二つ放つ。


「おっ!」


 ガイルが右へ動いた。


 右脚で地面を強く蹴る。


 一瞬だけ眉が動いた。


 やっぱり痛い。


 でも、止まるほどじゃない。


「今度はこっちだ!」


 ガイルが踏み込む。


 大剣が上から振り下ろされた。


 木剣を斜めに合わせ、力を横へ流そうとする。


 ガンッ!


「うわっ!」


 無理。


 重すぎる。


 木剣ごと押し込まれた直後、ガイルが肩からぶつかってきた。


 ドンッ!


「ぐっ!」


 身体が浮き、そのまま地面を転がる。


「リオン!」


 観客席からミラの声が聞こえた。


「ガイルさん! そのままです!」


 ナディアの声も響く。


 すぐに立ち上がった。


 脇腹が痛い。


 さっきの体当たりがかなり入った。


 左手を脇腹へ当てて回復魔法を使う。


 淡い光が広がり、強い痛みが少しずつ引いていく。


 完全に治す必要はない。


 動ければいい。


 その分だけ魔力も残せる。


「もう治したのか!」


「少しだけね」


「便利だな!」


 ガイルがまた来た。


 右脚。


 踏み込む時だけ、少し動きが硬い。


 そこを使う。


 今度はガイルの右側から風魔法を当て、身体を左へ押す。


 吹き飛ばすほどの威力はいらない。


 進む方向を少し変えればいい。


 ガイルが風圧に逆らい、右脚で強く踏ん張った。


「ぐっ」


 小さく声が漏れる。


 俺はすぐに正面へ踏み込み、右肩を狙う。


 大剣で防がれた。


 次は左側。


 かわされる。


 右太腿へ直接攻撃はしない。


 代わりに、右脚を使わせる。


 左側へ火球を飛ばして右へ避けさせる。


 風魔法で身体を押し、右脚で踏ん張らせる。


 木剣で正面から仕掛け、方向転換させる。


 少しずつ負担をかけていく。


「リオン!」


 突然、ガイルが叫んだ。


「なに?」


「俺の右脚、狙ってるだろ!」


 気づくの早いな。


「……分かった?」


「何回同じ方に動かされてると思ってる!」


「試合が始まった時から傷めてたよね」


「分かってたのか?」


「うん」


 ガイルが一瞬黙る。


 それから笑った。


「なら遠慮するな!」


「言われなくても」


「来い!」


 今度はガイルから踏み込んだ。


 右脚を庇うかと思ったけど、普通に使ってくる。


「無茶するなあ!」


「知るか!」


 横薙ぎの大剣。


 《縮地》で後ろへ抜ける。


 ガイルがそのまま追う。


 二撃目。


 かわす。


 三撃目。


 間に合わない。


 木剣を合わせる。


 ガンッ!


 両腕が痺れた。


 そのままガイルが踏み込み、蹴りを放つ。


「っ!」


 腹へ入った。


 息が止まる。


「ぐっ……!」


 また地面を転がった。


「リオン!」


 ミラの声が聞こえる。


 今度はかなり痛い。


 腹に手を当て、もう一度回復魔法を使う。


 痛みを抑えながら立ち上がった。


 ガイルも息が上がっている。


 右脚の動きもさっきより悪くなっていた。


「ガイルさん……」


 ナディアの声が少し変わる。


 さっきまでの嬉しそうな声じゃない。


「ガイルさん! 無理はしないでください!」


「大丈夫だ!」


 ガイルが観客席へ向かって答えた。


「こっち見てよ」


「悪い!」


 直後、大剣が飛んでくる。


 《縮地》で横へ抜け、距離を取った。


 このままだと、こっちも削られる。


 なら。


 次を試す。


 水魔法で細かな水滴を大量に作り、霧のようにガイルの前へ広げる。


「またそれか!」


 ガイルが大剣を身体の前へ構えた。


 リゼットさんとの試合を見ていたから、蒸気で視界を塞ぐと思ったんだろう。


 でも今回は違う。


 広げた水滴の中心へ、細く絞った火魔法を撃ち込む。


 ジュッ!


 水滴が一気に蒸発し、白い蒸気が急激に膨らんだ。


 そこへ後方から風魔法を重ねる。


 広がろうとする蒸気を、ガイルの正面へ一気に押し出す。


 バンッ!


