第529話 リオン対ガイル
新連載スタート!
《剣聖》になった弟に家を追い出された俺のスキルは《会員》でした
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お手すきの際に是非!
「行くか!」
「うん」
休憩が終わり、俺とガイルは一緒に選手用の待機場所を出た。
何度も朝の訓練で戦ってきた相手と、こうして並んで試合場へ向かうのは少し変な感じがする。
通路の先から、すでに観客たちの声が聞こえていた。
俺たちが試合場へ出ると、その声が一気に大きくなる。
「来たぞ!」
「十五歳同士だ!」
「どっちが勝っても決勝だろ!」
「王立学院の生徒が決勝まで行くのか!」
会場中から大きな歓声が降ってくる。
隣のガイルを見る。
いつもと同じ相手のはずなのに、今日は朝の訓練とは違う。
勝った方だけが決勝へ進む。
「やっとだな!」
ガイルが嬉しそうに笑った。
「朝は何度も戦ってるけどね」
「今日は勝った方が決勝だろ!」
「そうだね」
本当に分かりやすい。
二人で王族専用席へ向かって礼をして、それぞれの位置へ移動する。
ガイルが大会用の大剣を構えた。
俺も木剣を握る。
その前に、ガイルを見る。
《綻びの目》
視界の中、右太腿に異常が浮かんだ。
【右大腿部:筋肉損傷・軽度】
やっぱり。
さっきのグレゴールさんとの試合で、何度か太腿へ攻撃を受けていた。
右脚か。
「両者、準備はいいな?」
「はい」
「いつでも!」
審判が手を上げた。
「準決勝第一試合――始め!」
「行くぞ、リオン!」
開始と同時にガイルが正面から来た。
速い。
大剣が横薙ぎに振られる。
まともには受けられない。
《縮地》
斜め後ろへ抜ける。
でも。
「そこだ!」
ガイルは大剣を止めず、そのまま身体を回転させた。
「えっ!」
二撃目。
広い。
縮地で移動した先まで剣先が届く。
もう一度《縮地》。
さらに後ろへ抜けた。
ブンッ!
目の前を大剣が通過する。
「危なっ!」
「それくらい分かってるぞ!」
そりゃそうだ。
ガイルは何度も俺の《縮地》を見ている。
突然消えたくらいで動きを止めてくれる相手じゃない。
だったら、俺から行く。
左へ踏み込み、木剣をガイルの肩へ振る。
ガンッ!
大剣で受けられた。
すぐに離れながら、ガイルの左側へ小さな火球を二つ放つ。
「おっ!」
ガイルが右へ動いた。
右脚で地面を強く蹴る。
一瞬だけ眉が動いた。
やっぱり痛い。
でも、止まるほどじゃない。
「今度はこっちだ!」
ガイルが踏み込む。
大剣が上から振り下ろされた。
木剣を斜めに合わせ、力を横へ流そうとする。
ガンッ!
「うわっ!」
無理。
重すぎる。
木剣ごと押し込まれた直後、ガイルが肩からぶつかってきた。
ドンッ!
「ぐっ!」
身体が浮き、そのまま地面を転がる。
「リオン!」
観客席からミラの声が聞こえた。
「ガイルさん! そのままです!」
ナディアの声も響く。
すぐに立ち上がった。
脇腹が痛い。
さっきの体当たりがかなり入った。
左手を脇腹へ当てて回復魔法を使う。
淡い光が広がり、強い痛みが少しずつ引いていく。
完全に治す必要はない。
動ければいい。
その分だけ魔力も残せる。
「もう治したのか!」
「少しだけね」
「便利だな!」
ガイルがまた来た。
右脚。
踏み込む時だけ、少し動きが硬い。
そこを使う。
今度はガイルの右側から風魔法を当て、身体を左へ押す。
吹き飛ばすほどの威力はいらない。
進む方向を少し変えればいい。
ガイルが風圧に逆らい、右脚で強く踏ん張った。
「ぐっ」
小さく声が漏れる。
俺はすぐに正面へ踏み込み、右肩を狙う。
大剣で防がれた。
次は左側。
かわされる。
右太腿へ直接攻撃はしない。
代わりに、右脚を使わせる。
左側へ火球を飛ばして右へ避けさせる。
風魔法で身体を押し、右脚で踏ん張らせる。
木剣で正面から仕掛け、方向転換させる。
少しずつ負担をかけていく。
「リオン!」
突然、ガイルが叫んだ。
「なに?」
「俺の右脚、狙ってるだろ!」
気づくの早いな。
「……分かった?」
「何回同じ方に動かされてると思ってる!」
「試合が始まった時から傷めてたよね」
「分かってたのか?」
「うん」
ガイルが一瞬黙る。
それから笑った。
「なら遠慮するな!」
「言われなくても」
「来い!」
今度はガイルから踏み込んだ。
右脚を庇うかと思ったけど、普通に使ってくる。
「無茶するなあ!」
「知るか!」
横薙ぎの大剣。
《縮地》で後ろへ抜ける。
ガイルがそのまま追う。
二撃目。
かわす。
三撃目。
間に合わない。
木剣を合わせる。
ガンッ!