「うおっ!」


 ガイルが大剣を盾のように構えた。


 それでも身体ごと一歩、二歩と後ろへ押される。


 白い蒸気が散った。


「……」


 思わずガイルの顔を見る。


 いつも綺麗に後ろへ流しているオールバックが完全に崩れていた。


 濡れた前髪が何本も額へ垂れている。


「効いたぞ!」


「髪もすごいことになってるよ」


「髪?」


「いや、何でもない」


「行くぞ!」


 やっぱり気にしてない。


 でも、今ので後ろへ押された時も、右脚で強く踏ん張っていた。


《綻びの目》


【右大腿部:筋肉損傷・中度】


 悪化してる。


 ただ、俺にも余裕はない。


 回復魔法。


 《縮地》。


 火魔法、水魔法、風魔法。


 かなり魔力を使っている。


 腕も痛い。


 脇腹も腹も、完全には治していない。


 ガイルの服は土と汗で汚れている。


 俺も似たようなものだ。


 お互い、かなりボロボロになってきた。


 それでもガイルは笑っている。


「まだだろ!」


「もちろん」


 また正面からぶつかる。


 木剣と大剣。


 ガンッ!


 押し合わない。


 すぐ離す。


 ガイルが追う。


 右肩へ木剣を振る。


 防がれる。


 次は左脇。


 大剣が下がる。


 そこへ短い風魔法を当て、大剣の向きを少しだけずらした。


「っ!」


 空いた。


 懐へ入り、胸へ木剣を振る。


 バシッ!


「ぐっ!」


 入った。


 でも。


「捕まえた!」


「え?」


 ガイルの左手が俺の服を掴んだ。


 引き寄せられる。


 近い。


 身体強化した右拳が腹へ飛んでくる。


 ドンッ!


「ぐっ……!」


 視界が揺れた。


 身体が離れ、膝をつきそうになる。


 腹へ回復魔法を集中させる。


 痛みを抑えて、すぐに立った。


「まだ動くのか!」


「ガイルに言われたくないよ!」


 観客席から大きな歓声が上がる。


「まだやるのか!」


「二人とも倒れないぞ!」


「すげえ……!」


 息を吐く。


 ガイルも肩で息をしていた。


 そして。


 大剣をゆっくりと持ち上げる。


 上段。


 さっきグレゴールさんの木剣を折った一撃。


「リオン!」


 ミラの声が飛ぶ。


 分かってる。


 まともに受ければ終わる。


 ガイルが踏み込んだ。


 右脚に力が入った瞬間、少しだけ顔が歪む。


 それでも大剣は止まらない。


 振り下ろされる。


 速い。


 避けきれない。


 だったら!


 受ける!


 身体強化!


 いつもは全身へ広げている。


 でも、全部を強くする必要はない。


 大剣が向かっているのは左肩。


 ならば!


 身体強化の魔力を左肩周辺へ集中させる。


 次の瞬間。


 ドンッ!


「ぐっ!」


 強烈な衝撃。


 身体が沈み、片膝が地面についた。


「リオン!」


 ミラの叫び声。


 観客席からも悲鳴に近いどよめきが起きる。


 左肩がものすごく痛い。


 でも動く。


 たぶん折れてない。


「なっ……」


 ガイルの目が開いた。


 大剣を振り切った両腕は下がっている。


 右脚には体重が乗っている。


 今だ!


 すぐに立ち上がり、そのまま木剣を振る。


 バシッ!