両腕が痺れた。
そのままガイルが踏み込み、蹴りを放つ。
「っ!」
腹へ入った。
息が止まる。
「ぐっ……!」
また地面を転がった。
「リオン!」
ミラの声が聞こえる。
今度はかなり痛い。
腹に手を当て、もう一度回復魔法を使う。
痛みを抑えながら立ち上がった。
ガイルも息が上がっている。
右脚の動きもさっきより悪くなっていた。
「ガイルさん……」
ナディアの声が少し変わる。
さっきまでの嬉しそうな声じゃない。
「ガイルさん! 無理はしないでください!」
「大丈夫だ!」
ガイルが観客席へ向かって答えた。
「こっち見てよ」
「悪い!」
直後、大剣が飛んでくる。
《縮地》で横へ抜け、距離を取った。
このままだと、こっちも削られる。
なら。
次を試す。
水魔法で細かな水滴を大量に作り、霧のようにガイルの前へ広げる。
「またそれか!」
ガイルが大剣を身体の前へ構えた。
リゼットさんとの試合を見ていたから、蒸気で視界を塞ぐと思ったんだろう。
でも今回は違う。
広げた水滴の中心へ、細く絞った火魔法を撃ち込む。
ジュッ!
水滴が一気に蒸発し、白い蒸気が急激に膨らんだ。
そこへ後方から風魔法を重ねる。
広がろうとする蒸気を、ガイルの正面へ一気に押し出す。
バンッ!
「うおっ!」
ガイルが大剣を盾のように構えた。
それでも身体ごと一歩、二歩と後ろへ押される。
白い蒸気が散った。
「……」
思わずガイルの顔を見る。
いつも綺麗に後ろへ流しているオールバックが完全に崩れていた。
濡れた前髪が何本も額へ垂れている。
「効いたぞ!」
「髪もすごいことになってるよ」
「髪?」
「いや、何でもない」
「行くぞ!」
やっぱり気にしてない。
でも、今ので後ろへ押された時も、右脚で強く踏ん張っていた。
《綻びの目》
【右大腿部:筋肉損傷・中度】
悪化してる。
ただ、俺にも余裕はない。
回復魔法。
《縮地》。
火魔法、水魔法、風魔法。
かなり魔力を使っている。
腕も痛い。
脇腹も腹も、完全には治していない。
ガイルの服は土と汗で汚れている。
俺も似たようなものだ。
お互い、かなりボロボロになってきた。
それでもガイルは笑っている。
「まだだろ!」
「もちろん」
また正面からぶつかる。
木剣と大剣。
ガンッ!
押し合わない。
すぐ離す。
ガイルが追う。
右肩へ木剣を振る。
防がれる。
次は左脇。
大剣が下がる。
そこへ短い風魔法を当て、大剣の向きを少しだけずらした。
「っ!」
空いた。
懐へ入り、胸へ木剣を振る。
バシッ!
「ぐっ!」
入った。
でも。
「捕まえた!」
「え?」
ガイルの左手が俺の服を掴んだ。
引き寄せられる。
近い。
身体強化した右拳が腹へ飛んでくる。
ドンッ!
「ぐっ……!」
視界が揺れた。
身体が離れ、膝をつきそうになる。
腹へ回復魔法を集中させる。
痛みを抑えて、すぐに立った。
「まだ動くのか!」
「ガイルに言われたくないよ!」
観客席から大きな歓声が上がる。
「まだやるのか!」
「二人とも倒れないぞ!」
「すげえ……!」
息を吐く。
ガイルも肩で息をしていた。
そして。
大剣をゆっくりと持ち上げる。
上段。
さっきグレゴールさんの木剣を折った一撃。
「リオン!」
ミラの声が飛ぶ。
分かってる。
まともに受ければ終わる。
ガイルが踏み込んだ。
右脚に力が入った瞬間、少しだけ顔が歪む。
それでも大剣は止まらない。
振り下ろされる。
速い。
避けきれない。
だったら!
受ける!
身体強化!
いつもは全身へ広げている。
でも、全部を強くする必要はない。
大剣が向かっているのは左肩。
ならば!
身体強化の魔力を左肩周辺へ集中させる。
次の瞬間。
ドンッ!
「ぐっ!」
強烈な衝撃。
身体が沈み、片膝が地面についた。
「リオン!」
ミラの叫び声。
観客席からも悲鳴に近いどよめきが起きる。
左肩がものすごく痛い。
でも動く。
たぶん折れてない。
「なっ……」
ガイルの目が開いた。
大剣を振り切った両腕は下がっている。
右脚には体重が乗っている。
今だ!