「ぐっ!」


 木剣が右太腿へ入った。


 ガイルの右膝が地面につく。


「入った!」


「ガイルが膝をついたぞ!」


 観客席が大きく沸いた。


 ◇


「今の一撃を受けたぞ?」


 王族専用席。


 国王が驚いたように試合場を見ていた。


「はい」


 エドガーが答える。


「リオンはこの土壇場で、身体強化の新しい使い方を見つけたみたいですね」


「新しい使い方?」


「全身を均等に強化するのではなく、攻撃を受ける左肩周辺だけに魔力を集中させたのだと思います」


 アルフレッド第一王子が目を細める。


「なるほど。同じ魔力量でも、強化する範囲を狭めれば、その部分の強度を上げられるということか」


「おそらく」


 セレナも試合場から目を離さない。


「陛下。リオンは入学した頃、魔法をほとんど扱えませんでした」


「そうなのか?」


「はい。ですが今では、学院生の中でも特に器用に複数の魔法を使い分けています。

戦いの最中に身体強化の使い方まで変えるとは、私も驚きました」


 国王が小さく笑った。


「随分成長したものだな」


「はい」


 セレナが頷いた。


 ◇


「ガイルさん!」


 ナディアが立ち上がっている。


 ガイルは右膝をついたままだ。


「ガイルさん、大丈夫ですか!」


 その声が届いたのか、ガイルが顔を上げた。


「大丈夫だ!」


 大剣を地面について立ち上がる。


「まだだ!」


「……まだ立つの?」


「当たり前だ!」


 右脚はもうかなり痛いはずだ。


 それでも立った。


 俺も左肩に回復魔法を使う。


 ただし、ほんの少しだけ。


 これ以上使うと魔力が厳しい。


 ガイルも俺も息が上がっている。


 服は土と汗で汚れ、身体のあちこちが痛い。


 ガイルのオールバックも完全に崩れたままだ。


 それでも二人とも構え直した。


「行くぞ!」


「来い!」


 ガイルが走る。


 さっきまでより遅い。


 それでも大剣の威力は落ちていない。


 木剣では受けず、身体をずらす。


 剣先が服をかすめた。


 俺も木剣を振る。


 ガイルが大剣で防ぐ。


 ガンッ!


 離れる。


 また近づく。


 大剣が腕をかすめる。


 木剣がガイルの肩へ入る。


 風魔法で大剣の軌道をわずかにずらす。


 身体強化で踏み込む。


 《縮地》で離れる。


 また戻る。


「ガイルさん! そのままです!」


 ガイルが攻めると、ナディアの声が大きくなる。


 でも右脚が崩れそうになるたび、その声は不安そうに変わった。


「ガイルさん!」


 俺が攻撃を受ければ、今度はミラの声が飛んでくる。


「リオン!」


 もう観客席を見る余裕はない。


 目の前のガイルだけを見る。


 ガイルが大剣を構え直した。


 右脚は限界に近い。


 これで最後だ!


 俺は一瞬だけガイルの右脚へ視線を落とした。


 ガイルも気づく。


 大剣を下げ、右側を守るように構えた。


 やっぱり警戒する。


 俺は右へ踏み込んだ。


 ガイルが右脚を引く。


 その瞬間。


《縮地》


 反対側。


 左へ抜ける。


「っ!」


 ガイルが振り向く。


 右脚で踏ん張った。


「ぐっ!」


 一瞬だけ動きが止まった。


 それで十分だ!


 懐へ入る。


 ガイルが大剣を持ち上げようとする。


 間に合わない。


 俺の木剣がガイルの首元で止まった。


「……」


 俺もガイルも動かない。


 審判がすぐに手を上げた。


「そこまで!」


 一瞬、会場が静まり返る。


「勝者――リオン・ハル!」


 次の瞬間、会場が揺れた。


「わああああああっ!」


「リオンが決勝だ!」


「すげえ試合だった!」


 大歓声が押し寄せてくる。


 でも、俺は目の前のガイルを見る。


 ガイルは首元の木剣をしばらく見ていた。


「……負けた」


「うん」


「右脚、最初から分かってたんだよな?」


「うん」


「ずるいな!」


「勝負だからね」


 ガイルが一瞬だけ悔しそうな顔をした。


 でも、すぐに笑った。


「まあ、負けたのは負けだ!」


「うん」


 大剣を肩へ乗せようとして、ガイルの顔が歪む。


「痛っ!」


「無理しない方がいいよ」


「リオンに言われたくない!」


「それもそうか」


 俺も左肩が痛い。


 脇腹も腹も、完全には治っていない。


 ガイルが拳を出した。


「決勝」


「うん」


「絶対勝てよ!」


 俺も拳を出し、軽くぶつける。


「分かった」


 観客席を見る。


 ミラが大きく拍手している。


 少し離れたところでは、ナディアがガイルの姿を見ながら、ほっとしたように笑っていた。


 準決勝、ガイル相手になんとか勝った。


 次は決勝だ!



最後まで読んでいただきありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
ガイルのしぶとさはある意味チートじゃあるまいか…これで魔法が使えたら無敵だろうね。ナディアもガイルが気になって仕方ないようだね~これはあれか私がいないとこの人駄目かも…とか思わないかなw
陰陽月影の理 まさか前世で剣術やってたはずもなしだけど(´・ω・`) 遠間の相手には難しいけど縮地は反則だなw
ナディアが切ない。。。
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