すぐに立ち上がり、そのまま木剣を振る。
バシッ!
「ぐっ!」
木剣が右太腿へ入った。
ガイルの右膝が地面につく。
「入った!」
「ガイルが膝をついたぞ!」
観客席が大きく沸いた。
◇
「今の一撃を受けたぞ?」
王族専用席。
国王が驚いたように試合場を見ていた。
「はい」
エドガーが答える。
「リオンはこの土壇場で、身体強化の新しい使い方を見つけたみたいですね」
「新しい使い方?」
「全身を均等に強化するのではなく、攻撃を受ける左肩周辺だけに魔力を集中させたのだと思います」
アルフレッド第一王子が目を細める。
「なるほど。同じ魔力量でも、強化する範囲を狭めれば、その部分の強度を上げられるということか」
「おそらく」
セレナも試合場から目を離さない。
「陛下。リオンは入学した頃、魔法をほとんど扱えませんでした」
「そうなのか?」
「はい。ですが今では、学院生の中でも特に器用に複数の魔法を使い分けています。
戦いの最中に身体強化の使い方まで変えるとは、私も驚きました」
国王が小さく笑った。
「随分成長したものだな」
「はい」
セレナが頷いた。
◇
「ガイルさん!」
ナディアが立ち上がっている。
ガイルは右膝をついたままだ。
「ガイルさん、大丈夫ですか!」
その声が届いたのか、ガイルが顔を上げた。
「大丈夫だ!」
大剣を地面について立ち上がる。
「まだだ!」
「……まだ立つの?」
「当たり前だ!」
右脚はもうかなり痛いはずだ。
それでも立った。
俺も左肩に回復魔法を使う。
ただし、ほんの少しだけ。
これ以上使うと魔力が厳しい。
ガイルも俺も息が上がっている。
服は土と汗で汚れ、身体のあちこちが痛い。
ガイルのオールバックも完全に崩れたままだ。
それでも二人とも構え直した。
「行くぞ!」
「来い!」
ガイルが走る。
さっきまでより遅い。
それでも大剣の威力は落ちていない。
木剣では受けず、身体をずらす。
剣先が服をかすめた。
俺も木剣を振る。
ガイルが大剣で防ぐ。
ガンッ!
離れる。
また近づく。
大剣が腕をかすめる。
木剣がガイルの肩へ入る。
風魔法で大剣の軌道をわずかにずらす。
身体強化で踏み込む。
《縮地》で離れる。
また戻る。
「ガイルさん! そのままです!」
ガイルが攻めると、ナディアの声が大きくなる。
でも右脚が崩れそうになるたび、その声は不安そうに変わった。
「ガイルさん!」
俺が攻撃を受ければ、今度はミラの声が飛んでくる。
「リオン!」
もう観客席を見る余裕はない。
目の前のガイルだけを見る。
ガイルが大剣を構え直した。
右脚は限界に近い。
これで最後だ!
俺は一瞬だけガイルの右脚へ視線を落とした。
ガイルも気づく。
大剣を下げ、右側を守るように構えた。
やっぱり警戒する。
俺は右へ踏み込んだ。
ガイルが右脚を引く。
その瞬間。
《縮地》
反対側。
左へ抜ける。
「っ!」
ガイルが振り向く。
右脚で踏ん張った。
「ぐっ!」
一瞬だけ動きが止まった。
それで十分だ!
懐へ入る。
ガイルが大剣を持ち上げようとする。
間に合わない。
俺の木剣がガイルの首元で止まった。
「……」
俺もガイルも動かない。
審判がすぐに手を上げた。
「そこまで!」
一瞬、会場が静まり返る。
「勝者――リオン・ハル!」
次の瞬間、会場が揺れた。
「わああああああっ!」
「リオンが決勝だ!」
「すげえ試合だった!」
大歓声が押し寄せてくる。
でも、俺は目の前のガイルを見る。
ガイルは首元の木剣をしばらく見ていた。
「……負けた」
「うん」
「右脚、最初から分かってたんだよな?」
「うん」
「ずるいな!」
「勝負だからね」
ガイルが一瞬だけ悔しそうな顔をした。
でも、すぐに笑った。
「まあ、負けたのは負けだ!」
「うん」
大剣を肩へ乗せようとして、ガイルの顔が歪む。
「痛っ!」
「無理しない方がいいよ」
「リオンに言われたくない!」
「それもそうか」
俺も左肩が痛い。
脇腹も腹も、完全には治っていない。
ガイルが拳を出した。
「決勝」
「うん」
「絶対勝てよ!」
俺も拳を出し、軽くぶつける。
「分かった」
観客席を見る。
ミラが大きく拍手している。
少し離れたところでは、ナディアがガイルの姿を見ながら、ほっとしたように笑っていた。
準決勝、ガイル相手になんとか勝った。
次は決勝だ!
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